「光を観る」——「BankART Life V – 観光」展  ますます熱を帯びる未知体験ツアーに行こう

Posted : 2017.10.06
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ヨコハマトリエンナーレ2017と連動して3年に1度開催される大規模な展覧会「BankART Life V」。今回は「観光」と銘打って、BankART Studio NYKおよびその周辺などを巡るツアーのかたちを取っている。会期はあと1か月となった。まだまだ週末のパフォーマンス・イベントも、ミニ・ギャラリーでの個展シリーズも続く。いっそう熱気の籠ってきた海辺の様子を、アーティストからの言葉も交えて紹介しよう。

海辺に広がる不思議な森

5回目となる展覧会「BankART Life」の今回のテーマは「観光」だ。横浜港の運河そばの BankART Studio NYKがその出発点。建物の外には運河に張り出した「河岸」がしつらえてあり、井原宏蕗さんによる象やカバなどの動物が出現して、「にぎやかな森」と名付けられた不思議な景色が広がっている。

井原宏蕗作品展示風景と台船(写真提供;BankART1929)※

 

元倉庫の建物に入り2階に上がると、BankARTがこれまで育み、培ってきた様々なアーカイブがところ狭しと並ぶ。本、ポスター、作品コレクション、「続・朝鮮通信使」など、知と体験の集積に見入る。(9/6に終了。現在は「日産アートアワード2017」会場となっている。)

さらに3階にあがると、荒々しいコンクリートの空間を埋め尽くす、ほのかに光る白い花畑に驚いて足が止まる。

丸山純子「無音花畑」展示風景

 

 

花畑の光の道を歩く

丸山純子さんは、2007年、まだBankART Studio NYKが改修前の空間で、初めて「無音花畑」の展示をした。よく見るとひとつひとつの花はレジ袋でできていることに気づく。身近な日常的なものが別の顔をもってほほえんでいる。広いコンクリートの床一面に咲く花、いったいいくつあるのだろう。今回の展示のために2、3年前から作りためたのだという。設営は2週間がかりだった。
「「無音花」というタイトルは、音のない音を聞くという思いが背景にあります。花を通して自分の中に沸き起こる何か音のようなものを聞くというような。何気ない日常品のレジ袋を再生して、幻想的な風景を作るというだけでなく、今回は、2007年の展示のこと、それからの出来事などを思い返し、同じ場所で、同じような行為を通して、同じではない何かの存在を意識して制作しました。人、出来事、もの、今はもうないものに圧倒されながら、そして、今と繋げるように会場に気の流れを作ろうと思いました。光を巡る道を歩く鑑賞者が過去と現在、存在と不在、外と内、などを行き来しながらそれぞれの内に起こる「何か」に出会っていただければといいなと思います」と丸山さんは語る。
花畑の道を歩んで行くと青い光の海が現われ、白い花畑と混じり合う。

高橋啓祐さんの映像作品とのコラボレーションが実現している。
「高橋さんが前向きな姿勢を示してくださったことに動かされました。それでもはじめは、作品が重なる範囲におそるおそる設置させてもらいました。少し時間を空けてその部分を見てみたら、思わず見入ってしまう瞬間がありました。それから一気に物語が立ち上がってきて、会場全体に流れを作り出すことができました。
9月にダンサーの中村恩恵さんがここでパフォーマンスをしましたが、建物、作品、人、そこに存在するすべてのものの奇跡に、感極まりました」


中村恩恵 “A Solitary Journey”パフォーマンス(写真提供;BankART1929)※

 

光の海に満たされる

海の作者、高橋啓祐さんは丸山さんとのコラボレーションの意味を、
「お互いの作品の境界線をなだらかに、空間をつなげていき、その境界線上でお互いの作品が触れ合う感じで見せたかったんです。共同制作ではなく、それぞれに作品の意図は違うのですが、ふたつの作品で会場全体をつないでいくという空間的な役割を果たせていると思います」
と説明する。

高橋啓祐 「The Fictional Island」展示風景

 

この「The Fictional Island」は、砂でできた島や浜辺に、5台のプロジェクターが映像を投影するプロジェクション作品だ。もともとは2016年に瀬戸内国際芸術祭に参加し、犬島で滞在制作・発表した作品。その制作の意図と過程を高橋さんはこう語る。
「犬島は現在の人口50人あまりの瀬戸内海に浮かぶ小さな島。1900年初頭には銅製錬で栄え、その最盛期には約5000人の島民がいたそうです。それはちょうど日本が近代産業によって大きな発展を遂げていた時代で、島は時代の正と負の部分を象徴しているようにも感じます。そのときは「スラグ」という銅の精錬の過程で取り除かれ、産業廃棄物として捨てられた砂で架空の島を作りました。そして島と海を分け隔てる地形や風景としての緩やかな境界線と、現在・過去・未来へとつながっていく時間の変容する境界線を描き、空間全体を島や海の縮図として、ひいては島国日本をミニチュア化したイメージに見立てました。ものすごいスピードで変容していく町に、失われていく風景を思い描きました」
今回の横浜での展示ということや、BankART Studio NYKという空間はどのように感じたのだろう。
「横浜も海を感じる街。ここも海に面した特異な空間。より大きな視点で、より大きなスペースで、波に掻き消され淘汰されていく風景と、それでも残りつづける記憶について考えています。無理を言って大量の砂を運び入れてもらいました。この空間が作品に大きな力を貸してくれています」
青い光の波の満ち引きに、思いをはせてみたい。

 

粘土で言葉を書き続ける部屋

花畑に導かれ海に佇むと、柔らかな光を放つ部屋が点在していることに気づく。そのひとつひとつを訪ねて歩いて行こう。

中谷ミチコ作品展示風景

石黒健一作品展示風景

牛島達治作品展示風景

鈴木理策作品展示風景

 

部屋のひとつに「パフォーマンス中」の札がかかっている。中を覗くと、関川航平さんが部屋の壁に向かい、油粘土を手でちぎっては壁に貼り付け文字を書いている。すでに1か月が過ぎた壁は粘土の言葉で埋め尽くされ、4重にも重なって判読することも難しい。この気の遠くなるような作業を通して言葉を綴ることの意味はなんだろう。

 

「身体を使って「自動筆記」のようなことをやっています。書き慣れたペンで書くとき、スマホで書くとき、パソコンで書くとき、同じ人でも違った言葉遣いをして、違う文章を書きませんか?それは身体の使い方や感覚がその人の考え方に影響するのではないかと思うんです。こうやって粘土で書くという全身運動による抵抗感を伴う作業をすること、また文章自体が文章を書き進めさせるような弱い推進力によってどんな言語感を発見できるか、一見すると非合理な作業によって日常とは別の“見る”力を得てみたいです」
と話す関川さん。このパフォーマンス作品のタイトルは「以外の見る」という。この日に書いた言葉で意識せずに飛び出してきた言葉はあるのだろうか。
「例えば今日で言えば『凸面鏡』という言葉が突然出てきたのには自分でも驚きました」。
そんな言葉を探しに、いや、その前にただ圧倒される体験のために、関川さんの部屋を訪ねてみよう。

 

 

週末の旅へ、近くにあるのに気づかない街へ

 展示作品を観るツアーのほかに、週末には異空間への旅も用意されている。kawamata Hallで開催される「Cafe Live」というライブ・パフォーマンス・シリーズだ。それぞれのアーティストが公開制作を行い、その成果を公演に結実させていっている。

これから体感できる公演は、
http://www.bankart1929.com/kanko/cafelive/index.html

内木里美「金魚。鮒に還る。」
10/7[土]19:30、10/8[日]19:30、10/9[月・祝]19:30
料金=前売り1,800円 当日2,000円
【公開制作】10/2[月]~9[月]
ダンサーであり演出家の内木里美のパフォーマンス。

fukudance「Nosferatu」
10/13[金]19:30、10/14[土]19:30、 10/15[日]13:30
料金=2,000円
【公開制作】10/11[水]~15[日](10/12[木]休)
井澤駿、奥田花純、福田紘也の3人のダンサーによるパフォーマンス

川原卓也+関真奈美「PJB」 10/21[土]16:00/19:30 10/22[日]16:00/19:30
料金=2,000円
【公開制作】10/16[月]~22[日]
演劇/パフォーマンス作品「ピンク・ジェリー・ビーンズ」をアップデート。

東京塩麹「リフォーム」
10/28[土]19:30 10/29[日]14:30/19:30
料金=3,000円
【公開制作】10/27[金]~29[日]
人力ミニマル楽団・東京塩麹によるライブパフォーマンス。

1階に降りてきたら忘れずに立ち寄ってほしいのは、Mini Galleryで開かれている「BankART Bank Under 35」。
35歳以下のアーティストによる個展の連鎖だ。
片岡純也+岩竹理恵、廖 震平、七搦綾乃とリレーされ、これから高原悠子、水口鉄人、小穴琴恵/衣 真一郎/古橋 香が作品を見せる。

「BankART Bank Under 35」 での七搦綾乃さん(会期終了)

 

光に導かれながら、次の光を求めて道を辿り、濃密な出会いを体験する。そんなBankART Studio NYKでのツアーも終わりに近づくと、夕暮れの水辺の魅惑的な光景が待っているかもしれない。丸山純子さんからのメッセージを反芻する。
——目を閉じるから光を感じることができる。光が見えなくなったらまた目を閉じてみよう、いつもそこにあってくれるそれに気づけるように。
そう、「観光」とは「光を観る」ことだった。

BankART Studio NYKを後にし、にぎわいの街にいざ出かけよう。「日本郵船歴史博物館」で横浜の海の歴史を探訪し、北仲地区で育ったクリエーターたちの店「北仲COOP」でお買いもの、そして飲食店の楽園、野毛地区で腹しらえ。もうひとつのアートゾーン「黄金町バザール」へと向かう道程は、「近くにあるのに気づかない街」そのもの。この観光ルート以外にもオプショナル・ツアーも用意されている。横浜の迷宮にさまよいこむ旅ははてしなく続きそうだ。

(撮影・大野隆介[※以外])
(文・猪上杉子)

 


【イベント概要】

「BankART Life V – 観光」

http://www.bankart1929.com/kanko/
会場:BankART Studio NYK ほか
会期:2017年8月4日(金)- 11月5日(日)
休場日:第2・第4木曜
開館時間:10:00-19:00(10/27-29, 11/2-4は21:30まで)
観覧料
・連携セット券(BankART Life V + ヨコハマトリエンナーレ2017 + 黄金町バザール2017)
一般 2,400円、大学・専門学校生 1,800円、高校生 1,400円、中学生以下 無料
※ BankART Life V 初来場時にパスポートに引き換え
・単独パスポート:1,000円
Cafe Liveは別途料金が必要

主催:BankART1929 共催:横浜市文化観光局
助成:芸術文化振興基金

問い合わせ:BankART1929
info@bankart1929.com 
TEL 045-663-2812