あっと驚くスペクタクル舞台が寿町にやってきた。水族館劇場に注目だ

Posted : 2017.08.10
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ヨコハマトリエンナーレ2017に関連するヨコハマプログラムとして9月1日から自主公演を行う水族館劇場が、いま話題をさらっている。それもそのはず、彼らが野外テント公演のロケーションとして選んだのは、東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と並び、日本有数の寄せ場として知られる寿町なのだ。港町・横浜で戦後の復興を支えてきた日雇い労働者たちのために形成された寿町は、現在は住民のほとんどが高齢者となっており、福祉のまちといわれている。そしてなんと、水族館劇場の座付き作者・桃山邑の役者としてのデビューは寿町だったのだそうだ。以降、街の変化とともに活動を続けてきた彼らの舞台と寿町は切っても切り離せない。今夏、水族館劇場と寿町の土地のアウラが響きあう野外テントにおいて、観客は戦後の日本社会を、あらたに発見することになるだろう。

観客がびっくりする舞台演出装置を、自らつくる

水族館劇場の見所はなんといっても数十トンもの水を用いた大迫力の演出だ。加えて回転舞台や宙吊りなど、公演ごとに趣向を凝らした演出が繰り広げられる様は、「スペクタクル」と評される。毎日のように演出も台本も変わり、その日限りの芝居が観客にぶつけられる、生々しさも魅力だろう。1987年に結成された水族館劇場は、野外テント公演という形式から寺山修司や唐十郎らに代表されるアングラ演劇からの流れを彷彿させるが、社会を見据えるテーマ性の深さのみならず、誰が見ても楽しめるエンターテイメント性もあわせ持っているのが持ち味でもある。

今年4月に東京・新宿の花園神社境内で上演された「この丗のような夢・全」舞台風景

 

「アングラ演劇全盛の頃、僕自身はまだ子どもだったので、あまりそこにタッチしていません。だから(水族館劇場が)そこから発生していると言われるのは少しおこがましい。僕の世代はもうちょっとポップなんですね。常に(演劇の常識から)逸脱して、お客さんが見てびっくり、という、それだけを目指しているところはあります」

桃山は続けて、劇団としてはちょっと不思議な活動スタイルについて口にした。

「うちは会議が長い劇団なんです。稽古も発声練習もしません。ほとんど会議ですね。自分たちが何をみせたいのか、なぜ自分はこんなことをやっているのか、何が見せられるのか、自分に問いかけて、仲間に問いかける」

そこには、団員それぞれが仕事を持ちながら活動を続ける中では、毎日稽古に励む環境に身を置く舞台人には、演技ではとうてい敵わないという自戒も含め、演劇のメソッドの中にある西洋的・近代的な思考から離れるという狙いがある。

「世界が多様化していると同時に一元化している中で、自分たちの独特のものがどこに残っているのかというのを発見しなければ。オリジナルでなくてもいい。しかし、人に何かを伝えていくためには、自分がかけがえのないと思い決めたものでなければ、人からお金を取るわけにいきません。僕らは、見に来てくれる人になにがしかのものを手渡したいと、常々考えています」

演劇の根本を問い、人間としての生き方の根本を問う中で、立ち上がってきた想いから、メソッドに依らず、自分たちのやり方で有形・無形に芝居を創出していくのが、水族館劇場なのだ。役者が立つ舞台ですら、例外ではない。現在、寿町で野外テント劇場を建てているのは、普段から建築現場で働く桃山をはじめとする劇団員たちだ。自前で作っているからこそ、いつでも舞台装置に変更を加えることが可能なのであり、それゆえに観客はこれまでに見たことのない舞台を体験できるのである。

工事現場と見まごうが、作っているのは水族館劇場の野外テント劇場。水族館劇場の団員たちがほぼ毎日作業を行っている

 

「日本が近代化する過程で、専門性が細分化して別の領域のつながりが分断されています。全部自分たちでやるやり方は、人間の根本的なものに根ざしているのではないかと。西洋演劇では舞台裏は見せませんし、こうであらねばならない「must be」という感覚が強い一方で、江戸歌舞伎は「舞台の裏」を見せてしまうんですね。僕らも同じです。何十人もの人間が(野外テント劇場を作るために)こうして懸命になっていることが、伝わらないわけがないと」

水族館劇場にとっての芝居は、どうやらすでに始まっているようだ。

 

豪華なフリンジ企画「るなぱあく」も、すでに開催中

実は、9月の本公演に先立ち、目下公演のための野外テントの立て込みが行なわれている現場敷地内において8月3日から「アウトオブトリエンナーレ 盗賊たちの るなぱあく 巨大庭園の路地」(以下、るなぱあく)が開催されている。水族館劇場の公演をきっかけに誕生したフリンジ企画だ。昼は野外テント劇場の立て込み作業を行う劇団員が、夜には衣装に着替えて、町内外から訪れる観客を敷地内に招き入れる。

本公演のための野外テント劇場の作り込みが進む、寿町総合労働福祉会館建て替え予定地入り口にはテーマパークをイメージしたアーチ型の看板がお目見えした。町内外から訪れる観客を、水族館劇場の劇団員らが迎えてくれる

 

「るなぱあく」初日には『地域アート――美学/制度/日本 』を上梓して各地で開催されている芸術祭のあり方に一石を投じたSF・文芸評論家の藤田直哉を招いてシンポジウムを行い、美術家の会田誠は交流を求めて「芸術公民館」をオープン。会田は今後も8月中の毎週土曜に在館するという。写真家・鬼海弘雄は「人間の海 肖像写真展」と題してモノクロ写真を展示中だ。

建設現場かのように足場が組まれた敷地内に、人々の姿を正面から捉えてきた鬼海弘雄の写真が並ぶ。日が落ちてからの鑑賞もまた味わい深い。

 

ほかにも、福島原発をテーマにした作品で知られるアーティストの岡本光博による美術展、博多のヘアデザイン・グラム創始者の渡辺友一郎が自らハサミを握って来場者のヘアカットを行う「港のハーバー」など全18企画が予定されており、内容も縦横無尽で盛りだくさんである。入場料はカンパ制だ。「るなぱあく」は、「水族館劇場が寿町でなにかやるのであれば」と、活動に賛同したアーティストらの勢いがそのまま形になったものなのだ。

「るなぱあく」とともに、炎天下で水族館劇場の野外テント作りに励む劇団員たちの姿を目撃すれば、本公演の味わいが一層深まること請け合いだ。

 

寿町は芝居人として、類い稀な見返りをもらえる街

しかし、なぜ寿町がこうもアーティストたちを惹きつけているのだろうか。その答えの一端を、桃山の言葉から垣間見ることができた。

「それは、(看板女優の)千代次が一番、想いがあると思うんですが、大阪の釜ヶ崎で公演を行ったときには、千代次の一言ひとことに、(釜ヶ崎の住民が)すすり泣くんですよね。泣きながら舞台に上がってきたりする。それは役者としてはいいんじゃないですか」

寄せ場に暮らす人には、とても人には言えない辛い過去を背負っている人も数多くいるそうだ。人生経験が豊かな寄せ場の人々は、自分の弱さを知っているからこそ、弱者に限りなく優しい。一方で、人間性をむき出しにして生きている。つまらなければ「つまらない」とそのまま言うし、時に芝居のセリフ以上に深い問いを含む言葉を発するという。

「『お姉ちゃん、あんたは好きで(寄せ場に)来ているんだろう。俺は好きで来たんじゃねえ、ここに来ざるをえなかった人間だ。道端で死んでいく人間の気持ちがわかるか。そういう奴らに向かって、よく芝居ができるな』と。そこの意味っていうのを本当に受け止めて考えて切り返していかないと。だから本当に役者修行なんです」

前述の藤田直哉が登壇した「るなぱーく」初日のシンポジウムにおいても、「誰のためのアート?」と鋭い問いが発せられる中、話を聞きに来たはずの寿町の住民たちは、闊達に(勝手に)発言を行い、中には議論そっちのけで「俺にも歌わせろ」と、一曲歌いきった人もいたのだという。水族館劇場は「さすらい姉妹」の名義で、約20年にもわたって毎年、寿町で芝居公演を行ってきた。こうした住民とのやりとりは、もはや即興演劇でさえある。

夜ごと芝居が変化する水族館劇場の公演に、「るなぱあく」も含めて数度、足を運んでみてはいかがだろうか。きっとそこでは、戦後の日本社会を生き抜いてきた人間たちの根源にある熱を感じとれることだろう。

文・友川綾子(office ayatsumugi)

 

【イベント情報】

公演情報
『もうひとつの この丗のような夢 寿町最終未完成版』 

期間:2017年9月1(金)〜5(火)、13(水)〜17(日)
:全席自由、期日指定
上演時間:約120分、18:30より劇場外顔見卋(プロローグ)スタート 
会場:横浜寿町労働センター跡地 特設野外儛臺「盜賊たちのるなぱあく」
※9月はまだまだ猛暑でございますが、仮設劇場にエアコンはありません。送風設備のみです。ご了承ください。
※お手荷物もあずかりますが、野外劇場です。なるべく軽装で、貴重品はご自分でお持ちください。
アクセス
石川町駅(JR京浜東北・根岸線)北口(中華街)徒歩6分
関内駅(JR京浜東北・根岸線)南口徒歩8分
伊勢佐木長者町駅(横浜市営地下鉄ブルーライン)出口1徒歩8分

臺本+遅れ+総監督:桃山邑

出演者

千代次

淺野雅英
山本紗由

臼井星絢
髙橋明歩
七ッ森左門
秋浜立

増田千珠
松林彩
石井理加
南海里
野原海明

伊藤裕作
羽鳥和芳
一色凉太

田邊茂夫下野司
山中秀太郎

藤田直哉
津田三朗

翠羅臼
風兄宇内

制作    中原蒼二 伊藤裕作
制作協力  長瀬千雅 矢吹有鼓
照明    西之一舟 松林彩  
美術    淺野雅英 髙橋明歩 ボッチン
音楽    山本紗由 鈴木都 髙橋恭子
音響    下野司
舞台    片岡一英 山中秀一
大道具   原口勇希 秋浜立 
小道具   石井理加 駒田仁志
車輌    臼井信一 田邊茂男 
衣裳    千代次 袖上香名子
化粧    増田千珠 野原海明
木戸    村井良子 川上敦子 山崎香世   
衛生    渡邊紀子 清藤真理子
記録映像  居原田遥 DJ.YOU KUMA 

舞台監督  古木均
特殊造形  津田三朗
劇場設計  桃山邑

宣伝美術  近藤ちはる

企画製作  Koola Lobitos

チケット
前売券  4500円 
電話予約 4700円(8/31まで受付。TEL 080-2339-5615)
当日券  一般4800円、中高生割引券3000円(観劇当日午後5時より劇場窓口で発売)
※公演はすべて期日指定の自由席です。当日券も若干ご用意しますが、入場制限する場合もございます。確実な前売券をお奨めいたします。

前売券販売所
ヒグラシ文庫鎌倉 
神奈川県鎌倉市小町2-11-11大谷ビル2F
ヒグラシ文庫大船 
神奈川県鎌倉市大船1-19-3昌和ビル102 TEL 090-4738-4640
ジャズ喫茶ちぐさ 
神奈川県横浜市中区野毛町2-94 TEL 045-315-2006
星羊社 
神奈川県横浜市中区伊勢佐木町1-3-1イセビル402 TEL 045-315-6416
古書ほうろう 
東京都文京区千駄木3-25-5 TEL 03-3824-3388
古書信天翁 
東京都荒川区西日暮里3-14-13コニシビル202 TEL 03-6479-6479
古本遊戯 流浪堂 
東京都目黒区鷹番3-6-9鷹番サニーハイツ103 TEL 03-3792-3082
高品質珈琲と名曲 私の隠れ家 
東京都新宿区荒木町6ルミエール四谷2F  TEL 090-5783-4680(瓜生)
橋倉ビーンズ珈琲店 
東京都世田谷区代沢4-7-1  TEL 03-3487-0549
古書サンカクヤマ 
東京都杉並区高円寺北3-44-24  TEL 03-5364-9892
横浜寿町労働センター跡地 

特設野外儛臺「盜賊たちのるなぱあく」建込み中の仮設劇場にて8/3より直接お求めになれます。

前売券のWEB販売について(8/3販売開始、8/25 24:00締め切り)
ticket.suizokukangekijou@gmail.comまでメールにてお申し込みください。
タイトルを「チケット予約」とし、本文に ①お名前 ②ご希望の公演日と枚数 ③ご住所 ④お電話番号 をご記入の上、お送りください。
3日以内に折り返しメールにて振込み先をお知らせいたしますので、1週間以内にお振込みをお願いいたします。ご入金確認後、チケットを発送させていただきます。
万が一、3日以内にメールの返信が届かなかった場合には、恐れ入りますが
こちらまでinfo@suizokukangekijou.comお問い合わせくださいますよう、よろしくお願いいたします。

入場整理券
整理券は全公演毎夕5時から、ご招待・前売券、電話予約・当日券の区別なく、お並び順に配付いたします。
木戸付近にお並びください。