「僕らが芝居をやる理由」水族館劇場・桃山邑が語る表現の源

Posted : 2017.08.28
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日本有数の寄せ場といわれる寿町での公演が間もなくスタートする水族館劇場。座付き作者の桃山邑は、日雇い労働をしながら1980年に曲馬舘という演劇運動の流れにある劇団に入り、以降、芝居と建設現場での仕事を続けてきた人物だ。「自前でテント建てるのも芝居」と言い切る桃山が語る、独自の芝居論からは、表現することの根源が見えてくる。実際に水族館劇場の公演を目にする前に、いま一歩、大文字の歴史に押し込められない「敗者の精神史」を試みる彼らの思想に近づいてみたい。

自国文化に否定を加えたのちの時代に、何をすくい取れるか

1960年代から70年代にかけて観るものの心をつかんだと言われるアングラ演劇運動。水族館劇場はこの流れを汲んでいるといわれることも多い。しかし桃山は「そことは無縁でいたい」と話す。なぜだろうか。

「反新劇、反演劇のタームの中からも逸脱したいんです。はじめに(前世代の演劇に対する)批判があって芝居をやるのではない。僕らは好きでやっていて、なぜ僕らが存在をしているのか、人が生きていくということの根本、芸能をする根本を突き詰めて考えて、後から思うには、僕らは(芝居を通じて)明治から続く近代化に対する抜本的な問いなおしをしたいんだと思います」

演劇やアートはたしかに、前提をくつがえすことで新たな表現スタイルを生み出してきた。桃山はそうした批判の繰り返しにどこか限界を感じたのだろう。水族館劇場はそうした歴史を汲んだ上で、何かに後ろ指をさす方法からの脱却を目指している。

「明治政府は演劇改良運動をやったんです。ヨーロッパ列強と対抗するためには、江戸時代から続く当時の歌舞伎は恥ずかしいとされた。それで天覧歌舞伎をやり、立派なプロセニアムアーチの劇場をつくって、西洋の戯曲を上演したんですね。おそらく明治政府にはヨーロッパ社会に対するコンプレックスがあって、自分たちの文化に誇りを持てなかったんです」

明治に入り急速に進む西洋化。裃を着て暮らしていた日本人は、背広に着替えて、これまで培ってきた自国の文化を一部封印してしまう。

「日本のあらゆる分野の優秀な人物をヨーロッパに派遣していた明治政府に選ばれて、夏目漱石もロンドンに行っているんですね。だけど、そこで耐えられないと、ノイローゼになっている。『背広は着たくない。でもいま背広を着て、ヨーロッパと交渉を始めないとおそらく属国にされる』と。これが当時明治のインテリの共通した感覚だったようです」

戦後になり内側から噴出するように封印を解いて、自国の文化を取り戻そうとするのが、60年代に生まれた前衛演劇運動なのだろう。既存の社会、芸術の価値を壊す、土着の表現を再評価したのだ。これらは当時の社会的なエネルギーと結びついて、一時代を築き上げた。

「土方巽は1950年代から先行的に、本当に自分が心から人に何かを伝えるために、ヨーロッパのモダンダンスのようなやり方では通用しないと感じたんです。だから、独自にのちに暗黒舞踏と呼ばれる土着的な独特の身振りを編み出した。能も歌舞伎もナンバが基本です。これはヨーロッパにはありません」

 

最も虐げられた人と関わり活動する劇団・曲馬舘での役者デビュー

桃山が芝居の道に入ったのは、学生運動やそこに呼応して勢いをました演劇が作り出す時代のパワーがおとなしくなりつつあった頃だった。

「僕は大学に行ってませんから、学生運動は後からの聞きかじりです。その頃、アングラ演劇の旗手のひとりと言われる佐藤信さんの黒テントは、「革命の演劇」といって、日本の知識人を総動員して、市民レベルでのリベラルな活動をしている人たちを受け手に、演劇を市民化しようと活動をしていました。僕が所属していた劇団・曲馬舘を主宰していた翠羅臼さんは、黒テントのやり方ではミドル階級でなければコミットできないではないかと、そこに対する批判として曲馬舘を始めたと聞いています」

曲馬舘は1980年に解散するまで、山谷や寿町などの寄せ場で公演を行っていた。日雇い労働者として働いていた桃山は曲馬舘に入り、寿町で役者デビューを果たしている。

「曲馬舘は最も虐げられ、下層で暮らしている人たちとコミットしていかなければ何の意味もないと、『旅、生活、芝居』というありえない概念で活動をしていました。これは成り立ちませんね。旅から帰ったらアルバイトに必死になって」

その後、驪團を経た桃山は、1987年に主演女優の千代次らとともに水族館劇場を立ち上げた。それから水族館劇場のメンバーは、演劇ユニット「さすらい姉妹」として、約20年もの間、毎年元旦に寿町で公演を行っている。つまり水族館劇場は、下層で暮らす人々と積極的に関わること、野外テントという公演形式など、曲馬舘の流れからいくつかの要素を受け継ぎつつ、演劇における前世代批判の連鎖からは離れ、常に「逸脱」をめざしているのだ。

「やっぱり(水族館劇場は)人間の原始的なものに根ざしているんではないですかね。このままグローバル化が進んでお金持ちの国だけがどんどん肥え太って格差が広がっていることに、ちょっと違う方向をみんなで目指しましょうよと。政治的な主張をしたいわけではありません。自分たちが間違っているということを前提にしなければ、僕はものを言わないほうがいいんじゃないかと思います。自分たちの主張が正しいということを前提にすると、時代が変われば通用しなくなってしまう」

大量の水などを用いた派手な演出が持ち味の水族館劇場は、建てる野外テントも巨大だ

 

労働する肉体から生み出す、瞬間芸+ポップ+エンターテイメント

発声練習や稽古という演劇の基本からも大胆に逸脱しているのが水族館劇場のユニークさだ。集まれば会議ばかりで、稽古は役者が勝手にやるものという位置付けなのである。台本が出来上がるのも直前で、役者たちは稽古したくともする間もないだろう。

「台本を早く書いて稽古をすると役者が飽きてしまうんです。僕の肩書きは臺本+遅れ+総監督なんですが、そういう仕事なんです。役者はプレッシャーだと思いますよ。朝、台本を受け取ったものを夕方にやらなくてはならない。セリフがでなければ、切り抜ける方法はあるんです。機転を利かせて瞬間で芸が生まれる。だから演劇を鑑賞しに来た人たちは、詐欺だと言います。とくに初日には。そういう時には、『これを観られたのはあなたたちの幸福です、楽日にまた観に来てください』といいます。実際に回転舞台の位置を公演期間中に1日で移設してしまったこともありますから」

今年4月に東京・新宿の花園神社境内で上演された「この丗のような夢・全」舞台風景

 

役者がセリフを完璧に覚えて、計算され尽くされた表舞台のみを観せる芝居も素晴らしいが、水族館劇場は積極的にそこから逸脱して、気持ちいいほどに荒唐無稽な芝居をつくりあげる。

「生ものでなければ、我々がやる必要ないと思っています。新宿のムーランルージュなんか、お客さんが詰め掛けるから、台本が間に合わなくて、幕間に台本を渡すものだから役者がセリフを覚えない。だから作家が舞台に出てきて『違う! ここはこうだ!』って自分で台本を見ながら読んで、お客さんに大受けするんですよ。なんでも瞬間、瞬間。僕が普段やっている建設現場なんて図面通りになんか絶対につくれません。機転を利かせて瞬間で切り抜けていかないと。同じなんですよ」

予定調和ではない舞台では、思わぬ面白さが突然湧き上がる。瞬間で反応する芸の重なりは、水族館劇場の舞台にとって歓迎すべきもののようだ。

「フランク・ザッパの発言に『ザッパさんはいかがわしいと言われていますが、大丈夫ですか?』という問いに『いかがわしい? 誰も傷つけない』と答えた言葉が好きで。うちもいかがわしい。でも誰も傷つけません。観たくない人は観なければいい。ただ、芝居やアートを通じて社会の姿を感じとろうとする人に、なにがしかのものを手渡したいとは常々考えています」

もしかしたら彼らは、繰り返す長い会議でも、舞台上でも、自分たちの身体から反射的に出てくる「なぜ生きて、芝居をやっているのか」と自己に問いかけた答えを、真っ正直にさらけ出すことしかやっていないのかもしれない。魂のレベルからこみ上げてくる表現は、理屈抜きにそのまま、観る側の魂にも響くだろう。

「僕らはおそらく唯一の上昇志向を持たない劇団です。『泥棒日記』のジャン・ジュネは、サルトルに絶賛された時も、逃れるように自分を『ただの泥棒』だと言ってみたり。哲学や文学の世界で評価を得ても、最後までパレスチナのマイノリティと協働していく道を選んだりしています。僕は日雇い労働の仕事をしてきたので、そこからしか芝居は発想できません」

公演のテントは劇団員が自ら建てる。建てる作業自体も水族館劇場にとっては欠かすことのできない前芝居だ。

 

ジャン・ジュネを例えに出した桃山だが、彼が日頃から建設現場で労働する身体でしか生み出せない芝居もあるのではないか。日雇い労働者として、発展する社会をつくってきた人々の生き様を、彼らをおいて誰が芝居を通じて代弁できるのか。水族館劇場と近代社会の帰結とも言える寿町という組み合わせからは、これまでに一度も目にしたことがない芝居が生まれるという予感しか湧いてこない。

 

文・友川綾子(office ayatsumugi)


桃山邑

1958年生まれ。現代河原者にして水族館劇場座付作者。若い頃より建築職人として寄せ場を渡り歩く。1980年、曲馬舘最後の旅興行から芝居の獣道へ。驪團を経て1987年に水族館劇場として、あたらしく一座創設。へっぽこ役者三人で筑豊炭鉱街へむかう。東京に戻って劇場機構を拡大しながら、寺社境内を漂流してゆく。水族館劇場をいちど限りのメラヴィリアとして見物衆に堪能してもらうために危険な仕掛けをつぎつぎに考案、役者の反発を買いながら現在にいたる。不思議な縁でむすばれた、さまざまな世直しの一味とも連携をつづける。その試行がどこにたどりつくのか誰も知らない。

出典:桃山邑[編]『水族館劇場のほうへ』/羽鳥書店

 

【イベント情報】

公演情報
『もうひとつの この丗のような夢 寿町最終未完成版』 

期間:2017年9月1(金)〜5(火)、13(水)〜17(日)
:全席自由、期日指定
上演時間:約120分、18:30より劇場外顔見卋(プロローグ)スタート 
会場:横浜寿町労働センター跡地 特設野外儛臺「盜賊たちのるなぱあく」
※9月はまだまだ猛暑でございますが、仮設劇場にエアコンはありません。送風設備のみです。ご了承ください。
※お手荷物もあずかりますが、野外劇場です。なるべく軽装で、貴重品はご自分でお持ちください。
アクセス
石川町駅(JR京浜東北・根岸線)北口(中華街)徒歩6分
関内駅(JR京浜東北・根岸線)南口徒歩8分
伊勢佐木長者町駅(横浜市営地下鉄ブルーライン)出口1徒歩8分

臺本+遅れ+総監督:桃山邑

出演者

千代次

淺野雅英
山本紗由

臼井星絢
髙橋明歩
七ッ森左門
秋浜立

増田千珠
松林彩
石井理加
南海里
野原海明

伊藤裕作
羽鳥和芳
一色凉太

田邊茂夫下野司
山中秀太郎

藤田直哉
津田三朗

翠羅臼
風兄宇内

制作    中原蒼二 伊藤裕作
制作協力  長瀬千雅 矢吹有鼓
照明    西之一舟 松林彩  
美術    淺野雅英 髙橋明歩 ボッチン
音楽    山本紗由 鈴木都 髙橋恭子
音響    下野司
舞台    片岡一英 山中秀一
大道具   原口勇希 秋浜立 
小道具   石井理加 駒田仁志
車輌    臼井信一 田邊茂男 
衣裳    千代次 袖上香名子
化粧    増田千珠 野原海明
木戸    村井良子 川上敦子 山崎香世   
衛生    渡邊紀子 清藤真理子
記録映像  居原田遥 DJ.YOU KUMA 

舞台監督  古木均
特殊造形  津田三朗
劇場設計  桃山邑

宣伝美術  近藤ちはる

企画製作  Koola Lobitos

チケット
前売券  4500円 
電話予約 4700円(8/31まで受付。TEL 080-2339-5615)
当日券  一般4800円、中高生割引券3000円(観劇当日午後5時より劇場窓口で発売)
※公演はすべて期日指定の自由席です。当日券も若干ご用意しますが、入場制限する場合もございます。確実な前売券をお奨めいたします。

前売券販売所
ヒグラシ文庫鎌倉 
神奈川県鎌倉市小町2-11-11大谷ビル2F
ヒグラシ文庫大船 
神奈川県鎌倉市大船1-19-3昌和ビル102 TEL 090-4738-4640
ジャズ喫茶ちぐさ 
神奈川県横浜市中区野毛町2-94 TEL 045-315-2006
星羊社 
神奈川県横浜市中区伊勢佐木町1-3-1イセビル402 TEL 045-315-6416
古書ほうろう 
東京都文京区千駄木3-25-5 TEL 03-3824-3388
古書信天翁 
東京都荒川区西日暮里3-14-13コニシビル202 TEL 03-6479-6479
古本遊戯 流浪堂 
東京都目黒区鷹番3-6-9鷹番サニーハイツ103 TEL 03-3792-3082
高品質珈琲と名曲 私の隠れ家 
東京都新宿区荒木町6ルミエール四谷2F  TEL 090-5783-4680(瓜生)
橋倉ビーンズ珈琲店 
東京都世田谷区代沢4-7-1  TEL 03-3487-0549
古書サンカクヤマ 
東京都杉並区高円寺北3-44-24  TEL 03-5364-9892
横浜寿町労働センター跡地 

特設野外儛臺「盜賊たちのるなぱあく」建込み中の仮設劇場にて8/3より直接お求めになれます。

前売券のWEB販売について(8/3販売開始、8/25 24:00締め切り)
ticket.suizokukangekijou@gmail.comまでメールにてお申し込みください。
タイトルを「チケット予約」とし、本文に ①お名前 ②ご希望の公演日と枚数 ③ご住所 ④お電話番号 をご記入の上、お送りください。
3日以内に折り返しメールにて振込み先をお知らせいたしますので、1週間以内にお振込みをお願いいたします。ご入金確認後、チケットを発送させていただきます。
万が一、3日以内にメールの返信が届かなかった場合には、恐れ入りますが
こちらまでinfo@suizokukangekijou.comお問い合わせくださいますよう、よろしくお願いいたします。

入場整理券
整理券は全公演毎夕5時から、ご招待・前売券、電話予約・当日券の区別なく、お並び順に配付いたします。
木戸付近にお並びください。