地域に求められる文化芸術支援の形を考えるーー地域アーツカウンシルラウンドテーブル2020 in TPAM

Posted : 2020.04.16
  • facebook
  • twitter
  • mail
近年、日本各地では、それぞれの地域の文化芸術活動を支援するための組織「地域アーツカウンシル」の設立・検討が進んでいる。横浜では、2007年にアーツコミッション・ヨコハマが設立され、その機能を担ってきた。全国的にはどのような状況で、それぞれの地域ではどのような活動が行われているのだろうか? 国際舞台芸術ミーティング in 横浜2020(通称TPAM)の一環として行われたラウンドテーブル「芸術と社会〜地域アーツカウンシルの可能性と展望〜」の内容を元に紹介する。

【地域アーツカウンシルの状況】

はじめに、杉浦幹男さん(アーツカウンシル新潟アーツカウンシルみやざき プログラムディレクター)が全国の状況を共有した。

赤い丸が設置済自治体、緑の丸が検討中自治体。

 

全国には47都道府県と20の政令指定都市があり、そのうち12自治体でアーツカウンシル組織を設置済。10団体が検討中だという。背景としては、文化庁が2016年より進めている、アーツカウンシル組織の設立等を支援する事業(※)がある。日本文化×地域創生など、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化プログラムも視野に入れた動きだ。
※文化芸術創造拠点形成事業(地域における文化施策推進体制の構築促進)

杉浦幹男さん(アーツカウンシル新潟/アーツカウンシルみやざき プログラムディレクター)

 

また、2017年には文化芸術基本法が改正され、芸術文化事業の多様化(観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業等の領域と連携)を推進する動きもあるという。

これらは、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会に合わせて、大規模な文化プログラムに取り組んだイギリスの文化政策の方向性に重なるとのことだ。

しかし、アーツカウンシルに関して言えば、イギリスは元々国全体のアーツカウンシル組織(British Arts Council)があり、それを各地域に分割したという流れ。日本は各地域での動きが先にあり、それぞれが参加するアーツカウンシル・ネットワーク(※)は2019 年7 月に設立されたという違いがあるそうだ。つまり、各地域でそのあり方を模索しながら形にしてきて、その連携や全国組織の活動ははじまったばかりということになる。
※日本版アーツカウンシルである日本芸術文化振興会を事務局に設立(2020年2月現在、加盟14 自治体・機関)。

 

【資金提供だけでなく、専門職員の伴走による支援】

それでは、アーツカウンシル組織はどのような活動をしているのだろうか。沖縄県・静岡県・神奈川県・横浜市・新潟市の5自治体それぞれの取り組みが紹介された。

例えば、沖縄県と静岡県で特徴的なのは、伴走型の支援。助成金という形で、それぞれの地域の文化芸術活動を支援するアーツカウンシル組織が多いが、支援する事業を募集・採択して資金の一部を提供するだけではなく、プログラム・オフィサーと呼ばれる専門職員(沖縄:7名、静岡:5名)が担当者となり、企画・準備段階からコミュニケーションを重ねて、より充実したプログラムになるように相談・助言・提言活動などを行う。

芦立さやかさん(沖縄県文化振興会沖縄アーツカウンシル プログラム・オフィサー)は、前職の東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)での経験もふまえ、「場所やお金を提供するに限らず、人と人をつなぐことや、情報提供をすることも支援だ。」という。北本麻理さん(静岡県文化プログラム推進委員会・プログラムコーディネーター)は、「既に環境があり切磋琢磨するというよりは、創作活動の環境自体を必要としているアーティストが多い。また自身が抱える課題に気づくことができていない時もある。」と語る。北本さんは三陸国際芸術祭NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)など、多様な舞台芸術の制作に関わってきた経験をもつ。

芦立さやかさん(沖縄県文化振興会/沖縄アーツカウンシル プログラム・オフィサー)※3月末日で退職。

 

それぞれの地域で文化活動を行う者は、必ずしも身近に相談できる先達や同様の状況にある仲間がいるわけではなく、孤軍奮闘していることも多い。多様な現場を知る彼女らの伴走自体が頼りになる場面は多いだろう。首都圏であれば、専門的な知識を得ることのできる講座・ワークショップ・ネットワーキングの機会を様々な形で見出すことができるだろうが、現場で活動する人自体が限られる各地域ではそれが難しい。またそれぞれの地域における環境も異なるだろう。アーツカウンシル組織には資金等の提供だけでなく、実はそのような総合的に活動を支援できる体制や人材が求められるのだ。

北本麻理さん(静岡県文化プログラム推進委員会・プログラムコーディネーター)

 

【文化芸術と地域社会をつなぐ】

アーツカウンシル組織が推進、支援する文化芸術活動は、美術館・ギャラリー・劇場・ホールといった専門施設等において、プロのアーティストらの手だけで行われているものにとどまらない。まちなかを含む多様な環境で行われるものや、分野を横断し、市民などを巻き込んで行われているものも多く含まれる。文化芸術を限られた人だけが体験するのではなく、いかに多様な人々が参画し、社会的な広がりや多様な価値を生み出していくのかという点が命題になっている。

例えば神奈川県共生共創事業では、2018年から「ともに生きる ともに創る」を掲げて、県内の文化資源の調査、文化関係者ネットワークの構築支援、シニア創作創造プロジェクトなどを進めている。多文化共生分野を強化し、2021年には全国健康福祉祭(ねんりんピック)神奈川大会への参画なども予定している。

熊井一記さん(神奈川県共生共創事業-KAAT神奈川芸術劇場/神奈川芸術文化財団)

 

アーツカウンシル新潟では、芸術文化活動を継続的に行う団体への最長3年に渡る基盤助成や、市内の社会問題に取り組む助成なども設けている。神楽など集落の祭りが多い地域の横のつながりをつくる協議会への助成なども対象となる。福島尚子さん(アーツカウンシル新潟 プログラムオフィサー)は、「既存の文化団体だけでなく、様々な団体が担い手となり変革を起こすこと。社会を巻き込んで渦をつくることが大事」だと語る。

福島尚子さん(アーツカウンシル新潟 プログラムオフィサー)

 

アーツコミッション・ヨコハマは、6つの機能(1.相談対応、2.コーディネート・ネットワーク、3.資源提供、4.編集・発信、5.調査・情報収集、6.企画・施策提案)を担う。2016年頃までは活動や担い手の集積そのものを重視していたが、以降は担い手同士が出会い、シナジーを生むための基盤やプラットフォームの整備を進めている。

里見有祐さん(アーツコミッション・ヨコハマ/横浜市芸術文化振興財団 プログラム・オフィサー)

 

【地域の固有性とつながりを生かす】

5自治体の取り組み紹介後のクロストークに登壇した野村政之さん(長野県文化政策課 文化振興コーディネーター)は、どの地域のアーツカウンシルにも社会的包摂と地域創生の要素があり、それは国の大きな流れや課題認識でもあると紹介。セッションを振り返った。

野村政之さん(長野県文化政策課 文化振興コーディネーター)

 

また、前職の沖縄アーツカウンシル プログラム・オフィサーでの経験をふまえ、「それぞれの地域の本質について考えなければいけない。東京や他地域の要素を取り入れるだけでは地域のクリエイティビティを刺激することにはならない。沖縄では特に現地にいる人のクリエイティビティやイノベーション思考をいかにして引きだせるのかを考えることが多かった。長野でも基本は同じで、県が掲げる『学びと自治』ともつながる活動に取り組んでいきたい。」と語った。

最後に杉崎栄介さん(アーツコミッション・ヨコハマ )は、「アーツカウンシルの活動は各地域でますます増えていく。それぞれの活動はもちろん、そのネットワークを通して得られた集合知も生かしていく。各地域にスペシャリストがいるので、他地域からアクセスする際にも、活用してもらいたい。」と一連のトークをしめた。

杉崎栄介さん(アーツコミッション・ヨコハマ/横浜市芸術文化振興財団 プログラム・オフィサー)

 

文化芸術活動が本質的に持っている多様性、そして各地域の固有性を大事にしながら、今の時代に求められる姿を担い手と共に考え、更新していく。そのために、各地域とのつながりも生かしていく。地域アーツカウンシルに求められるのはそのような姿勢であると強く感じるセッションであった。

取材・文:橋本誠(ノマドプロダクション
写真:森本聡(カラーコーディネーション


地域アーツカウンシルラウンドテーブル2020
芸術と社会 ~地域アーツカウンシルの可能性と展望~

日時 2020 年2 月11 日(火・祝) 12:00~13:40
会場 横浜開港記念会館 第6 会議室

〒231-0005 横浜市中区本町1 丁目6 番地 TEL:045-201-0708

TPAM in Yokohama 2020 グループミーティング内(要TPAMパス)
通訳あり(逐次)樅山智子さん

〈スケジュール〉
12:00~12:10 地域版アーツカウンシル概観
杉浦幹男   (アーツカウンンシル新潟/アーツカウンンシルみやざき プログラムディレクター)

12:15~13:00 各地の地域版アーツカウンシル等の紹介(50音順)
芦立さやか(沖縄県文化振興会/沖縄アーツカウンシル プログラム・オフィサー)
北本麻理   (静岡県文化プログラム推進委員会・プログラムコーディネーター)
熊井一記 (神奈川県共生共創事業-KAAT神奈川芸術劇場/神奈川芸術文化財団)
里見有祐   (アーツコミッション・ヨコハマ/横浜市芸術文化振興財団 プログラム・オフィサー)
福島尚子   (アーツカウンシル新潟 プログラムオフィサー)

13:00~13:40 クロストーク(50音順)
芦立さやか(沖縄県文化振興会/沖縄アーツカウンシル プログラム・オフィサー)
北本麻理 (静岡県文化プログラム推進委員会・プログラムコーディネーター)
熊井一記 (神奈川県共生共創事業-KAAT神奈川芸術劇場/神奈川芸術文化財団)
杉浦幹男   (アーツカウンンシル新潟/アーツカウンンシルみやざき プログラムディレクター)
杉崎栄介   (アーツコミッション・ヨコハマ/横浜市芸術文化振興財団 プログラム・オフィサー)
野村政之 (長野県文化政策課 文化振興コーディネーター)

主催:アーツコミッション・ヨコハマ/アーツカウンシル新潟