創造都市横浜の原点-「芸術不動産」の現在地と未来

Posted : 2021.04.28
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横浜市は、アーティスト・クリエーターの集積を目的として、関内・関外地区の遊休不動産を活用し、スタジオ、アトリエ、ギャラリーなどの民設民営型の活動拠点を形成する事業「芸術不動産 -ART REAL ESTATE-」を進めてきた。入居者の手で不動産をリノベーションする「セルフリノベーション」や複数の人が共同して入居する「シェアハウス」「シェアオフィス」の手法などにより、古い建物をそのまま活用する他、建物の構造や歴史を活かしてアップサイクルやセルフビルドするアーティスト・クリエーターが現れ、企業(民間)とクリエイター(民間)の不動産契約からはじまった。入居者コミュニティや関連プロジェクトが生まれ、期間限定入居や暫定利用から定住に向かうなどの事例が、独自のブランディングにつながっている。

創造界隈拠点の運営を開始した2004年から、横浜市ではじまった創造都市政策。文化芸術振興・経済振興とまちづくりが一体となった創造都市(クリエイティブ・シティ)の考え方の実践は17年目に入る。当初、民間不動産から公共不動産の暫定利用に展開した創造都市政策は、現在は遊休不動産の暫定利用が少ないのが現状。また、新型コロナウイルス感染症の影響でアーティストやクリエイターの表現活動が制限され、空き店舗も多数生まれてゆく情勢も踏まえ、芸術不動産事業の現在と都市の代謝の可能性について、芸術不動産セミナー「不動産の創造的暫定活用の現在地」(オンラインイベント)のレポートをお届けする。

アーツマネジメントからの視点、海外の事例から見る芸術不動産

今回のシンポジウムは、横浜市から芸術不動産に関する調査、情報発信、窓口運営を委託される「ヨコハマ芸術不動産推進機構準備室」(以下機構)が企画した。そのメンバーである櫻井計画工房の櫻井淳さんから、芸術不動産の原点に帰り、アーティストやクリエイターを横浜に集め、遊休不動産を活用させてゆく問いが提起され、イベントは始まった。

まずは、アートマネジメントの立場から、作田知樹さん(Arts and Law ファウンダー/事務局、Ąrts and Consideration代表、行政書士)が海外事例を紹介する。

NEA(National Endowment for the Arts、全米芸術基金)はアメリカ政府の独立機関で、1965年に設立され、多様な文化芸術活動に助成金を提供してきた全米最大の芸術支援組織である。NEAは、2010年に経済学者アン・マークセンとアート・コンサルタントのアン・ガドワの造語「クリエイティブ・プレイスメイキング」を発展的に提唱している。

 「芸術と文化が地域の経済発展、居住性、文化産業の競争力に実質的に貢献すること」(アン・マークセン/2010)

クリエイティブ・プレイスメイキングは、“アート、創造性”を中心に置き、「問題解決」「協働促進」「公平性重視」「地域社会主導」「アイデンティティ」の5つの方向性を設けて人間中心的な持続可能な発展を企図したもの。これは、横浜の創造都市施策などでも見られる考え方だが、10年間投資をしてNEAは、アドバイザーとしてプロジェクトに入り、10年間で公的な財団や保険会社がタッグを組んで大きな助成金を投資してきた。ゲットーの土地の値段を上げ、地域住民やアーティストを追い出すジェントリフィケーションを引き起こさないように地域にアーティストが関与し、住民やアーティストのブランディング、自らのアイデンティティ確立に寄与する再開発の考え方に基づく。

「都市のなかで、芸術が活発になることで何が生み出されるのか」という問いに、作田さんは「文化的価値」、特に芸術を中心に置くことで「経済的価値」「社会的価値」とのバランスの回復、調和を試みる。ウェルビーイングの効果増大を期待しつつ、公平性や地域社会とのつながりによる総合的な視線を重要視する。

アート・マネジメント視点から、横浜の利点を説明。物件によっては現状復帰が免除されることで、ローコストでの転用が容易であることも暫定利用のメリットとして語る。資産価値ゼロの経年物件でも、「ビンテージ」以外のブランディングができるようになれば成立するアートマネジメントによる暫定利用事例を紹介。横浜でアーティストが活動する利点をお話された。

 「交通的な利便性、家賃の安さ、再開発がされていないからこその古い建物の入居や活動利用への需要があり、民間・行政のサポートも受けられやすく、仕事やリサーチや発表の場もある。」

発信力がある拠点を小さく始めて街を変えていく

続いて、中小ビル再生の立場から黒田哲二さん(UDS株式会社 代表取締役社長)が登壇。建築設計の仕事をしていた黒田さんは建築家とクライアントとのディスコミュニケーションを懸念していた。「つくる人」と「つかう人」をつなげる仕組みがないか、と考えていた折、UDSの前身会社に出会い「コーポラティブハウス」の概念に出会う。

「コーポラティブハウスはマンションを作って売るのではなく、土地から住む人を集めて、自由設計をしながら一つの集合住宅を作るプロジェクト。2年かけてその間に共用部の使い方を決め、新しい生活を始めるために空間を通してコミュニティをつくる。」

虎の門ヒルズが着工するタイミングで森ビル株式会社に転職。周囲に遊休不動産が多く、何が出来るか考えていた経緯から、グリーンズと日本仕事百貨が運営する「リトルトーキョー」やランドスケーププロダクツのギャラリー「Curator’s Cube」などを誘致した。

「虎ノ門のまちづくりに関わり、ムーブメントの中心になっている人を巻き込んで、場を借りていただき、それにフォロワーがついてゆく流れ。虎ノ門ヒルズの足元周りに人が集まってくる土台を作った。デザインや手法も重要だが、その場に誰がいるのか?というのが非常に重要だと実感。クリエイターやインフルエンサーになりうる方を虎ノ門に案内し、土地への新たな気づきを与えた。」

UDS株式会社では企画・設計・運営までを手がけている。
「ホテルを”地域内経済循環”のハブになる1点として捉えて、まち全体に貢献してゆく思考で取り組んでいる。」

都市開発の視点でみるアーティストの即興性への驚き

続いて、エリアマネジメントの立場から山元夕梨恵さん(三菱地所株式会社 プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室)から「大丸有エリア『アート×エリアマネジメント』〜有楽町エリア再構築とアート〜」の話題提供。

大手町・丸の内・有楽町は略して大丸有エリア。就業者28万人のエリアのまちづくり。官民協働でまちづくりを進めてきた。まちづくりにおける文化芸術の重要性を捉え、エリア内の美術館建設、道路や公共空間を利用したパブリックアート設置、毎年のように芸術イベントも開催している。2020年代以降の三菱地所の方針は有楽町と常盤橋を重点更新エリアとして再構築を推進。ポストコロナ時代を見据えて、多様な多様な就業者100万人が最適な時間に集まり、交流して価値を生み出す舞台に変えてゆくという将来像を掲げている。

「建て替えが必要なビルもあれば、リノベーションしたいビルもあり、これからの街にどのような機能があればいいのか検討し、有楽町の街を再構築している。」

大丸有エリアのアート・アーバニズムの重要なキーワードは「クリエイティブ」。最初はアート思考などが入口だったが、アーティストの営みそのものを取り入れることにした。

「まちの成長のためにアーティストを使うわけでも、街中にただ作品を並べるわけでもない。”同時代を生きるアーティストたちと共にまちづくりを進める”ということ。アート作品を屋外に展示する際に作家の名前を表記すると屋外広告物として扱われてしまう問題に直面したりもした。店舗入れ替え期間の遊休空間をアーティストの活動の場として有効活用する”ソノ アイダ#有楽町“では、街づくりの長い時間軸と、アーティストの今日、明日、今!のような即興性・短い時間軸が交差することによって、より時代を先どる街の価値を作ってくことができるのではと感じた。」

通りすがりの人に刺激を与えることは、街のイメージを変え、アートの回遊性を生む仕掛けを生む。アートの場を都心に提供し、有楽町生まれの作品が有楽町で展示される。アート制作の場というビルオーナーには高いハードルも「あくまで暫定活用」という立場で活用が許可されたという。

芸術不動産の現在地と未来

後半にいく前に、前述機構メンバーの相澤毅さんや櫻井心平さん、アーツコミッション・ヨコハマの杉崎栄介さんからの関内地域の地域診断や、活動の指標となる資料・データが報告された。そのデータからは、現在、関内は人口が増えており、地域に根ざして活動するクリエイターの意向からも、遊休不動産の文化的活用が求められている状況にあることが示された。その流れから、後半では関内に入居しているアーティストや経営者も交えて、セッションが行われた。

後半から議論に参加したメンバーは、アップサイクルなアーティストである稲吉稔さん(nitehi works)、子育てを通じた人々の支援をする株式会社ピクニックルームの後藤清子さん。この二人は、主催する活動を通じて関内の多様な人材をつなぎあわせている。

稲吉さんは、横浜で空き不動産を暫定活用しながらアートプロジェクトを実践することで、ご自身のアーティストとしてのキャリア、ネットワークを作られている。また、後藤さんは、理事を務める関内まちづくり振興会の活動にとして車道の一部を通行止めにして道路にテラス席を設置し、近くの飲食店のテイクアウトを利用できるようにする「かんないテラス」を実施。道路占用の許可基準の規制緩和を受け、コロナ禍における新たな生活様式とまちづくりの実験として注目されている。

セッションでは、関内エリア全体で持続可能な発展の仕組みを考える上で芸術不動産の可能性について、前述機構メンバーの建築家の曽我部昌史さん(みかんぐみ)をファシリテーターにして議論がされた。

稲吉稔さんのプレゼンテーション抜粋

後藤清子さんのプレゼンテーション抜粋

 主体として情報を持っている人を探し、稲吉さんのようなアーティストや後藤さんのようなリーダーを繋ぐ仕組みと、クリエイターのネットワークを持つACYが仲介する新たなネットワークの創出への期待。関内のまちづくりプレイヤーはその使命を意識する。

貸主側にとっての芸術不動産の明確なメリットを探る中、遊休不動産は「固定資産税をただ払っているだけの状態」であることを指摘。「アートの価値はエクセルの数字に表れない。精神論的なものになってしまうが、不動産オーナーが腹をくくるしかない。」との、奮起も促された。

関内まちづくりの情報整理役を担う後藤清子さんはセントラル関内のまちづくりビジョンを策定中だ。

後藤清子さん「泰生ビルのようなマインドを持つ街への変化を構想する議論も始めている。関内まちづくり振興会は活動しているさくら通り、ベイスターズ通りを包含する通りやエリアを対象とし、様々な商店会や町内会が込み入るため、相互連携と調整が行われている。」

関内駅前再開発のエリアマネジメントのスケールについて、セントラル関内エリアへの意気込みも語られた。この後、三菱地所横浜支店の横田大輔さんの関内駅前の再開発の説明に繋がった。

横田大輔さん「今までのような概念で賃料が上がるから、というもので説明がつくわけではない。従来型の不動産ビジネス、ブランディングではない方法論を構築し、なるべく資本をかけずに、アップサイクルなどのアイデアを重ね、サステナブルに回ってゆく仕組みを作りたい。」

横田大輔さんのプレゼンテーション抜粋

遊休不動産のオーナーとの出会いも課題として残る。独特の風情を維持している建物の保存やリノベーションなど、現在のチャンネルとネットワークではやり切ってしまっていると言うが、地域・地縁団体組織への再接続や、間口を広げてプレイヤーが繋がりやすい土壌づくりの工夫や継続に何が足りないのだろうか。

地域との共通のアジェンダの設定、小さなアクションから長期的なムーブメントや変化につなげるPRや、それらを運営するプロジェクトマネージャーの人材育成とハブになる人の流入の期待、行政から段階的に民営として独立する流れを理想とする声などが上がった。

黒田哲二さん「一つ目の点をどうつくるのかが非常に大事。丸の内なら2000年に「トゥモローランド」、蔵前なら「Nui」、虎ノ門なら「グッドモーニングカフェ」が1個目の点。」

芸術不動産の現在地を理解する豊穣なセッションであった。地域のリーダーは「情報整理の作法を構築中」と語り、あらゆる人が起点となるプレイヤーを求めている。これからどんなコミュニティ・ハブが一つ目の点として、設計・発見されてゆくのだろうか。withコロナの関内外のクリエイティブ・プレイスメイキングの実装の10年が愉しみである。

文:小林 野渉


■イベント情報

芸術不動産セミナー「不動産の創造的暫定活用の現在地

開催日:2021年 2 月 27 日(土)10:00~12:30 ※zoomウェビナーによる開催
プログラム:
1)主旨説明:櫻井淳
2)ゲストスピーチ「さまざまな立場から見た創造的暫定活用の現在地」
 ①アートマネジメントの立場:作田知樹(Arts and Law ファウンダー/事務局、Ąrts and Consideration代表、行政書士)
 ②中小ビル再生の立場:黒田哲二(UDS株式会社 代表取締役社長)
 ③エリアマネジメントの立場:山元夕梨恵(三菱地所株式会社 プロジェクト開発部 主事)
3)データーで見る関内
 ・相澤毅:(機構準備会/plan-A)、櫻井心平(機構準備会/櫻井計画工房)
 ・杉崎栄介(アーツコミッション・ヨコハマ/横浜市芸術文化振興財団)
4)ディスカッション
 ・ゲストスピーカー:作田知樹、黒田哲二
 ・関内・関外関係者
 :稲吉稔(アーティスト/似て非ワークス)
 :後藤清子(関内まちづくり振興会理事/株式会社ピクニックルーム)
 :横田大輔(三菱地所株式会社 横浜支店 統括)
・進行 曽我部昌史(機構準備会/みかんぐみ・神奈川大学)
 
主催:横浜市文化観光局