TPAM in YOKOHAMA2017閉幕~市民が支える世界の舞台芸術プラットフォーム

Posted : 2017.03.16
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横浜の毎年恒例イベント「国際舞台芸術ミーティングin横浜」(通称TPAM)が2月11日〜19日に開催された。今年も世界各地から50名あまりのプレゼンターを招き、952人もの国内外の舞台芸術のプロフェッショナルが集結、演劇やダンス等の公演や国際会議が行われた。 公演プログラムに参加する劇団やダンスカンパニー、国内外のフェスティバル・芸術文化団体関係者などが行き交う9日間の主催公演来場者数は一般客も含め、延べ5806人。 国際的かつ大規模なプラットフォームの運営には、実に多くのスタッフが関わり、国内外のゲストを迎え入れる体制が必要なのは察しがつく。 会期中はインターン生のほか、50名程のボランティアが来場者への対応をはじめ、世界各国の舞台芸術関係者が快適かつ親密に仕事ができる場づくりに関わっている。 その年齢層は幅広く、下は10代から上は60代まで、ここでは経歴も様々なボランティアの活動を取材した。

1 尾鷲翔子さん

グローバルな世界で働きたくて、TPAMのボランティアに応募しました

 最初はTPAMの主要会場、BankART Studio NYKのインフォメーションデスクを担当した横浜市在住の大学生、尾鷲翔子さん。母親がTPAMのボランティア募集記事を見つけたのが応募のきっかけだった。TPAM会期中9日間参加した日々で、彼女はどんなことを学んだのだろう?

BankARTでの受付業務

 

「母がTPAMのボランティア募集記事を見つけるまで、TPAMのことは知りませんでした。「翔子、春休みヒマなんでしょ?」と母に言われ、将来はグローバルな世界で働きたいし、国際関係などにも興味があるので「よーし、やってみるか!」ということで、参加しています。
私は主にインフォメーションデスクでの案内。パスには“English”(英語対応スタッフ)と書いてありますが、受験で習った英語とは全く違うので、実際には頑張れば聞き取れるかな?というレベル。戸惑いつつも、英語を話せるスタッフの方から「こちらの列に並んでください」は、「Please take a line here と言うのよ。」と教えて頂いて、その場で実践しながら対応しました。
チケット販売では、インターンやスタッフの指示に従って、当日予約や公演時間や会場の案内とか…こまごまとした作業をこなしていました。
業務の中で一番頑張ったのは、やっぱり外国の方とのコミュニケーションですね。
ミーティング会場の設営中に海外のプレゼンター方が大勢現れて、「ここは何時に開いてどんな会場になるの?」「どうやって始めたらいいの?」といったことを聞かれた時、自分の言葉でちゃんと話せたことかな。
自分なりのおもてなしで、一人で対応できた時は本当に嬉しかった。
最初はBankART Studio NYKに行く道も知らなかったし、我ながら「本当に大丈夫かな?」と思ったけど、毎日楽しく過ごせました。」

 

進路相談や人生相談にも展開?世代を問わないボランティア同士の交流

「年配のボランティアの方々も積極的に活動できる方が多くて驚きです。芸術性を大切にして、常に面白いものを求めるような魅力的な方ばかり。私も、ここで出会った方々のように、色々なつながりを持って積極的に活動したいと思うようになりました。
同世代のボランティアも大勢います。大学3〜4年は将来のことを真剣に考えているし、私の動機がすごくちっぽけなんだなぁと感じて、とても刺激を受けました。
中学・高校の頃は演劇が好きだったけれど、大学に入ってからは距離を置いていました。勉強と演劇が両立できるか悩んでいたけど、皆さんと話すうちに、在学中に進路転換して、交換留学でアートや演劇を学んでみようか…と思うようになりました。英語が話せることが特別という時代でもないからこそ、交換留学で1年間色んなことにチャレンジしてみよう、っていう選択肢が増えたことは、本当に大きな収穫ですね。」

 

2 村田悠希さん

控え室の扉を解錠する村田さん

 

次に紹介するのは、TPAMのインターン生で東京から横浜市の大学に通う村田悠希さん。大学では演劇部に所属し、卒業後に劇場で働きたいという思いがあり、今年初めてインターンシップを利用したとのこと。

 

舞台芸術の仕事に就きたい人にはおすすめしますよ!

控え室付近のドリンクコーナーでお茶の準備

 

「今回のインターン参加によって、ようやく演劇業界に足を踏み入れることができました。KAAT神奈川芸術劇場の舞台技術インターンに応募したけれど、残念な結果が届いてしまい、他に何かできないかな?と思ってTPAMインターンを選びました。
面接の後、事務局の方にシフトを組んでもらい、TPAMがKAATで行う公演本番の仕事を担当することになりました。KAATの制作スタッフさんの下で、アシスタント的な業務に関わっています。公演当日に会場で配布する印刷物のプリントや、ケータリングの補充など…買い出しに行くこともあります。出演者側が快適に過ごせるよう支度をするのが私の役割です。」

インターン仲間、秋山さんと合流

 

お客さんと直に接するのではなく、劇場の裏方として公演する側をサポートする村田さん。「今後は劇場の様々な仕事に関わりたく、「TPAMが終わったら、劇場のアルバイトや長期のインターン等で研鑽を積みたい。」とはにかみながら話してくれた。

学生にとって、TPAMで出会ったボランティアをはじめ、TPAMスタッフらとの交流は、将来をより具体的に考える貴重な経験だったようだ。
社会人として3年連続で参加する山田勝志さん(50代)からTPAMへの思いを聞いた。

 

3 山田勝志さん 

舞台芸術のプロフェッショナルが集結する10日間を俯瞰で見れることが面白い

「私がTPAMボランティアに参加する理由は、運営事務局の方々も含め、国内外の舞台芸術に関わるプロフェッショナルな方々と共に、非日常の現場体験ができること。転職を機に勤務時間が比較的自由になったこともあり、仕事のスケジュールを調整しつつ、自分にとって都合のよい時間帯を提供し、マンパワーとして運営をサポートしています。普段は音響関係の仕事をしているので、技術面での興味もあり、ボランティアに応募しました。企業では経験できない現場を見るだけでも興味深いし、空きがあればシフトの時間外に演目を見ることもできるので、僕自身、ボランティアとはギブアンドテイクの関係で成り立っていると思っていますよ。」

公演パンフレットを配布する山田さん

 

「TPAMディレクション・日本初演の『フィーバー・ルーム』では、まさしく会場もフィーバーしていましてね。キャンセル待ちで当日券が手に入るか否か…と待ち構えるお客様も大勢いる中でチケット引き換えを担当した時は、チケット1枚1枚の価値を実感しましたよ。ボランティアとはいえ、お客様と接する最前線に立つ責任感は独特だし、ボランティアコーディネーターが、私達を信頼し色々な仕事を任せてくれることも、本当にありがたいです。
私は今年で3年目になりますが、運営側の編成やボランティア参加者の顔ぶれも毎年のように異なるので、年々の変化を楽しみつつ、顔見知りが増えていくという…。演劇やTPAMのことを学生さん達と話すなど、若い世代との会話も刺激になります。
TPAMはプロフェッショナルが集まる場というイメージが強いけれど、一般の人も同時代の舞台芸術に関われるオープンな場所でもあり、安価に公演を見る機会も提供しているんです!TPAMボランティア参加を機に、横浜市民として、より多くの方にTPAMを知ってもらいたいと思うようになりました。」

 

4 呂苢(ろ い)さん 

興味深い同時代の舞台芸術、プラットフォームという仕組みも共感できた

では、中国の大学で古典舞踊を学び、イギリスで舞台芸分野を学んだ経験もある中国人留学生、呂(ろ)さんはTPAMでどんな体験をしたのだろう?

KAAT神奈川県立劇場4Fの受付にて

 

「イギリスの大学院で舞台芸術を学んだ後、2016年の8月に来日しました。イギリスの芸術分野も素晴らしいけれど、文化的にはアジア圏のほうがフィットするし、日本の文化も知りたくて。舞踏にも興味があるので、今は東京に住み、日本語学校に通いながら、舞台芸術関係の仕事に就く計画をしています。
TPAMを知ったのは本当に偶然。日本語学校の遠足で横浜赤レンガ倉庫に行き、チラシを見つけたんですよ。大学から大学院に進み、勉強ばかりだったので、実は社会経験が少ない。このボランティアは、今後の仕事のためにもいいチャンスかなと思って。
受付業務やインフォメーションの通訳サポートをしています。中国語を話せそうな方には「中国語でいいですか?」と声掛けをします。相手が中国の方だと「早く言ってよ、中国語のほうがコミュニケーションしやすいし。」と喜ばれますし、中国語でサポートできるのはやっぱり嬉しいなあ。」

『サムート・タイ:未完の歴史たち』は10名のタイ人アーティストによるパフォーマンス・インスタレーション
呂さんはピシタクン・クアンタレーングによるパフォーマンス『黒い国』に参加
写真:前澤秀登

 

サムート・タイ:未完の歴史たち』というパフォーマンス・インスタレーション作品では、パフォーマンスにも参加し、ステージ上で版画(シルクスクリーン)を摺るパートに加わるという体験もできました。事務局から「参加できる人は是非」とアナウンスがあり、立候補したんです。
作業も面白かったけど、空き時間にアーティストと色々な話ができたのが良かった。自分もクリエイティブな仕事をしたいので、色々な作品を見て視野も広がりました。
TPAMが国際的な立ち位置で、プロフェッショナルな舞台芸術のネットワークを育てる場だと理解できたし、とても意味深い場所にいると実感しています。」

 

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取材した方々は、みな達成感ある表情で自身の体験を語ってくれた。

最後に、2017年のTPAMボランティアコーディネーターを担当した藤原顕太さんから、受け入れ態勢や今回の感想などを聞いた。

クロージング・パーティ会場にて
写真:前澤秀登

 

「公募当初は、30名体制の予定でしたが、予想以上に反響が大きかったこともあり、結果として52名の方にボランティアとしてご登録いただきました。
TPAMのボランティアは、参加されている方のバックグラウンドや年齢層の多様さが特徴的だと思います。舞台芸術の仕事に興味があり勉強を兼ねて参加したいという人もいれば、地元横浜のイベントなので手伝いたいという方もおります。そのため、できる限りお一人お一人の志望動機を大切にして、具体的な活動を割り振らせていただきました。また、舞台制作を仕事にしたいと考えている人には制作アシスタントの活動に入っていただくことで、結果として舞台芸術業界の人材育成にもつながると感じます。
TPAMにはプロフェッショナルのためのプラットフォームとしてだけでなく、オープンな場として、関心を持っている方たちが参加できることも意義のひとつだと思うので、それがボランティア活動という形で実現しており、嬉しく思います。
TPAMに限らず、ボランティアで関わる方に対しては、主催者側は金銭以外の対価としてどのようなベネフィットを提供できるのかが問われていると思います。コーディネーターは、一人一人のやりたいことを実現するきっかけを作ることで、ボランティア活動を充実したものにしてもらうための重要な役割だと感じています。」

 

TPAMの運営には、ボランティアという関わりで集まった方々のサポートにも大きく支えられていることをお分かりいただけたかと思う。これからのTPAMはもちろん、個々の活躍にも期待したい。

 

取材者・古川朋弥