若手振付家の習作発表『プラクティス・ピース』急な坂で

Posted : 2016.11.21
  • facebook
  • twitter
  • mail
今年で開館10周年を迎えた、舞台芸術の稽古場「急な坂スタジオ」。7月に実施した『坂あがりスカラシップplus』に続き、作品が生まれる稽古場ならではの新たなプログラムがお披露目される。気鋭の振付家・岩渕貞太さんがキュレーターを務める「小さなスカラシップ『20°の坂♯1』」だ。11月25日・26日の2日間、プログラム対象者3名による発表会『プラクティス・ピース』がひらかれる。

practice_piece_pick_up-1-1280x446

 

10周年を迎えた急な坂スタジオの新企画『20°の坂♯1』

横浜は野毛、野毛山動物園へと続く急な坂道の途中にある、演劇やダンスの稽古場「急な坂スタジオ」。稽古場の運営だけでなく、つくり手たちの創作活動の拠点として、人材育成や、アーティストをサポートするプログラムの実施などさまざまな活動を展開している。

2006年のオープンから10周年を迎えた同スタジオは、今年新規プログラムの立ち上げに精力的に取り組んでいる。そのひとつ、当サイトで7月に取材した『坂あがりスカラシップplus』は、「劇場での公演」をゴールとせず、その手前の「試行錯誤の時間」を提供することを意図したプログラムだった。一方、「小さなスカラシップ『20°の坂♯1』」はどのようなプログラムなのだろう?

振付家にとってフルスケールの作品(60~90分程度の場合が多い)を発表することは、たくさんの時間と大きな規模のお金が必要になる。ダンス公演の場合、ダンサーへの数か月に及ぶ振付/稽古だけでなく、照明や音響、舞台美術といったテクニカルスタッフと協働して作品を立ち上げ、劇場に入って仕込み、発表の日を迎える――。このようなプロセスを経てつくられるフルスケールの作品を発表する機会は、第一線で活躍する振付家であっても頻繁にもてるわけではない。しかし若手振付家が自分の表現を探求するためには、作品を「つくる経験」が必要だ。

そこで急な坂スタジオは、若手振付家を対象としたプログラム『20°の坂♯1』を立ち上げた。本プログラムでは10~30分程度の作品の習作を公募し、選考会をとおして対象者を選出した。対象となった若手振付家は、本プログラムのキュレーターである岩渕貞太さんを中心に、舞台業界で活躍する3名のテクニカルアドバイザー(舞台監督・原口佳子さん、音響・牛川紀政さん、照明・吉本有輝子さん)とともにディスカッションを行い、作品をブラッシュアップしていくことを目的としたプログラムだ。

profile_teitaiwabuchi

『20°の坂♯1』のキュレーターを努める、ダンサー・振付家の岩渕貞太さん

 

つくることは誰にでもできる、でも作家の世界が見える「作品」は簡単にはつくれない(岩渕)

対象振付家にとってこのプログラムの魅力は、作品の良い・悪いではなく、なぜ作品をつくりたいのか、何をつくりたいのか、といった作品創作のふりだしから考えられることだろう。お客さんに届く作品をつくるために必要なことを、キュレーターやアドバイザーとともに模索することは、創作の経験を積みたい若手振付家にとってぜいたくな時間だ。

キュレーターの岩渕さんは、フランスでの滞在制作(横浜ダンスコレクションEX2012「若手振付家のための在日フランス大使館賞」)や、他ジャンルとのコラボレーションといった豊富な創作の経験をもつ振付家。本プログラムの公募に際し次のように呼び掛けた。

「作品を創ることは誰にでもできます。でもその作家の世界を見せてくれる「作品」を創ることは簡単ではありません。自分の生き方や思想が作品になっていく、それを繋げることができてやっと作家のスタートラインに立てるとわたしは考えています。それは一人では手に入れられません。これまでの先達やライバルやダンス以外のもの、自分を取り巻く世界との対話の中で少しずつ身になっていくものです。私がやっとスタートラインに立てたなと思ったのは作品を創り始めてから9年ほどしてからでした。(中略)
私は新しさが見たいのではありません、その人の見ている世界が知りたいのです。新たな出会いを楽しみにしています!!」(岩渕貞太)

選考会をとおして決定した対象者は、京極朋彦さん、久保佳絵さん、長屋耕太さんの3名。いずれも個人で振付、出演など幅広く活動を展開している期待の若手だ。

kyogoku-shashin_s

京極 朋彦さん

kubo-shasin%e3%83%bb%e5%9f%9f%e8%81%b4%e8%a0%96%ef%bd%b1%e3%83%bb%e5%a3%bb%ef%bd%b8%e6%88%91%ef%bd%b8%e7%bf%ab%e3%83%aa%e7%b9%9d%e3%83%bb%e3%81%95

久保 佳絵さん

nagaya-shasin%e3%83%bb%e5%9f%9f%e8%81%b4%e8%a0%96%ef%bd%b1%e3%83%bb%e5%a3%bc%ef%bd%b2%ef%bd%a9%e8%ad%9b%ef%bd%ac%e9%ac%86%e3%83%bb%ef%bd%b9%ef%bd%b3%e3%83%bb

長屋 耕太さん

 

11月25日・26日は急な坂スタジオで、京極さん、久保さん、長屋さんそれぞれが、もがきながら生み出した作品のかけら「プラクティス・ピース」がお披露目される。彼らの習作が、どんなピースへと発展したのか楽しみだ。 

【イベント概要】

小さなスカラシップ「20°の坂#1」『プラクティス・ピース』

http://kyunasaka.jp/practice_piece

「20°の坂#1」対象者:
京極 朋彦/久保 佳絵/長屋 耕太
日時:
2016年11月25日(金)19時30分スタート
2016年11月26日(土) 15時00分スタート
※ 受付・開場は各回20分前より開始。
※ 発表後、お客様を交えてのフィードバックを行います。
※ 発表とフィードバックを合わせて、100分を予定しております。
会場:急な坂スタジオ スタジオ2
住所:神奈川県横浜市西区老松町26-1
アクセス:
日ノ出町駅(京浜急行線)徒歩5分
桜木町駅(JR京浜東北・根岸線、横浜市営地下鉄線ブルーライン)徒歩10分
料金:500円(ワンドリンク付き)

キュレーター:岩渕貞太
テクニカルアドバイザー:
舞台監督:原口佳子/音響:牛川紀政/照明:吉本有輝子

主催:急な坂スタジオ
制作:加藤弓奈(急な坂スタジオ)、持田喜恵(STスポット)
協力:横浜赤レンカ倉庫1号館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)