10周年を迎える急な坂スタジオが、いま取り組むアーティスト支援

Posted : 2016.07.29
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舞台芸術の稽古場として2006年にオープンし、今年10周年を迎える急な坂スタジオ。今年度、アーティストの創作をサポートするプログラム「坂あがり相談室 plus(プラス)」を新たに立ち上げた。20日間の稽古場無償提供や、制作スタッフのサポートなどが得られる本プログラムを通して、ダンサー・振付家のRie Tashiroさんはどのような試行錯誤をしたのだろう?発表会の現場を訪れた。
左からダンサー・ibis、ダンサー/振付家・Rie Tashiro、音楽・山口紘 撮影:須藤崇規

左からダンサー・ibis、ダンサー/振付家・Rie Tashiro、音楽・山口紘 撮影:須藤崇規

 
新プログラム「坂あがり相談室 plus」に込められた意図

野毛山の動物園へ向かう急な坂道の途中にある、舞台芸術の創造拠点・急な坂スタジオ。2006年のオープン時、スタジオの立地にちなんだユニークな施設の名前を発案したのは、当時のレジデント・アーティストの岡田利規さんだった。

急な坂スタジオは、ともに考え新しいことに挑戦できるパートナーとしてレジデント・アーティストを迎え、彼らの創作をサポートしたり(現在のレジデント・アーティストは岩渕貞太さん、柴幸男さん、矢内原美邦さんの3名)、ゼミナールやワークショップなどのプログラムのなかで、つくり手の育成に取り組んでいる。

このような事業の柱のひとつに、劇場と連携した「坂あがりスカラシップ」があった(2008年から昨年度まで実施)。稽古場が劇場と連携することで、アーティストの「つくる場」から「発表の場」まで総合的な環境をサポートする企画だ。このプログラムを続けていくうちに、ディレクターの加藤弓奈さんにはある想いが生まれたという。

「劇場での発表が前提になると、どうしても『公演』が目的になりますが、自分の表現を模索しているアーティストにとっては、じゅうぶんに試行錯誤できる『時間』が必要なのではないかと感じていました。」(急な坂スタジオディレクター・加藤弓奈)

稽古場での試行錯誤から得たもの――「坂あがり相談室 plus」対象アーティスト・Rie Tashiroさん

「坂あがり相談室 plus」は、「劇場での公演」をゴールとせず、その手前の「試行錯誤の時間」を提供することを意図したプログラムだ。選ばれたつくり手には、急な坂スタジオの稽古場が20日間無償で提供され、制作スタッフのサポートや先輩アーティストとの交流など、急な坂スタジオならではのサポートが受けられる。今年度、初めての実施にも関わらず、選考の倍率は15倍以上に及んだ。稽古場でじっくり考える時間を、多くのアーティストが必要としていたことがわかる。

撮影:須藤崇規

撮影:須藤崇規

去る7月11日、本プログラムに選ばれたダンサー・振付家のRie Tashiroさんの成果発表会が開かれた。公演ではなく、Tashiroさんがぐるぐると悩みながら向き合った20日間の“創作の過程”を発表する会だ。40分ほどのショーイングの後、観客を交えて車座になり、感想をフィードバックする時間が設けられた。

ショーイングは、ダンサーのibisさん、音楽の山口紘さんとともに、3名のクリエーションチームとして発表された。このプログラムはTashiroさんにとってどのような経験になったのだろう。

「ダンスをやっていると、身体の言語、振りでしかものごとを考えなくなってしまうのですが、それだと表現の可能性が広がらないなと感じていました。今回の取り組みでは、ふたりのコラボレーターに加わってもらい、3人で発表会の朝までつくったりこわしたりして、最後までどうなるかわからないことに取り組むことができました。自分ひとりの頭のなかにあることを具現化するソロ作品ではなく、3人のなかにあるものを持ち寄りながら、思考の訓練ができたこと、いろいろな実験に向き合えたことが、大きな経験になりましたね。」(Rie Tashiro)

撮影:須藤崇規

撮影:須藤崇規

将来的には、ダンスだけでなく他ジャンルのアーティストとのコラボレーションから作品を立ち上げる、ネットワークをつくっていきたいと語るTashiroさん。今回のショーイングでは、観客からフィードバックをもらったことも刺激になったという。「坂あがり相談室 plus」でのさまざまな人とのコミュニケーションを通して、これからの創作活動への確かな手ごたえを得たようだ。

オープンから10年を迎え、アーティストを支える場としてより成熟した活動を見せる急な坂スタジオ。これから先の10年後を想像してみよう。ここからどんな才能が育まれているか楽しみだ。

 

 

【プロフィール】

Rie Tashiro(ダンサー・振付家)

(c)Nozomi Teranishi

(c)Nozomi Teranishi

ストリートカルチャーに刺激を受け、ダンスを始める。音楽・建築・メディアアートなど様々な分野のアーティストとタッグを組み、作品を制作。横浜ダンスコレクションEX2015コンペティションIファイナリスト。2015年度日韓ダンスプロジェクトの振付家に選出され、Seoul performing arts festival、横浜ダンスコレクション企画のアジアセレクションプログラム、福岡ダンスフリンジフェスティバルで韓国人振付家kim jiukとの共作を発表。個人でもSeoul international improvisation festivalやInternational Society on Electoric Arts等海外のフェスティバルに招聘される。また舞台活動以外にも明治大学教養デザイン研究科にて「コンタクトインプロヴィゼーションにおける教育的価値」をテーマにダウン症の子供へのダンスの影響を研究。2011年度修士号取得するなど身体表現の可能性を多方面から模索している。

【イベント概要】

「坂あがり相談室plus」の発表会

振付・演出:Rie Tashiro
音楽:山口 紘
出演:ibis, Rie Tashiro 

取材日時:2016年7月11日(月)19:30~
会場:急な坂スタジオ スタジオ1

プログラムの詳細はウェブサイトから
http://kyunasaka.jp/plusnohappyokai