何千里とSHIMURAbrosが見た横浜と成都

Posted : 2013.09.25
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去る9月14日、アーティスト・イン・レジデンス(※)の成果発表展覧会『What did you see?』の最終日に、何千里さん(成都→横浜)、SHIMURAbrosさん(横浜→成都)、本展にあわせて成都から来日したA4当代芸術中心ディレクターの孫莉さんが登場するアーティスト・トークが開催された!

(※)「横浜市・成都市アーティスト・イン・レジデンス交流事業」

 

アーティストたちが語ったリアルな2都市

SHIMURAbrosのケンタロウさんは、成都へ旅立つ前の「中国」の印象についてこう振り返った。「日本のメディアで報道されていた中国は、PM2.5による大気汚染と、反日的な感情というマイナスイメージでした」。
けれども実際に成都に降り立ってみるとどうだろう。そのようなメディアからのイメージとは、かけ離れた風景。緑や水辺が多く、人々が公園で楽しそうにくつろぐ豊かな街だったという。中国の社会ではリタイアの年齢が早く、一生懸命働く若者にチャンスが多いんだとか。
「反日的な感情を感じるというより、むしろ成都では『日式』と言って日本のスタイルを好んだり、日本のカルチャーが興味の対象になっているように感じました。アーティスト・イン・レジデンスは、その地で起きている本当のことを生活の中で感じ取れる。貴重な経験になったと思っています」。

 

油彩画家の何千里(ホー・チェンリ)さんと、姉弟ユニットのSHIMURAbrosさんが参加したアーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)とは、いったいどのようなプログラムなのか?
2009年から中国との間でAIR事業を行ってきた(公財) 横浜市芸術文化振興財団が、2012年から成都のA4当代芸術中心(A4 Contemporary Art Center)をパートナーにスタートさせた新たなプログラムで、今回で2回目の開催となる。このプログラムは「相互交流」を基本としているのがポイント。横浜と成都、互いの都市に毎年ひとり(一組)のアーティストを派遣し、一定期間現地に滞在、作品制作と成果発表を行うことを一つのプログラムとしている。作品を完成することは必ずしもゴールではなく、2都市の交流を重視していることも大きな特徴だ。滞在期間は2か月という長期にわたり、アーティストを横浜の街全体で受け入れる。アーティストはスタジオにこもって制作をするのではなく、積極的に地域と交流する。その地に住む人々の日常の暮らしを全身で受け止めるのだ。成都での滞在制作もまたしかり。
今回、現地の人に作品に登場してもらったり制作に協力してもらうなどのコラボレーションを重ね、ディレクターやスタッフ陣が目を見張る力作を完成させてしまった2組のアーティスト。その成果を多くの人に見てもらおうと、『What did you see?』と題した展覧会が開催された(2013年9月1日~14日、会場:YCC)。アーティストトークは最終日に行われ、創作のプロセスにとどまらず食生活やプライベートで訪れた場所など、彼らが過ごした2都市の日常が語られた。

 

『What did you see?』

このレジデンスで黄金町に滞在し、京急線高架下のスタジオにアトリエを構えてすっかり街に溶け込んでしまった何千里さん。黄金町の地元のお祭りで、お神輿かつぎにも参加したとか! 日本の神教と中国の道教が似ているところがあると感じていた何千里さんはこの経験から、日本文化の意外な一面に気付いたようだ。
「お祭りに参加したことで、宗教的な活動に住民が大人も子どもも一緒になって参加する、それが地域のつながりになっていることを知り、感動しました。中国よりも日本の方が、社会の中で健全に宗教が息づいているように思いました」。
今回の横浜・黄金町での滞在で、これまで植物ばかりを描いてきた何千里さんが、初めて街の絵を描いたのだそう。日本、そして横浜の環境が、何千里さんに新しい影響をもたらしたのかもしれない。
そんな何千里さんが日本で楽しみにしていたことが…じつは「ラーメン」を食べることだった! 80年代の日本カルチャーにどっぷりとひたった子ども時代を送ったという何千里さんは、日本のマンガの大ファン。ラーメンはそのマンガに頻繁に登場する、まさにシンボリックな存在だったのだそうだ。会話にときおり日本語も混じり、お茶目な一面をもつ何千里さん。「食べること」は彼にとってとても大事なこと。トークでもたくさんの写真を交えて、日本での食生活のお話が尽きなかった!

 

一方、成都に滞在したSHIMURAbrosさんが現地で取り組んだのは、「フローレンス・ローレンス」というハリウッド映画の女優をモチーフとした映画作品だ。中国でも、アメリカ映画が大きな影響力をもっていることに着目したSHIMURAbrosさん。「女優」というアイコンをテーマに、成都に住む育ちも職業も異なるさまざまな人たちにインタビューを行いながら、一緒にストーリーを構成していった。彼らがこのような手法で映画作品を制作するのは、今回が初めての試み。都市として日々成長が加速し、エネルギーがあふれる成都での滞在を通して、SHIMURAbrosさんたちもまた影響を受け、作品を生み出していったことがうかがえた。

最後に、この展示に合わせて来日したA4 当代芸中心のディレクター、孫莉さんに伺った。横浜はどのようなところでしたか?
「今はインターネットが発達しているけど、実際は現場に行ってみなければ感じられないものがたくさんある。横浜は経済的にも発展した都市ですが、それに伴って芸術文化を重要な施策として考えてきた。黄金町は、かつては違法飲食店の並ぶ街だったと伺いましたが、芸術の街として再生することを市が決定したことが素晴らしい。中国の社会はいま、急速に発展しています。これから私たちは環境問題などいろいろな問題を抱えていくと思います。自然から離れ都市化が進む中で、人には心のうるおいが必要になってくるでしょう。横浜での経験は、中国の未来にとって、大変参考にさせて頂くことが多いと思います」。

来年度のアーティスト・イン・レジデンス交流事業も、現在プランが進行している。このようなプログラムは即効薬的に何らかの効果が出ることを目的としているわけではない。横浜と成都の交流は、時間をかけて成熟していくだろう。

何千里さんの横浜滞在、SHIMURAbrosさんの成都滞在の様子は、「横浜アーティスト・イン・レジデンス」ウェブサイトにて詳しく紹介されています。ぜひご覧ください。http://www.yokohama-air.org/#id0

■何千里さんの作品は「黄金町バザール2013」にて11月24日まで展示されています。http://koganecho.net/koganecho-bazaar-2013/

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