2020-11-06 コラム
#美術

「黄金町バザール2020」第2部が開幕 “今だから観られる”ゲストアーティスト展

京急線「日ノ出町駅」〜「黄金町駅」間エリアのまちを舞台にしたアートフェスティバル「黄金町バザール2020」。 ⻩⾦町では「アートによるまちづくり」の⼀環として、アーティストがまちに滞在して作品を制作する「アーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)」を展開している。

AIRに参加中のアーティスト42組が参加した第1部に続き、公募と推薦によって選ばれた海外アーティストを含む9組が参加する第2部が11月6日にスタートした。AIRを前提としたプログラムながら一部の作家はリモート参加とならざるを得なかった今回、見どころはどんなところにあるのだろうか。キュレーターの内海潤也さんと参加アーティストのラルフ・ルムブレスさん、顔常慶(カオ・ツネヨシ)さんにお話を伺った。

(左から)インターンのスリジョン・バールアさん、キュレーターの内海潤也さん、(パソコン画面内)顔常慶さん、アーティストのラルフ・ルムブレスさん

 

今、黄金町とアーティストでできること

 

黄金町バザールは、例年アジアを中心とした多くの海外アーティストが黄金町で滞在制作した作品を見られるのも醍醐味。今回、第2部のゲストアーティスト9組中5組は海外からのリモート参加となった。公募時点では黄金町での滞在制作を前提としていたため、アーティストにとっても運営側にとっても、そしてアーティストを受け入れてきたまちの人や観客にとっても、これは大きな変更だ。

「世界的に滞在制作を行わない形で実施する事例が少なかったので、ほかのAIR運営団体との合同ミーティングなどにも参加しましたが、どこもまだどうしたら良いかよく分からない状態でした。ビデオアーティストならまだしも、彫刻などはリモートなんか想像がつかない。アーティストは日本に来たいという思いがあるので、モチベーションを上げるのがすごく大変でしたね。彼らと一緒に今できる面白いことを探るというのがチャレンジでした。

海外のアーティストには、第一部の期間中にビデオツアーをやって、iPhoneを持ちながら『こんな感じで展示してます』というのを見せて黄金町の土地勘をつかんでもらいました。

レジデンスの面白さはどこにあるんだろうということも改めてアーティストたちと話しましたが、違う文化圏に行って刺激を受けることなら自国内でもできるよねと。この機会に自国内を回ってみるのはどうかという話をしました」(内海さん)

キュレーターの内海潤也さん

 

コンクリートや石を使った作品を作るアルゼンチンのホアン・グッガーさんは、そうした話し合いを受け、石がアルゼンチン国内を旅する脚本を書き映像を制作したという。

また、インドネシアのアルフィア・ラッディニさんは、ヒジャブを着用した日本のアニメキャラクターのコスプレイヤーの彫像を制作。送料が高く日本に送ることは断念したが、バンドンの街中にゲリラ的に設置し、市民の反応を含めて映像作品にしたものを黄金町で展示する。

※アルフィア・ラッディニさんの作品《Sailormoonah》 撮影風景 インドネシアでの展示中の様子。日本のアニメキャラクターの髪型をヒジャブ(イスラーム教徒の女性が頭や身体を覆うときに使用する布)で表現している

 

「各アーティストと話をしてフィードバックしたり、たとえば日本で彫刻を屋外に置くことにはどういう文脈、意味があるんだろうと一緒に考えたりするのは、いつも通りの作業でした。

日本に来られなくなったことで、かえって面白くなっている部分もあると思います。滞在制作をすると、その場所でしかできないことをやらないといけないんじゃないかというプレッシャーがある。今回はそれがなかったので、のびのびできたところはありますね」(内海さん)

 

 

アートとレジデンスを巡る構造

 

“レジデンス”できないレジデンスプログラムでは何が求められるのか、黄金町とアーティストでどんな面白いことができるのか。コロナがもたらした状況は、レジデンスプログラムの根本的な目的やあり方を問い直すきっかけにもなった。そんな中、マレーシアから参加する顔常慶(カオ・ツネヨシ)さんは、アートとアーティスト・鑑賞者・プログラム運営者の関係、アートプログラムの予算構造の問題などについて、これまでさまざまな人と交わしてきた会話から改めて考察するビデオエッセイを作った。

「黄金町というまちや、黄金町バザールの根幹にあるものは何だろうと考えて、『変化』というものにフォーカスしました。そして、『アーティストが作品をつくり、それを運営者が展示して、鑑賞者が観に来る』という固定された関係性を変えたいと思ったんです」(顔さん)

リモートでインタビューに応じてくれた顔常慶さん

 

顔さんの作品は、最後に鑑賞者に「どんなアートプロジェクトを一緒にやりたいか」と問いかけ、具体的な案を募集するオンラインフォームにアクセスできるQRコードを会場入口に掲示する。会期終了後に集まった案の中から一つを選び、黄金町で実現に向けて内海さんと動いていく予定だ。

また、映像の中では、今回のプロジェクト予算について言及する場面もある。

「アートとお金は分けたがる人が多い傾向にありますが、予算の中には『本当は払った方が良いけどなしにしている数字』というのがたくさんある。アートがどのように価値付けられているのか、大量生産される工業品とは違うということを鑑賞者にも知ってほしい」と顔さんは話す。

 

※顔常慶さんの作品 静止画像 《黄金町での振る舞い》 映像(30分ループ)

 

「レジデンスの予算の枠組みでは、アーティストが来日した時の滞在費や制作費は払えても、その間自国で払い続けている家やスタジオの家賃は支給できません。そもそも来日できないと滞在費が払えず、それでは制作もままならない。今回はそういった、今までも隠れていてあまり見えていなかった予算の構造、アーティストの労働や生活環境などを見直して、サポートできる仕組みを訴えていけるチャンスでもありました」(内海さん)

 

 

特殊な時代に皆が考えていることを記録する

 

フィリピンから昨年来日していたラルフ・ルムブレスさんは、黄金町周辺に住んでいる人や働いている人、近隣の東小学校の生徒からの未来へ向けたメッセージを入れるタイムカプセルを制作。映像記録と、ワークショップで作ったレリーフの裏に手書きする2つの形でメッセージを集めた。

黄金町のアトリエで制作するラルフ・ルムブレスさん。壺の蓋の上のボートを漕ぐ2人は、死後の世界への旅を表している

 

メッセージを書くレリーフとタイムカプセルは、フィリピンでは一般的なおがくずを固める手法で塑造。タイムカプセルは1960年代に考古学者によって発見された埋葬用の壺「マヌンガル・ジャー」を模したもので、「忘れていた存在」「別の次元に送る」という意味を込めた。

「歴史的な意味ではなく、黄金町の人たちはこの時何を感じていたんだろうということ、この瞬間をとらえて記録に残したいと思いました」と語るラルフさん。タイムカプセルは10年後に開けることを予定している。

タイムカプセルとメッセージは、インタラクティブな光と影のインスタレーションも含めて展示する

 

顔さんもラルフさんも、応募当初の企画とはガラリと変わっているという今回の展示。第1部とはまた違った視点で「アーティストとコミュニティ」を捉えた作品が楽しめるだろう。

 

文:齊藤真菜
写真:※以外 大野隆介

ラルフ・ルムブレスさんのワークショップで参加者が作った、未来へのメッセージ入りレリーフ

 

 

【インフォメーション】

黄金町バザール2020―アーティストとコミュニティ
会期: 第2部 2020年11月6日(金)〜11月29日(日)
会場:京急線日ノ出町駅・黄金町町駅間の高架下スタジオ/周辺のスタジオほか
住所:横浜市中区黄金町1-4先 高架下スタジオSite-B(黄金町エリアマネジメントセンター)
開館時間:11:00-19:00
休場日:毎週木曜
料金:<一般> 1,000円 (大学生・専門学校生含む)
<高校生以下> 無料
※第1部ご来場時のチケットで第2部もご覧いただけます。
※障害者手帳をお持ちの方と同伴者1名は無料

第2部参加アーティスト: 山田悠、ラルフ・ルムブレス、安田葉、ホアン・グッガー、藤田淑子、童文敏(トン・ウェンミン)、顔常慶(カオ・ツネヨシ)、アルフィア・ラッディニ、RL + NM

*新型コロナウイルス感染症予防に関する注意事項
事前予約不要。鑑賞前に黄金スタジオまたは日ノ出スタジオいずれかのインフォメーションで要受付。検温等あり。

 


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