「こんにちは!黄金町BASEです。」

Posted : 2017.03.30
  • mail
2016年度から開始されたアーツコミッション・ヨコハマの「クリエイティブ・インクルージョン助成」。“創造性による社会包摂”を目指すための助成に採択された4つのプロジェクトを紹介するインタビューの2番目は「黄金町BASE」。黄金町のアーティストたちが子どもたちの創造活動のプラットフォームを作り上げた。発足してから今までの子どもたちの作品展が3月30日(木)から4月2日(日)まで、黄金町のハツネウィングAで開かれる。

子どもの創作の発露の場として

第2次世界大戦後、風俗街となった過去から脱却し、現在はアートをテーマにまちづくりを行っている黄金町。特殊風俗店だった店は、今ではアーティストのアトリエやレジデンススペースとなり、展覧会やワークショップなどのイベントも活発に行われている。秋には毎年恒例のアートフェスティバル「黄金町バザール」も開催、国内外のアーティストが多様な作品を発表している。

そんな黄金町に、昨年8月の夏休みのある日「黄金町BASE」が誕生した。青い壁に瓦を模した色とりどりの木片が打ち付けられている部屋には、絵の具や筆などの画材のほか、木片、のこぎり、くぎ、金槌などの工具が満載だ。

黄金町BASE内部

 

ここは地域の子どもたちが、放課後に集まって作りたいものを作る創作の場だ。黄金町で制作するアーティストの山田裕介さんと杉山孝貴さん、企画やマネジメントの仕事をする水谷朋代さんとイ・ジヒさんの4人が、発起して運営している。

僕のアトリエがちょうど通学路に面しているからなのか、日頃から子どもたちが興味を持って立ち寄るようになりました。僕の作品や使う道具が不思議で、きっと彼らの好奇心を刺激したのだと思います。付近をウロウロする子や、中にはアトリエの側で絵を描きだす子もいて、彼らが集まって活動できる場所があるといいなと考えたのが、黄金町BASEを作ったきっかけです」と山田さん。

山田さんは美術大学を卒業後、教育大学大学院の美術教育コースを修了しており、杉山さんも横浜市の放課後支援の「はまっ子ふれあいスクール」や幼稚園でアートのワークショップを行っている。

子どもたちの創造性ははじめからあるものだと信じています。それを大人が固めてしまっているのではないかと。だから教育の場ではないところで、子どもたちの創造性を発揮させることをしてみたかった」(山田さん)

活動は木・金・土の週に3日(時期によって変わる)。ふたりのスタッフが常に見守る。作りたいものは子どもの自発性にまかせる。道具を使わせる時、安全を担保するあまりに最初から「あぶない」「ダメだ」と言わないように心がけているという。しかし、全く自由な創作を経験したことのない子どもたちは、お題を与えられないものづくりに最初戸惑ったようだ。

“つまらない”と帰った子もいました。多くの子どもが最初は木をただくっつけたような何が何だかわからないものをひたすら作っていましたが、道具にも慣れてくるとだんだんと自分が作りたいものが出てくる。今では設計図を持って、自分で材料も抱えてくる子もいます。その反面、ただ発想だけあって人に作らせようと思う子もいる。千差万別ですね」(山田さん)

中には小さな白い家だけを作り続けて、自分の琴線のどこかに触れた大人だけにプレゼントしている子どももいるという。「まだ僕はもらっていないんですよ」と少ししょげる山田さん。それでも黄金町BASEには山田さんをはじめとするスタッフたちの愛らしいポートレートが幾つもあった。

子どもたちの作品

 

竹で靴を作って本当に履こうと考えた子どもがいたのです。僕たちはその発想が素晴らしいと思ったのに、彼はうまくできないから自分はバカだと責める。たぶん学業の考え方なんでしょう。でもアートには、上手だからいい、下手だからダメという優劣の発想はない。涌き上るものがアートなのだと伝えていきたいのです」(山田さん)

杉山さんは「黄金町BASEというのは、分け隔てなく、創作に関われる場所なのです。ここからアーティストが生まれて欲しいと思っています。そして何かを残してもらいたい」と語る。

みんなものづくりがしたいんだなと、このプロジェクトを始めて改めて思いました」とはスタッフ全員の感想である。

こうやって昨年8月から作り上げられた作品は300点を超える。初年度の集大成として、3月30日から4日間、それらの作品の50点あまりを展示する。発表展のタイトルは「こんにちは!黄金町BASEです。」に決まった。

世界にただひとつのiPhone

 

 

だんだんと顔が見えてきた子どもたち

黄金町周辺には外国につながりのある子どもたちも多く住んでいる。黄金町が学区である東小学校、その隣の南吉田小学校ではそのような子どもたちが多く通っており、南吉田小学校では全生徒数の6割を超えるという。

仕事する場所を子どもたちの通学路に近いところへ移動したら、たくさんの子どもたちを見かけるようになりました。今までも町の中に子どもはいたはずなのに、それまでは見えていなかった。黄金町BASEの活動を始めてから、その多くが外国につながる子どもたちだとわかってきたのです」と水谷さん。黄金町BASEと並行して、NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターで企画を担当している。

日本語も上手で、一見そうとわからない子どもも多いが、遊ぶ時に分かれるグループやケンカになった時に外国につながっているのだと気づくことも多い。

同じく企画段階からこのプロジェクトに関わっているイ・ジヒさんは韓国籍。「初めて子どもたちとちゃんと関わる企画を立ち上げることができました。自分も外国とつながっていると子どもたちに話すと”実は私も”と打ち解けて、家のことなど、個人的な話をしてくれるようになった。それがとても嬉しいのです」と語る。

最初は何となく国別に分かれて馴染まなかったけれど、一緒に過ごしているうちに、子どもたちは混ざってみんなで楽しく遊ぶようになった。それを見るのがスタッフの何よりの喜びだという。そして親たちも親しく話をするようになってきた。

杉山さんは川崎在住。この地域と同様、周りにはたくさんの外国籍の人が住んでいるという。「川崎、横浜といった特定のエリアの話ではなくて、これからは世界的にも多文化共生は進んでいく。ここの様に、みんなが一緒に集える場所がますます必要になっていくのだと思います

黄金町BASEの反響は大きく、登録した子どもの数は120名を超えた。これは東小学校の全児童の1/3に相当する。スタッフが学校の運動会に出向くなどの交流も進んだ。当初、平均して10名ほどの子どもたちが顔を出していたが、だんだんとその数が増えてきた。そして人気が出た故の難しさに直面することになる。

ズラリと壁に並んだメンバーの子どもたちの写真

 

黄金町BASEの前にあるかいだん広場は素敵な空間だ。木製の階段がベンチになり、客席になり、休憩したり、イベントが開かれたり、かしこまらずに気楽に利用することができる。子どもたちは、そんなかいだん広場まで使って夢中で創作していた。そのうち、作品を作る目的以外にも子どもたちがやってきて、ここで遊ぶことが多くなってきた。その数は時に40名を超えた。彼らは大人しくなんかしていない。走り回り、ボール遊びに興じ、道にも飛び出す。帰るとおかしのゴミが散らばり、近所からはうるさい、危ない、敷地内に無断で入ってくる、などの苦情が寄せられた。必死で注意するのだが、スタッフふたりの体制では子どもたちがすること全てを見渡すことができなくなっていた。

こうして、黄金町BASEとかいだん広場は安全性の観点から管理者の意向で一時閉鎖を余儀なくされてしまう。

 

大人たちが変わってきた

この出来事は、いろいろな問題を浮き彫りにした。風俗街という特殊な歴史があったため、長く子どもたちを遠ざけていた黄金町は、まだ子どもを受け入れる新しい町のかたちができ上がっていなかった。この町には行き場を求めている子どもたちがたくさんいたのだ。そしてかいだん広場を子どもたちが利用するためのマネジメントは十分に整っていなかった。

子どもたちにはショックだったようだ。いつもはクールに振る舞っていても、閉鎖が決まって涙を流した子どももいたという。子どもたちが待っているから早く再開してほしいという保護者からの声もあった。

しかし嬉しいことに、これをきっかけに地域の大人たちが本気になってきた。この町にはこれだけの子どもがいるのだという認識が芽生えた。近隣の人たちや町内会、小学校などの関係者が集まって会議をし、反省を踏まえて子どもたちにルールを考えさせること、協力して遊びやすい町を作っていこうと話し合う機会が生まれた。

一時閉鎖がきっかけとなって、黄金町BASEへの子どもたちの愛着を実感できたことだけではなく、大人たちが変わり始めたことは「とてもいいことだった」と4人は声を揃える。雨降って地固まる。再開した黄金町BASEは新たなスペースに移動して、いっそう町に根付いたものになっている。

以前は黄金町の活動に文句ばっかり言っていたおじいさんが、最近は、頑張ってるか、大丈夫か、と声をかけてくれるようになりました。子どもたちを釣りに連れて行ってくれたり。最近は近所のおばあさんに新聞紙で作る折り紙かぶとを教わりました。町にはいろいろな技術を持っている大人がたくさんいるわけですから、アーティストからだけではなく、いろんな知恵を受け取って欲しい。子どもたちにはたくさんの体験をさせてあげたい」と山田さん。

町の変化を嬉しそうに語るスタッフ。左からイ・ジヒさん、山田裕介さん、水谷朋代さん、杉山孝貴さん

 

黄金町BASEの目標は、アーティストも関わりながら、実際は町の人たちが子どもたちを見守っていくこと。みんな顔なじみになって、子どもが悪いことをしていたら「だめじゃないか」と親身になって注意する大人がいるような町にしていきたい。

山田さんはまた「僕にとって黄金町BASEを始めていちばんよかったのは、子どもに正式に声をかけることができるようになったこと。今子どもに対してはいろいろと難しいでしょう? みんなにBASEのお兄ちゃんだと知ってもらえて、関わることができるようになって本当によかった」と言う。最近は町を歩くと子どもの保護者から挨拶されることも多くなった。顔が知られることに気恥ずかしさもあるが、幸せなことだと思っている。

山田さんも杉山さんも彫刻作品を作る。彫刻はひとりで黙々と行うことが多いのに、今年、これだけ子どもと関わったのだ。具体的にはわからないけれど、これらの濃い時間はじわり、じわりとかもしれないが、いつか作品に反映されるだろうとふたりとも感じている。

人と関わる作品を作りたいと思うようになりました」(山田さん)

虫とか動物などの生態系に今興味があります。外来種との共生など、人間世界と通じるものがあるなと感じています」(杉山さん)

黄金町BASEを経験して、いちばん変わったのはスタッフの4人かもしれない。自分たちが立ち上げたプロジェクトが投げかけたものの大きさに、今さらながら驚いているのではないだろうか。

「こんにちは!黄金町BASEです。」は、小さな展覧会かもしれないが、黄金町にとっては新たなまちづくりのきっかけとなった大切なイベントだ。しかし、子どもたちの溢れんばかりの創造力と作り出す喜びは、見る人にそんな意味を考えさせる余地がないほど、ただただ楽しい気分にさせてくれるに違いない。アートはそんな圧倒的な力を持っていると信じたい。

ものづくりに夢中の子どもたち

 

(文・田中久美子)

 

黄金町BASE 子どもの作品成果展
「こんにちは!黄金町BASEです。」

日時:2017年3月30日(木)~4月2日(日) 11:00~19:00
場所:黄金町ハツネウィングA
住所:横浜市中区初音町1-21-7
アクセス:日ノ出町駅、黄金町駅(京急本線)徒歩5分
主催:黄金町BASE
協力:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター
助成:アーツコミッション・ヨコハマ(クリエイティブ・インクルージョン活動助成)
展示の問い合せ
NPO法人 黄金町エリアマネジメントセンター
045-261-5467

https://www.koganecho.net/contents/event-exhibition/event-exhibition-2049.html