一人ひとりの魅力を引き出すダンスの力 大前光市さん

Posted : 2018.08.09
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コンテンポラリーダンサーとして、また振付家として活躍する大前光市さん。2016年のリオデジャネイロパラリンピックの閉会式で、光る義足をつけてダンスを披露したのが記憶に新しい。横浜市内で開催される3年に一度のダンスの祭典「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018(ダンスダンスダンス アット ヨコハマ ニーマルイチハチ)」では、近藤良平さん、平山素子さんとの共作「intermezzo—本気のはしやすめ」を上演する。大前さんに今回の上演作、ダンスや表現への思いを伺った。
大前光市さん。

大前光市さん。

 

義足を外したほうが自然でいい、と言われて

−−大前さんがダンスを始めたきっかけは、中学生のころに演劇で準主役を務められたことだった、と以前に記事で読みました。その後、プロの道を目指されます。ダンスに惹きつけられたのはどのような部分だったのでしょうか。

ダンスは言葉がなくても伝わる表現であることが魅力でした。そして、僕にとって非常にわかりやすかったんです。というのも、最初はクラシックバレエから入りましたが、バレエは上手になるのがわかりやすい。練習をするとできることが増えていき、上達もします。上達の実感があるとモチベーションが上がりますよね。もちろん体を使うこと自体が楽しかったし。

大前光市さん。

 

−−24歳で交通事故に遭われて左足を失うものの、その困難を乗り越えてダンスの道を歩まれました。困難があってもなおダンスを続けたいと思われたのはなぜだったのでしょうか。

負けず嫌いだったっていうのはちょっとありましたね。このまま終わっていくのが悔しくて、どうにかしてまた同じように踊れないかと思っていました。自分と同じように踊ってきた人が順調に進んでいるのに、僕は奈落の底に落ちていくのが悔しい。なんとかして這い上がりたい。その気持ちがスタートでした。
ただ、当時は自分のことをきちんと見ていなかったんですよね。「これはできない、これはできる。じゃ、ここをのばそう」とは思えなかった。できないことがあることを認めたくなかったのかもしれません。
バレエの世界はどっちがうまく踊れるのか、誰のダンスのレベルが高いか、と比較の世界だったりします。このダンスが踊れなければ劣等生、と。ただそうではない方法で、誰にも文句を言わせないダンスはないのだろうか。そう考えたときに「自分」というジャンルの中でダンスが確立できたらよいのではないか、と思ったんです。

−−考えを切り替えられた具体的なきっかけはあったのでしょうか。

最初は足に見える義足を履いて“普通”のダンスを踊っていたんです。僕は障害者ではない、これは義足ではない、とそんな気持ちでした。でも足が痛かったので義足を外して練習したことがあって。ダンスを一緒に踊っている仲間が「すごく自然でいいね、そっちのほうがいい」と言ってくれたんです。義足を外した僕の状態を「美しい」と。そのときは半信半疑でしたが、実際に義足を外して舞台に出てみると、それをきちんと見てくれるお客さんもいた。一方では「障害者なのに頑張ってえらいね」といった見方もされたりしましたが、そうではない評価ももらい、自分のなかでも徐々に自信につながっていきました。

大前光市さん。

 

人と違うことを自信に変えたい

−−そこからは、型にはまらない独自の表現を探されていくんですね。大前さんはご自分で開発されたものを含め多くの種類の義足を使っていますが、体の使い方も変えていかれたのでしょうか。

“普通”のダンスではない動き方を求めるようになりました。無理のない範囲で、という意味では人間の体の使い方にはある程度答えがあります。その範囲を抑えながら、バレエ、舞踏、ヨガ、新体操、ストリートダンスなど、さまざまな踊りの基礎も参考に、自分らしい形を考えています。ただどんなジャンルの踊りでも左足は使うんです。そのときに僕にとっては難しい動きがある。そのときは自分で考えるしかないなと。

−−今後、表現したいこと、目指したい方向はありますか。

こんな表現方法もありなんだ、とほかの人がやらない僕らしい動きを見せていきたいし、振付もしていきたいですね。僕の振付は、その人らしい体や動きを見つけて演出するので、僕の作品というより一緒につくるダンサー個人の作品になるでしょうね。
僕もこれまで経験してきたのですが、人と同じことができない人はいる。そういう人たちは劣等感を持っていることが多いんです。「これができないから下手なんだ」と。そんな人にこそ自信を持ってもらいたい。もし体型が原因でうまく動けないのなら、その体型が魅力的に見えるような動きや衣装、音楽、演出次第で素敵な見え方になる。コンクールで賞をとったり、他のダンサーと同じ動きができたり、どんな振付にも対応できるプロになりたいのであればそのやり方では難しいんだけど、あなたにとって一番魅力的な動きはそれじゃないよ、と。そういうのを提示していきたいですね。

大前光市さん。

 

ダンスはつくり出せる

−−今回の公演「intermezzo(インテルメッゾ)」という言葉は、劇の「幕と幕の間」といった意味がありますが、2017年に兵庫県神戸市のダンス大会で近藤良平さんと平山素子さんと公演されたものですよね。

副題に「本気のはしやすめ」とありますが、intermezzoの言葉通り、何かと何かの間の「箸休め」のように気軽に見てもらいたい、という思いがあります。箸休めだけどもちろん本気で踊るよ、ということで「本気のはしやすめ」です(笑)。ジャンルも国籍もストーリーもないコンテンポラリーダンスで、3つのグループと一緒に踊ります。
今回は、三者三様でそれぞれがグー、チョキ、パーのよう。同じ衣装も着てないし、動き方も違うけれど、まとまって見える珍しいパターンだと思います。僕のなかでは、近藤さんがパー、平山さんがチョキで、僕がグー。僕は今回車椅子に乗って踊るので、形がギュっとまとまっているからグーの感じでしょ。そこに近藤さんが体を広げてゆるりと舞ったり、平山さんがピョーンと飛んできたり。
自分の動きを確立して極めることで、誰かと一緒に踊ることもできる。それを伝えたいですね。バレエは人と同じことができたうえで主役になれる世界でしたが、実は逆もあるのだ、と。

「intermezzo-本気のはしやすめ-」(左から)近藤良平さん、平山素子さん、大前光市さん(*)

「intermezzo-本気のはしやすめ-」(左から)近藤良平さん、平山素子さん、大前光市さん(*)

 

−−今回の作品で車椅子に乗ることを選ばれたのはなぜですか。

車椅子に乗っている人にも乗っていない人にも、車椅子の可能性を示したいです。それは、どんな状態でもダンスはつくり出せるという発想を示すことでもあります。美術や音楽の世界では、作家一人で自分の作品をつくることも多いですが、ダンスでは自分にしかできない表現で踊れる人は少ないんです。ダンサーとして「僕の踊りはこれです」と言える人は、なかなかいません。ダンスは、もっと自由にできるのではないかと、たとえ1分でも10秒でも、ほかの人が真似できない、その人らしい動きができたらそれはアートだと思います。

−−大前さんはダンスという枠組みだけでは考えていらっしゃらないんですね。ダンサーという肩書きも拝見しましたが、そういう肩書きじゃないかもしれないです。

違うかもしれない。わかりやすくするために「義足のダンサー」といっていますが。一生表現し続けていきたいですね。歳をとったときに、これができなくなった。じゃ出来なくなったその体を表現しよう、とか。シワが深くなったら、さらにそのシワを強調して表現したほうが魅力的に見える、とか。
自分の魅力にも気づきたいし、人の魅力にもわかるようになりたい。人と比較して「美しい」」「きれい」ではなく、それぞれの魅力が見えるような世の中になっていったらいいなと思います。

 

構成・文:佐藤恵美
写真:森本聡(*をのぞく)
会場提供:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター

 


(プロフィール)

大前光市さん。

大前光市
Koichi Omae
1979年生まれ、岐阜県出身。舞踏家、振付家、ダンサー。武道やピラティス、コンテンポラリーダンスなど、様々なトレーニングをベースとした独自の創作ダンスで注目を集める。実験的アーティスト集団「Alphact」メンバー。

 


(公演情報)
Dance Dance Dance@ YOKOHAMA 2018
大前光市さん出演情報

近藤良平・ヨコハマ・ガラ「intermezzo—本気のはしやすめ」
-日時:2018年8月12日(日) 18:30〜
-出演:平山素子、大前光市、近藤良平ほか
-会場:象の鼻パーク 特設ステージ
-料金:自由席2,000円 ほか
-アクセス:みなとみらい線「日本大通り駅」出口1より徒歩約3分、出口2より徒歩約5分
-主催:横浜アーツフェスティバル実行委員会
-お問い合わせ:横浜アーツフェスティバル実行委員会 Tel: 045-663-1365

横浜ダンスパラダイス フィナーレ 「スペシャルプログラム」
-日時:2018年9月30日(日) 17:30〜19:00
-出演:大前光市、キンタロー。ロペスほか
-会場:グランモール公園 美術の広場(横浜美術館前)
-料金:観覧無料
-アクセス:みなとみらい線「みなとみらい駅」出口3より徒歩約3分
-主催:横浜アーツフェスティバル実行委員会
-お問い合わせ:横浜アーツフェスティバル実行委員会 Tel: 045-663-1365

 


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