近藤良平——ダンスが表現になると学んだ街、横浜に再び

Posted : 2015.07.24
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今年の夏、横浜は再びダンス一色に染まる。「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」が3年ぶりに開催される。「横浜大盆ダンス」の振付を担当するのは近藤良平さん。横浜とのかかわり、そしてダンスへの想いを聞いた。

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身体を使って絵を描く

朝の連続テレビ小説、子ども向けテレビ番組、CM、映画、演劇、コンサートなどあらゆるジャンルの振付家として引っ張りだこの近藤良平さん。男性のみ学ラン姿で踊るダンス・カンパニー「コンドルズ」を率いて、世界的に活躍する。振付家・ダンサーに加え、俳優としても多忙だ。そんな近藤良平さんのダンスの発端は、ここ横浜にある。 

「1988年、20歳のころ。横浜国立大学教育学部にいたんです。そもそも大学を選んだのも 横浜への憧れから。大学名に“横浜” が付いているなんていいな、と思って。おまけに ロゴマークがカモメなんですよ。カモメが飛んでいるマーク。イメージがものすごくよかった。でもまったく勘違いでした。保土ヶ谷区の山の中にあって、工学部の一番高い研究棟の最上階に登ると、ちょびっとだけ海が見えるんですよ。ほんのちょびっとだけ、すごく遠くに。

その遥か向こうの山の手のほうに近づきたくて、“社交ダンス”イベントに参加しました。
お相手がフェリス女学院大学だったんです。元町の丘の上のあのフェリス女学院の中に入ってダンスができる、横浜に来たばかりの一年生にとっては、憧れのほんものの横浜に入れる絶好の機会でした。社交ダンスだろうがおかまいなしでした。これが本当の最初のダンスとの出会いでした。

その後、大学の一般教養の“創作ダンス”の授業を受けて、ダンスのイメージが変わったんです。教育学部でしたから、学校教育の場で教えるためのダンスを高橋和子先生から学びました。それまではマイケル・ジャクソンのダンスのように、他人よりもクルクル回れるとかっこいいし注目されるし、女の子と踊るものだというのがダンスのイメージでしたが、“創作”や“表現”になり得るんだと気がついた。コンテンポラリー・ダンスなどという言葉もまだ知りませんでしたが、何か作品として人に見せるもの、アートの領域の匂いのするもの、そんな感触を得ました。
僕には、ぴったり合うと感じました。ダンスは“身体を絵の具のかわりに使って絵を描くこと”だと。ラッキーでした、こんな面白いものと出会えて。」

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横浜のダンス事情

1989年。それは横浜がとても熱い時代だった。「横浜博覧会」が開催され、港湾地域が再開発され、多くの人が街を訪れ熱狂した。ダンスの分野でも画期的なプロジェクト「アートウェイヴ」が開催され、それまであまり知られていなかったコンテンポラリー・ダンスのグループやダンサーが次々と招聘され、横浜の様々なホールや倉庫などをステージに紹介された。
その横浜の熱気の渦の中に近藤良平さんもいた。

「大学のダンス部に入ったものの、まだ初心者でダンス・カンパニーの名前などほとんど知らない僕でさえ、“お、さすがに横浜はすごい!”と感じるほどでした。ピナ・バウシュの『カーネーション』とか、ローザスなどのカンパニーや、ジョルジュ・ドンも僕と同じ南米のアルゼンチン出身だ、なんて思いながら初めて観ました。
学生にとってはチケットが高いのでそれほどたくさんは観に行けませんでしたが、大きな刺激でしたね。考えてみるとその『アートウェイヴ』のディレクターは佐藤まいみさんだった。一介の学生の当時の僕は知る由もありませんが、その後お仕事でご一緒する機会があり、交流を深め、今回こうして『Dance Dance Dance at @ YOKOHAMA 2015』で横浜でご一緒にお仕事ができることになりました(佐藤まいみさんは『Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2015』の総合ディレクター)。

1989年の横浜は楽しかったですよ。横浜博覧会ではユーゴスラヴィア館でワインを売るアルバイトをしました。どうしてユーゴスラヴィア館だったんだろう?そうそう、僕が生まれる前のことですが父がユーゴスラヴィアに赴任していたことがあって、よく父から自慢話を聞いていたせいかもしれない。楽しい思い出がたくさんあるなぁ。できたばかりの大観覧車にも乗った。当時、横浜港には世界中から大きな船が入ってきてにぎわっていましたし。その“世界と繋がっている”インターナショナルな感じがとても好きでした。横浜博覧会のアルバイトでもインターナショナルな出会いがたくさんあって、その人間関係は大学に通うよりもよっぽど有意義でした。まだ、自分が将来どんな仕事をするかもわからず、もう少しスペイン語を勉強して国際交流に関係する仕事ができたら、などと漠然と考えていました。横浜の空気がそんな希望も抱かせてくれたのかもしれません。

そしてその後の、90年のはじめあたりに横浜がどんどん未来に行こうとしている空気感をすごくよく覚えている。“みなとみらい”という街の公募ネーミングに論議があったのも覚えています。大学生の間では“ダッセー”とか言いあったりね。いろいろみんな言いたいことを言っておきながら、結果的にはうまいネーミングだなと感心したり。未来感の象徴に大観覧車があって、なんだか当時の横浜の海のエリアはピカピカ輝いて見えていました。」

踊りたくなったら踊ろう

1996年に、全国の大学のダンス部に所属する男性部員が出会い、「コンドルズ」を結成。学ラン姿で踊りまくる鮮烈なダンスで人気を博し、後にはニューヨーク・デビューまで果たすことになるのだが、その最初の国内デビューもまた横浜だったという。

「最初の劇場公演は1998年1月、横浜市泉区民文化センター・テアトルフォンテ(主催:旧・財団法人横浜市文化振興財団)でした。初舞台はそれまで考えたこともないことばかりで、とにかく大変でした。照明、音響、美術、いろんなものが必要で、みんなで力を合わせなきゃ完成しない。ステージは進行も何もかも無茶苦茶でしたが、それよりも楽屋の使い方がひどかったので叱られました。でもまさかあの横浜でのデビューがここまでつながるなんて、そのときは夢にも思いませんでしたね。」

横浜でダンスと出会って25年、横浜で最初のダンス公演を行なってから約17年が経ち、ダンサー、振付家となった近藤良平さんが横浜にまた戻ってくる。8月1日から始まるDance Dance Dance @ YOKOHAMAは第2回目。今回新たな試みとして、オープニングを飾る「横浜ダンスパレード」のフィナーレの振付を近藤さんが手がける。3年前に実施して大好評だった「大盆ダンス」も再び、今度はステージを横浜赤レンガ倉庫に変えて開催される。一般の参加者への振付にはどんなプランがあるのだろうか。

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2012年の「大盆ダンス」の様子 c ; フォトチョイス

「最近、“振り”について考えていることがあります。ダンスには“ステップ”があるでしょう。例えばボックスステップとかいろいろあるけれども、誰かが考案した動きのなかで人間の生理に合っているものがステップとして世の中に残っているのだろうなと。4つステップを踏んで元に戻ってくる動きが無性に楽しいからボックスステップとして確立されたんじゃないかな。人が同じところを繰り返して行き来することで道ができるのと同じで、動きを繰り返すことによって人に馴染んで定着するのが“振り”なんじゃないだろうか。だから、盆踊りのようにみんなが同じ振りで動くということの楽しさは、人類の自然の生理にかなっているのかなと思いながら、振付を思いめぐらしています。 

パレードであれ盆ダンスであれ、みんなで踊ることの意味合いは、共有する、分かち合うということ。特に2011年以降には“絆”といった目的が強くなった。“絆”と言ったら手を繋ぐ、肩を組む、輪になる、といった動きのイメージが確立しました。以前のバブル期のころのダンスは個人がはじけることに目的があったわけだけれど。最近はみんなで踊るダンスの意味合いは、見つめあって肩を組んで絆を深める、という役割が強くなった気がします。

ただ、僕は本来の盆踊りの伝統的な役割も意識しています。本来の盆踊りは、目的のある“イベント”なのではなく、毎年同じ場所で当たり前のものとして行なわれるもの。音楽が流れていて、当たり前のように始まっていて、そこに参加しようが参加しまいがどっちでもよいもの。『ああ、ちょっと入っていこうかしら』って気軽に輪に入って踊って、『ちょっと疲れたからやめるわ』と自由に出入りできる、これが正しい盆踊りなんです。だから、みんな一人残らず踊れ、なんて言うのはおかしいことだとも思っています。だから僕の中では 『みんな立ち上がれ!』などとは毛頭思っていないですね。それの方が本当の意味の踊りの伝統なんじゃないかな。『ああ、この時季がまた来たね』ってみんなが思うようなダンスをやりたいですね。
そして、人が集まることは大事ですね。今年の『大盆ダンス』の会場は横浜赤レンガ倉庫ですから、海も見えて人が集まるにはいい場所ですよね。夏の絵がみんなに浮かんで、『そこにまた夏が来るといいね』とみんなが思えるような、そういう風景になるといいなと思っています」

最後に近藤良平さんが考えるダンスの効用を聞いた。

「身体を動かすことの中でも日常的な動作にはすべて目的がある。けれども、クルクル回るとか、手を叩くとかの動作には何の目的もない。健康のためですらない。でも手を叩くと楽しくなるというふうに、身体を動かすと心が動いてくれる。『何だか楽しくなってきたな』とか『爽快になったかも』とか、そういうきっかけがダンスにはある気がするんです。
『みんなで踊りましょう』と呼びかけてみても、『今日ダンス踊りたくないです』という人が いたならば、僕の心持ちとしては『まぁいいんじゃないっすか。じゃあ楽しくなってきたらやりましょうよ』。それで次に自分で動き出した時にはもうダンスになっているんじゃないですか、きっと。」

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撮影協力:新国立劇場

●近藤良平
ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。男性のみ学ラン姿でダンス、生演奏、人形劇、映像、コントを展開するダンス集団「コンドルズ」主宰。 第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。TBS系列『情熱大陸』出演。NHK教育『からだであそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」、「かもしれないたいそう」、『あさだからだ!』内「こんどうさんとたいそう」、NHK総合『サラリーマンNEO』内「テレビサラリーマン体操」などで振付出演。立教大学、桜美林大学などで非常勤講師としてダンスの指導もしている。


【イベント情報】

Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2015

開催期間:8/1(土)~10/4(日)
会場:横浜市内全域
プログラム数:約200プログラム

横浜ダンスパレード
公演日:8/1(土)~8/2 (日)
開場時間:15;00~
内容:関内・桜木町近辺を中心に、横浜市内15ケ所の会場で15:00から一斉に開催(固定舞台のみの会場は、開始時間が前後する可能性あり。)
各開催日の最後は、日本大通り会場(メイン会場)にダンサーが結集し、フィナーレのパレードを行なう。
会場:
【メイン会場】日本大通り、【サテライト会場】馬車道、本郷台駅前ほか、【特別会場】ランドマークプラザ、MARK IS みなとみらい ほか市内商業施設

コンドルズと踊る!横浜大盆ダンス2015
公演日:8/25(日)
チケット:無料
事前申込等:不要
振付:近藤良平
出演:コンドルズ、一般参加者
内容:近藤良平率いるダンスカンパニー・コンドルズの振付による横浜オリジナルの盆ダンス大会。コンドルズオリジナル楽曲や「ブルーライトヨコハマ」など横浜にちなんだ曲など、振付レクチャー付きの進行で、子どもから大人まで楽しめ、カップルやファミリー、外国人観光客など、誰でも気軽に参加できるダンスイベント。
会場:横浜赤レンガ倉庫イベント広場
最寄り駅:みなとみらい線「馬車道」駅
お問い合わせ:横浜アーツフェスティバル実行委員会
TEL045-663-1365
http://dance-yokohama.jp/


コンドルズ公演情報】
コンドルズ日本縦断新世界ツアー2015
Tomorrow Never Knows  東京公演スペシャル
公演日:8/20(木), 21(金), 22(土), 23(日)
料金:一般前売4,500円/当日5,000円ほか
会場:東京グローブ座
お問い合わせ:コンドルズ TEL 03-5272-0991
http://www.condors.jp