“情報の海”で問う力を身に付ける。「ローカルメディアコンパス」とは?

Posted : 2020.04.17
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神奈川県住宅供給公社内のKosha 33(横浜市中区日本大通33)で、3月16日に「ローカルメディアコンパス」の完成報告とメディア関係者向け体験会が開催された。当日はインターネットでの動画生配信が行われ、現在も試聴できる。一般向けお披露目会は5月に延期予定だったが、現時点で見込みが立たない状態となっている。2月29日にニュースパーク(日本新聞博物館)で開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大を考慮した。

ローカルメディアコンパス」は「情報の海を渡るためのガイド」として経験談を集めたワークショップツールで、制作プロジェクトの起案者は横浜市青葉区を拠点にローカルメディアを運営するNPO法人森ノオト。制作の中心メンバーは、森ノオト代表の北原まどか、元NHKキャスターでライフデザインラボ所長の船本由佳、ライターの齊藤真菜。

2019年11月、クラウドファンディング・プラットフォーム「MOTION GALLERY」にて、制作資金を集める呼びかけがはじまった。2019年12月11日には目標金額の1,000,000円を達成。12月20日の終了時点では総勢174人の支援を受け、現在までに集まった金額は1,678,000円。

対話をすることで自身の答えを見つけ、情報発信者の行動指針にするためのツール

カードのサイズは横7.5cm×縦14.7cm。箱の中央には羅針盤(コンパス)のイラストを配置し、パッケージの基調カラーはブルー。コンセプトである「情報の海を渡る」を強調したデザインとなっている。箱とカードのデザインは横浜の老舗デザイン会社であり、ワークショップカード制作にも定評のあるNDCグラフィックス。印刷は横浜型地域貢献企業の協進印刷が手掛けた。

「カードにしたのには理由がある。カードの形式にすれば、教則本の形式よりも気軽に手に取れる。拾い読みもできるし、気になったものだけ読むこともできる。」(船本由佳)

49枚のエピソードが載ったカード、6枚の白紙のカード、説明書が封入されている。表にはタイトル、裏にはタイトルにまつわるエピソードと問いを掲載。取材や情報発信の現場から生まれたエピソードはメディア経験者から集めた。「喜び」「困難」「迷い」「失敗」など、タイトルにも反映されている。問いは、エピソードごとに考察してもらうための足がかりだ。

タイトル「おっと?主人?旦那さん?」のカードの「問い」は「あなたならどの言葉を使うのか?」。言葉の意味と成り立ちを知って使用すべき言葉であり、記事に使用するのであれば注意が必要になるからだ。タイトル「昨年と同じ?」のカードでは「毎年恒例の行事ばかりを記事化してしまい、紙面がマンネリ化した」というエピソードが示される。メディアは「恒例行事」についての扱いを問われる。町の記録なのだから毎年載せるべきだという声もあれば、新規性のないネタは載せなくてもよいという声もある。情報発信の場では常に正解はなく、ひとつの答えはない。

 「かつて情報は川だった。情報は一定のメディアのみが流すことが可能だった。現在は様々なメディアがあり個人も情報を流すことができる。その分、フェイクニュースや裏付けのない思い込みの情報も流れ、ニュースが玉石混交になり、オーバーな見出しも多い。」(船本由佳)

情報の受け取り手も何が大切か考えなくてはならない時代に生まれたこのツールは、「対話を促す」もコンセプトだ。参加者と意見を交わし、自身の答えを発見し、正解を押し付けるのではなく、行動指針を持って情報の海をわたる発信者になってもらうために「コンパス」と名付けられた。

・メディア(新聞社、地方紙、放送局、ウェブメディアなど)に所属する人
・これからローカルメディアを始める人、関わりたい人
・自治体職員や企業、団体の広報担当者
・情報発信を始める人

カードの利用・参加者は、社会活動を行う全ての人たち。

ワークショップを体験するにあたって、4種のシナリオを用意。メディア経験値によって、段階に応じたシナリオパターンを体験することができる。気になるカードを手に持ち、参加者同士が対話する。書かれているエピソードを読み上げ、自分ならどのように対応するのか考えてゆく。

市民ライターを育てるローカルメディア「森ノオト」がハブになる

NPO法人森ノオトは、持続可能な地域社会をつくるためのウェブマガジン「森ノオト」を2009年に創刊。主に子育て世代の女性たちが市民ライターとなり、年間200本の記事を発信する。

主体的な市民になり、情報リテラシーを高め、編集力を身につける「情報発信事業」、地域の多様な主体との協働をコーディネートする「地域交流事業」、ヒトとモノとコトの地域循環システムをつくる「ものづくり事業」など、ローカルメディアである「森ノオト」は、まちづくりに関わるさまざまな事業を展開する。森ノオトのローカルメディア事業は、ライター講座が注目を集め、各地で市民ライターを育成したいという問い合わせを受けたことから始まった。

2017年度から神奈川県基金21ボランタリー活動補助事業として、3か年のローカルメディア事業部を立ち上げた。社会や地域課題を解決したい人が発信スキルを身につける「発信力アップ講座」、情報発信で地域をよくしたい人の学びの場「ローカルライター講座」、情報発信者の自主的な学びの場「ローカルメディアミーティング」を実施。各講座の修了生が県内の市民メディアで活動できる流れをつくった。県内ローカルメディア関係者のネットワークも広がり、ライター志望者やローカルメディア発信者の研修ツールとして「ローカルメディアコンパス」制作の構想につながった。

「ローカルメディアミーティング」は2017年6月から2019年6月にかけて行われた。「SDGs」「寄付型メディア」「防災」「ファクトチェック」「被写体の権利」「障害者スポーツ」「マイノリティ」「SNS」などをテーマに、メディアに携わる多様な専門家を講師に迎えた対話のワークショップを開催。回を重ねて寄せられたエピソードや問いが採用され、作品にフィードバックして現在の形式になった。

「今年度で補助金は終了するが、講座事業は自主運営の力がついた。ローカルメディアコンパスを展開することで、「情報発信は地域をよくするために行う」というローカルメディア事業部の理念に共感する仲間を増やしていきたい」(北原まどか)

最後に「ローカルメディアコンパス」制作陣の3人が今後の抱負を語る。

「これからも改訂版を出していくために、経験談は引き続き集めたい」(齊藤真菜)

「全国でワークショップを開催して、現代の情報について話し合う場を作りたい」(船本由佳)

「初めて情報に触れたり、情報の海にこれから泳ぎに行く子どもたちを交えて、メディアリテラシーについて学び、対話を重ねて、新しいコンテンツをつくりたい」(北原まどか)

地域密着型広報事業としてローカルメディアコンパスは始動した。メディア経験者が学び、活用することで、未来の情報発信者のすそ野を広げるだろう。筆者は、森ノオトが提唱する暮らしを足元から編集し、地域社会の担い手を育てるビジョンに共鳴する。ともに一歩を踏み出したい。

 

文:小林野渉
写真:大野隆介


ローカルメディアコンパスお披露目動画放送&プレス発表会

日時:2020年3月 16 日(月)14:00~15:00
会場:Kosha 33 (横浜市中区日本大通33番地 1F)
みなとみらい線「日本大通り」駅徒歩4分、JR 根岸線・横浜市営地下鉄線「関内」駅徒歩 8分

2020/3/16ローカルメディアコンパスお披露目動画はこちら。