「僕らは未来をプロトタイプする」L PACK.小田桐奨さん

Posted : 2020.08.28
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創造都市・横浜を経由して様々なフィールドで活躍するアーティストやクリエイターたちが寄稿するシリーズ「around YOK」。第三回は、アーツコミッション・ヨコハマによる若手芸術家助成2017・2018年度に参加したアーティストユニットL PACK.の小田桐奨さん。「コーヒーのある風景」をきっかけに人々が交わる場を生み、『まちの機能の一部になること』を目指し各地のアートプロジェクトやレジデンス等に関わられて来ました。新型コロナウイルスの影響下で、フィジカルな場に大きく制限が生じる中、4月にスタートしたインスタライブ「うまよい」は現在も継続的に開催、新たな場の可能性を模索されています。「場」という作品をめぐるアーティスト、そして経営者としての実践とその軌跡について、ご寄稿いただきました。

この度「around YOK」でエッセイを書かせていただくことになりました横浜在住の小田桐奨です。 アーティストユニットL PACK.(エルパック)名義で、2007年から横浜を拠点に活動しています。横浜では2010年~2012年の期間、京急線・日ノ出町駅前の路地裏に存在した〈竜宮美術旅館〉の運営をしたり、2017年からは横浜郊外と呼ぶにふさわしい神奈川区羽沢町にある、日用品市場と呼ばれる長屋風の商店街のような建物の一画を利用して、日用品店〈DAILY SUPPLY SSS〉を運営しています。

このエッセイでは、〈場〉を作ることが作品の核であるL PACK.の活動が、コロナウイルスによって表面化した活動への弊害と今後の活動のあり方について、どのように向き合ってきたのかの軌跡です。話は4月中旬から始まります。

せっかくだから

4月13日の23:00少し前。仕事部屋の椅子に腰掛けて、立てかけたiPhoneと相対した僕はInstagramのアプリを開き、初めて触れる〈ライブ〉という機能に指をスワイプした。

「こんばんは、<うまよい>の時間を始めます。4月13日23:00、みなさんいかがお過ごしでしょうか。アーティストユニットLPACK.の小田桐奨です。横浜の郊外でアトリエを兼ねた日用品店DAILY SUPPLY SSSの運営をしたり、2019年からは東京都の大田区で、カフェ・バー・サロンなどの機能があるマルチユースインフォメーションセンター〈SANDO BY WEMON  PROJECTS〉を運営したり、各地の芸術祭やアートプロジェクトから声をかけてもらって作品=主に場を作っています。ではフクナガくんと繋ぎましょう、フクナガくんこんばんは~」

緩やかに始めたインスタライブは、8月28日現在で120回になった。回を重ねていくことでテーマを設けることにもなった。

4月から緩やかにスタートしたインスタライブ「うまよい」は、8月28日現在で開催120回。

 

この前日の4月12日、僕はとある決断をしていた。10年来の付き合いになるグラフィックデザイナー/アートディレクターのフクナガコウジくんとの1時間のインスタライブ配信をしてみるという〈実験〉を始めることにしたのだ。

当初は、グッズ製作のミーティングをしていたはずだったけど、話が流れていってこんなことになっていた。電話を切る頃には新しいことが始まるんだとワクワクしていたのは確かだった。
初めてやることはいつだってワクワクする。僕はいつでも〈ワクワクする〉方を選択しがちである。

「せっかくやるなら歯を磨くことくらい日常的な、当たり前になるぐらいのことをやろう」ということで、このインスタライブに〈旨い物は宵に食え/うまよい〉という名前をつけることにした。〈旨い物は宵に食え〉という言葉は日本のことわざである。「どんなにうまい物でも一晩たつと味が落ちるから、残さずすぐに食べてしまったほうがよい。 同じように、よいと思ったことはためらわずに早くやるべきだ。」という意味で使われる。もっと馴染み深い言葉に直すと〈善は急げ〉とか〈思い立ったが吉日〉とかに近いけど、あえてこの誰も知らないようなことわざをチョイスしたのは、〈せっかくだから〉という気持ちが1番に芽生えたからである。せっかくだったら知らないことを知りたい。

この〈せっかくだから〉というのは結構有能な言葉だと思っていて、いろんな場面で使われては人の背中を押して勇気を与えてくれる言葉と言えるのではないだろうか。例えば肉屋でせっかくだからコロッケもついでに買おうかとか、映画館でせっかくだから大きいサイズのポップコーンとコーラにしようとか。お金を使う際のせっかくだからは、商店にとってありがたい。うまよいをスタートさせたのも、まさにせっかくだからだ。それは、2020年以降の未来がくっきりはっきりと不明瞭になったからこそ、永く続くこと、永く続けられることをやらなければならないという直感が働いたからだと意識している。

直接の英訳がないせっかくだからは、もったいないとかおもてなしとか、あるいはわびさびにも匹敵するような日本を代表する独自のセンスなのではないだろうか。

フィジカルではない場の可能性

〈うまよい〉が始まる頃の僕と家族は、4月7日に政府より発令された緊急事態宣言からの影響を受けた生活を送り始めていた。妻は仕事がリモートになり、在宅ワークがスタートした。小学1年生になったばかりの息子は、親一人だけが出席を許された入学式を済ませ、すぐに休校となり毎日家にいる。僕はと言うと、東京で運営しているSANDO BY WEMON PROJECTSと横浜のDAILY DUPPLY SSSを4月2日から休業させて、様々なコロナ関連の補助金の申請手続きを進めたり、人生初めての融資を受けたり、ついでにせっかくだからSANDOもSSSもこの機会にバージョンアップしようと奔走していた。

DAILY SUPPLY SSS(横浜市神奈川区羽沢町)

SAND BY WEMON PROJECTS(東京都大田区池上)

まちに入り、場をきっかけとして『まちの機能の一部になること』を目指し活動してきたLPACK.にとって、外的な要因で休業するのはアーティスト人生でも初めてのことだった。僕たちが一番頼りにしていたまちとの接点が2つも同時に途絶えることになってしまった。フィジカルな場に頼りきっていたLPACK.の活動は、行き止まりとでも呼べそうな場にたどり着いた感覚だった。

人が集まる状況やそこで何かが生まれようとしている空間を「建築」と捉え、「コーヒーが『建築』の最小単位なんじゃないか」と考えた大学時代。新しく作るのではなく、既存の建物を使い、コーヒーを淹れることで建築を作り出そうと活動をスタートしたLPACK.。大学を卒業して横浜に出てきて、恵まれたことに順当にいろいろなプロジェクトに関わってきた。2017年からは、建築家の敷浪一哉と一緒に横浜の郊外の日用品市場の一角で、フィジカルな買い物を楽しくするチャレンジを始めていた。

自粛生活が始まり他人と接する場がなくなったが、その状況から明確なイメージを持たずに始めた〈うまよい〉という活動は、『フィジカルではない場の可能性』を探求するためのチャレンジになった。Instagramという空間において、これまでつくってきたような「場」は創出することができるのか。120回続けてきた時点での答えとしては「イエス」であり、間違いなくインスタライブにおいても場は生まれている。そして、LPACK.として常に意識してきた「中庸」としての場づくりが、このインスタライブでもできると確信し始めている。中庸とは、偏らず中正であること。それはまた、リラックスと覚醒とどちらにも瞬時に行ける中心的なポジションのことでもある。そこにいる人たちが皆リラックスすると同時に集中している状態が作れたら、きっと面白い未来がそこから生まれるのではないだろうか。

続けること

このコロナ禍において僕の中での一番の意識の変化は、「決断することの重要性」を再確認したこと。
アーティストとして作品をつくる際は、最後の最後まで粘って粘って保留して保留して、締め切りがある場合はその最後の最後に決断することができるが、経営者となるとそうはいかない。その月の売り上げを作り出して従業員に給料を払ったり、家賃を支払ったり、先を見据えて計画を立てたり、様々なタイミングで迅速に決断することが求められる。アーティストとして作品を制作するスピード感覚で生きてきた時間が長いので、特にSANDOが始まってからの経営者脳への切り替えはとても苦労していると言わざるを得ない。すぐに「もっといいアイデアがあるんじゃないか」とか考えてしまったり、進めていたプランを一度立ち止まって再確認してしまったりする。そうした僕の性格は時にはよく働き時には悪く働くこともある。

うまよいを続けることで自分に対して期待していることは、〈決断することのスピードアップ〉と、〈常に考えることへの慣れ〉である。この2つが自分の日常に今以上に浸透すれば、2020年のコロナ禍は自分にとってはレベルアップの期間になる。そう考えると、未来の自分に対して希望が持ててくる。

 
 
 
 
 
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4月からスタートしたインスタライブ「うまよい」は、7月からpart2「へたよこ」として再開。

すれ違い

〈うまよい〉は7月初旬まで毎日続けて85回で一度終わり、そして約2週間の間を開けて7月16日から<うまよいpart2-下手の横好き(へたよこ)->として再開させた。
下手の横好きも日本のことわざで、下手だけど情熱を持って続けてやっているという意味である。

うまよい/へたよこでは、これまでフィジカルな空間では〈すれ違ってきた人たち〉や、名前だけは知っていた人や店の人たちと密な関係になることができている。iPhoneの画面上、それも文字だけでのやりとりではあるが、インスタライブの1時間が、新たな場として機能し始めているのは確かである。鳥取や京都、浜松、東京、ニューヨークが同時刻にInstagram上に距離を無視して集合し、僕たちを介して会話をしたり、僕たちを介さずにコメントだけで交わしていることも増えてきた。オンライン上でつながっているだけなのですれ違いともいえるが、着実に距離が近づいてきていることを実感している。まるで井戸端会議のように23:00になると集まってきて、1時間の立ち話を楽しむ。それがオンライン上でできているという実感がある。

この関係は確実に今後フィジカルな関係へと発展し、濃く連携していくだろう。コロナ禍によってつくり出されたこの時間は、直接会えないもどかしさはあるものの、とても密なコミュニケーションが続く贅沢な時間でもある。

最後に

2009年から11年間参加し続けてきた、長野県松本市で毎年5月に開催される『工芸の五月』というイベントでの作品発表や武蔵野美術大学での展示関連企画を始め、いくつかのイベントやデザイン仕事がなくなっている。2020年は後半もどうなっていくのかまったく未定である。だから当面は、12月から開催予定の府中市美術館での公開制作に向けてプランを練りながら、運営している2つの拠点を守るというアーティスト兼経営者の小田桐奨として生活を続けていく。

そして、8月からはSANDOで毎週土曜日の夜営業にもチャレンジする。SSSは要望の多い休日営業にチャレンジする。限られた時間と体でどうやってやるんだよという不透明な部分の方が多いが、そこは何事も〈旨いものは宵に食え〉精神で。


【プロフィール】

小田桐奨(L PACK.)(おだぎり・すすむ)
1984年生まれ、静岡文化芸術大学空間造形学科卒。中嶋哲矢とのユニットL PACK.にて活動。アート、デザイン、建築、民藝などの思考や技術を横断しながら、最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた「コーヒーのある風景」をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す。
2007年より活動スタート。主な活動に横浜郊外の日用品市場での日用品店「DAILY SUPPLY SSS」(横浜/2018~)、東京都大田区池上のまちづくり拠点「SANDO BY WEMON PROJECTS」(東京/2019~)など。また、各地のアートプロジェクトやレジデンスプログラム、エキシビションにも参加。

フクナガコウジとのインスタライブ「うまよいpart2-下手の横好き」は、毎日23:00よりそれぞれのアカウント [@fckngkj]と[@odagirisusumu]で交互に配信中。

LPACK.  http://www.lpack.jp/
DAILY SUPPLY SSS  https://www.sssuburb.com/
SANDO BY WEMON PROJECTS  https://www.newsando.com/

過去の特集記事:横浜の郊外から新しい日用品の買い方を発信する、LPACK.の挑戦