TPAMとクリエイティブ・シティの終わりと始まり

Posted : 2012.04.25
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TPAM事務局として携わってきた佐藤道元さんが、今年のTPAMを振り返りつつ、「クリエイティブ・シティ」という都市ビジョンを改めて問い直します。

※本記事は旧「アートウェブマガジン ヨコハマ創造界隈」2012年4月25日発行号に掲載したものです。

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街全体を劇場に—クリエイティブ・シティの神髄

TPAM in Yokohama 2012では、各会場の個性にあったプログラムを実施。充実した劇場設備のあるKAAT神奈川芸術劇場や横浜赤レンガ倉庫1号館では、TPAMディレクション、インターナショナル・ショーケースなど、ヨコハマ創造都市センター(YCC)では、セミナーやミーティングプログラムを、複合アートセンターと言えるBankART Studio NYKでは、公演だけではなく、展示やプレゼンテーション・プログラムというブース出展などを実施しました。上記4つのメイン会場に加え、美術館、カフェ、ギャラリー、レストラン、小劇場など、ほんとうにさまざまな場所が会場として使用されました。

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これは、とても横浜的であり、クリエイティブ・シティの神髄のひとつだろうと思います。つまり、舞台芸術というコンテンツを軸に、限られた期間ではありますが、街が一体感をもつ。街全体が劇場のようになることで発見される、新しい表情があります。普段舞台の公演をやるはずもない場所で公演が行われることで始まる展開があったり、異業種間の出会いがあったり、お客様が集まることによる経済効果も、もちろんあります。こういった創造性と経済の両立こそ、都市に展開するアートの魅力です。TPAMは、主に舞台芸術に関わる人々に出会いの機会を提供し、さまざまなプロジェクトやネットワークに展開させていくものですが、クリエイティブ・シティとは、こういったプロジェクトこそを支援や創出していく政策であると思います。

しかし、そのためには、アートのクオリティを担保することが都市ブランディングとして必須で、例えばBankART Studio NYKや象の鼻テラスや急な坂スタジオのような創造拠点の整備は、こういったことの好例で、彼らの恒常的な活動こそが、例えば年に一回のTPAMのような催事の運営や企画の展開を支えています。また、そういった活動を理解し、支援する市民や地元事業者の存在も無視できないものです。TPAMの守備範囲は、横浜での開催に移って以来大きく広がりました。それは、単純に使用できる会場が増えたからということだけではなく、そこに働く人や住む人たちのスキルやネットワークが乗算的に関わるからこそ実現したものです。

TPAMディレクション「康本雅子」@KAAT神奈川芸術劇場

TPAMディレクション「康本雅子」@KAAT神奈川芸術劇場


クリエイティビティを軸とした社会へ

横浜市のクリエイティブ・シティ政策にも、次の展開が求められていると思います。拠点施設の活動も安定し、交通整備も整い、ヨコハマトリエンナーレのような大規模プロジェクトも成功を納め、けれど、次の10年、50年、100年が見えない。そんな状況ではないでしょうか。

TPAMディレクション「サンガツ×ライゾマティクス」@KAAT神奈川芸術劇場

TPAMディレクション「サンガツ×ライゾマティクス」@KAAT神奈川芸術劇場

 

人には動物的な勘が、あります。職業人としてのアーティストやプロデューサー達にも、同様に、それがあります。鳥が危険な場所に巣を作らないように、アーティストは創作の場を、プロデューサーは活動の場を、それぞれの勘で選ぶでしょう。クリエイティブ・シティという概念は、横浜だけのものではもちろんありません。先日、文化庁が平成23年度文化庁長官表彰を行い、文化芸術創造都市部門として、仙北市(秋田県)、浜松市(静岡県)、鶴岡市(山形県)、舞鶴市(京都府)を表彰していますし、「創造都市宣言」ということばもちらほら耳にします。横浜市も、こういったクリエイティブ・シティにおけるネットワークとも連携し、横浜の個性を併せた基盤整備に努めていけば、活動場所として横浜を選ぶ人は、決して少なくないでしょう。そして、それは、やがてもはやアートの領域に留まらず、クリエイティビティを軸とした社会起業家が活躍する都市となっていくでしょう。TPAMの目的の中には、舞台芸術の普及とそこに関わる人たちの社会的な地位の確保とその向上があると思いますが、それは質的に成熟した社会だからこそ実現できるものです。TPAMが横浜に持ち込んでいるさまざまな要素が種となって、思いもしない方法で、花として咲いていくことを願っています。TPAM in Yokohamaが、その過渡期に横浜で開催されたことを、とても光栄に思います。TPAM in Yokohama2012にご尽力頂いた皆様に、この場を借りてあらためて感謝いたします。

インターナショナル・ショーケース(韓国)チェ・ジナ/劇団ノルタン『1洞28番地、チャスクの家』@KAAT神奈川芸術劇場

インターナショナル・ショーケース(韓国)チェ・ジナ/劇団ノルタン『1洞28番地、チャスクの家』@KAAT神奈川芸術劇場

 

PROFILE

佐藤道元 [さとう みちもと]
平成23年度まで国際舞台芸術ミーティング(TPAM) in 横浜 事務局。
現在は、アートフロントギャラリーにて舞台芸術プログラムなどを担当。
コンタクト:michimoto@artfront.co.jp

※本記事は旧「アートウェブマガジン ヨコハマ創造界隈」2012年4月25日発行号に掲載したものです。