パフォーミングアーツとヴィジュアルアートの境界を軽やかに超え、世界と自分との距離を試す“ニューウェーブ”、Aokidの冒険。

Posted : 2018.02.10
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横浜から世界へ。独自の創造性を発信するアーティストの発掘と育成を目指し、アーツコミッション・ヨコハマが2016年から開始した「創造都市横浜における若手芸術家育成助成クリエイティブ・チルドレン・フェローシップ」。 今年度のフェローシップ・アーティストの1人が、ダンサー・振付家であり、ヴィジュアルアーティストであるAokidだ。 2016年には横浜ダンスコレクション コンペ1にて、橋本匠と共作した作品『フリフリ』で審査員賞を受賞。その受賞者公演となる『We are son of sun!』の本番を2月中旬にひかえた彼に話を聞いた。

Photo: 大野隆介

 

絵画が廻転し、物語が疾走し、スクロールする映画のような体験。

Aokidのプロフィールと作品のつくり方は一風変わっている。
2015年以降の横浜ダンスコレクションや、2016年の個展『ぼくは”偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。』、彼のSNSなどを通してその活動を見知ってから、筆者は“ニューウェーブ”と勝手に呼んでいる。

どこらへんが“ニュー”なのかというとなかなか明言しにくい。定義できないものだからこそ“ニューウェーブ”と呼ばれるのが1970年代以来、世の常だからだ。美大出身で、身体表現と現代美術の両輪をともにメインの活動領域とするアーティストは、2000年代以降すでに登場しはじめていた。(例:山川冬樹、コンタクトゴンゾなど)
とはいえ、彫刻家であり舞台美術家でもある大先輩・勅使河原三郎をはじめ、前衛芸術家のなかにはすでにそれを試みてきた作家がいるので、前例がないわけでもない。

振り返ると、Aokidの作品を体験する時間のなかで流れてくる思考や感情はどこか短編映画を見ているときのものに似ていた気がする。2016年の横浜ダンスコレクションの受賞作『フリフリ』は、近年の開催を見るかぎり、過去のファイナリストにはなかった異色の作品性をもち、軽い脱臼的な“ヌケ”を感じさせた。コンペ1は若手・中堅の振付家のための作品賞であり、毎年かなりきっちりと振付と構成をつくり込んだ作品を携えた作家たちが挑んでくる。

横浜ダンスコレクション2016 コンペティションⅠ Aokid×橋本匠「フリフリ」 Photo: Tsukada Youichi

 

Aokidと橋本匠の作品が上演された20分間は、まるで休日の午後、ポップコーンを片手に映画館のシートや家のソファに身体をあずける映画の時間だった。それぞれのシークエンスはときに緩やかで、ときに興奮があり、ストイックなミニマルミュージックや甘酸っぱい弾き語りの楽曲が絶妙の心憎い間合いで投げ込まれ、最後は爽やかなほろ苦さを残して疾走していった。
これはひょっとすると?とわくわくしていると、グランプリの受賞が発表され、審査チームなかなかやるな!(←上から)と人知れずほくそ笑んだ。(筆者はこのときコンペ2新人部門の審査員を務めていた)

「この作品はもともと舞台上に置いたロボットやパソコンたちと踊る構成でした。まず他の発表場所での一次審査に受かった時、事務局の人に『ほんとうに彼らと踊ります?』と聞かれて。それならせっかくだし、前進するためにも、誰かほかの人と作品を作ってみようと思って、演劇ユニットをやっていた橋本くんに声をかけました。彼のパフォーマンスを観ている時間は豊かで、刺激を受けるアーティストの1人です。ロボットやパソコンと踊るシーンは残しつつ人間ともちゃんと踊って、一方で、厚紙を立体的に立てるなど物を使って、静かなシーンやドライブのかかったシーンの演出を考えました」(Aokid)

Aokidは、中学3年でブレイクダンスにのめり込み、高校時代はブレイクダンスチーム・廻転忍者として活躍。2008年には世界大会にも出場している。
高3の夏、映画『ウォーターボーイズ』を観て、強く突き動かされた彼は仲間を集め、その名もまんま「WATER BOYS」を立ち上げてパフォーマンスを行う。この体験が現在、彼のソロ作品などに頻繁に登場するブルーシートのプール、そして水着一丁でそこにダイヴするパフォーマンスにつながっていく。

「その頃、日本映画はどちらかというと内省的な作品が多いという印象をもっていて、『ウォーターボーイズ』は新鮮でした。物語の舞台はプールなんですが、野球部も、テニス部も、不良も、学校中の生徒たちが巻き込まれて盛り上がる。自分にとっての青春もそんな風でいたいなと思ったんです。もともとは個々のグループに分かれてるんだけれど、ドラマを共有することで人と人がつながって、思いがけない友だちができたり」(Aokid)

Photo: 大野隆介

 

原体験ともいえるこのストーリーは、その後のAokidの作品世界の骨格となっているといえるだろう。
「WATER BOYS」の勢いのまま東京造形大学に進学して映画を専攻。在学中より、パフォーマンス、ドローイング、写真、文章、ビデオ、イベントなど、ジャンルを横断する創作を始め、それらをまとめた作品をコンペなどで発表するようになった。

卒業後は、KENTARO!!率いるダンスカンパニー・東京ELECTROCK STAIRSなどに参加する一方で、自ら企画するさまざまな活動を開始。
たとえば、年に何度か行っている「aokid city」と呼ばれるパーティは、架空の街を参加者と共に作っていくことによって、もっと街をおもしろくしようとするプロジェクトだ。

「いまこうして東京を歩いていても、経済のために整備された都市としか見えないんです。街にはさまざまな意見や表現があるべきだし、自分たちの街は自分たちの場所なのだから、自分たちなりのやり方で、何とかしてオリジナルの場所や瞬間を手に入れたい、というモチベーションから始まったプロジェクトです」(Aokid)

このほか、同世代の多様なジャンルのダンサーや俳優、アーティストたちが、代々木公園や京都・鴨川の土手などに集まり、パフォーマンスや対話を行いながら練り歩く「どうぶつえん」もかなりの頻度で主催している。

「東京や京都の街で、スペースをレンタルしイベントを立ち上げる労力も大事ですが、時にはそれを省いてもっと身軽に集まれること、そういったことも出来ることを見せたいし、大事なことだと思っています。それに、たまたまそこにいた街の人々と容易にコミュニケーションできるのもいい」(Aokid)

このほか発表の場は、ヴィジュアルアート、劇場作品にとどまらず、ブックやインスタレーション、アジアやヨーロッパの旅先の街でのゲリラライブなど、状況に応じてあらゆる方法に取り組んできた。
多種多様な手法と形態を試みながらも、Aokidの創作活動の通奏低音をなしてきたのは「映画」だ。作品の多くは映画を独自に咀嚼したリアクションだという。

「映画のことを想いながら、よくダンスをしていて、そのうちSKETCH BOOKを入れたリュックを背負って街から街へ今日も歩くスタイル。絵を描き、夜はダンスの練習をする。考え事をする。映画館へ行ったり、本のページを開いたり、現実と想像が相対的にシンクロしたりズレたりしていってる」と展覧会のステイトメントで彼はしたためている。

「僕にとっての『ウォーターボーイズ』のように、若いときに青春映画のアイドルに自分がなりたい人物のイメージを重ねて、こんな風に過ごしたいと感じた想いといまの自分のやってることなんかを行き来して、編集・リミックスすることは新鮮です。僕たちは“ファンの世代”でもあると思うんです。自分が影響を受けたダンスや美術、音楽へのオマージュとして、感化された要素を再構成して、独自の体験を創作する。再生ボタンを押せば流れるものだけど、それを生活に取り入れたらもっと楽しげなものになる。だけど意外にそれをやっている人はまだ少ないと思います。増えてほしい。」(Aokid)

 

ST Spot 30th Anniversary Dance Selection vol.2 ダンスショーケース
Aokid×額田大志「SONG OF RIVER AND WIDE HEAVY」 Photo: Kazuyuki Matsumoto

2015年には、それまで毎年応募してファイナリストの常連となっていた公募プログラム『1_WALL』のグラフィック部門でグランプリを受賞。既存のグラフィックアートやデザインの枠に収まりきらない、新たな表現領域を開拓するコンペならではの選考といえるだろう。
ブレイクダンスの練習や発表を通して研磨された身体性を、軽やかなストロークを反復する線とためらいのない明快な色彩に転換したドローイングは、その後しだいに高く評価されるようになる。
俊敏でキレのあるダンスの動きが、スケッチブックをめくり次々に繰り返されるストロークの形で伸びやかな軌跡を残し、自然に気持ちのいい視覚的感触をもたらしてくれる。

2016年の個展『ぼくは”偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。』(ガーディアンガーデン)では、白くて長い紙がスケートパークのように大きく弧を描いて吊るされ、縦に伸びていた。空想の街を描いたドローイングが絵画の空間を廻転しながら疾走し、映画の画面がスクロールするように物語は時間軸を走るのだ。

2017年の単独公演『I ALL YOU WORLD PLAY』(横浜STスポット)でも、ブルーシートが波打つ舞台空間の使い方それ自体がドローイングであり、ダンスはムーヴィーの時間で横スクロールしていった。

 

Aokid『I ALL YOU WORLD PLAY』(横浜STスポット) Photo: Shinichiro Ishihara

 

 

美術と舞台を軽やかに行き来するニューウェーブの出現と時代の変化。

同年、スパイラルで開催されたアートフェア「蒐集衆商2017」に出展された大判のドローイングは、偶然生まれた展示方法が功を奏し、Aokidらしさを表現する結果となった。
というのも、分厚い紙のドローイングには保管中に巻き癖がついていて、壁面に設置しようとすると強い力で戻ってしまう。そのため、展示施工担当者のアイデアで、同じくらい強力なバネで作品同士が引っぱり合うように設置したのだ。
クルクルと旋回するコイルが剥き出しになったそのユーモラスな展示風景は、絵のなかの廻転するストロークと呼応しあい、あらゆるネガティブな力を跳ね返す、したたかな運動エネルギーを想起させた。

「そういう“徹底できないこと”が、ダンスのクリエイションでもよくあるのですが、僕の場合、それを美術的なやり方で転がすことを知っているから、むしろ救われてるところがあるかもしれません。あるいはアーティストの友人や美術にそのことを教えてもらったと言えると思います。」(Aokid)

Photo: 大野隆介

 

絵画や彫刻、写真、インスタレーションといったヴィジュアルアートの制作プロセスでは、徹底的な緻密さや秩序に追い込むことがかえって仇になり、ちょうど“いい加減”の手の離しどきが大事な場面がある。
そのような場面で、Aokidは持ち前の鋭敏なセンスと批評眼によって、自らの美術作家と身体表現者の資質を使いこなしてきたのだろう。

美術の分野でいう「パフォーマンスアート」と、舞台芸術の分野を指す「パフォーミングアーツ」は、ある部分では微妙に重なりあい、ある部分では成立ちや条件を異にするジャンルだ。
その違いを客観的に意識しながら、軽やかなスケーティングで両面を行き来するアーティストの出現こそが“ニューウェーブ”であり、待ち望まれていたのではないだろうか。
少なくともAokidの登場はその兆しと時代の変化を予感させた。

「映画学科にいた学生の頃、映画のプロットや脚本を書く授業で、この時間にこっそりある友達にならって僕ならドローイングを描くことに使おうと思いました。
自分がどう芸術的になっていくのか。それを考える時期にあって、一連の経験や物事を行き来し、それが混ざり合い、刺激しあう状況をつくりたかった。ダンスや美術以外の色んな視点やコミュニケーションがあっていい。小さいときに観た映画や十代で読んだ小説を再構成すれば、もう一度追体験しながら違うものを生むこともできる。ダンスの世界では身体は有限で不可能もあるけれど、絵の世界ならそれを達成できる。
今年は自分の中で描いている決定的な絵を描きたいと思っています」(Aokid)

 

 

オルタナティヴな冒険から劇場文化の新たな可能性に向けた挑戦へ。

近年、アートシーンではよく「リッチな作品」という表現が使われるようになった。それは多彩な視点と解釈のレイヤー(層)がある、芸術的な豊かさを意味する。
一方、パフォーミングアーツのシーンでは、2世代、1世代上の振付家や演出家は、技術の評価軸を超えて、新しい身体表現のスタイルやメソッドを築いてきた。それらが確立され様式化されたとすれば、次世代の作家たちの多くは、上の世代の礎を壊したり忘却するのではなく、編集、再構成しようとしているようにも見える。
彼らは自分たちの世代の活動の場や体験をつくることに長けている。自主公演、コンペ、コミュニティ、といった劇場文化の周縁からのオルタナティヴなアプローチは自由で能動的だ。
ただそこから一歩先へステップを進め、劇場という機構がもつ深度や強度、蓄積された凄みを駆使した作品性への挑戦も視野に入れる価値はある。

「ミュージカルにいま興味があります。歌やダンスの舞台が始まるまでの演出に可能性を感じていて。演劇と音楽とダンスの境目で、地続きに共有できるものがある気がしています。もっと自由に、自覚的に、勇気を持って人生を生きたいし、作品のその先を託すことのできる考えの射程距離を広げたい。旅もしたいし、知らない人と出会いたいと思っています」(Aokid)

1つの表現の枠に収まらず、映画や都市、公共空間などあらゆるものを媒介に、世界と自分自身との距離を試す冒険に出ようとしているAokid。ダンス、アートといったフィールドごとに、達成の場所も物差しも違い、これまでの彼は自身のエネルギーと問題意識を持て余していたはずだ。 横浜という地で活躍のプレイグラウンドを与えられ、まずは横浜ダンスコレクションの新作、さらに新たなアイデアの実現に向かって前進する。 その創作はもはやダンサー、美術作家といった既存のプロフィールに回収されない領域へと自由奔放に溢れ出そうとしている。

 

インタビュー・文:住吉智恵(アートプロデューサー・ライター)

 

 

【イベント概要】

横浜ダンスコレクション2018 コンペティションⅠ受賞者公演
Aokid×橋本匠『we are son of sun!』

日時:2月13 日(火)19:30、2月14日(水)19:30
会場象の鼻テラス
住所:神奈川県横浜市中区海岸通1丁目
アクセス:日本大通り駅(みなとみらい線)徒歩約3分
料金:前売:3,000円 当日:3,500円 U-25:2,500円 高校生以下:1,500円

http://yokohama-dance-collection.jp/program/program03/

 

 

【プロフィール】

Aokid(あおきっど)

ブレイクダンスチーム廻転忍者として高校生の頃より活躍。2008年には世界大会に出場する。東京造形大学では映画を専攻。当時からパフォーマンス、ドローイング、写真、文章、ビデオ、イベントなどを始める。形態にとらわれず、街をテーマにアクションを色んな角度より試みる。映画の影響で高校生の頃に独自のWATER BOYSを仲間と立ち上げる。
2016年の個展『ぼくは”偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。』(ガーディアンガーデン)や、2017年の単独公演『I ALL YOU WORLD PLAY』(横浜STスポット)も共に映画などを独自に咀嚼したリアクションとも言える。また現在継続して行なっているプロジェクト”aokid city”はパーティーなどへの、”どうぶつえん”は公共空間への提案がある。

http://iamaokid.tumblr.com/