ヨコハマトリエンナーレ2017、タイトルは「島と星座とガラパゴス」に

Posted : 2016.10.28
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来年夏に開催を控えた現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2017」。10月11日に開かれた記者発表では、ジャンルや世代を超えたメンバーからなる「構想会議」での議論を経て決定したタイトルとコンセプトが発表された。現代美術の展覧会らしからぬタイトル「島と星座とガラパゴス」に込められた意味や今後の展開について紹介する。
ポスター、チラシ展開などのためのイメージビジュアル(提供:横浜トリエンナーレ組織委員会)

ポスター、チラシ展開などのためのイメージビジュアル(提供:横浜トリエンナーレ組織委員会)

(左から)「ヨコハマトリエンナーレ 2017」構想会議メンバーの柏木智雄さん、逢坂恵理子さん、養老孟司さん、スプツニ子!さん、リクリット・ティラヴァーニャさん、スハーニャ・ラフェルさん、三木あき子さん

(左から)「ヨコハマトリエンナーレ 2017」構想会議メンバーの柏木智雄さん、逢坂恵理子さん、養老孟司さん、スプツニ子!さん、リクリット・ティラヴァーニャさん、スハーニャ・ラフェルさん、三木あき子さん

 

世界の「接続性」と「孤立」を考える

 「島」と「星座」と「ガラパゴス」は、孤立や接続性、想像力や指標(道しるべ)、独自性や多様性など、さまざまな捉え方のできるキーワードとして選ばれた。ヨコハマトリエンナーレ2017では、このキーワードを手がかりとして、時代の転換期といわれる現在の世界の在り様に対して、人間の想像力・創造力がどのような可能性を拓き得るのかについて思索を巡らせる。

 逢坂恵理子ディレクターは、2001年に初めて横浜トリエンナーレが開催されてからの15年の間に、「世界は私たちの予想よりもずっと早いスピードで変化し続けてきたと思います」と語る。紛争や難民、移民の問題、英国のEU離脱など、世界が直面する課題は、もはや遠い国のことではなく、私たち個人の生活にも深く影響を及ぼす。人間の処理能力を大幅に超えて情報が氾濫し、高度に複雑化した環境の中で、私たちはどうしたら良いのか。「多様な人々との対話とチームワークによって乗り越えることができるのか、その道筋、もしくは可能性を模索し、それを示唆できるようなトリエンナーレにしたい」という。

 

「構想会議」と「ヨコハマラウンド」、2つの会議

 その「対話」を準備段階から実践したのが、3人のディレクターに加えて国内外の6人の異分野の専門家を迎えた「構想会議」だ。既存の思考的枠組みや専門領域の壁を超えた分野横断的な討論を行い、企画コンセプトや内容決定への反映を進めている。

 メンバーには、豪華メンバーが名を連ねる。国内からは、養老孟司さん(解剖学者、東京大学名誉教授)、高階秀爾さん(美術史家、大原美術館館長、東京大学名誉教授)、鷲田清一さん(哲学者、京都市立芸術大学学長、せんだいメディアテーク館長)、最年少のスプツニ子!さん(現代美術家、マサチューセッツ工科大学メディアラボ助教)。海外からは、スリランカで生まれ、オーストラリア、香港と島国を渡り歩いた経験を持つスハーニャ・ラフェルさん(M+美術館エグゼクティブ・ディレクター)と、自作のカレーを振る舞うパフォーマンスで有名なリクリット・ティラヴァーニャさん(現代美術家、コロンビア大学美術学部教授)が参加。逢坂恵理子さん(横浜美術館館長)、三木あき子さん(キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター)、柏木智雄さん(横浜美術館副館長、主席学芸員)も、ヨコハマトリエンナーレ2017 ディレクターズとして参加する。

 養老さんが指摘したのは、アートの「アナログ性」。「ネットに氾濫する情報の、完全なコピーであるデジタルが世界をほとんど動かすようになってきている気がする。一方で、アナログはコピーするたびに新しいクリエーションが起こっている」と、ネット社会に警鐘を鳴らし、アートの可能性を語った。

 養老氏は、展覧会に先立つ2017年1月から会期終了までの間にシリーズで実施される会議「ヨコハマラウンド」第1回への参加も予定している。「ヨコハマラウンド」では、より幅広い分野の専門家等を迎え、地域の大学等教育機関との連携も図りながら、「島」、「星座」、「ガラパゴス」から想起される諸問題や可能性について議論する。

 

開港の地、横浜

 2017年は、日本における封建時代の終焉と歴史的に位置づけられる大政奉還から150年という節目の年にあたる。小さな村に過ぎなかった横浜は、日本の近代化を象徴する街として発展して今日に至る「開港の地」。今回のトリエンナーレは、その歴史的背景を念頭に置きながら、企画立案を進められている。

 横浜美術館と共にメイン会場となる横浜赤レンガ倉庫は、明治政府によって建設された保税倉庫。また、サテライト会場の一つとして検討している横浜市開港記念会館は、「岡倉天心生誕の地」「横浜商工会議所発祥の地」とされ、戦後は米軍の接収によりメモリアルホールという名の映画館として利用されていた歴史を持っている。

 今回の発表内容は、これまでのトリエンナーレとは異なる、新たな展開を予感させるもので興味深い。ただ具体的にどのようなことが行われるのかは今後の情報を待つことになる。私達に何を見せてくれる、聞かせてくれるのか、次の発表に期待しよう。

 

【イベント概要】

ヨコハマトリエンナーレ 2017「島と星座とガラパゴス」

期間:2017年8月4日(金)〜11月5日(日)
休場日:第2・4木曜日
主会場:横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館
http://www.yokohamatriennale.jp