「ヨコハマトリエンナーレ2017」参加作家インタビュー・瀬尾夏美さん

Posted : 2017.07.24
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8月4日からはじまる「ヨコハマトリエンナーレ2017」。創造都市横浜WEBマガジンでは複数の作家にインタビューを行い、本展が掲げる“「接続」と「孤立」から世界を考える”を解く手がかりをお伝えしていきます。第一回目は最年少の参加作家、瀬尾夏美さん。2011年、東日本大震災をきっかけに映像作家の小森はるかさんとともに岩手県陸前高田市へ移り住み、まちを歩き、さまざまな話を聞き、絵やテキストで記録してきました。本展では、陸前高田で生まれ様々な地域で育んできた物語を作品として展示します。震災から6年を経て、なお地に足をつけながら作品をつくり続ける彼女に、制作の背景と今回の出品作について伺いました。

 

さまざまな「当事者」の語りから生まれた物語

——今回の「ヨコハマトリエンナーレ2017」で発表する「二重のまち」は、陸前高田で聞いたさまざまな話をもとに2015年につくった物語ですが、その作品が生まれた背景を教えてください。

私が最初に移り住んだ陸前高田の場合、たとえば津波で亡くなられた人、命は助かったけれど家を流され財産をすべて失われた人、家はあるけれど家族を失われた人、とさまざまな状況の当事者がいらっしゃいます。“当事者”と“非当事者”という言葉のなかには複雑なグラデーションがあります。陸前高田はこうしたさまざまな当事者が一緒に暮らしているまちです。ここでは、当事者は別の当事者へ常に配慮しながら話されるし、言葉にならない思いをそれぞれに抱えていらっしゃる。聞かせてもらった話はとても大切なことで、私はこの言葉を誰か次の人に渡したいと思うようになりました。
言葉は、発話する人自身の体験や感覚からのみ生まれるわけではありません。誰かから聞いた話だったり、伝えるためにユーモアを交えたり背景を整理したり。話す人と聞く人の関係で編まれるものです。だから聞いた言葉をそのまま残すのは少し違う。それで「物語」として「二重のまち」を書きました。

瀬尾夏美《二重のまち》 2015年

 

 

この先の未来、かつてのまちを心に持ちながら暮らせるように

——「二重のまち」の舞台は2031年です。震災発生から20年後に生きる「僕」や「私」の物語のヒントは、どのようなところから得られたんですか。

大きな津波の被害にあった山際の集落で、花畑をつくっている一角がありました。そこに住んでいた人たちが、集落で亡くなった人や無くしたものすべてを弔いたい、集落すべてに花を手向けたいと考えてつくった花畑でした。花畑があると被災する前の集落の姿を知らない私でも人の営みがあったことがわかる。花畑には、かつて住んでいた人も旅の人も、生きている人も亡くなった人も、ここにいる人もいない人も、さまざまな人が一緒にいられる場所になっていました。「弔う」という行為は非常に原初的な表現の形だと感じ、この状況をきちんと記述したいのが一つです。
また、この物語を書いた2015年の冬、陸前高田では復興工事が始まっていました。かつての地面に土を盛り、まっさらな地面を新しくつくる嵩上げ工事です。災害直後の陸前高田には、かすかに残るまちの痕跡や過去の暮らしを大切にしている様子がありました。それは、まちの人が死者と一緒に未来をつくっていく姿のように私には感じられましたが、嵩上げしたらそうした痕跡は消えてしまいます。新しい地面の上で、まちの続きはつくっていけるのだろうか。こうした2つの思いが「二重のまち」の手がかりになっています。これは架空の未来の話です。かつてのまちがあったことを常に心に持ちながら暮らせるような、未来のまちの姿があったらいいなという思いで書きました。この土地の未来にその姿があるなら復興工事によってまっさらになった土地、無機質に見える風景も肯定できるようになるのでは、と思ったのです。

 

震災や戦争の語りからつくる、3つの展示

——「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、3カ所の会場で展示を予定されています。こうした経験や作品をどのような形で展示される予定でしょうか。

3つの会場のうち、2つは横浜美術館、1つは赤レンガ倉庫です。1つは2011年からこれまで陸前高田で教えてもらった多くのことを、ある人に報告するような形で再編集して提示するつもりです。もう1つはさまざまな地域の人による「二重のまち」の朗読を聞ける場所をつくろうかと。陸前高田以外にも自然災害や戦災、開発などで姿を変えざるを得なかったまちはたくさんあります。そこで、神戸や新潟などでこの物語を持って行き、そのまちの人と一緒に読む活動をしてきました。今回はそのうち、陸前高田と神戸の人たちによる朗読が聞ける展示です。
赤レンガ倉庫では、絵と文章による「遠い日|山の終戦」というシリーズを展示します。2年前に陸前高田から仙台に引っ越し、民話のサークルと一緒に活動をしていますが、そこである語り手のおじいさんに出会いました。彼は戦時中、10歳の少年でした。宮城県の山中の集落に住んでいたために、実際の戦火を見たことはありません。ですが彼は当時、「お国のために死ぬ」ことを志した軍国少年でした。戦火を見ずしても、人はそんなことを考えるようになる。空襲にあった人や戦地に赴いた人の語りはこれまでにも見聞きしたことがありましたが、おそらく当事者性が弱いと感じていた人たちの言葉にはあまり出会ったことがありませんでした。彼らの語りのなかの戦火との遠さや不明瞭さを介すことで、地球のどこかでいまも起きている戦争について、もっと主体的に考えられるかもしれないと思います。

瀬尾夏美《もう一度つどう》 2015年 紙、色鉛筆、アクリル絵具 25.4x36.4

 

 

まちの記憶、辛い出来事、「語れなさ」と一緒に生きていく

——宮城での出会いから戦争体験の語りへと、さまざまな体験者の話をもとに作品をつくられるんですね。

宮城県のおじいさんのような戦争体験は「語るほどのものでもない」という思いから、あまり語られていないようです。一方で、原爆や戦争の語り部として何度も繰り返し体験を語っている方のなかにも、実は全部を表に出しきっていないことがあるのではないかと思います。終戦から70年が過ぎ、さまざまな形で「語られてこなかったこと」について考えつつ、今回の作品をつくっています。
最近はリサーチのため、広島も歩いています。資料を読んだり話を聞いたりするなかで、原爆による差別の問題も見えてきました。被曝による後遺症の懸念から、親が子どもに言えなかったことや近所の人に話せなかったことがあったり。被爆者の孫が平和教育を受け、戦争のことを知りたくても親は自身の親が嫌がるから伝えられなかったり。例えば、ひとつの家族の中でも複数の「語れなさ」が複雑に交差しています。そのなかで暮らしを編んできた方々の、「配慮」の術を学びたいと思うのです。
私は、被爆者に体験を聞くことが重要というよりも、深い傷を持った人たちと、どのように今を一緒に生きるかを考えたい。昔のまちの記憶や辛い出来事があり、そして今がある。その出来事を体験していない人たちは、語られないその傷を都合よく無視せずに、一緒に暮らしを編んでいくことが大事なのではないでしょうか。

 

標準語で語り直し、都市で展示すること

——横浜という場所での展示について、どのように感じていらっしゃいますか。

私が訪れる場所は地方が多いですが、あえてその地に根付かないように心がけながら暮らし、話を聞きます。自分の特殊性がもしあるとしたら、私は東京出身なのもあって、それらの語りを標準語化できることかもしれません。陸前高田や広島で聞いたのは、方言のある温かみのある言葉です。でも誤解を恐れずにいうと、その地域の言葉をそのまま表現して伝えたいわけではありません。聞かせてもらった言葉の抽象度を上げ、色々な土地で聞いたいくつもの言葉とリンクさせながら、その骨子を標準語で語り直しているので、私が書く文章にはほとんど方言が出てこないんです。だからこそ、さまざまな人の身体に、その言葉が入っていけるのだとかんがえています。なので、横浜のような都市で展示をする意味がある気がしています。さらに「ヨコハマトリエンナーレ」には世界各国からもお客さんが来るでしょうし、さまざまな人に響くことでさらに作品が広がる可能性も感じています。

 

キュレーターから:横浜美術館学芸員・片多祐子さん

東京出身の瀬尾さんは、震災をきっかけに東北に行き、現地の人から聞いた話をもとに、当事者の体験や思いを絵とテキストで伝える作品を多く制作してきました。それらの作品は、具体的なある地域の記憶から出発していますが、作品そのものは抽象性や普遍性を持ち、世界に向けて発信できるメッセージ性があると考え、今回出品をお願いしました。これまでお一人の活動として発表された機会はあまりなかったので、震災から6年経った今、瀬尾さんの関心がどのように変化したか、その多面性を発表していただく機会になると思います。震災を忘れるのではなく、震災の体験が私たちにもたらした意味をさらに考えていく機会になればいいなと思い、今回のプランになりました。

 

[撮影:森本聡/聞き手・構成:佐藤恵美]

 

プロフィール

瀬尾夏美(せお・なつみ)

1988年、東京都生まれ。宮城県在住。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程油画専攻修了。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。2012年より、映像作家の小森はるかとともに岩手県陸前高田市に拠点を移す。以後、地元写真館に勤務しながら、まちを歩き、地域の中でワークショップや対話の場を運営。2015年、仙台市で土地との協同を通した記録活動を行う一般社団法人NOOK(のおく)を立ち上げる。主な展覧会に「VOCA2015」(上野の森美術館、東京、2015年)、「クリテリオム91」(水戸芸術館、茨城、2015年)など。小森とのユニットで、巡回展「波のした、土のうえ」「遠い日|山の終戦」を各地で開催。2016年より、陸前高田で編んだ物語「二重のまち」をもって広島を歩きはじめた。


イベント概要

ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」

横浜で3年に1度行われている現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ」。6回目を迎える今回は、「接続」と「孤立」をテーマに、世界のいまを考える。3つの会場を舞台に、38組のアーティストと1つのプロジェクトが集う。

会期:2017年8月4日(金)〜11月5 日(日)
休場日:第2・4木曜日(8/10、8/24、9/14、9/28、10/12、10/26)
会場:横浜美術館/横浜赤レンガ倉庫1号館/横浜市開港記念会館 地下
開場時間:10:00-18:00
(ただし10/27〈金〉〜29〈日〉、11/2〈木〉〜4〈土〉は20:30まで/いずれも入場は閉場の30分前まで)
入場料:一般1,800(1,500)円、大学・専門学校生1,200(900)円、高校生800(500)円、中学生以下無料 ※( )内は前売(8月3日まで販売)の料金。※障がいのある方とその介護者1名は無料
お問い合わせ:ハローダイヤル 03-5777-8600(8:00-22:00)

http://www.yokohamatriennale.jp