アニメ作家とクライアントをつなぐHAGの取り組み――横浜のプロモーションアニメ誕生!

Posted : 2015.05.22
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横浜には東京藝術大学の大学院映像研究科があり、映像のフェスティバルも開かれてきた。そんな“映像文化都市”を掲げる横浜市と、若手アニメーション作家のコンテストが出会い、横浜のプロモーションアニメが誕生! 首都圏のイオンシネマで本編前に上映されている。30秒のアニメーションに込められた、作家、プロデューサー、クライアント3者の想いとは?
HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)「横浜賞」プロジェクトチームが結集! 全作品の本編上映前に横浜のプロモーションアニメが上映されている、みなとみらいのワールドポーターズ内イオンシネマ前にて。

HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)「横浜賞」プロジェクトチームが結集! 全作品の本編上映前に横浜のプロモーションアニメが上映されている、みなとみらいのワールドポーターズ内イオンシネマ前にて。

 

横浜の魅力をたっぷり伝えるプロモーションアニメが、イオンシネマで上映されている。ベッドから起き上がって街に出るひとりの男。彼が出会うのは、横浜港、中華街、三溪園、ジャズバー、そして山下公園といったさまざまな横浜のシチュエーションだ。カラフルに広がる横浜のイメージが描かれている。このアニメーションの作者は、2011年に東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修士課程を修了した奥田昌輝さん。生まれも育ちも横浜で、横浜の大学にも通った。横浜の魅力を知り尽くした、いち市民でもある。

「横浜の魅力って、いろいろなものが混ざっているところだと思うんですよね。色彩が街にあふれているように感じていました。アニメーションではリアルではない“イメージ”として、色を散りばめています。」(作家・奥田)

HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)「横浜賞」 横浜プロモーションアニメーション 作家:奥田昌輝

HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)「横浜賞」 横浜プロモーションアニメーション 作家:奥田昌輝

このプロモーションアニメ、じつはとあるコンテストの「賞品」として、奥田さんに発注された「仕事」だった。イオンエンターテイメント株式会社株式会社ロボットが立ち上げた、若手アニメーション作家のコンテスト「HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)」だ。その「横浜賞」を、奥田さんはめでたく受賞した。

HAGには、横浜市がクライアントとなる横浜賞だけでなく、イオンエンターテイメント賞、イオングループ賞 、ジェットスターグループ賞、日本IBM賞などがある。いずれも企業や行政がクライアントとなり、30~180秒のオリジナルCMやショートストーリー の制作を若手アニメーション作家に発注。制作されたアニメーションは、なんと全国(「横浜賞」は首都圏)のイオンシネマで本編前に上映されるという仕組みだ。

若手作家のアニメーション制作と、企業や行政のプロモーションをマッチングし、その上映までをコーディネートするみごとな座組みが実現したこの企画。どのようにスタートしたのだろう? テレビコマーシャルや、『ALWAYS 三丁目の夕日’64』『永遠の0』『幕が上がる』などの劇場映画、そしてアニメーションなどの企画・制作を手掛ける、株式会社ロボットの丸山靖博プロデューサーは、常日頃考えていたことがあった。

「日本のアニメーターってとても優秀なんです。海外でも認められているし、専門の学校もたくさんあって、毎年たくさんの卒業生を輩出している。にも関わらず、作家性の強いアニメーションを仕事として生業にしていく『市場』がないんです。当然、商業的なアニメーションはありますが、作家性があるアニメーションはビジネスになりにくい。彼らをバックアップする会社も制度もないから、基本的に彼らは個人で作品をつくり発表していくしかありません。じつはロボットには所属しているアニメーターが3人います(稲葉卓也さん、坂井治さん、加藤久仁生さん)。彼らは会社が雇うことで作品をつくり続けることができますが、このような環境は実現することがなかなか難しいんですよね。けれどもチャンスを与え、継続して制作していれば、大きなステップにつながることもある。加藤は以前『つみきのいえ』という作品でアカデミー賞(第81アカデミー賞 短篇アニメーション賞)をいただきました。制作を続けていたからこそ、最終的に大きな受賞に至ったんです。こういうサポートが必要だと誰もが考えているはずなのですが、『市場』がない。彼らの仕事をつくっていく必要があると思うんです。そういう話をイオンエンターテイメントの大山本部長にさせていただいたら、大山さんが『やりましょう。うちの劇場全部使ってください。』とおっしゃってくださったんです。そこからプロジェクトがスタートしました。」(プロデューサー・丸山)

取材では、HAGの最終選考プレゼンテーションの会場となった横浜赤レンガ倉庫にお集まりいただいた。左から、株式会社ロボットの安江沙希子さん(プロジェクトマネージャー)・丸山靖博さん(チーフプロデューサー)、アニメーション作家の奥田昌輝さん、横浜市文化観光局の新谷雄一さん(文化芸術創造都市推進部創造都市推進課担当係長)・貝田泰史さん(横浜魅力づくり室横浜プロモーション担当)。

取材では、HAGの最終選考プレゼンテーションの会場となった横浜赤レンガ倉庫にお集まりいただいた。左から、株式会社ロボットの安江沙希子さん(プロジェクトマネージャー)・丸山靖博さん(チーフプロデューサー)、アニメーション作家の奥田昌輝さん、横浜市文化観光局の新谷雄一さん(文化芸術創造都市推進部創造都市推進課担当係長)・貝田泰史さん(横浜魅力づくり室横浜プロモーション担当)。

 

若手アニメーション作家を育成・支援するためには、継続的な制作活動につながる、ビジネスの機会を生み出す必要がある。HAGにとって、イオンエンターテイメント株式会社の尽力は大きかった。通常、大きな額で販売する本編前の上映枠を、イオンが破格の金額でで提供しているからだ。大山本部長の強い想いがなければ、このプロジェクトは動かなかった。一方で、HAGと横浜市のタッグはどのように実現したのだろう? 横浜市文化観光局・横浜魅力づくり室・プロモーション担当係長の貝田泰史さんに聞いた。

「HAGの作品上映イベントを横浜で開催できないだろうかというご相談を、ロボットさんから横浜市にいただいたんです。横浜市では創造都市施策の中で“映像文化都市”を掲げ、東京藝術大学大学院映像研究科の誘致や、映像フェスティバルの開催をはじめ、映像分野のアーティストをサポートするさまざまな取り組みを行ってきました。HAGのお話を聞いて、若手アニメーション作家の育成という視点が、創造都市施策の方向性とも合致していたので、もう少し踏み込んで一緒に何かできないだろうかと、逆にご相談したんです。そうしたら『最終選考・プレゼンテーションを横浜で開催して、さらにいっそのこと横浜賞をつくっては?』とご提案をいただきました。横浜市としても、『横浜賞』という形で作家のビジネスチャンスを作りつつ、イオンシネマで横浜のプロモーションもできるということで、ぜひ参加したいと考えまして、協力協定を結ぶに至ったんです。ちょうど、映像を使ったプロモーションに力を入れていたところでもありましたので。」(横浜市・貝田)

 

左・新谷雄一さん、右・貝田泰史さん

左・新谷雄一さん、右・貝田泰史さん

貝田さんが所属している魅力づくり室は、“シティプロモーション”という視点から、横浜という都市のブランドイメージをどのように打ち出していくかを考えている。「あうたびに、あたらしい Find Your YOKOHAMA」。文化観光局が掲げた、横浜のプロモーションのスローガンだ。職員自らがアイデアを出し合って生まれたワードだった。

 

 

 

「シティプロモーションとしては、海、夜景、アートなどをキーワードに挙げています。海は海でも、人々の生活に寄り添う親しみを感じられる海。一つひとつの光に物語が感じられるような、横浜ならではの夜景。そして公益財団法人横浜市芸術文化振興財団とともに取り組んでいることですが、美術館やギャラリーで鑑賞するだけでなく、街の中にアートが溶け込んでいるところも面白い。横浜は訪れるたびに新たな発見やワクワクする出会いがある。あなただけの横浜を、ぜひ見つけてもらいたいという想いをこのキャッチフレーズに込めました。」(横浜市・貝田)

いよいよ話題を「横浜賞」のプロモーションアニメの制作プロセスにフォーカスしていこう。アニメーションを手掛けた奥田さん、今回はどんな「横浜」を表現しようとしたのだろう?

奥田昌輝さん

奥田昌輝さん

「『あうたびに、あたらしい』というキャッチフレーズがすでにあったので、『出会い』をキーワードに考えていきました。主人公の男の人が、横浜のシチュエーションに出会っていく設定です。“新しさ”ってなんだろう、と考えていくうちに、自分の主観だけで考えられる“新しさ”には限界がある、視野の狭いものになってしまうと思ったんです。いろんな人たちが横浜に来て、何かを見たり、何かに出会ったりしますよね。それぞれの人の経験によって、街の印象も違うと思うんです。それぞれが見たものによって、変わっていく“新しさ”みたいなものを、アニメーションにしたいと考えました。」(作家・奥田)

アニメーション制作のプロセスは、半分以上が“相談”だった。アニメーションで、何を描くのか。打ち出したい場所について横浜市側の意見を聞いたり、モチーフは何を入れるか入れないかなど、細かいディテールを詰めるのにもっとも多くの時間が割かれた。描く場所に奥田さんは足を運び、その空気感を捉えたりもした。

「アニメーションって、ただでさえ完成のイメージを共有するのがとても難しいんです。今回はモーフィング*という手法で作っていて、ワンカットで全部がつながっている。つまり全編の構成が決まらないと、スタートができなかったんです。」(プロデューサー・丸山)

モーフィング*=ある物体から別の物体へと自然に変形する映像をみせる手法のこと。本作では背景が動いていくシーンづくりに使用されている。コンピュータグラフィックスの手法のひとつ。

一方で、今回初めてプロモーションアニメの制作に取り組んだ横浜市の貝田さん。一つひとつの絵がどんな動きになって完成するのか、なかなかイメージができなくて、対話に時間を要してしまったと制作プロセスの苦労をにじませた。3者の妥協のない想いが、エピソードひとつ取っても伝わってくる。

「今回は仕事として取り組んでいますが、僕のつくりたい世界観を尊重してつくらせていただいたと思っています。仕事なんだけど、半分以上は自分の作品とも言えるものになっている。普通だったらクライアントから、さまざまな注文があると思うんです。この人物の目はもっとかわいくして欲しいとか(笑)。今回そういったことを横浜市の方々から言われたことはまったくありませんでした。」(作家・奥田)

TVドラマのオープニング映像や、教育番組のインターミッション映像などを仕事で手掛けている奥田さん。横浜賞での仕事を通して、自分の作品づくりのスタイルにも影響を受けたという。

「今回の制作を通して、今後の仕事の中でも、自分のつくりたい世界観をもっと出していけるんじゃないかと思いました。頭を切り替えて考える時間もできたので、改めて作品づくりに取り組みたいという気持ちにもなって。今まさに自分の作品をつくりはじめたところなんです。」(作家・奥田)

「作家の世界観を大切にする」という制作方針は、モノづくりの現場ではとても大切なこと。プロデューサーの丸山さんは、チームとしてのクオリティコントロールをどのように図っていたのだろう?

左・丸山靖博さん

左・丸山靖博さん

「たとえば、この商品を売らなければならないというCMの場合と、“横浜市”のプロモーション映像は、性質が違いますよね。横浜のイメージをどうつくるか、ということが肝になってくる。つまり審査の段階から、横浜賞を誰にやってもらうと、横浜市のシティプロモーションに合うのか? ということを、審査員の先生方にも意識して選んでいただきました 。当初からイメージを持ちながら、奥田さんに絞られていったわけです。HAGの最終選考プレゼンテーションの審査は横浜赤レンガ倉庫で行い 、審査は映画監督の本広克行さん、アニメーション・ディレクターで東京藝術大学大学院映像研究科の教授でもある伊藤有壱さん、映像クリエーター/ディレクターのYKBXさん、そして横浜市文化観光局の中山こずゑ局長、4に務めて頂きました。」(プロデューサー・丸山)

既に多くのアニメーション制作の仕事を手掛け、今回横浜賞の受賞に至った奥田さん。これからの活動については、どんな風に考えているのだろう?

「自分の特徴としては、絵のイメージが強いと思うので、今回のようにブランドイメージをつくる仕事をやっていけたらいいですね。この作風を使っていろんな仕事ができるのではないかと常々思っているんですが、チャンスやきっかけが多くあるわけではない。横浜は作り手にも優しい街だという印象は学生のころから持っていたので、もっと今回のような出会いがあったらいいし、こういう仕事をやっていきたいです。」(奥田)

横浜には育てる環境はあるけれど、仕事の機会をもっとつくる必要があるのではないかと、丸山さんは指摘する。

「人はどうしても仕事を出す側、プロダクションに集まっていくんです。横浜には藝大もあって人を育てたり、モノをつくるという点では素晴らしい環境があるんだけれども、プロダクションがないので、発注、受注の関係を持てるような機会が少ないと思うんです。コンテンツをつくる制作会社なり、プロデューサーや経営者なのかもしれないですが、横浜から発信していくような人が増えると、環境が変わるんじゃないかと思います。」(プロデューサー・丸山)

じつは企業側にも、若手作家を支援したり、ブランドイメージを高めたいという潜在的なニーズはある。HAGの取り組みは、そこにうまくアプローチができたから実現に結びついたと丸山さんは語る。プロデュースの力があってこそのプロジェクトだ。これまでの横浜市の取り組みと、今後の課題について、横浜市文化観光局・文化芸術創造都市推進部・創造都市推進担当係長の新谷雄一さんに聞いた。

「これまで横浜市では、創造都市施策として(公財)横浜市芸術文化振興財団とアーツコミッション・ヨコハマ事業を展開し、アーティストやクリエーターの育成・支援や集積に取り組んできました。今後は、集積したアーティスト・クリエーターをどのようにビジネスにつなげていくかということが、横浜市の創造都市施策の課題です。今回、HAGを通し、横浜で育った作家に市の仕事を取り組んでいただけた。イオンシネマの大画面で体験すると、奥田さんの作品は本当に魅力がありましたね。HAGとは、今後も協力していきたいですし、新たな手法を考えていく必要もあります。今回の取り組みが、大きなきっかけになっていくと思うし、非常に有意義な機会になりました。」(横浜市・新谷)

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東京藝術大学のような教育の機関、アーツコミッション・ヨコハマが担うアーティストやクリエーターの集積、横浜赤レンガ倉庫をはじめとする(公財)横浜市芸術文化振興財団が運営を担う発表の場、そしてイオンシネマのような企業の取り組み――。HAGでの「横浜賞」は、これまで横浜に育まれてきたこれらのプラットフォームがつながったからこそ、実現したプロジェクトでもあった。

HAGを立ち上げたプロデューサーの丸山さん、そして横浜を拠点に活動する若手アニメーション作家の奥田さん、横浜のシティプロモーションという視点から横浜賞にスポンサードした横浜市。この3者がプロモーションアニメにかけた情熱を一番雄弁に語ってくれるのは、奥田さんのアニメーションであるに違いない。ぜひ首都圏のイオンシネマに足を運んで、アニメーションの迫力を体験して欲しい。街を駆け抜けるような臨場感あふれる横浜のイメージが、大画面いっぱいに広がっている。


 ●PROFILE
奥田昌輝(おくだまさき)
1985年、横浜市生まれ。2009年多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。 2011年東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修士課程修了。東京藝術大学入学後制作した「くちゃお」は海外での受賞歴、国内外映画祭での上映歴多数。現在、フリーランスのアニメーション作家、イラストレーターとして活動。
http://masakiokuda.com/

●HAG「横浜賞」奥田昌輝 横浜プロモーションアニメーション

●HAG「横浜賞」上映館
上映期間:~6月20日(土)
上映箇所:首都圏26館のイオンシネマ(全作品の本編上映前)

●HAG(ハンドメイド・アニメーション・グランプリ)ホームページ
http://www.robot.co.jp/special/hag/