横浜美術館はコレクション展も面白い

Posted : 2016.03.24
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横浜の話題や旅先(出張)での酒場めぐり、美術館めぐりを中心に綴るブログ「日毎に敵と懶惰に戦う」を12年間更新中の在華坊さんには、横浜美術館の楽しみ方を教えていただきました。
東横線の綱島から、野毛に引っ越してきて独り暮らしをはじめ、8年になります。そんなに長く住むつもりではなかったのですが、様々なイベントに参加する楽しさ、ブログやTwitterや近所の飲み屋を通じた人との出会い、そこから発展する活動、いろんなことが楽しすぎて、居心地が良すぎて、離れられなくなってしまいました。

横浜にはほどよい距離感のコミュニティがあります。趣味でのつながりだったり、飲み屋でのつながりだったり、仕事ともプライベートとも少し離れて、緩く関わってつながれるコミュニティ。そしてそのコミュニティ通しが、また緩く輪になって、大きな横浜という街を形作っている感じ。そんな居心地の良さがまた、横浜のひとつの魅力だと思います。

そんな自分の趣味のひとつがアート鑑賞。自分で作品を作るわけではなく、昔はそれほどアートにも関心が無かったのです。ですが2001年の第一回目の横浜トリエンナーレをたまたま鑑賞し、なんだかよく理解は出来ないけれどどこか心揺さぶられる魅力に取りつかれ、以降、全国の美術館を巡ったり、首都圏近郊で数多く行われる展覧会を巡るのが楽しみのひとつになりました。

アート好きな自分にとって、横浜は素晴らしい環境です。美術館に限らず、黄金町界隈BankART市民ギャラリーなどなど、アートを気軽に楽しめる場所に溢れています。そして博物館においても…たとえば神奈川県立歴史博物館日本郵船歴史博物館横浜開港資料館横浜都市発展記念館横浜みなと博物館などなど、アート好き目線からも魅力的な展示が数多く行われていて、全部行き切ること自体が難しい。

いろいろ語りたいことはあふれているのですが、今日は特に、横浜美術館の、あまり大声では喧伝されない魅力の部分をお伝えしたい。

街のあちらこちらにアートを体感できる場所があり、イベントも豊富に行なわれている横浜。ですが、横浜で美術と言って思い浮かぶのは、やはり「横浜美術館」という人も多いでしょう。1989年に開催された横浜博覧会に合わせて開館した美術館は、グランドギャラリーの広大な吹き抜け空間が特徴的な丹下健三設計の美術館です。

横浜美術館で現在開催中の展覧会は、現代美術家、村上隆の膨大なコレクションの一部を紹介する「村上隆のスーパーフラット・コレクション-蕭白、魯山人からキーファーまで-」。日本の美術館でこんなに豊富なコレクションを持っているところはないのでは…という圧倒的な物量で迫るカーニバルのような展覧会ですが、横浜美術館で開催中なのは、この展覧会だけではないのです。企画展以外にも、横浜美術館コレクション展も開催しています。

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そもそも、企画展とコレクション展って?
いきなり、企画展とかコレクション展と言い出したけど、どういうこと? と疑問に思う方もいらっしゃることでしょう。企画展は、美術館が開催の何年も前からテーマを決めて企画をはじめて、多くの場合、開催する美術館以外から作品を借りてきて開催される展覧会。

一方でコレクション展、あるいは常設展は、その美術館が所有している作品を、有る程度テーマに沿って並べて見せてくれる展覧会。コレクションを所有している美術館は大抵、企画展とコレクション展を同時に開催しています。だけれど、日本で美術館に行くといえば「蔡國強展」とか「プーシキン美術館展」とか、企画展を指すことが多い。

企画展は多くの場合、ひとつの美術館だけでなく、たくさんの美術館から、あるいは個人のコレクションも借りてきて開催されます。だからそれだけお金も掛かる分、鑑覧料も高くなるし、権利の関係で写真撮影を禁止。一方でコレクション展は自分の館が所有するコレクションだけで構成できるので、鑑覧料も安いし、写真撮影ができる美術館も多いのです。

海外の美術館に行くと写真撮影ができるのに、日本だと撮影できないのは何故?と思う方、日本で見るのは企画展で、海外で見るのは大抵、コレクション展だからなんですね。海外でも企画展は撮影禁止の場合が多い。

あ、横浜美術館で今開催中の企画展「村上隆のスーパーフラット・コレクション」は例外的に展示風景の写真撮影は自由ですけどね!どんどん撮影しましょう。

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横浜美術館は、コレクション展が優れている美術館のひとつ
日本で、常に優良なコレクション展を開催している美術館…と言えば、東京では東京国立近代美術館東京都現代美術館国立西洋美術館がすごい。企画展よりコレクション展のほうが面白いことも多々ある。東京以外では愛知県美術館大阪市立美術館広島市現代美術館、私立なら川村記念美術館大原美術館…などなど、名前をあげていけばキリが無い。そんな中でも横浜美術館は、日本でも有数の❝コレクション展が面白い❞美術館です。

ピカソ、セザンヌをはじめ、19世紀から現代まで10,000点以上のコレクションを持つ横浜美術館は、横浜が日本の写真発祥の地であることにちなんで写真のコレクションは日本でも有数のもの。さらに、ダリ、マグリット、マックス・エルンスト、ポール・デルヴォーなどなど、シュルレアリスムのコレクションもとても優れている。

イサム・ノグチらの彫刻作品もあるし、川瀬巴水らの新版画もあるし、下村観山、今村紫紅、前田青邨らの日本画も秀作揃い。三溪園を作り上げた原三溪は日本画家のパトロンとしても有名だったので、その縁もあるのでしょう。さらに、最近も奈良美智の展覧会開催を機に作品を購入したり、若手の作家の作品も積極的に購入したり、コレクションの充実に余念がありません。

パトロンになった気持ちで、コレクションの保存、修復などを支援する「コレクション・フレンズ」という制度もあって、さまざまなイベントや交流会に参加できる特典があるのです。

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コレクション展だけならお得に見られる
横浜美術館では、コレクション展だけを見ることも可能です。コレクション展だけなら入館料は大人500円。通常、美術館の半分以上のスペースでコレクション展が展開されていて、こちらだけでもなかなかのボリュームがある。ただ、コレクションから作品を適当に選んで並べるだけでなく、例えば今なら『神話とヌード』と題してなかなか刺激的な企画が展開されていたり、見ごたえがあるのです。

もちろん、美術館では企画展も見て欲しい。企画展を見れば、そのチケットでそのままコレクション展も一緒に見ることができる。でも最近の企画展、なかなかお高い。安くても1,000円以上、『村上隆のスーパーフラット・コレクション』も入館料は1,500円で、それ以上になる展覧会も。そして企画展のボリュームに疲れて、コレクション展はちゃんと見なかったりするんですよね…もったいない!

気合を入れて企画展、もいいけれど、みなとみらいに買い物に行ったついでに、ふらりとコレクション展だけ見る、という楽しみはどうでしょう? ついでに11万冊もの美術専門書や資料をとりそろえる「美術情報センター」でちょっと休憩も。今なら、横浜に長く住んで活躍し、昨年亡くなった写真家、中平卓馬の写真集などを並べた特集コーナーなどがあります。 アートギャラリーで開催中の若手作家を紹介する展示『荒木悠展|複製神殿』も無料で見られます。

 

 荒木悠展
 
企画展を見に行く以外にも、楽しみ方がたくさんある横浜美術館。是非、気軽に足を運んでみてください! そして、美術館以外でも横浜のあちこちで美術を楽しむ、入り口にして欲しいです。


profile【案内人プロフィール】
在華坊(ZAIKABOU)
1978年生まれ。横浜、野毛在住。横浜の話題、美術館めぐり、出張の旅先での酒場めぐりなどを中心に、ブログ「日毎に敵と懶惰に戦う」を2004年から12年間更新中。