「中学生プロデューサー」がコンサートをつくった-子どもたちと大人たちにもたらした変化とは?

Posted : 2021.06.18
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この1年間、中学生たちの生活は制限や規制を受けることを余儀なくされた。感染症拡大の状況下で、中学校が休校になった時期もあり、学校行事が中止になる、部活動が制限されるなどと、新しい体験に出会ったり、緊密な人間関係を築いたり、何かをやり遂げて達成感を感じる機会がすっかり減少してしまった。10代前半の貴重な1年を行動制限の我慢を強いられて過ごした中学生たちが、今回、約2か月間の新しい体験をした。その様子をお知らせしよう。

大きく変わった「こどもの日コンサート」

5月5日、神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールにはたくさんの小学生と保護者の姿がみられた。2回開催された「こどもの日コンサート」を楽しんだのだ。横浜みなとみらいホールを代表する「こどもの日コンサート」は、コロナ禍で中止になった昨年を除き、2000年以来続く毎年恒例の人気コンサートだ。今年は横浜みなとみらいホールが長期休館中のため、神奈川県立青少年センターを会場に借りての開催となり、また感染症対策のために未就学児の入場できる回を開かずに小学生以上が対象となった。

こうした変化以外に、これまでの「こどもの日コンサート」とは違う様々な変化と進化が目に留まった。

まず入り口で渡されたのはグラフィックデザイナーのヤナキヒロシさんのイラストが中心に施されたクリアファイルだ。親子連れが「かわいいね」と喜びの声を上げる。

クリアファイルとプログラム

 

一緒に配布されたプログラムを開くと例年よりも分厚い8ページのボリュームがあり、今まで掲載されていなかった曲目紹介に紙面が割かれている。「オーケストラについてのクイズ」や最終ページには余白があしらわれて「メモ・感想欄」がある。さっそくクイズに見入る小学生の姿もあった。

岩村力さんの指揮、岩崎里衣さんの司会でコンサートの幕が開くと、岩崎さんの語りかけるような司会に会場が和み、後半の人気TVアニメ「呪術廻戦」の主題歌《廻廻奇譚》も演奏された「こどもの日コンサート2021メドレー」には大きな拍手が沸き起こる。2回の公演は盛況のうちに終演した。

こどもの日コンサート2021 岩村力(指揮)神奈川フィルハーモニー管弦楽団ほか出演 ©藤本史昭

 

その客席の中には中学3年生の中村柚季さん、中学2年生の三浦璃子さん、熊代千紘さんの姿もあった。コンサートの進行や観客の反応に気を配っている彼女たちこそ、このコンサートの「プロデューサー」なのだ。

今年の「こどもの日コンサート」は「中学生プロデューサー」によって企画・構成台本作り・プログラム製作・広報・運営がなされた。クリアファイルのアイデアや一部のイラストも、プログラムの工夫や曲目解説の執筆も、メドレーの選曲、司会の台本制作も、「中学生プロデューサー」の仕事の結実だった。クリアファイル裏面にはホールのロゴと並んで「中学生プロデューサー」のクレジットが入っている。プログラムの最後の「今日は来てくれてありがとう!」のお礼文上部にある「こどもの日コンサート2021 スタッフ」の中に「中学生プロデューサー」の文字も記されている。

当初の計画では当日のレセプショニスト(会場の案内やおもてなし)活動も行う予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、当日の活動はなくなり、客席で見守ることになってしまったのだ。当日の「おもてなし」ができなくなった代わりに、ホールロビーにはプロデューサーたちからの思いを綴ったメッセ―ジが掲出された。

©藤本史昭

 

「中学生プロデューサー」はどんな体験?

3月に発足してから約2か月の間、この当日のコンサートの成功に向けて準備をした「中学生プロデューサー」、まずは43人のうちの3人にコンサートを終えての感想を聞いてみた。

  
左:中村柚季さん 中:三浦璃子さん 右:熊代千紘さん ©藤本史昭

——コンサート本番が無事に終わり、プロデューサーとして今どのように感じていますか?またこの体験によって自分が変わったなと思うことはありますか?

中村柚季さん(広報チーム)
 「今日のコンサートは今までのどのコンサートよりも客席で緊張していました。お客様の反応が気になりましたが、工夫を盛り込んで製作したプログラムが好評だったようで嬉しかったです。お客様に喜んでもらうためにはたくさんのことを考えて準備しなくてはならないと知りました。台本作りの際には小学校4年生の弟の反応を思い浮かべながら、どうしたら伝わるセリフになるかを考えました。コンサートの裏方の仕事がこんなにいろいろ多くあることに驚きましたが、とても興味がわきました。ポジティブな意味で、将来就く仕事をどれにしようか迷っています」。

三浦璃子さん(広報チーム)
「ラジオに生出演してコンサートを告知したり、新聞記者から取材されて話すなど今までしたことのない体験が新鮮でした。自分の言葉が放送されたり、記事という形になって世に出たのが驚きでした。コンサートの宣伝や広報はこういうふうにするのだとわかりました。人と話すのが好きだと気づいたので、今後もプロデュースすることをやってみたいです。学校では吹奏楽部でコントラバスを弾いているので、演奏者としてコンサートに出演することはあったのですが、コンサートの制作側を体験できました。お客様にとってのいい演奏とは何かを考えて演奏に取り組んでいきます」。

熊代千紘さん(構成台本チーム)
「自分たちで書いた台本のセリフがプロの司会者の岩崎さんによって実現されて、 会場が手拍子で答えてくれるなど、反応が予想よりも大きくて手応えを感じました。
私も吹奏楽部でクラリネットとパーカッションを担当しています。率直に言って一番感動したのは本物のオーケストラを間近で見れたこと。プロフェッショナルのオーケストラは本当に上手くて、今までよりもいっそう憧れが膨らみました。そして、演奏者にもしも自分が将来なれたとしても、コンサートを成功させるためにはたくさんの技術が必要だとわかりました。学校の行事の実行委員に手を挙げてみようかと思っています。今回の経験が生かせると思います」。

 

「中学生プロデューサー」制度のねらいは

「中学生プロデューサー」はどんな経緯で始まったのだろうか。横浜みなとみらいホールは、2年ぶりに開催する「こどもの日コンサート」を“こどもたちによる、こどもたちのための”コンサートにしたいという思いから、演奏家やホールスタッフ、舞台スタッフとの関わりを通して次世代を育成することを目的に、中学生に公募を呼びかけた。当初20名ほどの参加者を見込んでいたところ、応募者はどんどん増え、43名が参加することになった。しかし本来ならば1月から活動を始める予定だったが、2度目の緊急事態宣言で開始できず、始動したのは3月27日、コンサートの本番まであと2か月と迫っていた。

結果として延期となった正式発足以前にも、先行された重大な活動があった。「こどもの日コンサート」演奏曲目のなかでも特色があり人気の「オリジナルメドレー」の選曲会議だ。編曲家に依頼をしなければならないため3月上旬時点で既に応募のあった14名が急きょオンライン会議に召集がされた。

選曲会議のオンライン会議 (提供:横浜みなとみらいホール)

 

活発な意見が交わされて、事前に中学生を対象に一般募集したリクエスト曲から候補曲が検討された。どんな曲が喜ばれるだろうか、小学生に向けた曲だけでいいのだろうか、と選曲のコンセプトについても議論があり、「子どもだけでなくファミリーで楽しめる曲を選ぶ」という方向性が導き出された。多数決をとる際には、自分が提案した楽曲のみに票を投じることなく、意見に耳を傾けて他の人の提案曲に票を入れたというメンバーもいた。

そうして選曲されたのは、《スターウォーズ》、《紅蓮華》、《香水》、《廻廻奇譚》、《四季より「春」》。幅広い時代とジャンルの5曲だった。

意外にも、これまでのメドレーに採用されることの多かったディズニー曲やジブリの曲などが選外となった。今の子どもの感覚に近い中学生ならではの意見の反映だろう。

「中学生プロデューサー」の活動にあたっては、まず横浜みなとみらいホール館長の新井鷗子さんや職員によるコンサートプログラムの組み立て方、企画立案や広報などコンサート制作にまつわる概論をオンライン・レクチャーで各自が受けた上で、ひとりひとりがコンサート実施企画書を作成して提出。企画書を考える際には「誰が・いつ・誰のために・どうして」をよく考えることが大事だと、ほんもののプロデューサーである新井さんからプロデューサーの心構えを説かれた。

「広報チーム」「プログラム製作チーム」「構成台本チーム」「レセプショニストチーム」の4つのチームに分かれ、それぞれの役割や作業のしかたを学びながら、コンサートの成功に向けての準備に入った。

©藤本史昭

 

3月27日の第1回中学生プロデューサーミーティングでは、実際に地域情報紙の「タウンニュース」の記者から取材を受けて実地に「広報」活動を体験した。

2回目のミーティングには講師にデザイナーのヤナキヒロシさんを迎えて、プログラム製作について学び、グループワークではどんなプログラムにするかを議論した。「世界を巡るというテーマをあらわすために地球儀をデザインしたらいいのでは?」「クイズ形式を取り入れたら子どもたちの関心をひくのでは?」「自分たち中学生プロデューサーの紹介コーナーを作りたい」など多くのアイデアが出た。
カメラマンの藤本史昭さんから「コンサートを伝える写真とは」について話を聞いたことも参考になったという。

©藤本史昭

 

4月10日の3回目のミーティングでは、「構成台本」の作り方を考えた。新井さんはテレビ番組「題名のない音楽会」などの構成台本を手がけてきた構成作家でもあるため、ポイントを教わるとともに、さっそくコンサートの演奏曲順を考えることに。テーマをしっかりと踏まえた上で、どの曲で始まるのが一番いいか、どの曲で終わるのがいいかなどを活発な意見交換をしながら、試行錯誤していた。

司会者が話す台本作りにも挑戦、観客をひきつけるセリフを考えるのは難しい課題だったようだ。

グループワークで活発な議論が交わされた。©藤本史昭

デザイナーのヤナキヒロシさん(左端)も議論に加わった。©藤本史昭

4月24日の4回目のプロデューサーミーティングでは、 「レセプショニスト講習」が開かれた。横浜みなとみらいホールのレセプショニスト (コンサート当日の会場受付・誘導・案内を担当する係)経験者4人の講師によって、おじぎの実践練習も。当日のレセプショニストの活動は見送られたが、「おもてなし」することの大切さは中学生たちの心にしっかりと沁みいったようだ。

©藤本史昭

 

こうして講習会や会議、オンラインミーティングで議論を重ねて、演奏曲順、選曲、台本制作、プログラム製作、広報活動など、「コンサートを成功させる」「お客様に満足して帰ってもらう」を目的に、一丸となって中学生プロデューサーたちは準備に奔走した。

今後の課題を考える

5月22日には、オンラインでプロデューサーミーティング「公演を振り返って」が実施された。

「隣の席のお父さんが泣いていたのが感動的だった。コンサートの力を感じた」
「メドレー曲に大きな拍手をもらい、お客様の反応をしっかりと感じることができて達成感が得られた」
「ひとりひとりが一生懸命考えたことが形になった。ひとりひとりが責任を感じながらやり遂げたからだと思う」
「部活動などが制限されるなか、プロフェッショナルな大人の方々と関わりが持てた貴重な機会だった」
「次回は未就学児も参加可能にしたい」

など、それぞれに感想や今後の課題を発表した。

「公演を振り返って」ミーティングの様子(5/22)(提供:横浜みなとみらいホール)

 

今回の「中学生プロデューサー」について横浜みなとみらいホール事業企画グループの菊地健一チーフプロデューサーは、

「期待以上の活躍ぶりで、柔軟な発想にわれわれスタッフもとても刺激を受けました。みんな自分の意見をしっかりと持っていて、議論や活動を通して成長を感じます」

と頰を緩める。しかし、と言葉を続けた。

「でも、プロデューサーとはなんだろうか、それをもう一度よく考えてみてほしい。自分が最初に書いた企画書に立ち返って反省すること、うまくいったことやよかったことに満足するのではなく、悪いところや改良点を見つけるのが仕事なんです。それを意識してもらえたらさらに貴重な体験になるでしょうね」

横浜みなとみらいホール 菊地健一チーフプロデューサー ©藤本史昭

 

「われわれにとっては若い世代の本音と直接に関われたこと、そして中学生プロデューサーにとっては芸術に関わるきっかけが作れたことが大きな成果です。大人たちも子どもたちと協働することの重要性を彼らと一緒に考えることから実感できました」

と手応えを語った。

横浜みなとみらいホールでは「中学生プロデューサー」制度を継続し、来年の「こどもの日コンサート」に向けて今後準備が進められる予定だ。「中学生プロデューサー」たちの一層の活躍が期待される。

©藤本史昭

 

取材・文 猪上杉子


【イベント概要】

「こどもの日コンサート2021」
日時:2021年5月5日(水)①13:00~14:00 ②16:30~17:30
会場:神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
出演者:岩村力(指揮)
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
【中学生ソリスト】荻原緋奈乃(Vn・1回目)、若生麻理奈(Vn・2回目)
赤い靴ジュニアコーラス、横浜少年少女合唱団 ※映像での共演
岩崎里衣(司会)

プログラム:
V.マッコイ(オリジナル編曲:岩井直溥/オーケストラ編曲:山下康介):アフリカン・シンフォニー
韓国民謡(編曲/山下康介):アリランより
源田俊一郎 編曲:ふるさとの四季より 「ふるさと」「春の小川」「村祭」「もみじ」「雪」 ♪
A.ボロディン:歌劇『イーゴリ公』より だったん人の踊り 
ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ第2番 イ長調 Op.21(1回目)★
ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ第1番 ニ長調 Op.4(2回目)★
J.ブラームス:ハンガリー舞曲 第5番
山下康介 編曲:こどもの日コンサート2021メドレー
「スターウォーズ」「紅蓮華」「香水」「廻廻奇譚」「四季より『春』」
米津玄師(編曲/山下康介):パプリカ ♪
※♪は合唱との共演曲、※★は中学生ソリストとの共演曲

主催:横浜みなとみらいホール(公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団)
共催:横浜赤レンガ倉庫1号館[公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団]
協力:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
後援:横浜市教育委員会