「創造都市横浜」は、ACY:アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)が企画・制作・運営していたウェブマガジンです。
2023年3月末に閉鎖されています。
創造都市横浜とは
横浜市は、文化芸術の創造性を生かした都市づくりに取り組んでいます。この取り組みは2004年から本格的にスタートしました。
開港当時から横浜の中心だった関内地区では、歴史的な西洋建築が姿を消し、オフィスビルの空室率が増加していました。このような文化・経済両面での活力低下を脱するため、横浜市は創造都市という新しい考え方に着目します。
文化芸術振興や経済振興といったソフト施策と、まちづくりなどのハード施策を一体的に進めることで、市民が誇れる都市として持続的に発展することを目指しているのです。
文化芸術と産業が融合した新しい都市モデル
創造都市は、文化芸術と産業が融合する新たな都市モデルを意味しています。この概念は1990年代以降、工業化社会から知識情報社会への移行に伴い、世界各地で注目されるようになりました。
都市が抱える経済や社会の課題に対して、文化や芸術の力で解決策を見出す取り組みが特徴です。横浜では、アーティストやクリエーターなど創造的な人材と企業・地域との協働を推進しています。
これにより創造的な産業の振興につなげ、新たなビジネス機会を創出する仕組みを構築しました。文化芸術の創造性を最大限に発揮することで、都市の新しい価値と魅力を生み出すことに成功しています。
横浜は、国内外から選ばれる都市として、この独自のモデルを実践し続けているのです。
横浜が創造都市を目指した理由と背景
横浜が創造都市を目指した背景には、都心臨海部の衰退という課題がありました。開港150周年を間近に控えた2004年当時、みなとみらい21地区が発展する一方で、関内地区などは活力を失いつつあったのです。
横浜らしい風景が薄れ、オフィスビルの空室率も増加していました。この状況を脱し、再び魅力を取り戻すために横浜市は行動を起こします。
横浜は1859年の開港以来、日本の近代化の窓口として海外の文化を受け入れてきた都市です。港を囲む歴史的建造物や独自の都市景観、長年の都市デザイン活動による実績があります。
これらの地域資源や特性を最大限に活用し、芸術や文化の持つ創造性をまちづくりに生かすことで、都市の新しい価値や魅力を生み出す創造都市施策が誕生しました。
創造界隈による地域の活性化
創造界隈の形成は、横浜の創造都市施策の中核を担っています。歴史的建造物や倉庫、空きオフィスなどを創造的活動の場に転用し、アーティストやクリエーターが創作・発表・滞在することで、まちの活性化を図る取り組みです。
2004年に公設民営の創造界隈拠点「BankART1929」事業がスタートして以来、東京芸術大学大学院映像研究科の誘致や、民間ビルでのクリエーター集積が進みました。
横浜市開港150周年・創造都市事業本部が実施した調査では、馬車道・日本大通地区の創造界隈形成における経済波及効果が約3年間で約120億円に達したことが明らかになっています。
創造界隈拠点は、アーティストやクリエーターが集い、創造的な活動の発信地となる場です。地域のにぎわいや国際的なイベント展開を通じて、都市の新しい価値と魅力を生み出す役割を果たしています。
創造都市横浜の主要な拠点と施設
横浜市内には、創造都市を支える多様な拠点が点在しています。これらの施設は、都心臨海部を中心に展開されているのが特徴です。
歴史的建造物や港湾施設、公共空間などを有効活用しながら、アーティストやクリエーターの活動を支援しています。各拠点は独自の特色を持ちながら、相互に連携することで創造的な界隈を形成しているのです。
BankARTや黄金町エリアマネジメントセンター、象の鼻テラスなど、それぞれの施設が横浜の文化芸術シーンを牽引しています。市民やアーティスト、NPOとの協働により、持続可能なまちづくりを実現している点も見逃せません。
BankARTが生み出すアートの発信基地
BankART1929は、横浜市が推進する文化芸術創造の実験プログラムです。2004年3月に実験事業としてスタートし、2006年度からは本格事業へと移行しました。
名称の由来は、当初の拠点だった旧第一銀行横浜支店と旧富士銀行横浜支店の2つの建物を活用したことから来ています。どちらも1929年に建てられた建物で、世界恐慌が始まりニューヨーク近代美術館が設立された記念すべき年にちなんでいるのです。
現在は、みなとみらい線新高島駅地下1階の「BankART Station」を中核施設として活動しています。年間650本以上の事業を展開し、アート、建築、パフォーミングアーツ、音楽など多様なジャンルに対応しているのが特徴です。
スタジオ、スクール、出版、カフェ、ブックショップなどの機能を備え、アーティストインスタジオやBankARTスクールなど、アーティストの育成にも力を注いでいます。
黄金町エリアマネジメントセンターの取り組み
黄金町エリアマネジメントセンターは、横浜市中区の初黄・日ノ出町地区を活動エリアとするNPO法人です。2009年に発足し、アートによるまちづくりを主軸とした日常的な活動を進めています。
この地区はかつて違法風俗店舗が立ち並んでいましたが、2005年に神奈川県警と横浜市による一斉摘発が実施されました。その後、空洞化したまちをアートの力で再生すべく、2008年に「黄金町バザール2008」が開催されます。
現在は、アーティスト・イン・レジデンスプログラムを実施し、年間常時50組程度のアーティストが滞在制作を行っています。これは日本国内では最大規模です。
地域・行政・警察・大学・アーティストなどと連携しながら、アートを通じて創造的で特色ある界隈の形成を進めています。毎年秋に開催される黄金町バザールは、街という日常の空間を舞台にした重要なイベントとなっているのです。
象の鼻テラスなど市民に開かれた創造空間
象の鼻テラスは、横浜市開港150周年事業として2009年6月2日に開館しました。横浜港発祥の地である象の鼻パーク内に建つ、アートスペースとカフェを併設したレストハウスです。
開港当時から異文化と日本文化が出会ってきた土地の歴史を受け継ぎ、さまざまな人や文化が出会い、つながり、新たな文化を生む場所を目指しています。アート、パフォーミングアーツ、音楽など多ジャンルの文化プログラムを随時開催しているのが特徴です。
併設された象の鼻カフェでは、文化プログラムに連動したメニューを提供しています。建築家の小泉雅生が設計した建物は、横浜三塔などのランドマークへの景観を阻害しないよう配慮され、芝生と一体化したデザインが採用されました。
誰もが自由に過ごせる無料休憩所として、市民に開かれた空間となっています。文化観光交流拠点として、横浜の創造都市施策を推進する重要な役割を担っているのです。
横浜トリエンナーレと文化芸術イベント
横浜市では、年間を通じて多彩な文化芸術イベントが開催されています。その中でも横浜トリエンナーレは、創造都市横浜を象徴する代表的なイベントです。
地域に根ざした黄金町バザールをはじめ、各創造界隈拠点で展開される多様なプログラムが、まち全体にアートの魅力を広げています。これらのイベントは、市民が気軽に芸術文化に触れる機会を創出しているのです。
国際的な現代アートから地域密着型の催しまで、幅広い層が楽しめる環境が整備されています。文化芸術創造都市としての横浜の魅力を、国内外に発信し続けているのです。
3年に1度開催される現代アートの国際展
横浜トリエンナーレは、3年に一度開催される現代アートの国際展です。2001年に第1回展を開催して以来、国内200を数える芸術祭の中でも長い歴史を誇ります。
毎回、国際的に活躍するアーティスティック・ディレクターを招き、世界のアーティストたちの最新の作品を紹介しているのが特徴です。2024年3月に開催された第8回展では、93組のアーティストが参加し、そのうち32組が日本初出展となりました。
横浜美術館を中心に、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKOなど横浜市内各所が会場となります。文化芸術創造都市・横浜を象徴するプロジェクトとして、創造都市施策のリーディングプロジェクトに位置づけられているのです。
多様性を受け入れる心豊かな社会の形成に寄与するとともに、創造界隈拠点をはじめ横浜ならではのまちの力と一体となって開催されることで、まち全体で祝祭性を創出しています。
黄金町バザールなど地域に根ざした催し
黄金町バザールは、2008年から毎年秋に開催されているアートフェスティバルです。横浜市中区黄金町エリアでアートによるまちの再生に取り組む、NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターが主催しています。
街という日常の空間を舞台に、国内外のアーティスト・キュレーターを招聘し、若手クリエイターの制作と作品展示を行っているのが特徴です。京急線日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下スタジオや周辺のスタジオ、屋外スペースなど、まち全体を会場として活用しています。
2024年には新たな取り組みとして、京急百貨店とコラボして上大岡地区でも開催されました。今後は複数拠点での開催を目指しているのです。
会期中は延べ3万人以上が来場し、アートを通じた地域のにぎわい創出に貢献しています。横浜トリエンナーレとも連携し、地域に根ざした文化芸術活動として定着しているのです。
年間を通して楽しめる芸術プログラム
横浜では、横浜トリエンナーレや黄金町バザール以外にも、年間を通じて多様な芸術プログラムが展開されています。各創造界隈拠点が独自に企画するイベントや展覧会が随時開催されているのです。
象の鼻テラスでは、アート、パフォーミングアーツ、音楽など多ジャンルの文化プログラムを定期的に実施しています。BankART1929では年間650本以上の事業を展開し、展覧会、ワークショップ、スクールなど多彩な活動を提供しているのが特徴です。
スマートイルミネーション横浜は、LED照明などの省エネルギー技術を活用した夜景創造のアートイベントとして、臨海部で開催されています。横浜の夜景に幻想的な光のアートを加える取り組みです。
これらのプログラムは、市民が日常的に芸術文化に触れる機会を創出しています。誰もが気軽にアートに出会える環境が、横浜の創造都市としての魅力を支えているのです。
アーティストやクリエーターへの支援
横浜市では、才能あるアーティストやクリエーターが制作活動できる基盤を整えています。横浜から世界に羽ばたく環境づくりを推進することが、創造都市施策の重要な柱です。
アーツコミッション・ヨコハマを中心とした総合的な支援体制により、創造活動を行う人々をサポートしています。制作スタジオの提供から助成制度、相談窓口まで、多様な支援メニューが用意されているのです。
これらの取り組みにより、横浜には国内外から多くのアーティストやクリエーターが集まるようになりました。創造的な人材と企業・地域との協働も進んでいます。
アーツコミッション・ヨコハマの役割
アーツコミッション・ヨコハマは、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団が運営する中間支援プログラムです。2007年7月から活動を開始し、芸術文化と社会を横断的に繋いでいく役割を担っています。
横浜市の文化芸術創造都市施策の実現に向け、都心臨海部におけるアーティスト、クリエーター、企業、行政、大学、NPO、非営利団体など、創造の担い手が活動しやすい環境づくりを推進しているのです。
アーティスト・クリエーターからの相談窓口として、活動支援や情報提供を行っています。ワンストップ相談窓口では、創造都市政策や横浜での活動について、誰もが気軽に相談できる体制が整っているのが特徴です。
横浜から世界へ羽ばたく新進アーティストを育成するため、キャリア形成支援助成も実施しています。横浜市クリエイターデータベースの運営など、情報発信にも力を入れているのです。
制作スタジオと滞在制作の環境
横浜では、アーティストが地域に滞在し作品を制作する「アーティスト・イン・レジデンス」が積極的に取り組まれています。市内には、AIRプログラムを実施する拠点が複数整備されているのです。
黄金町エリアマネジメントセンターでは、年間常時50組程度のアーティストが滞在制作を行っています。横浜市が借り上げた元違法風俗店だった空き店舗をスタジオとして活用し、まちと一体化した環境での制作が可能です。
約1年の長期プログラムと約3ヶ月の短期プログラムがあり、国内外のアーティストや工芸家、デザイナー、建築家など、さまざまな分野で活動する人を対象としています。
BankART1929でも、アーティストに創作環境を低廉で提供する取り組みを実施しています。現在地域に滞在制作に臨む環境が育まれ、世界の諸地域との連携のもと、アーティストが横浜から海外へ派遣されるプログラムも展開されているのです。
創造活動を支える助成制度と相談窓口
アーツコミッション・ヨコハマでは、アーティストやクリエーターの創造活動を支える多様な助成制度を用意しています。次世代を担う若手アーティストのキャリア形成を支援する「アーティスト・フェローシップ助成」が代表的です。
この助成制度は2016年度から実施されており、横浜から世界に芸術文化を発信する39歳以下の美術、舞台芸術分野のアーティストを対象に年間の活動を支援しています。選考は専門家からなる審査会により、書類および面談で行われるのです。
クリエイターのための事務所等開設支援助成も実施されています。新たに関内・関外地区に事務所を開設する横浜市外のクリエイティブ企業の移転を支援する制度です。
相談窓口では、創造都市政策や横浜での活動について、1回45分程度の打合せを1回から数回、最大2か月程度かけて対応しています。広報支援として、チラシ等広報物の配架、WEBマガジンなど財団が持つ広報ツールの活用も可能です。