黄金町エリアマネジメントセンターと街の未来 ——「創造都市横浜」の担い手たち Vol.3

Posted : 2015.02.19
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『アートによるまちづくり』で知られる黄金町エリアは、ほんの10年前には多くの違法飲食店が営業していて、治安の悪化が深刻だった地域だ。この街で『黄金町バザール』をはじめとするアートイベントや、アーティスト・イン・レジデンスなどを展開するNPO法人黄金町エリアマネジメントセンター。設立から6年、これからの展望を聞いた。
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黄金町芸術センター(仮) かいだん広場

 

横浜はアートとの親和性の高い街。アーティストやクリエーターが作品を発表する機会を多彩に提供し、彼らの創造性を育てる環境も充実している。そんな「創造都市・横浜」を支えてきた数々の「場所」の、これまでの道程とこれからについて探る全6回のシリーズ。
今回は「NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター」の事務局長で、「黄金町バザール」のディレクターを務める山野真悟さんにお話しいただいた。


 【NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターの基本データ】

『アートによるまちづくり』を推進するNPO団体。地域住民や警察、行政、企業、大学と連携し、「黄金町バザール」をはじめとするアートイベントに加えて、まちにアーティストを誘致するアーティスト・イン・レジデンス、地域に開かれた学びと交流の場「黄金町芸術学校」など、日常的なまちづくりに関わる活動を行っている。2013年には「認定NPO法人」となった。


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NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター 事務局長/黄金町バザール ディレクターの山野真悟さん

 

福岡・天神から、横浜・黄金町へ――

「初めて黄金町に来たのは、2007年の終わりごろでした。2008年の横浜トリエンナーレに合わせて黄金町で開催する展覧会のディレクターをやらないかと、横浜市から声をかけていただいたんです。それまで福岡で『ミュージアム・シティ・天神』などの街中で展開する美術展を手掛けていましたが、2005年の横浜トリエンナーレでキュレーターを務めたことが直接のきっかけです。

山野真悟キュレーション キュレーターマン(タイ)「横浜トリエンナーレ」(2005年)

山野真悟キュレーション キュレーターマン(タイ)「横浜トリエンナーレ」(2005年)

福岡出身ということもあり、黄金町のことは詳しくは知りませんでした。ファーストインプレッションは『ディープな街』。当時、2005年に神奈川県警が違法飲食店の一斉摘発『バイバイ作戦』を実施したあとで、街の中には人がまったく歩いていなかった。ゴミも多くて……。このエリアは、戦後、違法飲食店が立ち並ぶ青線地帯だったので、横浜の人たちにとってはマイナスのイメージで知られていた。2008年の横浜トリエンナーレは手堅い感じの企画展になりそうだったので、同じ“アート”で仕掛けるなら、黄金町では逆に枠にはまらないようなものをつくってコントラストを出せば、面白くなるんじゃないかと考えました。

 

『黄金町バザール』の誕生

「2008年の展覧会で目標にしたのが、『将来の街のイメージをつくること』でした。手法としては、ワークショップを毎日やったり、会期中にオープンしている期間限定の「お店」を誘致したりしたんです。カフェなどの飲食店や、ファッションブランドISSEI MIYAKEの店舗、アーティストが焼き物の作品を販売する骨董品屋さんっぽいお店などがありました。

ウィット・ピムカンチャナポン《フルーツ》 「黄金町バザール」(2008年)

ウィット・ピムカンチャナポン《フルーツ》 「黄金町バザール」(2008年)

展覧会の名称を考えるときに『アート』という言葉を入れるかどうか、じつはかなり悩んだんです。自分たちがやろうとしていたことは街のイメージをつくることだったので、アートの展覧会でありながらも、できるだけ展覧会っぽく見えないものにしようと意識していたとも言える。最終的に『アート』という言葉は、タイトルには入りませんでした。」

 

 

 

 

“エリア”を“マネジメント”するNPOとしてのミッション

「地域の動きとしては、町内会やPTAなどから成る初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会という団体が2003年に設立されて、活動をはじめていました。一方で、創造都市施策を進める横浜市には、都市整備局が借り上げた物件(違法飲食店跡)を活用する方法として、このエリアを創造界隈拠点に適用しようというストーリーがあった。これらの動きが伏線となり、2008年の展覧会が終わる前に、NPOを作ろうという話が出てきました。
※横浜市 創造都市の取り組み「創造界隈の形成」http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/soutoshi/project/vicinity/

会期終了前に、地元の方たちから『このまま黄金町に残ってくれないか』と依頼をいただいたんです。それでNPOを立ち上げて、私もこの街に残ることになりました。NPOの名前を決める際にもまた悩みましたね。『黄金町バザール』というイベントの名称をそのままNPO名にする案と、現在の『黄金町エリアマネジメントセンター』の2つがあった。

このNPOのミッションを考えたとき、一番大きかったのはアートではなくて、街の「治安・防犯」を担っていくということでした。そして先々の目標としては、経済的な再生に向けて取り組んでいくということ。それらのミッションのためのひとつの手法として、アートがある――。そのような考えのもと、NPO名には『エリアマネジメント』という言葉を使うことになりました。」

 

積み上げてきたアジアのアートシーンとの交流

「エリアマネジメントセンターの活動の中で一番力を入れていることのひとつに、アジア圏のアートシーンとの交流が挙げられます。私が活動していた福岡は、80年代から90年代ごろ、『アジアの現代美術』を最初に紹介した都市でもありました。そのネットワークとともに、福岡から横浜へとやってきたわけです。また黄金町は外国人も多く居住しており、もともと多国籍なエリアでもありました。

アジアにおける芸術文化交流シンポジウム『迂回路』特別講演会「アジアの断片」より 

アジアにおける芸術文化交流シンポジウム『迂回路』 「黄金町バザール」(2014年)

黄金町バザールの中では、アジア各国の『拠点』のディレクターが集まり、顔を合わせてシンポジウムなどをやっています。アーティスト・イン・レジデンスの事業も継続していて、アジアのアーティストが来日するだけでなく、日本のアーティストがアジアの国でレジデンスをする事例も増えてきた。このような交流の中で、アーティストたちが国境を越えて、個人的なつながりをつくっているんですよ。私たちがコーディネートしなくても、黄金町のアーティストたちが自主的に、友人を頼ってアジアの国々へ遊びに行くようになったことはひとつの成果と言えるかもしれません。

 

※黄金町エリアマネジメントセンターがネットワークを持つアジアの拠点例
KUNCI Cultural Studies Center(インドネシア・ジョグジャカルタ)、98B COLLABoratory(フィリピン・マニラ)、国立台北芸術大学關渡美術館(台湾・台北)、Zero Station(ベトナム・ホーチミン)ほか

 

6年間の活動を経て――街の将来像を考えるバザールへ

「『黄金町バザール』は、当初立ち上げたときは『展覧会』のように見えないことを意識してやっていたんですけど、長年続けてきて、最近は『展覧会』らしいものになってきていました。見に来る人たちの期待もあるかもしれませんが、アーティストたち自身にも『完成した作品』を発表したいという欲求がある。

この辺でもう一度、最初の目的としてあった『街の将来像を考える機会としてのバザール』に立ち返りたいと考えています。このエリアをこうしていきたい、という想いを、アーティストではなく街の人に発表してもらってもいい。ここ数年『黄金町バザール』では公募の枠組みで世界中から作品を募集していたんですが、今度は若い建築家に空き物件のリノベーションを提案してもらう公募プログラムがあっても面白いだろうと思っています。

このエリアには、私たちのNPOがまだ借り上げることができていない違法飲食店跡が、100店舗近く残っているんですよ。まだまだ人が“歩きにくい”と感じる場所もある。そういう場所を、どうやって開いていくか。『街の動線』を含めた設計を、建築家の人たちと一緒に考えたいですね。例えば横浜トリエンナーレ規模の大型国際展であれば、会場構成には必ず建築家が関わりますよね。『箱』ではなくて『街』の場合でも、そういった視点が有効ではないか。

1年に一回のイベントという枠組みではなく、3年後の次のトリエンナーレを見据えて連続性が感じられるような、長期的なスパンで『黄金町バザール』を考えていきたいと思っています。ちょっと欲張りですが、『まちづくり』の要素も視野に入れて仕掛けていきたいですね。このエリアをトリエンナーレの会場のひとつとして見せることも、提案しているところです。

『仮想のコミュニティ・アジア―黄金町バザール2014』オープニング・パーティーの様子

『仮想のコミュニティ・アジア』オープニング・パーティーの様子 「黄金町バザール」(2014年)

 

アーティストへの期待

「かつて違法飲食店だった店舗は、狭くて水回りにも難があって、なかなか使いにくい建物なんですよ。このような場所をうまく使える人は限られている。家賃が安いことがメリットになるアーティストたちを、このエリアに集積しようとした街の戦略は間違っていなかったと思っています。アーティストが集まっていれば、若手のアーティストが先輩から影響や刺激を受けて成長することもできる。

じつはこのエリアは、ここ最近人口が増えてきているんですよ。それはマンションが増えたからなんです。マンションが増えた要因のひとつとして、街のイメージが変わってきたことが挙げられるのではないか。この街に住みたいと思ってくれるような魅力を、アーティストに作っていってもらいたい。今後このまま活動が続けば、街の一部分として、アーティストやスタジオが残っていくでしょう。その時に、アーティストにもこの街をこれからどうしていくかを一緒に考えるメンバーになってもらいたいと思っています。」

オープニング (3)

『仮想のコミュニティ・アジア』オープニング・パーティーの様子 「黄金町バザール」(2014年)

 


【NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターへのアクセス】
住所: 〒231-0066 横浜市中区日ノ出町2-158
最寄り駅:京急線「日ノ出町」駅
お問い合わせ:045-261-5467
http://www.koganecho.net/

●PROFILE
やまのしんご
1950年福岡県生まれ。2005年『横浜トリエンナーレ2005』でキュレーターに就任。2008年より活動拠点を横浜に移し、『黄金町バザール』ディレクターに就任。2009年黄金町エリアマネジメントセンター事務局長に就任、現在に至る。
黄金町バザール ディレクター、黄金町エリアマネジメントセンター 事務局長。