ヨコハマローズクリームのデザインにみる横浜の風景

Posted : 2013.12.20
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横浜の市の花、バラ。バラの効用を生かした「ヨコハマローズクリーム」が誕生した。この商品を包むパッケージは、横浜のイラストレーターとデザイナーによるもの。横浜の魅力を存分に伝える商品だ。バラの香り漂う、港の見える丘公園の一角の喫茶店で、できあがったばかりのパッケージを手にとりながら、商品開発とデザインワークに込めたそれぞれの思いを聞いた。

 

デザイナーとの意外な出会い

保湿用化粧品の「ヨコハマローズクリーム」が完成した。やさしい手触りの紙製の円筒のパッケージには、ブルーのインクで刷られた横浜の風景と、赤いインクで描かれたバラのイラストが 周囲にぐるりと描かれている。どこか懐かしい気分を呼び覚ますようなイラストだ。イラストを描いたのは、横浜在住のイラストレーター、橋本聡さん。アート・ディレクションを担当したのは、やはり横浜在住のデザイナー、小山飛鳥さんだ。完成したパッケージを手に取る二人は、満足気な表情だ。

どのようにして、このパッケージデザインは生まれたのか? 商品を世に送り出すとき、開発者や製作者の思いを商品パッケージにどのように表現するかは、企業側にとっては命運のかかった重要なポイントだろう。誰にイメージづくりを託すかも重大な決断であるにちがいない。この「ヨコハマローズクリーム」の場合は意外なきっかけからデザイナーの選択は始まった。

横浜のカフェバーの常連だった横浜製薬株式会社代表の石川克寿さんは、そのオーナーの結婚式に出席した際、配られた席次表のグラフィック・デザインに釘付けとなった。同じく常連で以前から顔見知りの小山飛鳥さんのデザインだったのだ。ちょうど自社の化粧品の新製品のパッケージのデザイナーを探していた石川さんは、小山さんに依頼することを即座に決断したのだという。そしてもう一つの新商品の「ヨコハマローズクリーム」のデザインも再び小山さんに任せることに何の躊躇もなかった。



横浜の名物にしたい

「ヨコハマローズクリーム」は石川さんの思いのこもった商品だ。横浜にある会社として、横浜のイメージと結びついた、横浜を代表するような化粧品をつくるのが石川さんの念願だったのだ。 横浜市の花がバラであることは、横浜市民にも案外知られていないかもしれない。平成元年、横浜のシンボルとして横浜市民によって制定された。その理由は、西洋バラの多くは開港間もない横浜から上陸して日本に広がったといわれることから。そこに横浜らしい商品を探していた石川さんが目を付けたのは、石川さんが生粋の「浜っ子」ではなく、千葉県生まれの「ヨソ者」だからこその視点かもしれない。

バラの香りにはリラックス効果があるとされ、バラのエキスが持つ抗酸化作用は、美容面ではアンチエイジング効果が期待できるという。石川さんは、そのバラの効用を最大限に生かした保湿クリームを作りたいと、研究開発を重ね、ついに自然のバラのエキス分をふんだんに含む保湿クリームを完成させた。

「横浜の名物として、お土産として愛されてほしいと願っているんです。化粧品として優れているのはもちろんですが、横浜と言えば思い出してもらいたいですし、横浜に来たら買って帰ろうと思ってもらえるくらいの人気商品になってほしいですね」と石川さん。

横浜らしさをデザインする

お土産として愛される商品となるためには、人の心を強く捉えるデザインが決め手になる。

デザインのディレクションを任された小山飛鳥さんは、横浜らしさをどうデザインするかの模索を始めた。化粧品のパッケージデザインは小山さんにとっては初めての分野だった。化粧品は消費者に信頼性を持ってもらうことが必要なために、ヒット商品のデザインに倣う傾向があると気づいたが、「そこに一石を投じたいという思いからスタートしました」と小山さんは振り返る。あえて化粧品のパッケージデザインに新たな挑戦を行なったのだ。

 画一的な化粧品のデザインを超えるデザインを模索して、様々なアイデアを出したなかで、横浜の景色がイラストで入っているデザインが石川さんに採用された。そこで小山さんは、イラストレーターの力を借りなければと、以前から敬愛していた橋本聡さんにイラストを依頼したのだ。イラストレーターとして幅広く活躍する橋本さんだが、やはり化粧品のパッケージにイラストを描くのは初めてだった。というよりも、橋本さんのポリシーとして、女性向けと限定した商品の仕事はこれまでは断ってきたのだという。そこを小山さんに熱心に説得され、引き受けることとなった。その決心の決め手は、「同じビルで仕事しているよしみですね」と橋本さんは笑う。

 
小山さんと橋本さんは二人とも、横浜・山下公園や大桟橋に近い、古いビルのなかに仕事場を構えているのだ。そして二人とも横浜生まれの横浜育ち。イメージ作りにあたって二人がまず最初に行なったのは、時間をかけて話し合うことだった。

「外から見る横浜 のイメージと、横浜にいる人間が思う横浜の実像にはズレがあるのではないだろうか、と1時間も話しました。橋本さんの横浜という街に対する表層的ではない的確な捉え方を知って、きっと素晴らしいイラストになるだろうと確信しました」と小山さん。 

できあがった橋本さんのイラストに小山さんは驚嘆する。横浜のいわゆる名所の建物をたどる構図を持ったイラストの中心に「赤い靴の女の子」が描かれていたからだ。

「人物のモチーフが入ることで、見慣れた風景を彼女の目を通して見る新鮮さが生まれていました」と小山さんが言うと、橋本さんは「誰もが思い浮かべる横浜らしい風景を描きながらも、そこに少しだけ自分の観点も加味してみたんです」と照れる。

このイラストは石川さんのイメージとも合致して、さっそくパッケージデザインの作業へと進んだ。そこで小山さんがこだわったのは外容器を紙製の筒にすることだった。当初はコストの点から通常の直方体の箱が予定されていたが、橋本さんのイラストの印象を効果的にデザインするにはどうしても紙筒にしたほうが生きると思ったのだ。そしてそのデザイナーの希望は受け入れられた。印刷インクのブルーの色味にもこだわった。少し懐かしい横浜を感じるようなブルーを探し当てた。
イラストレーターとデザイナーのこだわりのこもったパッケージは、企業にはどう受け止められたのだろう。
「商品開発側の思いを、お二人がここまで実現してくれました。これだけ可愛いパッケージなら、たとえ中身を使い切っても他の入れ物として愛用してくれるのではないかと思います。エコロジカルな観点からも、長く愛されるパッケージを完成できたことは、企業としては嬉しいことですね」と石川さんも満面の笑みを浮かべた。

横浜で創造すること

横浜のクリエーターたちが生み出した横浜の風景の新しい表現。では、横浜で仕事をする利点はどこにあるのだろうか。

「東京と横浜なんてすぐ近くですが、なぜか横浜に住みたい、横浜で仕事をしたい、とどうしても思わせる。これは引力のようなものが発生しているとしか思えないですよね」というのは小山さん。

「東京はやたらに多種多様なものがあって、それが当たり前。でも横浜にいるとちょうどいい距離感をもって客観的にそれらを眺めることができる。 ほどよく田舎者でいられるのがいいところ」と橋本さん。

二人の仕事場のある歴史的建造物の居心地もまた発想に作用しているようだ。
「横浜の山下町にあるあの古いビル、と言っただけで横浜の人なら共通の感慨を抱いてくれて、自分のアピールのひとつになるんです。横浜を愛する人同士だったら、いつも仕事は円滑に進んでいきます」
二人は大きく頷いた。

 


Profile
橋本聡(はしもと・さとし)

イラストレーター。1971年横浜生まれ。桑沢デザイン研究所写真研究科卒業。1995年よりフリーランス。国内外の雑誌、書籍、広告などでイラストを多数制作。温泉、バイク、ビールをこよなく愛する。


Profile
小山飛鳥(こやま・あすか)

デザイナー。 1981年横浜生まれ横浜育ち。青山学院経済学部卒業。2009年4月アスカコヤマックス株式会社を立ち上げる。横浜を拠点に、デザイン/映像編集/企画/ディスプレイなど、様々な分野の業務を行なう。【湘南国際マラソン公式ロゴデザイン】【アロマテラピーフェアatプランタン銀座エントランスディスプレイ】【横浜市観光PRムービー / One day of YOKOHAMA】【横浜ジャズプロムナードPRムービー】企画【古い建物の響きat横浜市開港記念会館LIVE :コトリンゴwith 金子飛鳥ストリングス】【廃校に泊まろう。】【Dancemos!!~na praia de Verao~】などを手がける。


 

〈Yokohama Rose Cream〉
保湿オールインワンゲル
80g / ¥3,990
インターネットにて発売中
http://www.yokohamaseiyaku.co.jp

 


 
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