「やさしさ」は伝播する。LITTLE ARTISTS LEAGUEの生み出す、表現の場とコミュニティ

Posted : 2020.12.25
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異なる文化を背景に持った子どもたちが、自由に表現できる場を、という思いからスタートした、バイリンガルの母親によるアートチーム「LITTLE ARTISTS LEAGUE(以下、リトル・アーティスト・リーグ)」。2016年より活動を開始し、ワークショップを中心に各地でプロジェクトを展開してきた。2020年はクリエイティブ・インクルージョン活動助成に採択された新たなプロジェクト「やさしさの花」を始動。オンラインを中心にさまざまな子どもが参加し、横浜市立青木小学校とのコラボレーションも各種メディアで取り上げられ話題となっている。リトル・アーティスト・リーグを立ち上げた望月実音子(もちづき・みおこ)さんとルミコ・ハーモニーさんに、設立の経緯や活動への思いを伺った。

LITTLE ARTISTS LEAGUE(リトル・アーティスト・リーグ)の望月実音子さん(左)とルミコ・ハーモニーさん(右)。2020年8月には、環境問題をテーマにマスクをアートにするフランス発祥のプロジェクト「MASKBOOK」とパートナーシップを組み、横浜トリエンナーレの応援プログラムとして「MASKBOOK」のオンラインプロジェクトを行った。

 

日本のコミュニティで生きづらさを感じる親と子に、アートを

ーーリトル・アーティスト・リーグはどのような活動でしょうか? これまでの経緯を教えてください。

望月実音子(以下、望月):日本で生活しながらも海外にルーツを持ち、日本文化とは異なる環境で育つ子どもたちはサードカルチャーキッズと呼ばれたりもしますが、そうした子どもたちが自由に表現できる場をつくりたいと思ったことがきっかけでした。月に一度のアートワークショップを続けていて、いまは25カ国ほどの多様な国籍の親子が参加するコミュニティに発展しました。私もルミコさんも国際結婚をしてミックスカルチャーの家庭を持ちますが、両親ともにウクライナ人だったり、韓国人と日本人のハーフだったり、タイ系カダナ人と日本人のハーフだったり、多様な背景を持った家族がいます。日本のなかではマイノリティで疎外感を感じていますし、つらい思いをすることもある。そういう子どもたちに、アートを通して表現する面白さと、「これもありなんだ」と多様性を受け入れる寛容さを育んでいけたらというのが根幹にあります。

望月実音子さん

 

ルミコ・ハーモニー(以下、ハーモニー):月に一度のマンスリーワークショップは多国籍の知人と行っていましたが、続けるなかで日本人の親子からも「参加したい」という声が多く出てきました。日本語が増えることで子どもたちがまた疎外感を感じるかもしれないのでマンスリーワークショップは継続しながら、日本人の親子でもグローバルな考え方や文化に触れていただける機会をつくるためにあるときから象の鼻テラスで、誰でも参加できるバイリンガルのワークショップを始めました。

(写真)「モネの蓮池を作ろう」(象の鼻テラス、2018年) 

 

——ワークショップではどのようなことを大事にしているのでしょうか。

望月:私たちのワークショップでは、毎回アーティストやテーマを絞って行っています。例えば「ゴッホの星月夜を描こう」だったり、「モネの蓮池」をテーマにしたり、だるまに絵付けをしたり。

ハーモニー:「自由に描いて」というスタイルだとなかなか描けないこともあるので、毎回アイデアを発想できるきっかけをつくっています。まずアーティストや美術作品を紹介し、「こんな多様な考え方や表現があるんだ」と感じてもらってから、作品づくりに入る。そこでは新しい表現手法に取り組めて、かつ作品として完成できる工夫をしています。家に帰って飾れる形にすることで、自己肯定感も増し、「今度はこれをやってみたい」と、次に進む力になると考えています。

望月:そして、最後にショータイムを設けています。自分の作品を言葉に置き換えて発表する。3歳から小学校高学年と幅広い年齢 の子どもが集まるので、自分の言葉で発表してそれを受け入れてもらう、という場づくりも大事にしています。日本の美術館は、静かにしなければいけない雰囲気もあり、子どもが訪れる場所としてはまだハードルが高いですよね。でも、一度ワークショップで触れたアーティストの展覧会は見にいきやすいかもしれません。アートに近い場所をつくることが大事かなと思っています。

ハーモニー:それからミュージアムツアーをしたこともあります。トレジャーマップ(宝の地図)をつくって、子どもの興味をひく仕掛けを用意しました。「自由に見てね」といっても「つまらない」となってしまうので、まずは興味を持ってもらうこと。そこからタイトルはなんだろう、どんな作品なんだろう、と好奇心を広げてもらいます。

ルミコ・ハーモニーさん

 

リトル・アーティスト・リーグのはじまり

ーープログラムの制作や運営にはスキルが必要だと思いますが、お二人の背景や出会いについて教えてください。

望月:私は、アメリカ・マサチューセッツ州立美術大学でファッションを学んだのち、ニューヨークで10年ほどアパレルデザインや舞台衣装の仕事をしていました。そうしたことから、リトル・アーティスト・リーグではグラフィックやビジュアル周りは私が担当しています。中高時代にヨーロッパで美術教育を受けたこともあり、幼い頃から将来の夢はアーティストになることでした。

ハーモニー:私は新卒で大手玩具メーカーに入社し、新規事業を立ち上げたり、絵本事業のプロデューサーとして原画展やプロジェクトを推進したりしていました。その傍ら、自分がつくる側になってみよう、と絵を描いたり。その頃、フィンランド人の夫と結婚して子どもが生まれました。夫はドイツ系のフィンランド人だけれどアメリカに住んだこともあって家庭内が急にダイバーシティになったんですよね。私は美大を卒業したわけでもなく、海外の文化もアートも素人なので、少し引いた視点から「こうしたらもっといろんな人に興味を持ってもらえるかも」と意見が言えるのかもしれません。

 

ーーお二人の出会いが良かったのですね。

ハーモニー:二人とも同じ場所にいるのに、見え方も感じ方も違うことがあります。ないものを持ち合っているんですよね。それがうまく合致して、お互いの良さが出るチームになったんだと思います。

望月:私が「こういうものをつくりたい」というと、ルミコさんがいろんな人が興味を持つような仕掛けを考えてくれる。そしてネットワークが広いので、人とつながって、プロジェクトを進めてくれるのです。

ハーモニー:どんな見せ方にすると受けるのか、ビジネスとして回っていくか、というスキルは玩具メーカーで鍛えられました。ですが、ついコストや一般性を考えるとポップになりすぎてしまうので、望月さんのこだわりが必要で。二人のバランスが大事です。

*「やさしさの花」より

 

ーーどこで出会われたのですか。

望月:友人の紹介で知り合って、そのあと会う機会はなかったのですがSNSをフォローしていました。ルミコさんのSNSをみていたら「面白い人だな」と。それで「こういうことを始めたいんだけど一緒にやらない?」と誘いました。

ハーモニー:すぐに「やろう!」と(笑)。そのときはもう一人メンバーがいて、3家族でスタートしたのですよね。

望月:もう一人のメンバーは上海に引っ越してしまいましたが、年々メンバーは増えています。みんなで一緒に子育てをしているような。それだけこのコミュニティが大事になっています。というのも、子どもだけではなく、外国人の親をすくい上げる場が日本にはあまりなくて。学校は配布物が多いですがすべて日本語で書いてあるので、とても苦労している外国人の母親もたくさんいます。差別的な経験をすることもあり、日本で外国人として子育てすることに苦労している母親をたくさん見てきました。その境遇を理解し合えるコミュニティは重要です。

ハーモニー:イベントも英語で広報されているものは少ないし、見つけられない。例えば今年のことでいえば持続化給付金一つとっても、書類が日本語ですので苦労しています。でもこうしたコミュニティにいると、いろいろな情報が入るし、共有できるのですよね。

*「やさしさの花」より

 

違いを受け入れる「やさしさ」を社会全体で育んでいきたい

ーー今年はコロナ禍でリアルイベントの開催は難しいなか、オンラインで「やさしさの花」のプロジェクトをされていて、テレビや新聞など複数のメディアにも取り上げられていました。

望月:新型コロナウイルス感染症によって大きく感じたのは、世界全体の不安と大きな変化に対して、今感じていることを表現に変換しないといけないのではないか、ということでした。

ハーモニー:緊急事態宣言下で子どもたちによくない変化もありました。それで、ソーシャルディスタンスを保ちながら、オンラインで何ができるかを話し合ったときに、やはりどうにかしてつながっていかなくては、と。そこで生まれたのが今回の「やさしさの花」です。

望月:実は2年くらい温めていた企画でもありました。夫がアメリカ人ということもあり、人種差別や格差、分断といった問題を考えていくうえで、子どもの成長における「やさしさ」の教育は重要ではないかと思うようになりました。子どもは柔軟なので、環境によってやさしさも意地悪さも育てることができる。それならば、相手の違いを受け入れることが大事であると、家庭だけではなく社会全体で育むことではないかと。その一つの形になったのが「やさしさの花」でした。やさしくされたエピソードを語り、そのやさしさを花で表現するというものです。このプロジェクトは『花さき山』(斎藤隆介作・滝平二郎絵、岩崎書店)という絵本に大きな影響を受けています。絵本は、やさしいことを一つすると「花さき山」に一つ花が咲くという物語。誰かのやさしさが花になるというストーリーに感銘を受けました。 ワークショップでは、まずはやさしさについて親子で話してもらい、その色や形を考えて表現してもらいます。

*ポピンズナーサリースクール広尾で行われた「やさしさの花」ワークショップ

 

ハーモニー:親子でやさしさについて話す機会にもなります。それから、人によってはやさしさの定義が違うこともあります。誰かの書いたエピソードを読むことで「それもやさしさなんだな」と気づけることもあると思います。自分は自然だと思っている行動や言葉が、相手によってはやさしさと受け止められることもあり、それがわかることで肯定感に繋がることもあると思うのです。オンラインでキットも販売し、遠隔でも参加してもらえるようにしました。よかったのは、遠くにいる人や、毎月参加できない親子も参加してくれたこと。この状況が落ち着いたら、リアルのイベントとオンラインを両輪で進めていけたらいいなと思います。

 

望月:リレーのようにやさしさが広がっていってほしい、と「やさしさは伝播する」を一つのキーワードにしています。状況が落ち着いたら、「やさしさの花」のインスタレーションやワークショップなども展開していきたいと考えています。

ハーモニー:横浜のいいところは、赤レンガ倉庫や象の鼻テラスと言った集まれる場所がたくさんあること。グローバルな方々もたくさんいるんですよね。

望月:横浜を起点に、やさしさの輪が広がっていくようなプロジェクトを今後も続けていけたらいいなと考えています。

*「やさしさの花」より

 

構成・文:佐藤恵美
写真(*以外):森本聡(カラーコーディネーション

 


【インフォメーショション】

「やさしさの花」 参加者募集中
「やさしいことを一つすると、一つ咲くやさしさの花」をテーマに、誰かにやさしくされたことや、誰かにやさしくしたエピソードを思い浮かべながら、花をつくって想いを伝える、双方向性コミュニケーションアートプロジェクト。
サイト:やさしさの花 — LITTLE ARTISTS LEAGUE 
期 間: 2020年9月1日~12月31日
対 象: どなたでも無料で参加可能
主 催: LITTLE ARTISTS LEAGUE
助 成: アーツコミッション・ヨコハマ、心豊かな社会をつくるための子供教育財団SNS: タグは@littleartistsleague #flowerofkindness #やさしさの花

世界中から集まった「やさしさのエピソード」や「やさしさの花」のコレクティブ動画“Sow seed of kindness”を公開中

 


【プロフィール】

LITTLE ARTISTS LEAGUE[リトル・アーティスト・リーグ]
2016年、望月実音子とルミコ・ハーモニーによって設立したアート団体。アートを通じて、多文化、多言語、そして表現の多様性に触れることで、柔軟な発想とグローバルな視野を育む取り組みを多数行う。

 

望月実音子[Mioko Mochizuki]
横浜生まれ。幼少時代をアメリカ東海岸、中高時代をオランダと香港で過ごす。幼少のころから絵画に対する強い情熱を持ち古典的かつ前衛的な美術教育を受ける。人体描写の延長として体の周りの空間と体の動きを左右する、造形としてのファッションに興味をもち、ボストンのマサチューセッツ州立美術大学のファッションデザイン学科に学ぶ。2002年にニューヨークへ移転。アパレルデザインの仕事に携わる傍ら、ニューヨークを拠点とするダンスカンパニーSoGoNoの専属デザイナーとして舞台衣装を8年間制作。2012年にアメリカ人の夫と帰国、以後2児の母となる。2016年、ルミコ・ハーモニーとLITTLE ARTISTS LEAGUEを立ち上げる。同年、子どもの想像世界をより豊かにするためのライフスタイルブランド「DRESS UP BOX」を創立。子どもの芸術教育に深い関心があり、活動を広げている。

 

ルミコ・ハーモニー[Lumico Harmony]
日本生まれ。フィンランド人と結婚後、ブラジルを経由し、東京在住。意味的圧縮や、物語性に着目し、キャラクタープロデューサーとして活躍。3児出産後、自身のアート活動を本格化し、日本財団などのイベントのメインビジュアルを多数手掛ける。2016年4月のJAPAN FAMILY FESTIVALの絵はPIE BOOKSの「家族の心をつかむデザイン」に掲載。2016年よりキッズアワードのメインビジュアルを手掛け、審査員も務める。保育園のアトリエスタや、NPO法人ザ・グローバル・ファミリーズの理事長も兼任。絵本『はずむりんご』が販売中の絵本作家でもある。ワーママオブザイヤー2016を受賞。2018年キャロブの「SISTERS’ FAVORITES」コンペで大賞獲得。アマナイメージズのキュレーターとしても活躍後、北欧・アート・日本伝統文化・オーガニックを軸に執筆も手掛け幅広く活躍中。