ヨコハマトリエンナーレ2020を安心して観賞するために――新型コロナ感染防止の取り組み

Posted : 2020.08.17
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7月17日に開幕した「ヨコハマトリエンナーレ2020」。3年に一度ひらかれる現代アートの国際展だ。7回目の開催となる今回は、横浜美術館とプロット48を主会場に、計67組のアーティストの作品が見られる。 当サイトでは、本展を“現地に見に行かれる方”に向けた紹介記事も公開しているが(「ヨコハマトリエンナーレ2020 現地へ行く人向けのガイド」)、新型コロナウイルス感染拡大の状況を受け、「屋内での感染リスクが心配」「足を運びたいが、どれぐらい混雑しているのだろう?」といった方も多いかもしれない。 本記事では現地での鑑賞を選択肢の一つとしてご検討いただくために、「ヨコハマトリエンナーレ2020」で取り組まれている具体的な感染症対策をご案内する。

 

検温・消毒といった基本的な対策から、事前予約制の入場制限まで

イベント開催時の会場や施設等で、今ではすっかり当たり前の光景となったサーモグラフィや体温計による体温の測定。ヨコハマトリエンナーレ2020の会場でも、入場前の検温はもちろんのこと、観客、スタッフともにマスク着用の徹底や、複数箇所への消毒液設置などの感染症対策に取り組んでいる。一目でわかるこれらの基本的な対策以外にも、会場運営の現場ではさまざまな配慮がなされているので、ご紹介していこう。

 

各会場での入館時の消毒はもちろん、場内の複数箇所に消毒液が設置されている。

 

来場する観客に向け、事前に広報で発信している新型コロナウイルス感染拡大防止に関する取り組みの詳細は、以下のページにまとまっているので一読してほしい。

「ヨコハマトリエンナーレ2020」新型コロナ感染拡大防止の取り組みと来館時のお願い
https://www.yokohamatriennale.jp/2020/ticket/

なかでも事前予約制のオンラインチケットによる入場者数の制限は、もっとも大きな柱となっている。また入場時のチケットに加え、3つの体験型作品も事前予約制を取り入れている。

会場内は常時どのぐらいの観客が滞留する人数設定になっているのだろうか? 会場運営を担当する横浜トリエンナーレ組織委員会事務局の小川哲さん(横浜市文化観光局文化プログラム推進部文化プログラム推進課担当係長)にお話を聞いた。

 

小川:「入場者数の設定としては、2つの主会場ともに『30分70人』をベースに管理しています。これはヨコハマトリエンナーレ2020オリジナルの設定になります。複数会場あるなかで、多くの方がはじめに訪れることが予想された横浜美術館での入場人数を、まずは検討しました。

基本的な感染症対策として、人と人との距離は『2mの間隔』をとることが推奨されているのは皆さんご存知だと思います。そこで横浜美術館展示室等の総面積を仮に2m×2m=4㎡で割ると、約1,000人という数字が出てきます。これだと展示を見る空間としてはかなりの満員状態になってしまう。

そこで次のステップとして『展示施工の図面』をもとに、作品の展示スペースを除いて計算したうえで、職員数名が2mに切ったスズランテープを持ち、実測もして確認しました。最後はアナログ的な手法で検証したわけです。その結果、図面とだいたい同じ設定人数になることがわかりました。

さらに観客一人あたりの鑑賞時間を想定し、念のため滞在時間が長くなりそうな作品やスペースを考慮に入れたうえで人数をしぼりました。その他にも排気環境の状況などさまざまな側面から検証を重ね、『30分70人』にたどりつきました。プロット48も図面をもとに計算し、この設定でじゅうぶんな距離が保てることを確認しています」。

 

会場運営担当者として、さまざまな検証を重ねて開催にこぎつけたプロセスを振り返る小川哲(横浜トリエンナーレ組織委員会事務局)さん。

 

取材に訪れたのは8月上旬、平日の昼間だったが、いずれの展示会場も“密”になっていると感じることはなかった。むしろ観客数がコントロールされていることで、通常の展覧会時と比べても混雑することがなく、まわりの人を気にせず鑑賞に集中できる環境になっていた。

70人という設定のなかには無料入場者(招待者・会員・中学生以下・障害のある方など)も含まれており、販売実績はさらに絞られた数になっているそうだ。日時予約制の展覧会でも、予約時間の頭には会場が密になってしまうケースもあるなか、ヨコハマトリエンナーレ2020の場合は入場列が極度に長くなったり混雑したりすることはないという。

 

入場列ができた際、ソーシャルディスタンスを保つためのサイン。横浜美術館会場入り口。

 

会場内の清掃、体験型の作品における消毒呼びかけの徹底

ヨコハマトリエンナーレ2020の会場では、こまめな清掃や換気、手が触れる場所の消毒を行っている。具体的な清掃頻度は1日4回程度。ソファや手すり、エレベーターなどを巡回しながら拭いていく。

 

取材時はちょうどロッカーを清掃していた。人が手を触れるところを中心に清掃する。

 

メディアに露出することも多い作品として、エヴァ・ファブレガスの《からみあい》(横浜美術館)が挙げられる。観客が触って鑑賞できる作品だが、体験前に手指の消毒をしなければならない導線になっている。消毒をせずに触ろうとする人には、会場スタッフが声をかける。

 

触ることができる作品や、靴を脱いで体験する作品の鑑賞前には、観客の手指消毒がマストです!

エヴァ・ファブレガス《からみあい》2020(横浜美術館)

ズザ・ゴリンスカ《助走》2015(2020年再制作) ©Zuza Golińska(横浜美術館)

 

ゴーグルやヘッドフォンなど、肌に直接触れる機器で鑑賞する作品にも、1回使用するごとに手袋を着用したスタッフが清掃をしたり、ヘッドフォンカバーが常備されていたりと、細かい配慮がなされている。

 

作品鑑賞用ゴーグルの消毒を行う会場スタッフ。いちど使用されるごとに消毒している。
エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(プロット48)

ゴーグルを使用する際、観客は目のまわりを覆うシートを着用する。

シートを着用してゴーグルを装着し、作品を体験する様子。
モレシン・アラヤリ 《未知を見る彼女:ヤージュージュ、マージュージュ》2018(横浜美術館)

 

 

ヘッドフォンを使用する作品では、観客が自らヘッドフォンカバーをつけて鑑賞する。
エレナ・ノックス ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景(プロット48)

 

 

会場間を移動する際に貸し出している日傘兼雨傘。持ち手を消毒済のものが、出入り口に設置されている。

 

開幕日を延期して開催にこぎつけた、会場運営の舞台裏

ヨコハマトリエンナーレ2020は、当初予定されていた開幕日を2週間遅らせて開催した。延期しての開催を発表したのは、6月3日の横浜市長による記者会見の場。緊急事態宣言の解除(6月1日)を踏まえ、じゅうぶんな安全対策を講じて開催するための延期だった。

この数か月間、全国の現代アート展の状況を見ると、開催の延期・中止を決めたもの、開催時期を検討しなおすもの、オンラインなど形式を大きく変えて開催するものなど、連日さまざまな判断をニュースで目にするようになった。

開幕を延期したとは言え、当初の計画に近いかたちで開催にこぎつけたヨコハマトリエンナーレ2020だが、その舞台裏の苦労や、会場運営の現場担当として難しかった点などを、改めて小川さんに聞いた。

 

各会場の入り口に大きく掲示されている「新型コロナウイルス感染予防対策実施についてのご案内」サイン。

 

小川:「記者発表のあと、『このような時期に開催していいのか』といった市民の声も当然ありました。ですが横浜トリエンナーレは横浜市を代表するイベントです。『開催しないこと』を前提に動くのではなく、会場運営面では『開催することで市民の皆さまにリスクがあるとしたら、どんなところか?』という視点から、新型コロナウイルスの感染を防ぎ、安全に開催するための対策に取り組んでいくことになりました。

現場担当者としては、万が一の場合を抑えつつも、『やるからには何も起こりません』と言える準備を固めていく必要がありました。そこが一番、気をつけていたところでしたね。

難しかったのは、国や自治体から示された感染予防に関する複数のガイドラインを参照する必要があったことです。現代アートの国際展に特化した国や自治体のガイドラインは当然ありません。そのため主には横浜市文化施設や博物館のガイドラインなどをもとに検討するのですが、コロナウイルス感染者が発生した際に業務を継続する場合の対応などは、そこには示されていませんでした。そのため感染者発生時の消毒実施などの対応については、食品産業のガイドラインを参照するなど、複数のガイドラインのなかでヨコハマトリエンナーレ2020に応用できそうな部分を拾っていき、オリジナルの運営案をつくっていきました」。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の予防に努めながら、ウイルスとともにいかに日常生活を続けていくか。今回は、日本を代表する現代アートの国際展・ヨコハマトリエンナーレ2020を紹介した。このように現場では新型コロナウイルスが入り込まないように、日々の安全対策に取り組んでいる。仮に入り込んだとしても、ダメージを最小限にとどめるための対策だ。観客がリラックスして展示を楽しむためには、観客同士の気づかいや、より一層の参加意識が求められているのかもしれない。

 

取材・文:及位友美(voids
写真:森本聡(カラーコーディネーション

 


【イベント情報】

ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
Yokohama Triennale 2020 “Afterglow”
アーティスティック・ディレクター:ラクス・メディア・コレクティヴ
日程:2020年7月17日(金)~10月11日(日)*毎週木曜日休場(10/8を除く)
時間:10:00~18:00
*10/2(金)、10/3(土)、10/8(木)、10/9(金)、10/10(土)は21:00まで開場*会期最終日の10/11(日)は20:00まで開場
料金:チケットは、日時指定の予約制です。
〈一般〉2,000円、〈大学生・専門学校生〉1,200円、〈高校生〉800円
〈中学生以下〉無料(予約不要)
〈障がい者手帳をお持ちの方と介護の方1名〉無料(予約不要)
 *ヨコハマトリエンナーレ2020 チケット連携『横浜アート巡りチケット』有
会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
   プロット48(横浜市西区みなとみらい4-3-1 みなとみらい21中央地区48街区)
   日本郵船歴史博物館(横浜市中区海岸通3-9)

 

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