新高島駅構内の地下にひろがる空間。こんな広大な場所があったのかと驚く。コンクリート打ち放しの床と壁、高い天井と太い円柱を持つ約1,000平方メートルの空間だ。
横浜高速鉄道が地上階との連結のためのバイパスとして用意していたもののこれまで倉庫として使われていたこのスペースが、横浜市の「文化芸術創造発信拠点形成事業」の対象となったのは昨年9月のこと。運営事業者を募集したコンペに、閉鎖したBankART Studio NYKの代替地を探していたNPO「BankART1929」が応募し、11月に選出された。その後、がらんとしていた空間をリノベーションして、この日の「BankART Station」オープンを迎えた。
新高島駅改札を出て3、4番出口を目指して進むと、細長い地下1階コンコースに出る。その4番出口寄りの場所に「BankART Station」への入り口ができあがっていた。
地上に出てみると、みなとみらい5丁目というこの地は、資生堂グローバルイノベーションセンター、京急グループ本社、ソニーのカメラ部門も入る複合ビルなど、数十社にもおよぶ国内外の大企業のビル建設のまっただ中だ。ひしめく高層ビル群の地下に出現したアートスペースというわけだ。
1000平方メートルの倉庫部分に加え、隣接の使われていなかった通路の空間も使用できることになった。この区画は道路法上の道路区域にあたるため、横浜市道路局との協議が必要だったが使用許可がおりた。カーブを描く壁が地下鉄ホームを思わせるパブリックな空間が画期的な展示スペースに変貌していた。オープニングに際して高橋啓祐さんの映像作品が上映されている。駅を利用する人が通行しながら気軽に現代アートに触れることができそうだ。
昨年3月31日に惜しまれつつ営業を終了したBankART Studio NYK。その再出発を祝おうと、オープニングセレモニーには、アーティスト、アート事業の関係者や横浜市の行政の関係者など約300人が集まった。大勢を前に荒木田百合横浜副市長、横浜高速鉄道の鈴木伸哉社長、BankART1929 の池田修代表があいさつをした。
池田さんの言葉にも安堵と喜びがただよう。
「この地に今立っていることに「縁」のようなものを感じています。15年前に、みなとみらい線の開通を機に馬車道駅の上に生まれたのがBankART1929です。その使命のひとつは、新興のみなとみらい地区の発展に比べて、取り残されていた旧市街の「関内外」地区が元気になるようなことを歴史的な古い建物を活用して行う、ということでした。三度の移転を経ながらもずっとその役目を果たすべくやってきたのですが、四度目の今、まさに新興地域のどまんなかの駅の中に来てしまいました。
新興地域と旧市街地が分断されているのはなぜだろう、どうすればつながるのだろうとずっと考えてきましたが、この地に来たことで行き来できる秘密の道、あるいはトンネルができそうです。
そしてまた、この新しい場所で高層ビル群の人々とも仲良く、一緒に何かをやってみたいとも思っています」
実際、分散型とはいえ、新しい4つの拠点は、なんらかのかたちでリンクしている。「BankART Station」(新高島駅)から 「BankART SILK」(日本大通り駅)まで、みなとみらい線経由で10分。「BankART Station」から「R16国道16号線スタジオ」には歩いて6分。StationやR16から「BankART Home」へは、みなとみらい線(馬車道駅)や、市営地下鉄(関内駅)で繋がっており、Silkからは徒歩圏内だ。
分散型になったのは望んでのことではない。もう一度、池田さんに聞くと、
「分散型になったのはもちろん成り行きです。BankART Studio NYKの代替の場所探しは、なんとかなるだろうと基本的には楽天的に考えていましたが、なかなか見つからず、一時はこのまま息途絶えてしまうかもと思いました。しかし悲観的にはならないでいましたね、なぜならアートに対して悲観的になるのはあってはいけない
ことだから。そもそも、元銀行だった建物を文化芸術活動にという意味をこめた造語として、Bank+ARTという名前で出発したのですが、この言葉は活動をつづけるうちに別の意味合いを持つようになりました。Bankのもともとの意味は「河岸」「堆積するところ」「蓄積するところ」。これまでの15年間に出会ったあまたのクリエイター、行政マン、一般市民、地方や海外ネットワーク、有識者等との関係性の蓄積こそがBank+ARTの真の価値だと。その蓄積を大事にしたおかげで、再び横浜に新しい本格的な居を構えることができたのだと感謝しています」
2004年、文化芸術創造都市・横浜のキックオフはBankART1929の誕生から始まった。都市のグランドデザインから生まれた「みなとみらい」と、港町・横浜の歴史や魅力がつまる「関内・関外」。新旧都市軸のつなぎを意図するアート先導のまちづくり施策は、都市の成熟とともに新たなフェーズに入る。先駆者のBankARTの新たな展開に多くの人が期待を寄せている。
オープニングセレモニーで荒木田百合横浜副市長は、
「素敵な空間が誕生しました。関内からみなとみらいへ、そして横浜駅へとつながり広がる街の魅力を、クリエイターの発信力でもっともっと伝えていただきたいです。それを行政として引き続き応援してまいります」と語った。
横浜高速鉄道の鈴木伸哉社長も、
「持て余していた場所をいい空間に生まれ変わらせていただきました。ここをどんどん活用していただきたいですし、みなとみらい線全体を人々が行き交うアートミュージアムのように使っていただければ嬉しいです」と歓迎した。
さて、BankARTはこれからどこへ向かい、そしてどこまで行くのだろうか。
【BankARTの4つの拠点】
・「BankART Station」
横浜市西区みなとみらい5-1 新高島駅地下1F
みなとみらい線新高島駅地下1階の元倉庫部分。面積は約1,000平方メートル。展示機能に加え、アーティストのレジデンスやスタジオ、カフェなどの機能を備えることが予定され、ここを拠点に活動するスタジオアーティストを募集中だ。
■ BankART Station スタジオアーティスト募集!
実施期間:2019年4月1日~6月12日※日曜日は20:00まで
応募〆切:3月15日[金]必着
使用目的|原則として制作スタジオ20平米以上
費用負担、応募条件など詳細はホームページで確認してください。
・「BankART SILK」
横浜市中区山下町1番地 シルクセンター内 1F
![]() *©BankART1929 |
2月1日にオープンした「BankART SILK」は、二面がガラス張りのスペース。坂倉準三が設計した1959年竣工のシルクセンター1階に開設。山下公園や大桟橋に近いこの場所は、アンテナギャラリーのような役割を持つ。延床面積は約200平方メートル。また建物全体も当時の時代を象徴するかのように、共用部がゆったりと設計してあ り、地下には昭和の匂いがするショッピング街がある。
オープニングに際し、高橋啓祐展を開催した。
![]() *©BankART1929 |

*©BankART1929
【BankART SILK展覧会のお知らせ】
■『宮本隆司:首くくり栲象』出版記念展覧会
会期:2019年3月18日[月]~3月31日[日] 11:00~19:00
入場無料
出版記念イベント:3月31日[日] 15:00~20:00
参加費:3,500円(写真集付き)
【トーク】15:00~16:30
長井和博(演劇評論家)、藤田康城(ARICA/演出家)、宮本隆司(写真家)
【映画上映】17:00~18:00「Hangman Takuzo」監督:余越保子/2010年/46分
【パーティ】18:00~20:00「栲たく象ぞうさんの会」
・「BankART Home」
横浜市中区相生町3-61 泰生ビル1F

*©BankART1929
昨年5月にオープンしたアート・建築系書籍のCafe & Shop。現代美術、建築、都市、 パフォーミングアーツ関係の書籍を取り扱っている。夜はパブに早変わりし、BankARTスクールや、週末にはドリンク片手に アーティストトークが行われる。関内相生町さくら通りの飲食街ど真ん中に位置する。
・「R16 ~国道16号線スタジオ」
横浜市西区桜木町7-48
![]() *©BankART1929 |
Creative Network 事業「R16 ~国道 16 号線スタジオ」は昨年8月にスタートした。東急東横線(横浜駅~桜木町駅)の廃線跡の高架下に、期間限定のスタジオ・アトリエを開設。入居アーティストの制作場所である。ときにはオープンスタジオ、ワークショップ等を実施する予定だ。高島町の交差点(二代目横浜駅があった場所)から桜木町方面に続く16ブロック約100メートルのゾーン。

*©BankART1929
【展覧会のお知らせ】
東急東横線廃線跡の高架下の「R 16〜国道16号線スタジオ」は、15年の間、開発を待ちながら封印されていた場所。
みなとみらい線地下1階の「BankART Station」は、15年前に、地上階開発のバイパスのために用意されたが使われなくなった場所。
この展覧会はこれらふたつの 「ボイド空間」 を往来することから始まる。
古くから続く街とみなとみらいの新都市を連結させる密かなトンネルを見つけることはできるか?
会期:2019年3月1日[金]〜3月24日[日] 11:00〜19:00
会場:R16 Studio(横浜市西区桜木町7-48)
BankART Station(横浜市西区みなとみらい5-1「 新高島駅」地下1F)
入場無料
参加作家:
owowbund1871(佐々木龍郎、加茂紀和子、曽我部昌史、竹内昌義マニュエル・ タルディッツ)、小田原のどか、開発好明、金子未弥、363table (鵜飼三千男、内藤正雄、福島健士、六反征吾、坪田義史)、Sha-Ba(秋山直子、古賀通代、北山深雪、hondachihiro、菅原康太)、高橋啓祐、土屋信子、西原 尚、nitehi works 、マツダホーム(松田直樹、松田るみ)、松本秋則、 村田峰紀、山下拓也、渡辺 篤、
以上15チーム
主催:BankART 1929
共催:Creative Network実行委員会

*渡辺篤《アイムヒア プロジェクト》©︎I’m here project / Atsushi Watanabe 2018-2019
取材・文:猪上杉子
写真:森本聡(カラーコーディネーション)*以外