この日から始まる、未来がある。- 2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA

Posted : 2018.07.18
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「文化芸術創造都市」を掲げる横浜市の取り組みのひとつとして、創造の担い手のサポートを行うアーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、これまでアーティストやクリエーターの「集積」を目指し、相談窓口の開設や助成金プログラムなど様々な事業を実施しています。これら事業を通じて、現在は100組以上のアーティスト・クリエーターが横浜に拠点を構えた活動を行っています。ACYが次なるステージとして目指すのは、横浜に集うアーティスト・クリエーターをはじめとした創造の担い手のクリエイティビティを横浜に内在する資源や活動と結び合わせた相乗効果の創出です。そのため、ACYでは2016年度よりこれらを生み出すネットワーク/都市基盤(プラットフォーム)の形成を目指す「文化芸術創造都市・横浜プラットフォーム」をはじめています。 本稿では3年目を迎える本事業のこれまでを振り返るとともに、実際にプログラムに参加したクリエーターのインタビューを交えながら、今後のプラットフォームの展開を探ります。

横浜に集積したアーティスト・クリエーターを、横浜に内在する資源や活動と結び合わせる「文化芸術創造都市・横浜プラットフォーム」。その具体的なアクションのひとつ「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」の当日の様子。

 

「横浜の未来にひらく“100の種”」から発展した、デザインストラテジスト・太刀川英輔さんのアイデアの種

2016年にスタートした「文化芸術創造都市・横浜プラットフォーム」。この年の年度末に、「横浜の未来にひらく“100の種”」と題した公開ミーティングが開催され、横浜を舞台にクリエイティブな活動を行う26名の「キーパーソン」が集いました。横浜が抱える課題や可能性に向き合い、実際に行動を起こしてきた人たちです。

イベントでは、キーパーソンによるそれぞれの取り組みについてプレゼンテーションが行われ、当日会場に集まった参加者からも「横浜の未来にひらく“100の種”」から連想されるキーワードが提案されました。この日を機会に、横浜に集積したクリエーターやアーティストのクリエイティビティを、都市の課題や活動とつなぎ、相乗効果を生み出す「文化芸術創造都市・横浜プラットフォーム」の“第二ステージ”が動き出しました。

その後ACYでは約1年をかけて、「横浜の未来にひらく“100の種”」に登壇したキーパーソンにヒアリングを重ね、対話のなかからクリエーター3名とのパイロット事業が誕生、その一人がデザインストラテジストの太刀川英輔さん(NOSIGNER)です。太刀川さんから提案されたのは“アクションを生むためのコミュニケーション”。このアイデアが「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」と題した企画へと発展していきました。

「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」を企画したデザインストラテジストの太刀川英輔(NOSIGNER)さん。

 

創造都市施策から14年、横浜のポテンシャルとは?

「横浜の未来にひらく“100の種”」に登壇した際には、デザインが使われていないところにデザインを使う可能性が、横浜にはまだまだ残されていると指摘した太刀川さん。クリエイティブ・シティを標榜する横浜に対して抱く、デザインストラテジストならではの視点について聞きました。

「僕が横浜に帰って来たのは、2012年ごろでした。もともと横浜育ちなのですが、それまで色んな地域の活性化やデザインに携わってきたにも関わらず、地元のためには何もやっていなかったことに気付いたんです。

昔から横浜は東京の一部という実感があって、横浜に“故郷感”を感じたことがありませんでした。横浜に住んでいる人の多くが、そういう感覚をもっているかもしれません。でも10年ぐらい東京を拠点にし、久しぶりに帰ってきて物件探しをしているときに、横浜のローカルな魅力を感じました。事務所を構えた関内エリアは、首都圏の割には賃料が安く、何かを仕掛ける余地がある物件がたくさんあるという印象をもちました。少なくとも東京に比べたら、クリエーターにふさわしい環境があり、ポテンシャルがあるのではないでしょうか。

横浜が創造都市を標榜して14年が経ちます。そして今ほどその政策が効力を発揮する時期はないぐらい、時代が“クリエイティブ”を要請していますよね。創造都市政策がスタートしたころは、クリエイティブ振興が産業にどう結び付くか、具体的にはわからない状態だったでしょう。しかし、それから14年経ち、今となっては世界でデザインとクリエイティブが都市に役立つことが証明されています。もっとも株価が高い会社はデザインで成功したAppleですし、どんな企業も行政も社会課題が噴出し、イノベーションが必要だ、クリエイティブが必要だと声高に叫んでいます。世界に目を向ければ、勢いのある国ほど国策としてクリエイティブ産業に大きな予算を使っている国が多く見られます」(太刀川英輔)

その具体例のひとつとして中国を挙げた太刀川さん。中国政府は、杭州で賞金総額1億円以上のデザイン賞を開き、深圳ではデザイナーを招聘するために家賃の9割を負担するなど、クリエイティブ産業への投資に本腰を入れていると言います。杭州のデザイン賞には太刀川さん自身が審査員として名を連ねているので、その実感にはリアリティが伴います。

中国以外にも、シンガポールや韓国などのアジア諸国、そしてニューヨークなど、いくつものクリエイティブ・シティの事例を挙げてくれた太刀川さん。そもそもこのような国や都市は、なぜ国策としてクリエイティブ産業に力を入れているのでしょう?

「芸術・文化振興は“余暇的なもの”ではないことを、よく理解しているからでしょう。インターネットが普及したユニバーサルな現代においては、OEMではなく、自国から新しい産業を発信することが重要です。そして新しい産業が生まれる瞬間には“クリエイティブ”が必要になることに、多くの国が気付き行動を起こしているんです」(太刀川英輔)

「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」当日の様子から。太刀川さんのファシリテーションにより深まる参加者のコミュニケーション。

 

“出会う機会”として生まれた「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」

世界のクリエイティブ・シティの概況を共有した太刀川さんは、このような事例は日本でも、横浜でも、生まれ得るチャンスがあると指摘します。

「横浜には歴史ある企業も多いし、これからみなとみらいエリアにはたくさんの企業が移転してきますよね。そういった企業と横浜市が一緒に実証実験などに取り組むことで、新しいシティブランディングやプランニングが生まれるといった事例が、もっと起こってもいいはずです。それが起こらないのは“出会う機会”がないからではないでしょうか」(太刀川英輔)

そこで立ち上がったのが「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」です。

「横浜の都市を概観してみると、お金、クリエイティビティ、ネットワーク、そして課題と、それぞれ何かをもっている人たちが集まっています。これらが響き合い、課題を解決することによって産業が生まれ、都市全体のクリエイティビティが高まり、シビックプライドが生まれる構造があります。このような動きは、一人で成立することではありません。『2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA』でやりたいと思ったことは、すごく濃密にとても面白い人たち同士が会う機会をつくることでした。

皆さん普段のお仕事で忙しいし、それ以外の場所ではあまり人と会うことがないと思います。行政の中の人も外の人もそうですが、“こうなったら良いな”という願いをもっている方が多いと感じます。そういう人たちが一緒に動くことで起こる変化があるのであれば、それを早めたいと考えました」(太刀川英輔)

ACYとのディスカッションを重ね、太刀川さんが企画した未来の横浜を考えるクリエーションキャンプ「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」。本プログラムは、産官学を超えたおよそ50名が集い、肩書に関係なく、開港200年となる2059年の横浜を見据えたビジョンを語り合う会として設計されました。そのねらいは、ここで生まれたアイデアがアクションに結び付いていくことを期待する“プラットフォームづくり”です。

この日、集った参加者は、今後の横浜の未来に関わることが期待されるキーパーソンたち。横浜市各局からは部長や課長などの行政関係者が、大学など教育・研究機関からは教授や研究員が、そして民間企業や市民団体、NPOの職員など、いずれも各分野の第一線で活躍する人たちでした。

未来の横浜を考えるクリエーションキャンプに集ったのは、今後その未来に関わることが期待されるキーパーソンたち。

 

まだ見ぬ可能性=未来のビジョンを考えること

この日のポイントは、「未来の横浜」をともに考えること。プラットフォームづくりのきっかけに、未来を語り合うことを選んだ意図を太刀川さんに聞きました。

「なぜ“2059”というキーワードかというと、イメージがつかないからです。変化がこれだけ早い時代だし、僕には2059年に横浜がどうなっているかわかりません。でも、どうなりたいかは考えられると思うんです。遠くを考えることは、とても大事なこと。遠くに行くための今を考えると、バックキャスティングの先は、ポテンシャルがあるビジョンじゃないと、人はやる気にならないですよね。そしてもう一つは、ポテンシャルがあるビジョンこそが、人と人を結び付けると思います。少なくとも、個人的な欲に他の人が協力してくれることは考えにくい。俺が金持ちになりたいからお前手伝えよって言われても、あんまり手伝いたくないじゃないですか、そんなの(笑)。

今わかっていることより、自分を超えたことや、未知のことを考える方が、大事だと思っています」(太刀川英輔)

「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」ダイジェストムービー

 

1日のプログラム内容――身体を使ったワークでクリエイティビティを刺激する

「キャンプ」と題された丸一日は、具体的にはどのようなプログラムが組まれていたのでしょうか。そこには太刀川さんこだわりのプログラムデザインが施されていました。

午前10時にスタートしてはじめの1時間半は「ストーリーテリング」。お互いの人となりを聞きあう時間に。ランチタイムまで同じグループで行動して、交流を深めました。続く「ワークショップ」は、横浜美術館の「子どものアトリエ」子ども造形プログラムを、美術館エデュケーターと太刀川さんがアレンジした特別版。未来の街からテーマを持ち寄ってチームをつくり、土粘土を使ってたっぷり3時間、創作を行いました。そして最後に、未来の地図を描く「グループワーク/ディスカッション」(2時間)に取り組みます。

「1日のプログラムのグラデーションは、かなり綿密に組んだつもりです。ワークショップの時間は、身体を動かして自分の創造力を高め、何かをつくりたくなってきたモードで一緒に遊んでもらいました。この粘土のワークで、それぞれのビジョン感を共有できる仲間に出会えて、つくりたいものが似ている人たちが集まりました。そこから最後に、未来の地図を描くフローにつなげることができましたね」(太刀川英輔)

横浜美術館が開館以来積み上げてきた子ども造形プログラムを美術館エデュケーターと太刀川氏でアレンジした特別版を体験。

 

横浜市芸術文化振興財団は、各施設で子どもを対象とした芸術教育プログラムに力を注いできました。なかでも横浜美術館で展開している「子どものアトリエ」の子ども造形プログラムは、長年の歴史と実績を誇るワークショップです。太刀川さんに、このような芸術教育プログラムを組み込んだねらいを聞きました。

「コミュニティビルディングなどの“場づくり”と呼ばれる分野において、芸術分野で取り組まれてきたワークショップは、いま一周まわって最先端という感じがあります。身体を使って自分の課題を表現したり、クリエイティビティを刺激したりする手法ですね。“マインドフルネス”などにも、通じる側面があるかもしれません。経営層の研修や、大学の講義などでも、芸術分野で取り組んできたワークショップの手法が見直されてきているように感じます。

ですが『子どものアトリエ』のワークショップは、人と人がコミュニティとしてつながることにチューニングされているわけではありません。なのでキャンプではこのワークショップを大人が発想を広げる目的にチューニングをして、活かすことにしました」(太刀川英輔)

事務局に伺ったところ、実際に「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」に参加した複数の企業から、社内研修にワークショップを活用したいという申し出があったそうで、アートプログラムと企業の出会いがかたちになり、本プログラムがつないだ成果のひとつと言えるでしょう。

土粘土を用いて感覚を拓き、創作を通じて想像された未来の街からテーマを持ち寄りグループを作ります。

 

「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」で感じた手ごたえと今後の展望

ワークショップが展開した実績以外にも、この日の成果物は多岐に渡っていると太刀川さんは語ります。

「僕自身もすごく楽しませてもらいましたが、参加してくれた人たちが僕以上に楽しんでくれました。あのあと感謝のメールをたくさんいただいて。今の社会、なかなか立場や肩書を超えてつながる機会がないので、目に見える成果以外にも、生まれつつあることはたくさんあったと思います。

この日の最後に、グループごとに“未来の横浜”をまとめていただきましたが、参加者の中には国の委員を務めているような方や、市長をされていたような方が数多くいらっしゃったので、非常に精度の高い提言になったのではないかと思います。都市のモビリティや緑化など、踏み込んだ課題に対して専門性のある議論が立ち上がっていたのも、印象に残っています」(太刀川英輔)

グループごとに議論が交わされた“未来の横浜”がプレゼンテーションされ、精度の高い提言が生まれました。

 

横浜の未来のキーパーソンが出会い、密度の高い時間を過ごした「2059 FUTURE CAMP IN YOKOHAMA」。これまで見えていなかった横浜の人やコトのレイヤーが重なり合ったり、厚みを増したりしながら、新しいプラットフォームへと更新された一日になりました。
この日を振り返りながら、太刀川さんにこれからの横浜に寄せる期待を、最後に聞きました。

「はじめに話したとおり横浜はポテンシャルがある街です。しかし、それが最大化されているわけではないと感じています。最大化させるためには、横浜の都市に関わる人たちが、質も量も増えなければいけない。それらのつながりのなかで出来事が起こっていきますが、その実現のスピードが遅いと最大化が難しくなってしまいます。

そのうえで、何か一つでも二つでも世界に発信できる新しい価値を横浜が生み出せると証明できると良いですよね。行政と横浜の企業が発信する、ローカルでクリエイティブな世界に誇れる成功事例をつくりたいです。例えば横浜の民間企業のブランディング一つをとっても、自分たちのことだけではなくて、横浜をかっこよくしようと取り組んでいる企業もあります。そういったポジティブな変化の集積が、横浜の文化をかっこよく、サステイナブルなものにしていくのではないかと思っています」(太刀川英輔)

密度の高い1日を振り返る太刀川さん。

交流会のひとコマ。さまざまなネットワークが生まれました。

 

取材・文:及位友美(voids)