横浜から世界へ――横浜ダンスコレクションの20年

Posted : 2015.08.14
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コンテンポラリーダンスの世界において、横浜での作品発表をきっかけに、多くの振付家が国内外で活動の機会を掴んでいるのをご存じだろうか? 2015年に20周年を迎えた「横浜ダンスコレクション」(主催:公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)は、若手振付家の発掘と育成を柱に、アーティストたちの活動をさまざまな側面からサポートする、コンテンポラリーダンスの国際フェスティバルだ。コンテンポラリーダンスを取り巻く状況に応じて、少しずつプログラムの内容を変えるなど、国際的なプラットフォームとしての役割に向き合ってきた。その20年の取り組みを取材した。
phto:森日出夫

ダンコレのメイン会場「横浜赤レンガ倉庫」photo:森日出夫

 

横浜から世界へ、アーティストを送り出してきた“ダンコレ”の20年

「横浜ダンスコレクション」は、コンペティションを中心とした国際的なコンテンポラリーダンスのフェスティバルだ。“ダンコレ”の愛称で親しまれている(以下、ダンコレ)。ダンコレが対象としているジャンル、「コンテンポラリーダンス」ってなんだろう? 舞踊には、クラシックバレエや日本舞踊、ジャズダンスやヒップホップなどさまざまなジャンルがあるが、ダンコレでは「既成の枠にとらわれない自由な表現のダンス」をコンテンポラリーダンスとしている。決められた型がないゆえに、多様な表現を発表できる場をつくりたい、若いアーティストの新しい表現をもっと見たい、そして彼らの活動をバックアップし横浜から世界へと羽ばたいてほしい――。そんな主催者の思いが、ダンコレの歴史を支えてきた。

今年で20周年を迎えたダンコレが、一貫して掲げてきたコンセプトは3つある。①若手振付家の発掘と育成、②若手振付家の発信、③コンテンポラリーダンスの普及だ。ダンコレは、若いアーティストたちに「次のステップにつなげるための場」として役立ててもらうために、さまざまなサポートを行ってきた。これまでの活動を振り返りながら、これらの目的に対してどのような取り組みがなされてきたのかを紹介していこう。

1996年ダンコレ開催時の様子 photo:小川峻毅(Shunki OGAWA)

第1回目ダンコレ開催時の様子(1996年) photo:小川峻毅

 

1996年~99年 バニョレ国際振付コンクールへの架け橋【ダンコレ草創期】

ダンコレの記念すべき第1回目は、バニョレ国際振付賞の国内推薦会(ジャパンプラットフォーム)としてランドマークホールで開催された。バニョレ国際振付賞は、後世に名を残す振付家を多く輩出した、1969年からの長い歴史と実績を持つコンクールだ。フランス郊外の都市で開かれる、国際的な振付家の登竜門として知られた(95年に改称され、2000年にはフェスティバル形式になっている)。日本では1991年から94年までは東京で行われていたバニョレの推薦会を、横浜に誘致したことがダンコレのはじまりとなった。以降ダンコレは、偶数年に開催されるバニョレの推薦会を中心に据え、提携・招聘公演やワークショップ、トークショーなどをプログラムしながら展開している。

1996年ダンコレ開催時の様子 photo:小川峻毅(Shunki OGAWA)

第1回目ダンコレ開催時の様子(1996年) photo:小川峻毅

この推薦会を横浜に移す追い風となった背景として、当時の横浜にはコンテンポラリーダンスにおける海外とのネットワークが根付きつつあったことを、(公財)横浜市芸術文化振興財団/横浜ダンスコレクション・プロデューサーの中冨勝裕さんは指摘する。

「1989年に、横浜市政100周年・開港130周年の記念事業として『ヨコハマ・アート・ウェーブ』が開かれました。ローザスやピナ・バウシュといった、ヨーロッパの最先端の作品が一挙に紹介されたんです。そして、1994年には『神奈川芸術フェスティバル』が開始し、定期的に海外から多くの作品が横浜に招かれています。港街である横浜は、歴史的にみても進取の精神にあふれ、文化的にも国際交流が身近にあった都市です。ダンコレは、コンテンポラリーダンスという日本であまり紹介されていなかった新しい分野に着目し、横浜独自のプログラムを生み出すことを狙っていました。横浜から世界へ若手アーティスト、新しい芸術を発信していくことを目的としたダンコレは、今の創造都市横浜で同時代の芸術に取り組んでいく姿勢に繋がっています。」

これに加え、1987年に開館した横浜の小劇場「STスポット横浜」が、若手振付家の創作、発表の場として定着しはじめていた。この横浜を代表する56㎡のショーケース空間が果たした役割も大きい。横浜では、主に海外のダンス作品の招聘公演を上演する県民ホール、海外へ発信するダンコレ、若手アーティストの創作をサポートするSTスポット横浜、それぞれの役割分担ができていた。

1996年ダンコレ開催時の様子 photo:小川峻毅(Shunki OGAWA)

第1回目ダンコレ開催時の様子(1996年) photo:小川峻毅

バニョレ国際振付賞へと振付家を送り出す道を築いたことで、才能ある若いアーティストの芽を育て、国内外へとネットワークをつなぐ、ダンコレの基本理念が立ち上がった。推薦会を通じてバニョレで作品を発表し、その後国内外のコンテンポラリーダンスシーンの第一線で活躍するようになった振付家として、伊藤キム、白井剛、梅田宏明などが名を連ねる。国際的な振付賞の受賞は、アーティストにとっても大きな転換点になる。アーティストたちは受賞の機会をどのように捉えていたのだろう? ダンコレ20周年を契機に編纂された『横浜ダンスコレクション20年史』に、振付家の白井剛さんはこんなコメントを寄せている。

「(中略)賞というのはときに無責任に人の背中を押すもので、しかしそれが大事な役割だとも思う。(中略)これから何らかの賞を受賞する皆さんへ。あなたの作品に共感し感動し選んだ方々の気持ちを素直に喜び勇気をもらってください。しかし賞はあなたの将来のことを考えてはくれません。~これからも賞を企画し選出していく皆さんへ。悩み創り舞台に立たんとする作家やダンサー達の理解者として、共に価値を探求する道連れとして、無責任でもこれからも心よりの背中押しをよろしくお願いします。その御心が未来をつくります。(中略)」

白井さんは、当時は作品を準備することに精いっぱいで多くのチャンスを見逃していたのではないかと振り返ってもいる。一方で選出の機会が、アーティストが自ら未来を切り拓く力にもなることを、これからの若いアーティストに呼び掛けてもいる。このように、ダンコレの草創期には、時代をけん引した多くの振付家たちの努力と、アーティストとともにその価値を探求してきたダンコレスタッフたちの尽力があった。

白井剛「Living Room」photo:塚田洋一(Yoichi TSUKADA)

白井剛『Living Room』(2000年)photo:塚田洋一

 

2000年~2004年 新たなコンペティションの設立【ダンコレ成長期】

バニョレが主に群舞の作品を対象としていた一方、大きな作品をまだ振付けられないような若手アーティストに発表の場をひらき、次のステップへの道筋を見出してもらおうという思いから、ダンコレは在日フランス大使館とともに新たな独自プログラムを立ち上げた。ソロやデュオの作品を対象とした、「ソロ×デュオ<Compétition>」である。このコンペティションに設けられた「若手振付家のための在日フランス大使館賞」は、受賞者にはフランスで6ヵ月分のレジデンスのための滞在費と渡航費が支給されるプログラムだ。バニョレは隔年の開催であったことに対して、ソロ×デュオは毎年行うこととした。名前が知られるようになった実績のあるアーティストが集まるフェスティバルよりも、そこに集まってくるアーティストをつくり出していく方が面白い――。その方が横浜らしいフェスティバルをつくることができるのではないかという思いが、ダンコレにはあった。

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奥野美和(若手振付家のための在日フランス大使館賞、2013年)、フランス・パリ滞在時の発表、観客の様子

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同左、舞台の様子

森下真樹「デビュタント」photo:塚田洋一(Yoichi TSUKADA)

森下真樹『デビュタント』(2004年) photo:塚田洋一

2000年代はコンテンポラリーダンス界も黎明期をむかえ、アーティストの活躍だけでなく、その発表の場としての劇場、フェスティバル、イベントや、それを支えるNPO法人や制作会社などの活動が全体的に活発になっていた時期でもある。そのような背景の中で、横浜の文化の未来を見据えながら、ダンコレはプログラムを見直してきたと言える。横浜で、可能性あふれる若いアーティストを見つけて育て、そしてその活動を後押しすることで、より若手のアーティストが挑戦しやすい枠組みをつくってきた。2002年には、かつては物流の中心拠点として役割を担った歴史的建造物、赤レンガ倉庫が「港の賑わいと文化を創造する空間」をコンセプトに、商業と文化を兼ねる施設としてリニューアルオープンした。ダンコレは横浜赤レンガ倉庫1号館を会場として開催していくことになる。今やダンコレと言えば横浜赤レンガ倉庫、と連想できるぐらいシンボル的な存在にもなっている。2005年までのソロ×デュオの受賞者には、伊藤千枝さん、山田うんさん、岩淵多喜子さん、伊藤郁女さん、森下真樹さんなどが、個別の賞には矢内原美邦さんなどが名を連ねている。

 
2005年~10年 アジアにおけるコンテンポラリーダンス・マーケットへ【ダンコレ拡大期】

ダンコレは当初から、バニョレ国際振付賞のジャパンプラットフォームとして多くの海外ディレクターが来日していたが、横浜から海外へとアーティストの道筋をつくる意識を持ち、この時期、コンセプト・目的と、プログラムの変革を行うことになる。名称も「横浜ダンスコレクションR」と改め、再スタートを切った。

コンセプトには、当初から掲げている新進振付家の発掘・育成、コンテンポラリーダンスの普及に加え、「海外公演の機会創出(海外への発信)」と、「アジアにおけるコンテンポラリーダンス・マーケットの構築」というミッションを掲げた。アジア・ヨーロッパを中心に海外のゲストをより積極的にダンコレに招き、彼らとのコミュニケーションを深く、そして密に図るようにしたのだ。

アーティスト・ラウンジ

アーティスト・ラウンジでの交流の様子 photo:塚田洋一

 

また、プログラム内容としても、これまで2本立てになっていた「ソロ×デュオ」と、「ジャパンプラットフォーム」の2つの柱を、「横浜ソロ×デュオ<Compétition>+」という1つのプログラムへと統合した。コンペティションがプラットフォームを兼ねたことにより、グループ部門を設置し、大規模な作品と小規模な作品の応募枠も確保した(2005年~09年)。マーケットとしての役割を担うからには、アーティストが横浜から国内外へと羽ばたくチャンスを最大限に作っていかなければならない。運営側ではアーティストに対してどのようなサポートをしていたのだろう? この時期の取り組みについて中冨さんに聞いた。

「海外のゲストとアーティストをつなごうという意識を、より強く持つようになっていました。ダンコレははじまった当初から、終演後、アーティストラウンジと称してロビーを開放し、ゲストとアーティストが自由に交流できる空間と時間をつくってきたんです。そのような場で、ゲストとアーティストをどのようにマッチングしていくか。ゲストの目的や要望をうまく把握し、どんなアーティストとの出会いを求めているかをくみ取ったうえでアーティストを紹介するなど、丁寧なコーディネーションをダンコレでは目指してきました。また、作品創作・発表のみならず、自らをPRする視点や方法を持ってもらうようにアドバイスやサポートをしています。」

アーティストの海外公演の交渉が進んでいく場面に、中冨さんが立ち会うことも多い。年に5~6組程度はダンコレへの出場をきっかけに、主にヨーロッパ・アジアにおける海外公演が実現している。

アーティスト・ラウンジ

アーティスト・ラウンジでの交流の様子 photo:塚田洋一

アーティスト・ラウンジ

アーティスト・ラウンジでの交流の様子 photo:塚田洋一

 

「ダンコレをきっかけに海外での公演のチャンスをつかんだアーティストに対しては、先方とのやり取りを常に共有してもらっています。アーティストと先方のコミュニケーションが停滞しているようなことがあれば、アーティストのバックアップを図り、良い形で海外に送り出すことができるように考えています。また劇場・フェスティバルとして連携が取れる場合、渡航費をダンコレがサポートすることもあります。若いアーティストが今後自分たちの力で、国内外で活躍できるように助言する役割を果たしたいと考えています。」

これまでに海外で公演を行ったケースの中には、先方の受け入れ体制が十全ではないこともあった。チャンスを掴んでも、必ずしも良い条件で、海外で発表できるとは限らないのである。

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ラウンドテーブルの様子 photo:塚田洋一

「過去のケースで生じた課題を踏まえ、よりアーティストたちの環境の改善を図っていきたいと考えました。そこで海外で発表の機会を得たアーティストには、海外の受け入れ先のホスピタリティについてや、現地でのサポートや環境の良かった点、悪かった点、また公演条件などをレポートとして提出してもらうようにしたんです。」

提出されたレポートを見ると、率直な言葉で現地での体験がつづられている。「滞在やスケジュールなどの調整は良かったが、劇場とのやり取りがうまくいっていなかった」「リハーサルができる場所があるといいと思った」といった環境面のフィードバックをはじめ、中国のフェスティバルに参加したアーティストからは「中国はいろいろな規制があるためこういった公演をするにはたくさんの労力がかかること、海外からアーティストが来て何かすることは彼らにとって大きなことで、観客にも新鮮な驚きを与えるものであることが印象に残った」など、まさに国際的な交流がなければ実感できなかったであろう体験も見受けられた。このように彼らの経験を蓄積していくことで、国内の公演だけでは知り得ない環境や状況を、次なるチャンスを手にしたアーティストたちに共有できるよう、ダンコレは心がけている。

ダンコレのプログラムの中でも、例えば在日フランス大使館賞であれば、アーティストの6ヵ月のレジデンスの期間中、現地でどのようなプログラムが行われるかをダンコレ側がともに考えているという。せっかくレジデンスの機会を得るのだから、アーティストが有意義な滞在生活を過ごせるように、参加できるワークショップや研修、リサーチなど、ダンコレからも滞在期間中のプログラムに対して意見を出し、サポートを行っている。半年間という長期にわたる海外での生活は、アーティストが研さんを積んで、次のステップにつなげるための出会いやネットワークをつくるために、必要な時間だ。

岩渕貞太・関かおり(フランス滞在時の様子)

岩渕貞太・関かおり(若手振付家のための在日フランス大使館賞、2012年)、フランス滞在時の様子。アンジェ国立現代舞踊センター(CNDC)スタジオ

岩渕貞太・関かおり(フランス滞在時の様子)

アンジェの川と城

 

一方で「アジア」のマーケットの拡大を図ったことには、どのような成果があったのだろう? ひとつには韓国、そして中国とのネットワークの強化が挙げられる。

「ダンコレがマーケットを意識し、アジアのアーティストを積極的に受け入れたことで、特に子弟関係が強い縦社会の韓国の振付家にとっては、ダンコレへの出場を機に師匠の型を離れ、独自の表現を探求するきっかけにつながっているのではないかと思います。2005年~10年にかけて、20組近くの韓国人アーティストが「横浜ソロ×デュオ<Compétition>+」のファイナリストに残りました。2005年には、横浜ダンスコレクションをモデルに、韓国でソウルダンスコレクションが立ち上がるという出来事もありました。また中国とのネットワークをより広げていくきっかけにもなりましたね。アーティストのアジアでの活動の場所も少しずつ増えています。」

レセプションの様子

レセプションの様子 photo:塚田洋一

またダンコレでは、2005年ごろから、国内の劇場関係者を集めたミーティングやラウンドテーブルを開催し、各国・地域におけるコンテンポラリーダンスシーンの現状の課題や、問題意識を共有する場を積極的に展開している。関係者のみでなく、海外のゲストを交えた国際的な情勢の共有を行うシンポジウムなども開催し、国内外のネットワークづくりのための場をひらくようにもなった。2005年~10年の受賞者には、東野祥子さん、KENTARO!!さん、長内裕美さん、きたまりさん等が名を連ねている。

 

2011年~ エクスチェンジとエクステンション【ダンコレ成熟期】

2011年以降は、これまでの成果を踏まえて、世界のダンスシーンの発展への貢献を目指し、目的・コンセプトを更にリニューアルした。振付家の発掘・育成・発信、そしてダンス・マーケットの機能は維持したえで、3つのコンセプトを加えている。①ダンスネットワークのハブ機能構築、②次世代の振付家の発掘・育成、そして③TPAM(国際舞台芸術ミーティング) in Yokohamaとの連携だ。名称も「横浜ダンスコレクションEX(エックス)」と改称した。EXには「Expression」「Explore」「Extension」「Exchange」などの思いが込められている。

シンポジウムの様子(2012年)

シンポジウムの様子(2012年)photo:塚田洋一

特筆すべきは、これまでの「横浜ソロ×デュオ<Competition>+」の名称を「コンペティションⅠ」と改称し、それとは別にこれから振付家を目指す若い世代(学生、ダンサー等)を対象に、既存の枠にとらわれない新しい才能の発掘、作品創作の奨励のために「コンペティションⅡ」を立ち上げたことだ。今まで出会っていない若い日本のアーティストの表現が見たいと、このコンペティションⅡを目当てにやってくるゲストも多いという。

そして2012年からは、ソウルダンスコレクションと横浜ダンスコレクション、2つのフェスティバルの間でそれぞれに振付家を選出し、お互いの国に滞在して振付家同士がコラボレーションする「日韓ダンス交流プロジェクト Dance Connection」というプログラムがはじまった。毎年開催し、今年で5回目を迎える。アジアのプラットフォームをつくることを目指してきたダンコレの活動が、ひとつのプログラムとして結実した成果とも言える。またコラボレーションだけでなく、それぞれの振付家が相手の国の学校(日本では神奈川総合高等学校)を訪問してダンスや表現、アイデアなどを教えるアウトリーチのプログラムも行っている。若手の振付家が、言語が通じない高校生に自分のダンスを教える経験もまた、ひとつのチャレンジだ。自国の振付家は、その授業のサポートにまわるという体制を取っているのだそう。またダンスコネクションの成果発表の公演は、横浜とソウルだけでなく八戸にも巡回している。

日韓ダンスコネクション(2013年)

鈴木優理子×ファン・スヒョン『Face to Face』、日韓ダンス交流プロジェクト Dance Connection(2013年) photo:塚田洋一

日韓ダンスコネクション(2015年)

井上大輔×イ・サンフン『Pluda/Hodoku』、日韓ダンス交流プロジェクト Dance Connection(2015年) photo:塚田洋一

 

また2010年代になると、ダンス作品の演出は、映像などのテクノロジーを扱うものよりも、「身体」をいかに扱うか、というテーマに取り組む作品が多くなったのではないかと中冨さんは語る。ダンコレのコンセプトのひとつに、観客層の開拓、コンテンポラリーダンスの認知の向上も掲げてきたが、2010年代は新しい観客を獲得していくことがより困難になっているという実感が運営の現場にはあった。

「メディアに出るという意識も、アーティストとともにより強く持っていく必要があると考えています。テレビコマーシャル(CM)やミュージックビデオ(MV)など、振付家やダンサーが活躍する場は、じつは多様にあり、増えています。コンテンポラリーダンスをより身近に感じてもらえる状況を、アーティストとともに作っていかなければならないと感じています。」 

 
2016年 Dance Dance Dance@ YOKOHAMA 2015 「SEPTEMBER SESSIONS(セプテンバーセッションズ)」

時代の状況に応じてプログラムの内容やサポート体制の見直しを行いながら、振付家の発掘・育成に一貫して取り組んできたダンコレの20年間を追ってきた。最後に、ダンコレのメインプログラムであるコンペティションでの受賞歴を持ち、現在、国内外で多岐にわたって活躍する振付家にフィーチャーした、特別プログラムをご紹介したい。8月1日(土)~10月4日(日)をコア期間として展開しているDance Dance Dance@Yokohama2015のプログラムのひとつとして開催される「SEPTEMBER SESSIONS」だ。出演アーティストは梅田宏明、中村蓉、森下真樹、ロサム・プルデンシャド・ジュニアの4名。「SEPTEMBER SESSIONS」の見どころを聞いた。

「いずれもダンコレをひとつのきっかけに新境地を拓いていったアーティストで、美術や演劇、またCMやMVなど多岐にわたり活躍しています。歴史的建造物・赤レンガ倉庫から生み出される、いま彼らが取り組んでいる“新しい表現”に注目していただきたいと思います。新作を発表するアーティストもいるし、リクリエーションを発表するアーティストもいますが、作風の違う4名のアーティストたちの多彩な表現・ダンスを観てもらいたいと思っています。」

12.SS-2_s SS集合写真

 

出演アーティストのうち梅田宏明さんは、ダンコレへの思いについて、先述した『横浜ダンスコレクション20年史』の中で次のように振り返っている。

「2002年、横浜ダンスコレクションに参加させていただいて、世界の扉が開いた。単に海外での活動の門戸が開かれただけでなく、自分が振付家・ダンサーとして社会の中で生きていくための扉を開けてもらった。当時ダンスを始めて間もない不安定な自分を、信念を持って評価してくれた石川洵氏をはじめ、ダンスコレクションの方々のサポートが、海外での活動において大きな支えとなった。(中略)私にとって横浜ダンスコレクションは家のような、羽ばたき、帰り、また羽ばたく場所である。」

 
言語を介さないコミュニケーション――コンテンポラリーダンスの魅力
中村蓉「別れの詩」

中村蓉「別れの詩」photo:塚田洋一

20年にわたりダンコレが継続してきた大きな理由のひとつには、コンテンポラリーダンスの表現としての面白さがあるのではないだろうか。プロデューサーの中冨さんは、コンテンポラリーダンスの魅力をどのようにとらえているのだろう?

「ダンスは言葉を介さない表現です。生まれた時から、人はダンスの表現方法を持っているとも言えます。身体と身体、そのぶつかり合いでコミュニケーションをすることができる、唯一の表現かもしれません。熟練したダンサーはテクニックに辿り着くのだと思いますが、コンテンポーダンスは、枠組みにとらわれず新しさを受け入れる。その魅力は、身体を介して内側からあふれ出る表現ではないでしょうか。」

ダンスは言語を介さずにコミュニケーションできる原初的な表現でもある。だからこそ、国境を越え、多くの人たちを魅了する。これまでもアーティストたち、そしてそれを支える側の人たちが、可能性を探求し、またその価値を競い合ってきた。時代とともに変遷を遂げてきた「横浜ダンスコレクション」。今秋開催される「SEPTEMBER SESSIONS」、また21年目を迎え、国際フェスティバルとして次のステージに向けて動き出したダンコレ(2016年1月~2月開催予定)に足を運び、ぜひ会場の熱気を体感して欲しい。

(補足)記事の構成上、20年にわたる横浜ダンスコレクションで受賞した全ての振付家をご紹介できませんでした。横浜ダンスコレクションのホームページに掲載されている「受賞者一覧」をご覧ください。

photo:森日出夫

ダンコレのメイン会場「横浜赤レンガ倉庫」photo:森日出夫

 

 

○イベント情報○

Dance Dance Dance@ YOKOHAMA 2015 
「SEPTEMBER SESSIONS(セプテンバーセッションズ)」
http://akarenga.yafjp.org/SS/2015/

出演:梅田宏明、中村蓉、森下真樹、ロサム・プルデンシャド・ジュニア
日時:9月19日(土)~9月21日(月・祝)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
最寄り駅:みなとみらい線「馬車道駅」または「日本大通り駅」より徒歩約6分
主催:公益財団法人横浜市芸術文化振興財団
お問い合わせ:横浜赤レンガ倉庫1号館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
TEL:045-211-1515 E-mail:ydc@yaf.or.jp

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