子どもと芸術文化~Vol.3 横浜みなとみらいホールの取り組み

Posted : 2015.08.14
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横浜市芸術文化振興財団の「子どもと芸術文化」の取り組みについて大特集。 3回目は、コンサートホールである横浜みなとみらいホールの音楽を通した子どもたちへの取り組みを取材した。

Vol.1 横浜美術館の取り組み
Vol.2 横浜市民ギャラリー、横浜市民ギャラリーあざみ野の取り組み
Vol.4 横浜能楽堂、横浜にぎわい座の取り組み

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横浜みなとみらいホールの子どもへの取り組み
――音楽を愛する大人になってほしいという想いから

横浜みなとみらいホールは1998年に開館した。開館時は有名海外オーケストラによる公演などで全国から大きな注目を浴びた。国内最大規模のパイプオルガンを正面に備える2020席の大ホールと、室内楽やピアノ演奏などに向く440席の小ホールは、いずれも優れた音響特性を誇る。横浜港を臨むみなとみらいエリアに位置することから「海のみえるコンサートホール」として親しまれている。開館以来、世界最高レベルの楽団やアーティストをはじめとする内外のプロ・アーティストによる公演から、活気あふれる市民のアマチュア活動等にいたるまで、年間 600件を超える公演が開催され、毎年50万人を超える来館者を迎えている。

鑑賞:こどもの日コンサート小

「こどもの日コンサート」2015年5月5日のステージ

 

そんな横浜みなとみらいホールは、開館当初から子ども向けの事業にも取り組んできた。「こどもの日コンサート」は2000年から開始したこどもの日に開催するガラ・コンサートだ。ガラ・コンサートは、オーケストラによる演奏、ヴァイオリン、ピアノ、パイプオルガンなどソリストの演奏、歌手や合唱団による歌曲、ときにバレエやダンスなども交えて、大勢の音楽家が登場する演出の施された舞台を楽しむコンサートだ。これは普段、入場できない未就学児にも一流の演奏家による本物の音楽にふれる体験をしてもらいたいとの想いから、毎年継続してきたもの。華やかなステージを味わえるために、リピーターとなり、その後は一般のクラシックコンサートへの鑑賞デビューを果たすというコースも多い。未来の聴衆を育てる役割を担っている。

鑑賞:0歳オルガン小

「0歳からのオルガンコンサート」の ステージ(2014年9月)

「0歳からのオルガンコンサート」開催時にはエントランスにベビーカーが並ぶ

「0歳からのオルガンコンサート」開催時にはエントランスにベビーカーが並ぶ

 

こうした「子どもがコンサートホールで生の演奏を鑑賞する」ことを目標にする「鑑賞型」の事業には、ほかに「0歳からのオルガンコンサート」がある。これは横浜みなとみらいホールに建造されたパイプオルガンの壮大な響きを、0歳児からの乳幼児と保護者にも味わってもらう事業だ。大きな人気があり、毎回ずらりと並ぶベビーカーは圧巻だ。

「子育てで疲れる日々のつかの間の贅沢なひととき。涙が出ました」
「1歳児にはまだ早いかと思いましたが生の楽器の音にふれられてよかった」
「親子でリラックスして音楽を聴けました」など、小さな子どもとの共有体験を求める親からの感動の声が毎年数多く寄せられている。

将来のジャズ・ミュージシャンを育てる

コンサートホールは鑑賞するだけの場ではない。横浜みなとみらいホールは昨年、中高生を対象にジャズのビッグバンド(大編成のジャズ・オーケストラ)を育てることにした。

「横浜市立笹下中学校など、市内でジャズ演奏の課外活動を行なっている中学校・高校はあるのですが数少ないのが現状。大学までにビッグバンドを続ける環境がないという子どもたちの声から、『熱帯JAZZ楽団』のサポートを受け、始めたものです。とても熱心にジャズを練習しているメンバーたちの姿にやりがいを感じます」と事業担当の白川美帆さんは手応えを話す。
ジュニア・オーケストラをコンサートホールが持つ例は珍しくないが、ジュニア・ビッグバンドを所属させる例は全国でも珍しい。その名も「みなとみらいSuper Big Band」だ。

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リハーサル室での「みなとみらいSuper Big Band」の練習の様子

 

現在約20名のメンバーが週1回のペースで練習を行なっている。グランドピアノやアンプなどはホールの備品を使用し、また全体練習にはプロのオーケストラやオペラ歌手などのための「リハーサル室」を、楽器ごとのパート練習には楽屋を使用できる。

「こんなIMG_9313恵まれた環境で中高生がジャズに打ち込めるなんて素晴らしいですよね。プロ奏者にならなくてもいい、自分の方向を見つけてほしいですね」と、指導に訪れた「熱帯JAZZ楽団」のトロンボーン奏者、青木タイセイさんは言う。このプロジェクトにはラテン・ジャズ・ビッグバンドの「熱帯JAZZ楽団」が協力しており、青木さんは特別講師として月に2回程度指導に当たっている。

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現在約20名が在籍しているが、そのひとり、サックスの鈴木哲さんは高校3年生。
中学校の吹奏楽部でサックスと出会い、高校の先輩から誘われてこのビッグバンドに入った。ソロで腕を磨いていく選択もあったはずだが、「この年代でジャズをやっている人は少ないので、熱心な仲間とテクニックなどの問題を共有できるのでレベルアップできます」と言う。ジャズ科のある音楽大学を受験する予定だ。この日の練習ではアドリブ・ソロも奏でていた。

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トランペットの吉野菫(すみれ)さんも高校3年生。札幌の中学校の部活動でビッグバンドに出会い、横浜に移ってきてこの活動を知った。「ジャズが大好きです。熱帯JAZZ楽団は憧れの奏者たちでした。プロの奏者になるかどうかはまだわかりませんが、ステージに立つ機会があるのがいい経験です」と言う。やはり音大の受験を考えている。

横浜みなとみらいホール主催イベントや、「横濱ジャズプロムナード」(1993年から開催されている毎年10万人を超える来場がある日本最大級のジャズ・フェスティバル、今年も10月に開催)などに出演し、ステージを体験することができるのがメンバーたちの大きな励みとなっているようだ。

将来のジャズ演奏家が着々と育ちつつあるようだ。新規メンバーは随時募集中だ。 

熱帯&SBB小

結成後、初めて「熱帯JAZZ楽団」のステージに飛び入り参加した「みなとみらいSuper Big Band」(2013 年11月)

育成:みなとみらいSuper Big Band小

「みなとみらいSuper Big Band」2014年8月のステージ

 

 

 

 

 

 

 

 

将来の演奏家を育成する事業は、クラシックのジャンルではもっと早くから行なっている。

育成:金の卵みつけました(若生麻理奈)

「金の卵見つけました」受賞者コンサートの若生麻理奈さんの演奏(2014年)

2012年に始めた「金の卵を探しています」は、オーディションによって若いピアニストとヴァイオリニストを発掘、コンチェルトのソリストとしての演奏の機会を与えるというもの。横浜で音楽の普及に努めているNPO法人ハマのJACKとの協働プロジェクトだ。予選、本選を経たオーディション合格者はアンサンブルのレッスンを受講することができる。その上でNHK交響楽団メンバーをはじめとする「ハマのJACKオーケストラ」をバックに協奏曲を演奏する機会を与えられるのは、若いピアニストやヴァイオリニストにとって得難い体験であろうし、今後の演奏家としてのキャリアの出発点となっている。ここにも コンサートホールとして”未来の音楽家を発掘したい”という想いがある。

まず体験して音楽の本質を知る

まずは音楽の楽しさを知ってもらおうと、「体験」を重視した活動も実施している。そのひとつは「おやこオペラ教室」だ。大ホールのステージ上に設置された座席に座り、オペラ歌手による歌声を間近で聴き、オペラとはどんなものかをワークショップ形式で声を出しながら参加して知る。

体験:オペラ教室(2014年)小

オペラ『泣いた赤鬼』が題材だった「おやこオペラ教室」2014年

「素晴らしいオペラを体感しました。子どもと一緒に親も祖父母も楽しみました」
「歌手の声のステージでの響きに感動しました」
「マイクなしの生声の美しさにびっくりしました」などの感想が集まっており、敷居の高い印象のあるオペラという芸術ジャンルに親しみを抱かせることに貢献している。

 

体験:工作室2小ほかにも体験型のプログラムを数々行なっている横浜みなとみらいホール。「おんがく工作室」はヴァイオリンなどの楽器作りをリハーサル室で行ない、完成した手作りの楽器を持って大ホールに移動、全員で合奏をする。夏休みの宿題の手助け役も担っており、例年応募者も多く、抽選での参加となっている。

「ヴァイオリンを作れると思うと嬉しかった。
馬の毛で弓を作るところが大変だったけどかっこいい楽器ができた」
「大ホールのステージでみんなで演奏したのは、恥ずかしかったけど楽しかった」など、楽器への理解とともに、ステージ体験を通して、コンサート鑑賞への動機付けの役割も果たしている。

現在開催中の「夏休み みなとみらい わくわく遊音地」は、ここで取り上げたプロジェクトの数々を網羅して楽しめる、子どもと保護者を対象にした音楽体験週間だ。この5日間、横浜みなとみらいホールは子どもたちの姿でいっぱいになる。2011年に開始された5年目のプロジェクトだ。2007年から2010年には同じ目的で「夏休みオルガン わくわく大作戦」と題するプロジェクトを実施していた。

「わくわく遊音地」には「おんがく工作室」 (8月13日に実施済み)、「おやこオペラ教室」(8月16日大ホール・有料)の実施、「みなとみらいSuper Big Band」の演奏(8月16日小ホール・申し込み終了)、「金の卵見つけました」受賞者によるコンサート(8月17日小ホール・申し込み終了)も含まれている。

「音楽を愛する大人になってほしい」という想いから、音楽を通して子どもたちにできる育みの方法をさまざまな形で探り続けてきた横浜みなとみらいホール。音楽の力が子どもたちを輝かせる様子を聴いてみてはいかがだろう?

大ホール新バナー小

横浜みなとみらいホール・大ホール

ホール外観(昼)

 


横浜みなとみらいホール
子ども向けプログラム インフォメーション

◆「夏休み みなとみらい わくわく遊音地2015
開催期間:8/13(木)~8/17(月) 
料金:プログラムによって異なるので確認を
事前申し込み終了のプログラムもある
http://www.yaf.or.jp/mmh/recommend/2015/08/-20138187.php

【横浜みなとみらいホールへのアクセス】

住所:横浜市西区みなとみらい2-3-6
最寄り駅:みなとみらい線「みなとみらい」 駅
お問い合わせ:TEL 045-682-2020
http://www.yaf.or.jp/mmh/

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