アーティスト丸山純子の中国・成都市滞在制作レポート

Posted : 2014.10.10
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ここ横浜で(公財) 横浜市芸術文化振興財団が取り組む「横浜市・成都市アーティスト・イン・レジデンス交流事業」。中国・成都市から来日したジー・レイ(吉磊)さんを当サイトでご紹介したが、先立ってこの春に横浜から成都市に出かけたアーティストが丸山純子さんだ。成都での滞在制作は彼女に何をもたらしただろうか?

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日常を知って変容させる

丸山純子さんは、横浜を拠点に活動するアーティスト。これまで、使いおわったレジ袋を用いて作った「無音花畑」(BankART1929、横浜ほか)や、前回の横浜トリエンナーレ2011の連携プログラムとして、巨大な花の地上絵を廃油粉石けんで描き続けたプロジェクト「Utopia Totopia」などを発表してきた。

今年の春、「横浜市・成都市アーティスト・イン・レジデンス交流事業」のアーティストに選ばれ、中国・成都市にて滞在制作を行なってきた。四川省にあるという成都市はどんな街で、どんな滞在だったのだろう。
丸山さんは、まったく初めての中国の街をまず「知る、 感じる」ことから始めたのだという。フィールドリサーチで捕らえた成都の姿とはどんなものだったのか。

「初めての驚きに満ちていました。いろいろなものが混在していて、多様性の宝庫みたい。昔の懐かしい雰囲気から、意外にも最先端な場所まで。気楽で親しみやすいところも、高級感漂う場所も、のどかな田舎の風景も、渋谷みたいな大都市の繁華街も同時にある。電車で1時間ほど距離を移動する間にどんどん違う風景が見えてきました」

丸山さんの作品はその場所の日常を変容させることがテーマになっていることが多い。そのためには、その場所が 持っている性質を知る必要があるのだろう。
さて、丸山さんが感じた成都の日常とは?そしてその日常に関わるどんな方法を見つけたのだろう?


その土地の生活廃材で石けんをつくる

「石けんを作ることがこのところ私にとっては大事なことなんです。だから成都でも石けんを作ることにしました」————丸山さんにとっての石けん作りは、まず原料となる油を探すことから始まる。
「人が食事をして残った油のような、人の生活に密着しているものを変容させることに興味があったので」————成都ならではの廃油を丸山さんは見つけた。

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成都名物の火鍋

成都は四川州にあり、麻婆豆腐の発祥の地と言われている。ある夜、滞在先のA4当代芸術中心(A4 Contemporary Arts Center)のスタッフや関係者らが丸山さんの歓迎会を開いてくれた。それは「火鍋」専門店。唐辛子や山椒などの調味料がふんだんに入った辛い味付けの紅湯の麻辣(マーラー)スープで、羊肉などを煮て食べる。その後もしばしば火鍋レストランで食事をすることになった丸山さんは、この麻辣スープの廃油から石けんを作るのがこの土地らしいと思いついた。A4のスタッフの奔走もあり、数軒のレストランが赤い廃油を提供してくれることになった。

 

苦労した石けん作りin中国

石けんの作り方をご存知だろうか?意外に簡単、油と苛性ソーダを合わせて加熱し、混ぜて固めればできあがり。しかし丸山さんの場合は、作品を描くための「絵の具」となるものなので、何十キロという量が必要だ。日本では原料も機械も簡単に手に入る。が、この中国滞在ではままならない。
結局、丸山さんは機械を借りるのはあきらめ、家庭用の鍋としゃもじで手作りすることにした。貸し与えられた広い工房の片隅で、コンロに手鍋をかけ、しゃもじでかき混ぜる日々が続いた。ポロポロになるまで手でほぐしながら乾燥させて、できあがるまでに約1週間。時間と手間の割には少量ずつしかできない。

 

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0925丸山純子 (2) こうした時間と手間をかける石けん作りには丸山さんのこだわりが見える。
「赤い油から石鹸を作るとこういうオレンジ色になったんです。
綺麗ですよね」
少しだけ余って持ち帰ってきたオレンジ色の石けんの瓶の蓋を開けてもらう。
ぷーんと香る唐辛子や香辛料にむせ返ってしまった。


石けんで野花を描くことの意味

成都の匂いを封じ込めた石けんでどのような作品づくりをしたのだろう?

まずは大きな人民公園に出かけて実験を試みた。太極拳やカラオケ、ダンスにローラースケート、大勢の地元の人々が好き勝手に活動しているその脇で、その石けんの粉で一人で地面に野花を描いてみた。描き終わるや、その野花はあっけなく公園の清掃係によって消されてしまった。

この実験的活動を経て、準備をして臨んだのが「野花田(のばなでん)」と題した参加型の作品制作だ。「野花田」とは野花畑の中国語。野の花をいろいろな人に石けんで描いてもらうことにした。そのために野花の型を用意した。成都のあちこちで見かけた道ばたの雑草のスケッチが元になっている。なぜ雑草を?
「その土地に何気なく咲いている誰も気にかけないような花のほうが好きなんです」

 
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丸山純子:野花のスケッチ

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成都の繁華街、まるで渋谷の真ん中のような活気あふれる場所にオープンしたばかりの、超高級デパートの広場がその制作イベントの会場となった。

あらかじめ募集した参加者に、石けんの粉の入ったバケツと刷毛を渡し、用意した10パターンほどの野花の型を自由に選んでもらい、広場の好きな地面に描いてもらうというイベントだ。家族連れ、学生、アート関係者など数十人が参加した。2日間の実施だったが、初日の午後には雨が降ってきて、半分消えてにじんだ跡が残った。翌日はその上に重ねて描いていった。せっかく描いたものが雨で流れてしまうことについて、作品の完成ということを丸山さんはどのように考えているのだろう。

「花を描き終わることが作品の完成ではないんです。そこに至るまでの長い過程そのものが私にとっては意味があると感じます。捨てられた油から石けんを作るという工程自体も、日常から捨てられた必要とされないものを有用なものへと変容させるという意味があります。そしてその有用なものを使って花という自然の形を描くこと。石けんで描いた花は雨に溶けて微生物に食べられて、自然に帰っていく。花は、自然のもので一瞬の限られた生を生きて自然へと帰るものですから。油に始まり、それが消えていくところまでの、長い過程のすべてが大事で、一周するスパイラルのように感じています」

長期にわたる苦労の末に作った石けんでせっかく描いた作品が消えてしまうのを受け入れるとは達観していて寛大な方なんですね?

「いえ、現実としては、急に雨が降ってくると慌てるんですよ。でも謙虚に受け止めて、それでも描き続けようと決意する。その間にいろいろな感情が湧いてきて葛藤するんですが、天候という人間がコントロールできないものを受け入れて取り込むことに意味を感じるんです」

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丸山純子: 「野花田」(成都市2014年5月)

 

多様な声から自分を発見する

 この作品制作での手応えはどうだったのだろう。丸山さんは多くの人から直接、声をかけられて驚いたと言う。

ある人は「もし自分の作品がこんなふうに消えちゃったら悲しい」と泣き出した。

「描いた花は消えてしまったけれど、いったい消えないものとは何だろうか」と問いかけられたりもした。

「この作品のメッセージは“和解”もしくは“平和”ですね」
と言ったのは、成都在住のアーティスト、ジー・レイさんだ。彼もこの制作イベントに参加して、花をいっしょに描き、消えてしまった地面を見てこう言ったのだ。
日本や欧米での公開制作では、こんなに率直に自分の感想や意見をぶつけられる経験はなかった。

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石けんを粉に粉砕するための粉挽き器も見つからずに、A4当代芸術中心のスタッフのお母さんから借りた。これは同じ物を市場で購入して持ち帰った。


丸山さんの成都滞在 を、丸山さん自らシャッターを切った写真でご紹介しています。
http://www.yokohama-air.org/maruyama/#id37


成都市での経験から得たもの

成都での滞在制作から帰国し、丸山さんは、すでに2つの作品制作を行なった。
全ての場所が世界の真ん中-1/100,000の越後妻有」では、妻有のレストランの廃油で石けんを作り、その白い石けんで丸いパターンの花を描いた。現在開催中の富山県・発電所美術館での個展「漂泊界」では、地元の小学校から廃油を手に入れて、その石けんで美術館屋外の広場に花を描いた。

成都での苦労した石けん作りによって、石けんへのこだわりがより強くなったと言う。また、文化の違う言葉の通じない多様な人々の反応から、作品制作の姿勢について自身が気づいていなかった側面を発見することもできた。

丸山さんは今、日常を変容させることに確信を抱きながら、たっぷりの時間と丹念な手間をかけて進んで行こうとしている。

 

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丸山純子:「空を見上げる」(「全ての場所が世界の真ん中-1/100,000の越後妻有」2014年8月)

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丸山純子:「花」(「漂泊界」2014年9月)

 

【横浜市・成都市アーティスト・イン・レジデンス交流事業】
2007年より北京市との交流事業として始まり、2012年より成都市との交流事業として再スタート。各アーティストは、それぞれの滞在先にてフィールドリサーチや制作活動、そして展覧会やアートイベントなどの成果発表を行なう。今年の春は横浜市よりアーティストの丸山純子氏が成都市にて滞在制作を行なった。現在、成都市在住のアーティスト、吉磊(ジー・レイ)氏が 横浜にて滞在制作を行なっている。

 

【プロフィール】
丸山純子(まるやまじゅんこ)

1976年、山梨県に生まれる。1999年、立命館大学国際関係学部(環境・経済) 卒業。
2002年、City University of New York, Hunter College BFA
2009年、朝日新聞文化財団助成、台北市・横浜市アーティスト交流プログラム審査員特別賞受賞。
2014年、横浜市・成都市アーティスト・イン・レジデンス交流事業助成、中国・成都市において滞在制作。
現在、アーティストや建築家などの共同オフィス「宇徳ビルヨンカイ」(横浜市)にアトリエを構えている。

 丸山純子展「漂泊界」富山県入善町 発電所美術館にて2014年12月21日まで開催中。会期中に公開制作も行なわれる。
http://www.town.nyuzen.toyama.jp/cosmo/kyoiku/bunka/bijutsukan/bijutsukan/maruyama.html