2021-04-30 コラム
#子育て・教育 #福祉・医療 #パフォーミングアーツ #助成 #ACY

難病児に最上級のパフォーマンスを届けたい 「心魂プロジェクト」が走り続けた1年の意味

プロフェッショナルのミュージカル俳優たちのパフォーミング・グループ「心魂(こころだま)プロジェクト」は、2014年から病児、障がい児、その家族に向けたパフォーマンス活動を行ってきた。「心の命を守りたい」という彼らの活動に対して、2020年度の公益財団法人横浜市芸術文化振興財団のクリエイティブ・インクルージョン活動助成(芸術と社会の関係から生まれる創作活動を支援)の対象事業に採択された。新型コロナウィルス感染拡大の中でも オンライン活動に切り替えて配信をほぼ毎日続けたこの1年を紹介したい。

信念は、必要とする人のもとに出向くこと

新型コロナ感染症のパンデミックが起きてから1年がたった。芸術活動、なかでも演劇やパフォーマンスの観客と向き合う活動は中止になるものも多くあった。この状況の中、深刻な影響を受けているのが療養中の子どもたちや障害のある子どもたちとその家族だ。もともと感染症には厳重に注意をしなければならないそうした人たちの心がますます孤立してはいけないと、2020年のコロナ禍でも止まることなく活動を続けたパフォーマー・グループがある。「心魂プロジェクト」だ。

心魂プロジェクトが発足したのは2014年。重い病気の子どもたちにこそ最上級のパフォーマンスを届けたいと、元「劇団四季」や「宝塚歌劇団」出身のミュージカル俳優や音楽家などによって結成された。

この活動を始めたきっかけは、代表である寺田真実さんが劇団四季で活躍していた頃に届いたある手紙だ——手紙の主は10歳の自閉症の男の子の母親。劇団四季の「ライオンキング」に感動した男の子が、次はひとりで見に行こうと決心し、貯金をしてお金を貯め、バス停からバスに乗る練習を重ね、10カ月かけてその決心を達成した経緯と、劇団員への感謝の言葉が綴られていた。寺田さんは、毎日迎える大勢の観客の中にあったひとつの深いストーリーに感動するとともに、「劇場に来ることが困難な子ども」の存在に初めて気づかされたという。同時に、キリスト教の牧師であった父親の「教会で来るのを待っているのではなく、必要とする人のもとに自ら出向く」という信念も、自分の心の中に植えられていることにも思い至ったという。そして40歳のとき、人生の折り返し地点と思い、独立とプロジェクトの発足を決意した。

その発足以来、「心魂プロジェクト」は 障害のある子どもや大人、その家族たちに向けて、大きな会場から、病院の病棟廊下や病室のベッドの枕元に至るまで、幅広い場で活動してきた。年間100日以上、国内のみならず海外にもおよんでいた。—2019年までは。

2020年、オンラインに切り替えて活動

2021年3月14日のことだ。「心魂プロジェクト」代表の寺田真実さんと共同代表の有永美奈子さんは、横浜・東神奈川駅にほど近いビルの1階で喜びを噛みしめていた。「心魂プロジェクト」のオンライン配信専用のシアターがこけら落としを迎えたのだ。南国の海傍に立つ小屋というコンセプトのシアターの完成にあたり、寺田さんにこの1年間をふりかえってもらった。

準備中の「心魂オンライン・シアター」にて

寺田真実(以下、寺田):ちょうど1年前の2020年3月15日に私たちは初めての生配信を実施しました。コロナ感染が拡大して依頼公演の中止の連絡が相次ぐ中で、オンライン配信しかないと覚悟を決めたあの日のことは忘れられません。準備にかけた時間はたったの2週間、何から何まで知らないことばかりでしたが、プロに頼む予算などありませんでしたので、ネットで自力で調べて機材を購入し、自宅から生配信を行いました。
昨年3月、当初予定していた公演がすべて中止となり、まわりの演劇や歌の活動がぴたりと止まる中、私たちは、あの最初のオンライン配信からいっときも止まることなく走り続け、この1年間に配信したパフォーマンスや番組は1000本(4/18時点)にも達し、動画再生回数は累計13万回となりました。そしてここ横浜に心魂オンライン・シアターをオープンでき、こけら落とし公演を届けることができました。

こうふり返る寺田さんだが、活動のための資金のやりくりはこれまでに比べてより困難だったに違いない。一昨年までは、年に数回の一般向け有料公演を行い、そのチケット代収益の半分以上をデリバリー・パフォーマンスの活動資金に充てていた。しかし昨年は観客を入れての有料公演は不可能となり、なんとかオンラインで活動を継続していくにあたって、まっさきに駆け込んだのは当ウェブマガジンを運営する横浜市芸術文化振興財団の「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」によるクリエイティブ・インクルージョン活動助成への申請だった。

寺田:わらにもすがる必死の思いで申請しましたが、クリエイティブ・インクルージョン活動助成に支援いただくことが決まったことがきっかけとなり、その後ほかの助成も得ることができて、本当に助かりました。前年までは有料公演などで得ていた収益分をカバーすることができたのです。そして、この「心魂オンライン・シアター」を開設することもできました。

心の孤立を救いたい

1000回という配信回数には驚くが、その内容の一部を列記してみる。
・「家族で卒業式」 (難病児、障害児の家族の1年のがんばりを讃える公演)
・千葉東病院重症心身障害病棟へのデリバリー・パフォーマンス
・全国23カ所の子ども病院や小児病棟に入院している子どもたちに向けての「心魂キッズ団」によるデリバリー・パフォーマンス
・「豊橋肢体不自由児・者 父母の会」へのデリバリー・パフォーマンス
・一般向け公演「大人のための心魂」
・リフレッシュのためのプログラム「大人向け癒しヨガと歌」
・オンラインでの「心魂ワークショップ」;「社会人パフォーマー」向け、「心魂キッズ団」向け
・国際企業社員向けにワークショップと講演

2020年12月12日(土)、13日(日)横浜ラポールシアターでの無観客公演の様子。オンラインで配信された。(※)

届ける対象は、病児、障がい児だけでなく、その家族である兄弟児や保護者までと、はば広い。そして内容も、参加アーティストがそれぞれ独自の番組を受け持って、子守歌やヨガレッスンをしたり、世界旅行、季節のイベントに合わせた番組やスペシャルライブなど、多岐にわたっている。その走り続けたエネルギーはどこからきているのだろう?

寺田:6年前に「本物のパフォーマンスに出会うのが困難な難病児にこそ最上級のものを届けるべきだ」という思いからこのプロジェクトを立ち上げました。今もその思いは持ち続けていますが、この新型コロナの影響で誰もが家から出られずに心の窮屈さや苦しさを感じた2020年、難病の子どもやその家族にとっての閉塞感は私たちの想像を超えていて、命の危険に直結した事態だとすぐに察しました。そうした子どもたちや大人たちの心が孤立してしまうことからなんとしても救わなければ、という思いを強く持ちました。だからこそ、私たちは止まってはならない、語りかけ続け、届け続けなければならないと思ったのです。

そうした想いはどのように観客に受けとめられているのだろうか。それは、年間9回の「心魂ワークショップ」を行うことになった経緯を知れば明らかだろう。

「心魂ワークショップ」は、客席で公演を楽しんだ観客の中から「私も舞台のあちら側に行きたい!」という声が大きく上がったことをきっかけに開催が始まった。昨年はそのワークショップもオンラインで開催することになったが、現在は受講しながら「社会人パフォーマー」として出演する大人が29人、また「心魂キッズ団」として勉強しながらがんばる子どもが16人在籍している。

家でオンラインパフォーマンスを一緒に楽しむエイトマン(※)

台湾の日本人学校へのデリバリー・パフォーマンスで「心魂キッズ団」として出演中の“ジャスミン”。 “ジャスミン”は12歳、重度先天性心疾患の病を持っている。(※)

そんな「心魂キッズ団」のひとり、“むぎちゃん”はダウン症(重度知的障害)、心臓病、その他合併症を持つ6歳になる女の子だ。3歳のときに初めて「心魂プロジェクト」の公演を見に行き、その後何度か公演に足を運ぶうちに、「私たちもあの舞台に立ちたい」と思うようになって、親子でワークショップ・メンバーになったという。“むぎちゃん”は、歌うことはできないが、昨年の「心魂クリスマス・フェスティバル」にオンライン出演を果たした。

むぎちゃんのお母さんは、「歌うことのできない娘のために振付をつくってくださったので、親子で一生懸命練習しました。コロナはもちろん風邪すら絶対にかかってはいけない娘は、生の舞台では出演できなかったかもしれませんが、オンラインだったからこそ出演して踊ることができました。娘は、自分が出演していることや、仲間と一緒に画面に映っていることですごく嬉しそうにしていました。オンライン配信でも心をたくさん動かすことができると感じました。それに、出演のおかげで娘の変化や成長に気付けたことも、親として喜びのひとつでした。自分たちがひとりじゃないと思えることは、親である私にとって、日々のものすごい力になっています」と話してくれた。

2020年5月4日世界旅行がテーマの配信を楽しむ“むぎちゃん”(※)

「選べる」人生の豊かさを届けたい

オンラインに活動を切り替えたことの決断の早さと、オンラインだからこそ実現できた出会いなど、この1年の活動は実り多いものだったようだ。

寺田:どんなにお金持ちで何不自由なく人生を送る人であっても、「死」だけは自由にはなりません。ひとの人生はその選ぶことのできない「死」に向かっているとも言えます。そして、それをいつも身近に感じて1日1日を過ごしているのが難病のこどもたちと家族です。だから、それをより豊かに迎えられるようにしてほしい。そのために、私たちは「選べる」豊かさを体験してもらいたいと思っています。
オンライン配信は、その「選べる」豊かさを体験することに役立ちます。オンラインの双方向性と同時性が、たとえ病室を出られない子どもであっても、参加して声を出したり、みんなと一緒に画面に登場できたり、音楽をリクエストできたりする。直接に話しかけることだってできるんです。ひとりも寂しい思いをさせたくない。

私たちは、コロナ禍の状況になる前から、オンラインの有効性には気づいていたので、これからもその利点を最大限に活用していこうと思っています。ネット環境さえ整っていたら、地球上のどんな場所とも繋がり、唯一無二のパフォーマンスを届けることができるのです。

2021年4月以降もすでに20回近いオンライン・デリバリー・パフォーマンスの依頼が来ているという。対面方式のデリバリー・パフォーマンスはいつできるかはわからない。それだったらオンラインでパフォーマンスを今日届けよう、待っているひとのところへ駆けつけようと、心魂プロジェクトは今年も全力で走り続ける。

取材・文 猪上杉子
撮影 森本聡 (※以外)/ ※(C)cocorodama


【プロフィール】

特定非営利活動法人 心魂プロジェクト(こころだま ぷろじぇくと)
「ワクワク・ドキドキ・感動はすべての人に与えられた権利である」という理念の元に、劇団四季出身俳優・宝塚歌劇団出身俳優を中心に様々なジャンルのアーティストがタッグを組んで主に「難病児・障がい児・きょうだい児・ご家族へ」オリジナルミュージカルやソング&ダンス、等様々なパフォーマンスをデリバリーする活動団体。なかなかプロの舞台に触れられない人にこそ生身のアーティストが放つパワーをデリバリーすることを目的に2014年1月に活動を開始した。

心魂プロジェクトホームページ https://www.cocorodama.com/
心魂プロジェクトFacebook https://www.facebook.com/cocorodama/

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