アーティストや両親の店、元町を応援したい「Gallery+Sushi三郎寿司あまね」田口竜太郎さん

Posted : 2021.04.16
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元町の裏通り、横浜元町クラフトマンシップストリートに2018年4月、暖簾の付いたカウンターが中に見えるガラス張りのギャラリー「Gallery+Sushi三郎寿司あまね」ができた。店主は、すぐ裏の老舗店「横浜元町三郎寿司」二代目でもある田口竜太郎さん。店舗のデザインや展示の企画運営もすべて手がけ、新たにオンラインギャラリーとシェアオフィスも始めた田口さんに、ギャラリー×寿司屋という異色の組み合わせはどのようにして生まれたのか伺った。

相乗効果で「わざわざ足を運ぶ理由」に

ーーどうしてこの形態でお店を始めようと考えたのでしょうか。

田口竜太郎(以下、田口):ここ(Gallery+Sushi三郎寿司あまね)を始める前は、都内にケータリングで寿司を握りに行っていたんです。アーティストや洋服のブランドをやっているような友人がいて、お寿司だったらにおいが付かないし油も火も使わないので仕込みさえしていけばどこでもできますから、そういう現場で寿司を握るようになって。

それをやりながら実家の寿司屋も手伝っていたので、どうやったら元町に人が呼べるかということは常に考えてはいました。今はネットで何でも買えてしまいますから、やっぱりここの街に来る理由を作らなきゃいけない、街から発信しなきゃいけないと思っていました。

アートって、プリント作品もありますが、基本的に一点物で、一つとしてほかにない、その場所に来ないと見られないのが醍醐味ですよね。僕は子どもの頃から母に美術館やギャラリーに連れて行ってもらっていたのでアートやギャラリーに対して抵抗感がないですが、結構敷居が高く感じる人もいるし、お寿司に対してもそういう人がいる。それを一緒にやることによって、お互いにネックを解消して、相乗効果で客足を伸ばせるんじゃないかと思ったんです。アーティストと一緒に外に向かって発信していって、お互いに将来あまねく活躍ができるようにということで、「あまね」という店名しました。

寿司屋のカウンターとギャラリーがシームレスに共存する「Gallery+Sushi三郎寿司あまね」店内。この時の展示は「須齋尚子 創陶展『掌-ナオノテ-』

 

――街の課題を考えるようになったのはいつ頃からですか。

田口:10年前ぐらい、築地で働きながら実家を手伝っていた時に、元町CS会(横浜元町クラフトマンシップストリート)の会合に顔を出すようになりました。CS会には霧笛楼の社長さんがちょうどその頃立ち上げた飲食部会や、ほかにもビューティー&ヘルスチームというエステ系の集まりもあって、やっぱりどうしたら元町に人を呼べるのかという議題がメインだったんですね。フードフェアの実行委員になって広報をやったり、どういう風にSNSを活用したらいいか皆で話し合ったりもしました。そういう町内活動が基盤になっているとは思います。

元町は岩手県の一戸町と東日本大震災の後から手を組んでいるんですが、僕も一戸町まで行って、一戸町の農作物などをPRするためにはどうしたらいいのか意見交換させていただきました。そういう経験も、影響があると思います。

身近だった建築やアート

ーー小さい頃から元町で過ごされてきて、特に感じている街の変化はありますか。

田口:昔はここの通りの舗装も汚かったし、向かいにはおばあちゃんが経営しているお手洗いが共同のアパートがあったんですよ。手前に犬小屋があって。今犬小屋なんて見ないですよね。銭湯やクリーニング屋さんもあって、普通の商店街でした。

元町自体がやっぱりいち早くきれいになって、当時両親の寿司屋に来ていたお客さんがそういう工事に携わっていたということなんかもあったので、まちづくりや建築、アートには小さい頃から興味があったし、いつも体感していることだったんですね。

父と母は、もう今の自宅1階を改装した場所がいちばん長くなりましたが、その前は中華街に店を出していました。もともと、母の親戚が元町の表通りで100年以上続いた寿司屋をやっていて、父と母はそこで出会って、修行して独立したんです。僕は中華街と元町とずっと行き来する生活をしていて、暇だと山下公園や元町中華街、スタジアムのほうをうろうろ散歩していました。

常に催し物があって人が集まっていて活気があるというのがやっぱり小さい頃からの元町・横浜のイメージなので、今はちょっと厳しいですが、ここでもそういうイベントの運営の仕方をしたいと考えていました。

「いろんなタイプの作品の中でも、その時の心境が反映されているオブジェが面白いと思って今回メインに据えました」という須齋尚子さんの作品

 

ーー学生の時は建築を勉強されていたんですよね。寿司屋になることは目指していなかったのでしょうか。

田口:そうですね。建築の学校に行っていて、デザイン的な建築に憧れていましたが、当時は就職氷河期真っ只中で。設備の会社や内装の会社で働いた後、不動産業に就いたものの、マンションデベロッパーだったので、普通に会社員として働いているという意識でした。

30歳を迎える時、このままずっとこれなのかなとも考えながら、たまたま実家に帰った時に親の商売を見ていて、接客を通した人との関係性がいいなと思ったんです。不動産屋も接客ですが、35年とか途方もないローンを組んでもらうような商売と違って、飲食店のほうが「おいしい」とか、「今日楽しかった」とか、レスポンスが早くて分かりやすいですよね。

それで思い切ってサラリーマンを辞めて、築地市場で働き始めました。いちばん魚が集まるところに毎日いれば、魚の目利きや魚の知識が詰め込めると思ったんです。終電で夜中から築地に行って帰ってきて、今度は親の店の仕入れや仕込みを手伝って、いろんなことを教えてもらいました。

まさかこんな形で自分のお店を作れるとは思っていなかったですが、自分で設計したお店だからなおさら空間のことが分かっているので、建築の延長線上で展示ごとの空間づくりができるというのもありますね。

元町の人たちを楽しませる「景色」

ーー設計する上で特にこだわったのはどんな部分でしょうか。

ギャラリーなんですか、お寿司屋さんなんですかとよく聞かれるんですが、本当に両方なんですよ。ギャラリーカフェなんかもよくありますが、動線がごちゃごちゃだと作品が見にくいので、完全に分離しようと思って、動線のプランニングから始めました。

展示空間のつくり方としては、ガラスの外から一つの画としてどう見えるかというのが一番重きを置いているところなんです。簡単に言えば、デパートのディスプレイのもっと奥行きがあるバージョンのようなイメージ。なのでグループ展をやる時は、ここは何々さん、隣は何々さん、と壁ごとに変えるようなやり方はせず、完全にミックスさせてお互いの作品が喧嘩しないように調和させて組み立てています。

田口:あとは、展示が変わったら誰でも分かるように、前の展示と色使いが被らないようにしています。最初にお話したようによそから元町に人を呼ぶための店でもあるんですが、元町の人たち向けの発信でもあって。日常的にここを歩いている元町の人たちに景色としていいものに映るように、飽きないようにということを意識しています。毎回展示を楽しみにしてくれて、「あ、また変わったね」とか「この前の良かったね」と声をかけてくれる通りがかりの人もいて、でもそういう人に限って一回も入ってこないんですけど(笑)。

前回の緊急事態宣言中は展示はやめていましたが、ライブパフォーマンスでオブジェを作ったり、ライブペイントしてその様子をライブ配信したりしました。

両親が守ってきた店の味

――お寿司に関しては、どんなところにこだわりを持たれているのでしょうか。

にぎりがないところですね。ここではお店の味がいちばん分かる安いメニューを出して、にぎりが食べたい方は裏の実家に行っていただければと思っています。展示は変わっていきますが、寿司に関しては父と母が50年間守ってきた味を楽しんでもらいたいんです。

一番出るのは「助六寿司」というおいなりさんとかんぴょう巻のセットで、酢飯もそうですが、煮炊きものはお店の味なんですよね。ベジタリアンやヴィーガンの方でも食べられるし、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで食べられるというのもあって置いています。あとは酢締めの塩梅や煮穴子の味付けがある押し寿司ですね。椎茸煮や筍といったお店の味の集合体であるバラチラシもあります。

最初はうちのお客さんだったのに、今は親の寿司屋ばかり行っている人もいて、それはそれですごく良かったなと思っています。

展示のついでにちょっと食事がとれると、ただ見て帰るよりはゆっくりしやすいし、作家さんも長時間在廊しやすいので日によっては一緒にお酒が飲めることもあります。

――毎日がレセプションですね。

お酒が好きな作家さんや気前のいいお客さんがいる時は、どんどん頼んで僕まで飲まされることもあります(笑)。

もちろんうちで寿司を食べていってくれなくてもいいので、都内から来た人が展示のついでに中華街に寄って行こうとか、そういう人が多いのは嬉しいですね。

コロナ禍でもできる二人三脚の発信

ーー今回開設したオンラインギャラリーは、決まった作家さん何人かの作品を取り扱うのでしょうか。

田口:基本的には店舗での展示と連携して、これまで展示してくれた作家さんのものも扱っています。どういうサイズのものが売れるのか、誰にお届けするのか、作家さんと話し合いながら試行錯誤していきたいと思っています。1月に絵を買ってくれた関西の方は毎年その作家さんの個展を見にわざわざ東京に来ていたらしいんですが、去年一年来られなかったので、作品が届いたのを喜んでお礼のメールをくれました。

1月の写真展の時にはVRを撮ってもらったので、ギャラリーの空間も見てもらえるようになっています。展示はそれ全体が作品なので、まだ来たことのない人や入りづらいと思っている人にバーチャルで見てもらえたらいいですね。

3階の「あまね区 -amaneku-」コワーキングスペース

 

ーー3階にオフィスもオープンされるということですが、そちらはどういった経緯で?

田口:オフィスのほうもコンセプトは一緒で、作家さんを応援して一緒に発信するように、利用者さんが元町からの発信で成功していただけたらいいなと思っています。コワーキングスペースと3部屋個室があって、すでに1部屋は入居が決まっています。作家さんで、金継ぎのプライベートレッスンを開きながらアクセサリーなどご自身の制作活動をされるということです。

コロナ前は作家さんやアート系の企業のワークショップも1階で開催していたのですが、展示がない時は、利用者の方にもワークショップなどで使ってもらいたいですね。寿司は利用者割引を作るので、ここを食堂代わりに使ってもらって。

――社食が寿司屋っていいですね!

僕がお互いの仕事を知っているので、ビジネスのマッチングもできますしね。フリーランスだけでなくもちろんリモートワークのサラリーマンにも借りてほしいですが、ここでうまくいって、もっと大きいオフィスを借りることになりました、お店出すことになりましたと出ていってくれることが理想ですね。

――3階も以前から借りていたのですか。

コロナの影響でたまたま夏に空いたんです。若い作家さんはシェアハウスに住んでいる人も多いし、シェアオフィスをアトリエにしている人もいるので、もっと安いボロボロなところでもいいからできたら面白いなと思っていたんですけど。夏頃から元町のビルが空く一方になってきて、そのあたりから真剣に考え始めました。会社に行く必要がないんだったら、皆元町で働けばいいのにと思ったんですね。ランチできる場所も多いけど、オフィス街みたいにごちゃごちゃしていない。

改装前はエステだったのでシャワーが付いていて、山下公園やみなとみらいをウォーキングしたり、ランニングしてくることもできるし、アメリカ山公園とかでヨガをやっている人も多いし。今は電車通勤を嫌がる人もいるから、走って来てもいいですよね。そうやって一日の生活をデザインしてもらえたらいいなと思っています。

文:齊藤真菜
写真:大野隆介

 


【プロフィール】

Gallery+Sushi三郎寿司あまね
みなとみらい線元町・中華街駅から徒歩3分、JR根岸線石川町駅から徒歩9分、ギャラリーの中に寿司屋スタンドがあるお店。展示は、オーナーが依頼する作家の企画展のみで、四季の移ろいや世の中の流れが感じられ、お寿司は徒歩1分にある両親が営む三郎寿司の味が楽しめる。アートと寿司の両方もあり、どちらか一方のみもあり、テイクアウトして近くの公園でピクニックもありと、来る人によってアート、食、街と様々な楽しみ方ができるようになっている。

住所:横浜市中区元町1-37-4 てるのビル1F
水〜土:11時〜21時(20時L.O.) 日:11時〜19時 定休日:月・火
*新型コロナウイルスの影響で営業時間が変更になる場合がありますので、詳しくはお問合せください。
TEL:045-298-3749 Mail:amane.motomachi@gmail.com
URL:https://amane.gallery/