そこに、ともにいること——作家・演出家 中村大地さんインタビュー

Posted : 2021.02.03
  • mail
なごやかな部屋飲みに何食わぬ顔で紛れ込む死者。久しぶりに再会した友人との会話に滲むお互いの、そして街の変化。アーツコミッション・ヨコハマによる2020年度若手芸術家支援助成「ACY U39アーティスト・フェローシップ」の一人、中村大地が作・演出を務める屋根裏ハイツの作品ではいつも、失われたものが日常と同じ温度感で語られ、ときにまだそこに存在しているかのような手触りを残す。代表作『ここは出口ではない』で第2回人間座「田畑実戯曲賞」を、利賀演劇人コンクール2019では『桜の園』の演出で優秀演出家賞一席を受賞するなど、劇作家としても演出家としても高い評価を得つつある中村。新作『パラダイス』のクリエーション中の彼に話を聞いた。

 

死者と向き合うことと他人の体験を語ること

2013年に屋根裏ハイツを立ち上げたときからずっと、死者とどう付き合うかということがテーマとしてはあります。2012年に父が亡くなっていて、そういう身近な人の死とどう向き合うか、それをどう言語化するかということが創作の基軸にあって。

「死んだ人は心の中にいる」みたいなことをよく言うじゃないですか。僕はそれがあまりピンとこなくて。どちらかというともうちょっと、死者が、生きている人みたいに隣にいる、横にいるみたいな感覚でいたいなと思っている。それをどう肉付けして表現として実体化させていくかという試みをずっとやってきました。

でも一方で、死者を舞台上に出すことには抵抗感があった。俳優は生きているのに、死者を舞台上に出すのは嘘だという感覚がスタートとしてあって、それで、死者と会えない、みたいな話を書いたりもしていました。それがようやく、こういう形だったら死者を舞台に登場させてもいいかもしれないと思えたのが2018年の『ここは出口ではない』でした。

2020年7月 屋根裏ハイツ『ここは出口ではない』こまばアゴラ劇場 撮影:本藤太郎(※)

 

——  昨年、『ここは出口ではない』と2本立てで再演ツアーを回った『とおくはちかい(reprise)』は、震災を背景とした作品でした。

2010年に大学進学で仙台に行って、2011年の東日本大震災は仙台で経験しました。仙台にいると、やっぱり何か震災について考えることが普通みたいな環境はあったんですね。アートで言えば「せんだいメディアテーク」という場所があってそこが震災と向き合うということをすごく誠実にやっていたことが大きい。そういう環境があったので、やっぱりちゃんと引っかかり続けて、考え続けることができたのかもしれません。
その中で、僕が初めて作品のなかで震災を扱ったのは2017年の『とおくはちかい』になってからで、それは6年経ってようやく何か喋れるかもしれないと思えたことがあったからなんですけど、それでも初演のときは震災を大火事に置き換えて台本は書いていました。震災のことを直接書いてしまうと、特に仙台で上演するには、あまりに観客自身の記憶が強く思い出されてしまうのではないかと思ったところがあって。

そこからさらに時間が経って、2020年に再演版として上演した『とおくはちかい(reprise)』では、震災を背景とする話に台本を書き直しました。実際に家を津波で流されてしまった俳優に出演してもらって、その人の語りを踏まえながら。
人が病気で亡くなることと震災で亡くなることはもちろん違うことだし、自分の体験を語ることと他人が体験したことを語ることももちろん違う。でも、取り戻せないもの、言語化できないものをなんとか言おうとする、誰かに伝えようとするときに、その出来事に対して手を伸ばす想像力の質はそう違わないかもしれないと最近は思っていて。相手の体験を理解することはできないけど、その体験を想像するときの感覚は、亡くなってしまった人のことを考えるときの感覚と近いところはあるのかなと思います。

そう思えるようになったのは、Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021の「10年目をきくラジオ モノノーク」で「10年目の手記」という企画に携わったことも大きいです。震災から10年後の今、思い出すことや忘れられないこと、忘れたくないことを手記にして送ってくださいという公募の企画で、定期的にある締切りごとに選考委員が手記の中から1本を選んでそれを俳優が朗読する。僕はその演出を担当しています。なかにはやっぱり壮絶な経験をしている方も多くいらっしゃるんですけど、でもそれは俳優にとっても僕にとっても完全に他人の経験なわけです。そういった手記を朗読といった形で語ろうとするときにもその経験に対して手を伸ばすような感覚がある。それは、俳優の経験をもとに『とおくはちかい(reprise)』を書いたときにもあって、自分が経験していないことを想像しようと努めるときの感覚というのは、これまでの作品を書いたときとはまったく違うものでした。

理想のコミュニティを考える

——  2月には横浜の小劇場・STスポットでの新作公演『パラダイス』が控えています。関東圏の観客からも注目を集めるきっかけになった『とおくはちかい』『ここは出口ではない』に続いてのSTスポットでの公演ということで、STスポットは屋根裏ハイツにとってホームグラウンドの一つのような場所になっています。

もともと、自分たちの公演をやる前から、STスポットは好きな劇団や興味のある劇団がよく公演をしている劇場として意識していました。リアルタイムで観られてはいないですけど、チェルフィッチュや手塚夏子さんもやってましたし、マームとジプシーや範宙遊泳など、仙台にいる僕らですら知っている劇団、注目されている若手や中堅が公演をする劇場というのがSTスポットのイメージだった。それで、まだ仙台を拠点に活動をしていた2017年に『とおくはちかい』を関東でも上演しようとなったときに、それならSTスポットでやりたいと思ったんです。
STスポットは劇場としてのサイズ感もいいですし、壁が白いということもあってか体がよく見える空間だなと思っていて。屋根裏ハイツの作品はけっこうどうでもいい会話をしている時間も多いんですけど、そういうときにも俳優のちょっとした体の動きで観客に何かが伝わるということはある。観客が俳優の体にフォーカスしやすいSTスポットは僕らにとって使いやすい劇場です。

『とおくはちかい』の初演で初めてSTスポットを使ったときにびっくりしたのは、多くの劇場スタッフが上演を見て、感想をくれたんですね。普段から現代演劇や今の舞台芸術に触れている、リテラシーのある人が言葉をくれるというのはとてもありがたかったです。STスポットでは終演後に観客から言葉をもらえる機会も多い。1回きりの公演会場としてではなくて、たとえば2020年に再演した屋根裏ハイツの『とおくはちかい』や『ここは出口ではない』のように、再演していくレパートリー作品をつくるためのスタート地点としてもSTスポットはいい場所だと思います。

屋根裏ハイツ 新作『パラダイス』フライヤー

 

——  『パラダイス』はどのような作品になるのでしょうか?

『パラダイス』というタイトルはアメリカの黒人女性作家トニ・モリスンの小説からとっています。小説は、白人から迫害されて彷徨っていた黒人が作った黒人街の話なんですけど、描かれているのは街ができてから一世代とか二世代あとの時代で、そうすると黒人街のなかにも差別や偏見、世代間の対立みたいなものが生まれてくる。そういうなかで生きる人たちを描いた小説です。

屋根裏ハイツ版の『パラダイス』は団地の1階にある集会場が舞台で、ちょっと未来の話です。すでにそうなっているところもあると思うんですけど、団地が擬似老人ホーム、擬似ケアセンターのような場所になっていくというようなことを考えていて、そういう場所を舞台にしました。団地で親の介護をしていた子供が鍵も財布も携帯も持たずに行方不明になるという事件があった、その2日後ぐらいの話です。2019年からはじめた「加害について」というシリーズに連なる作品になります。
シリーズ「加害について」の第一弾として上演した『私有地』は「所有」をテーマにした作品でした。相手を「私物化」すること、直接の暴力というわけではないけど、何か不穏な空気や関係とか、あともうちょっとで手が出そうな場面、みたいなことを描いたんですけど、今回の『パラダイス』はちょっと角度を変えて「理想のコミュニティ」ということを考えながら作っています。

本当の理想の社会というのはみんなが幸せに快適に暮らせる場所だと思うんです。快適とは言えないまでも、特定の誰かが不利益を被ったりしないような空間。でも、トニ・モリスンの『パラダイス』で描かれている黒人街もそうなんですが、よりよい暮らしのための営みが日々行なわれていても、理想のコミュニティというのはなかなか実現しない。そうした現実を前にどうするか。
僕は、本当に手を下す前に踏みとどまれれば、それでいいと思うんです。みんな大好きということじゃない。嫌いな人もいる。そこで起こる感情を排除するということではないんです。でも、それが沸騰してしまう前の温度を保つことができる場所であればいい。手を下す前に、違う方法が選べる環境を考えるという意味で「理想のコミュニティ」ということと「加害について」はつながっています。


「シリーズ:加害について」について
加害の立場に立つことを想像する。そうなる可能性は常に私の中にある。私は加害の立場に立ちうるし今までも既に立ってきた。そのことを想像する。アニメーションのスタジオに火を付けることや、福祉施設でたくさんの人々を殺める可能性のことを想像する。繰り返すが、そうなる可能性は私の中にある。可能性は可能性のままに留めなくてはならないし、こうなりうる私の身体とうまく付き合っていくことが重要だ。そう思ったのは、日々目にする情報の多くが、被害の目線から語られることの違和感からだ。「なぜ起こったか」を個人の人格やキャラクターの問題に収斂させ、「彼/彼女は私ではない」と言ってのける言葉の危うさからだ。そうではない「彼/彼女は私であり得る」ことからはじめるほうが、よっぽど正気を保っていられるような気がする。そのために演劇でできることはなにかと考える。時間をかけて、シリーズ化していこうと思う。
https://yaneuraheights.net/next/paradise.html


今ここにいる人間から地続きの遠くへ想像を飛ばす

『とおくはちかい(reprise)』や「10年目の手記」の朗読を経て、ようやく自分と離れた人のことを演劇で語ることができるかもしれない、そういう意味での「フィクション」をようやく使えるようになるかもしれないと思えました。その感覚があれば、いろいろな場所に行って人の話を聞いたりしながら書くみたいなこともできるかしれない、やってみたいなと思っています。

たとえば今、ベトナム戦争のことをリサーチしていて。僕の体感だと一番身近に感じられる戦争って、授業で習ったとかおじいちゃんから話を聞いたとかそういうこともあって、第二次世界大戦だったんです。でも、そこから現在までの間に朝鮮戦争やベトナム戦争があって、そして日本には好景気の時代もあった、みたいな流れがあることを考えると、日本人もそこに加担はしているのだろうと思い、それでリサーチをはじめました。

僕が住んでいる府中という街は、もともと米軍基地があった街なんです。母が小さい頃には街で米兵とすれ違うこともあったみたいな話を聞いていて、時期を考えると府中の米軍基地からベトナム戦争にも行っていただろうと。その話を聞いて初めて第二次世界大戦以外の戦争を身近なものとして感じることができた。

ベトナム戦争についてのリサーチはまだ継続中なんですけど、去年、文芸誌『ことばと』に書いた「はなのゆくえ」という短編小説では、リサーチしていて触れた府中の土地の感覚、書き換えられていく風景みたいなことを書きました。米軍基地跡地はまだ使われていないままの国有地になっているところがかなりあるんです。けっこう最近まで廃墟が残ってたりもして、小さい頃の僕にとってそこは入れない不気味な場所でした。「はなのゆくえ」ではそういう土地の記憶を現在にオーバーラップさせて書いた。

でも、そういうパーソナルな感覚から演劇を使って遠く離れることもできるんじゃないかと今は思っていて。そのためにリサーチは継続しながら、1年で調べて作品にするみたいなことではなくて、もっと長いレンジでやっていきたいと思っています。

今までの作品では、舞台上にいる俳優が、それこそ自分の半径5メートル以内の話をして、観客にはそれを自分と同じ人間の話として受け取ることで想像をしてもらう、そこから物語を出発させるということをやってきました。でも、俳優も僕もお客さんも、もっと遠くまで飛べるはずだと思うんです。

民話って、目の前にいる普通の人間の体で語っていても、たとえば頭が口になっている化物の話を本当のこととして受け止められる仕組みだった訳です。そういうことが演劇でもできるんじゃないかと思います。事実ベースではあるかもしれないけど、半径5メートルから外に出て、より遠くに想像を飛ばせるように。そうやって、演劇があくまでここにいる人間からはじまる地続きのものとして想像を飛ばせたらそれはすごいことですよね。それができたら理想だなと思っています。

取材・文:山﨑健太
写真:大野隆介(※をのぞく)


【プロフィール】
中村大地 (なかむら だいち)
作家、演出家。1991年東京都生まれ。東北大学文学部卒。在学中に劇団「屋根裏ハイツ」を旗揚げし、8年間仙台を拠点に活動。2018年より東京に在住。人が生き抜くために必要な「役立つ演劇」を志向する。近作『ここは出口ではない』で第2回人間座「田畑実戯曲賞」を受賞。「利賀演劇人コンクール2019」ではチェーホフ『桜の園』を上演し、観客賞受賞、優秀演出家賞一席となる。その他、シアターコモンズ2020にてリーディングパフォーマンス『正面に気をつけろ』(作:松原俊太郎)の演出など、劇団外での演出作品も多数。一般社団法人NOOKのメンバーとしても活動。
https://yaneuraheights.net/


【イベント情報】
屋根裏ハイツ 6F 『パラダイス』
日時:
2.5 Fri 18:00
2.6 Sat 13:00 / 18:00
2.7 Sun 13:00 / 18:00
2.8 Mon 13:00 / 18:00
2.9 Tue 13:00

会場:STスポット(横浜市西区北幸1-11-15 横浜STビルB1F)

料金:一般 3,000円
TPAMプロフェッショナル(要パス提示) 2,500円
U30 2,500円
チケット取扱い:https://yaneura-paradise.peatix.com/

作・演出:中村大地
キャスト:瀧腰教寛、村岡佳奈(屋根裏ハイツ)、村上京央子( コメディアス)、和田華子(青年団)/宮川紗絵 ※遠隔出演
スタッフ
作・演出・音響:中村大地
衣装:佐藤立樹 英語字幕:寺田凜(合同会社syuz’gen) 制作:河野遥(ヌトミック) 配信:本藤太郎 絵:奥誠之 WEB:渡邉時生
協力:合同会社syuz’gen、コメディアス、青年団、 ヌトミック、プリッシマ、有限会社 レトル
提携:STスポット
助成:アーツコミッション・ヨコハマ
この公演は、神奈川県の文化芸術活動再開加速化事業補助金を受けて実施しています。

※ご来場にあたっては下記URLの感染症対策を必ずご一読をお願いいたします。
【ご来場のみなさまへ】STスポットの感染症対策について
屋根裏ハイツ「パラダイス」公演詳細