「Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018」のディレクター、ドミニク・エルヴュさんが語るダンスの魅力

Posted : 2018.08.17
  • facebook
  • twitter
  • mail
日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018」が開幕した。今回、インターナショナル・プログラムのディレクターを務めるドミニク・エルヴュさんがフェスティバルのオープニングにあわせ来日。ダンスフェスティバルの役割や、現代社会でのダンスの魅力についてうかがい、プログラムの見どころと楽しみ方を紹介してもらった。

ダンサー、振付家として追い求めたこと

エルヴュさんはダンサー、振付家としてパリで活動し、フランス国立シャイヨー劇場のディレクターを経て、現在はリヨンのダンス専門劇場「メゾン・ドゥ・ラ・ダンス」の総合ディレクターと、世界最大の国際ダンスフェスティバル「リヨン・ダンス・ビエンナーレ」の芸術監督を務める。「リヨンと横浜、二つのダンスフェスティバルのつながりが、Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018に結実することをとても嬉しく思っています」と話す。ディレクターとしての考えをうかがう前に、ご自身はどんなダンサー、振付家だったのだろうか。

──最初に、ダンサーとしての活動について教えていただけますか。
パリから北西に1時間ほど行ったノルマンディー地方のクタンスという街で育ちました。ダンスに触れたのは6歳の時で、バレエを始めましたが、その前に体操も習っていました。それから地元を出てノルマンディー地方のカーンでダンスを学び、その後パリの学校に入学して、モダンダンス、ジャズ、コンテンポラリーといった幅広いダンスに出会いました。18歳でジョゼ・モンタルヴォというコンテンポラリーダンスのアーティストに出会い、彼とともに作品を作るようになり「カンパニー モンタルヴォ・エルヴュ」を一緒に起ち上げるに至りました。彼とは30年間共に仕事をすることになりました。私はダンサーとしては40歳まで活動しました。

──ダンサーとして追求されていたのはどんなことでしたか?
さまざまな身振りのスタイルを追求しました。とりわけバスター・キートンやチャップリンの無声映画を研究することにより、古典的な身振りとヒップホップなどのダンスを融合するハイブリッド的な作品づくりを早い段階から試みてきました。そして、素早く流れるような身体の動きのテクニックと、楽しさやユーモアにあふれた豊かな表現を極めていったつもりです。

──振付はいつ頃から始めたのですか。
最初にモンタルヴォのアシスタントとして振り付けた作品は1994年、若いダンサー向けの『オラカ・オララ Hollaka Hollala』。世界ツアーで300回以上公演しました。2000年以降は全作品に共同振付家として私の名前がクレジットされています。「モンタルヴォ・エルヴュ」での作品づくりは、映像を使用するなど数多くの試みをしましたし、パリ・オペラ座バレエ団から若いダンサー、アマチュアや教育現場などいろいろな人を対象に振付をしました。

ダンスの新しい観客をつくりだす

──そのような幅広いキャリアがディレクター就任につながったのですね。
2000年にパリの国立シャイヨー劇場の青少年担当に就任し、ダンスの教育と普及を担当しました。その後、2008年には劇場の総合ディレクターに任命されました。シャイヨー劇場は国立劇場で初めて、公演の大部分をダンスにするという方針転換に伴っての就任でした。フランスには6つの国立劇場がありますが、それまでダンス専門の国立劇場はなかったのです。ダンスはずっと演劇の劇場で上演されてきたわけですが、その時、ダンスが専用劇場を持つ時期が来たのです。

──ダンス専用劇場のディレクターとして何に取り組んだのですか。
青少年担当ディレクターの時期に、ダンスの観客を新しくつくりだす仕事に真っ先に取り組みました。教育の分野に力を注ぎ、メディア戦略なども含め、大人の観客から青少年、若い層にまで呼びかけたのです。
そして開かれたプログラミングの取り組みにもすぐに着手しました。国立劇場として初めてヒップホップ作品を紹介しましたし、また20世紀の傑作といわれる偉大な作品に加え、コンテンポラリー作品も併せて紹介しました。別領域のアートとの連携を展開したことで、観客が循環し、クロスするようになりました。多様な観客を顕在化させ、新しい客層を開拓したのです。数年間で飛躍的に観客を増やすことに成功したのは大きな成果でした。

ダンスの街、リヨンでの特別な仕事

──2011年にパリからリヨンに移られますが、リヨンという街のダンスの状況を教えてください。
リヨンでダンスに携わるということは、世界中でも他にない特別な仕事でした。私がシャイヨーを去ってリヨンに来た理由は、リヨンのダンス事情にあります。ダンスに特化した専門劇場の「メゾン・ドゥ・ラ・ダンス」があり、世界最大の国際ダンスフェスティバルである「リヨン・ダンス・ビエンナーレ」があるのです。バリにはダンスのためのフェスティバルというものは存在しませんから。リヨンのダンスシーンは、この二本柱によって非常にエネルギッシュでパワフルなものになっていて、活気と展望があります。相互補完的にお互いがお互いをより豊かにしています。「メゾン・ドゥ・ラ・ダンス」には年間15万人もの観客が訪れ、ここで学んでいる若いダンサーが約3万人います。また、ビエンナーレには近年約10万人が集まり、今年は25もの新作が初演されます。それぞれがお互いを強固にしています。

──リヨンはどんな街ですか。
リヨンはパリに比べてより人間らしさが感じられる街です。規模から言っても人口100万人ほどで、横浜市よりも少ない人口です。その小さな街の中に「アール・ド・ヴィーヴル」と呼ばれる生活に息づく文化があふれています。美食の街としても有名ですし、ユネスコの世界遺産にも登録された遺跡もあり古代の面影を残す街としても知られています。また市長が文化の振興に力を入れています。そしてリヨンを他の街から特徴づけている独自の文化がダンスなのです。

日本のダンスの歴史に加えるもの

──横浜にいらして、その印象はどんなものですか。
ヨーロッパにおいては大都市のほとんどがそうですが、一種のストレスや緊張感、時には暴力的なものなども感じてしまうことが多々あります。現在では移民問題が招く危機もあり、パリも常に緊張感に充ちています。それに対して、横浜に来ましたらとても静かで穏やかで、暴力的なものをまったく感じない、ホッとする心地です。また建築面でも成功していて、モダンなものと歴史的なものの共存の美しさがそこに見られると思います。

──リヨンでの成功の秘訣は横浜に生かされますか。
「Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018」のディレクターを務める機会はとても嬉しいことでした。リヨン・ダンス・ビエンナーレほどの巨大フェスティバルとは異なりますが、ダンスのアイデアや歴史に何かをもたらすことができると思います。私はフランスのカンパニーや作品の提案をしました。日仏共同制作もあります。フランスの2人の振付家が日本人のダンサーと協働して横浜で新作をつくり、日本のカンパニーの新作を含めた3作品を発表、秋にはフランスにもツアーしてフランスの観客に紹介します。素晴らしい交流になるでしょう。
新しい観客へのアプローチの点ではリヨンの手法をそのまま適用しています。先鋭的な作品も親しみやすい作品も紹介することで、初めての人、ダンス通、好奇心の強い人、ファミリーなど、あらゆる観客層に来ていただけると思います。

ダンスは他者を受け容れるための共通言語

──現代に生きる私たちにとってダンスとは何なのでしょうか。
ダンスは、繊細な私たちの感性という世界を発見するための術であると思います。音楽もそうですが何らかの感動を通して、感性に触れる経験を通して、私たちは自分自身をより深く知る機会を得ることになります。またその中でも特にダンスは自分と他者との関係性を知る機会を与えてくれます。1人で踊るだけではなく何人かと一緒にダンスをすることも多くあります。私も学校で教える機会が多くありましたが、誰かと一緒にダンスをするという機会は、他者、自分とは違う異者を受け容れる、他者に対して寛容になる、そうしたことを学ぶよい機会になります。また想像力をより発展させることを自分の身体を通して経験できるのです。フランスの学校では自分とは違う言語を話す子がいることは多々ありますが、そんな時も身体を使った言語は共通言語になります。

──それでは都市や街にとってダンスフェスティバルを開催することにはどのような意味がありますか。
ダンスフェスティバルを持っている都市、街とは、オリジナリティと個性があるとまず言えます。現代アートや映画のフェスティバルを開催される街は世界中に数多くありますが、ダンスのフェスティバルを開催している街というのは数少ない。それは市民に対して独特な街の感性をアピールしているのだと思います。都市における身体の位置付けをどのように捉えるかということは、現代社会では非常に大切です。このデジタル化が進む社会において、身体性に還るという試みをしようとすることには多くの意味があると思います。

プロフィール

ドミニク・エルヴュ(Dominique Hervieu)
1962年北仏ノルマンディー地方生まれ。体操、バレエを学んだ後にパリでコンテンポラリーダンスに出会い、振付家ジョゼ・モンタルヴォと 「カンパニー モンタルヴォ・エルヴュ」を1988年に結成。精密で多彩なダンスと映像が戯れる独自の作風で、世界的人気を博す。カンパニーのダンサー、共同振付家として活躍すると共に、ダンス教育にも尽力。2000年にはパリの国立シャイヨー劇場のダンス部門若年層担当に就任し、独創的な芸術普及教育を展開して観客増に貢献、2008年から同劇場のディレクターに任命される。2011年よりリヨンに移り、メゾン・ドゥ・ラ・ダンスの総合ディレクターとダンス・ビエンナーレのアーティ スティック・ディレクターを務める。2017年Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018ディレクターに就任。

 


ドミニク・エルヴュさんのディレクションによる「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018」インターナショナル・プログラムをエルヴュさん自らの言葉で紹介していただきます。

「インターナショナル・プログラムは、二つの軸に基づいています。一つは、20世紀と21世紀の巨匠へのオマージュ。もう一つはフランスの新世代のクリエーターの紹介です。そしてこれらのプログラムでの狙いは、若い観客にアプローチしたいのです。まだダンスをよく知らない人、けれども今日の表現としてダンスというものがあることを察して、それをより知りたい、発見したいと願っているような、若い方々に見ていただきたい。子どもたち、思春期の方たちや、あるいは大人になりたてのような方たちに。ダンスなんて縁がない、自分がダンスを観に行くなんてまったく発想にない、そういった方たちにダンスをもうちょっと知りたいなと思っていただく手掛かり、きっかけになればと願っています」

「トリプルビル」
9/2〜9/5  

カデル・アトゥ(c)CCN La Rochelle

カデル・アトゥ(c)CCN La Rochelle(※)

ジャンヌ・ガロワ(c)Jody Carter

ジャンヌ・ガロワ(c)Jody Carter(※)

 

東京ゲゲゲイ(c)Arisak

東京ゲゲゲイ(c)Arisak(※)

 

「私の今回の仕事のクライマックスがこの、日本とフランスの協働プロジェクト「トリプルビル」のクリエーション。私はフランス人の振付家のカデル・アトゥとジャンヌ・ガロワに、日本の優れた5人のヒップホップダンサーが踊る新作を、横浜で創造することを提案しました。カデル・アトゥは今やヒップホップ界の巨匠の1人と言える存在。7月に横浜の「急な坂スタジオ」で滞在制作しました。ヒップホップという身振りを使って繊細で多層的な作品をつくります。ジャンヌ・ガロワは若手の注目株。現在、横浜で制作に入っています。そして、日本から登場するのは東京ゲゲゲイ。振付家のMIKEYはフランスに紹介されるべき才能だと思ったからです。3作品からなるコントラストと衝撃に満ちた“ミックスサラダ”をどうぞお楽しみください」

期間:2018年9月2日(日)~9月5日(水)
時間:9月2日(日)14:30開場 15:00開演、9月3日(月)~9月5日(水)19:00開場 19:30開演
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール
住所:横浜市中区新港1-1-1
チケット:【※前売券完売

 

バレエ・ロレーヌ公演 
9/16,17

「SOUNDDANCE」(C)Laurent Philippe

「SOUNDDANCE」(C)Laurent Philippe(※)

 

「フランス・ナンシーを拠点とする国立バレエ団、バレエ・ロレーヌ は、マース・カニングハム、ウィリアム・フォーサイスといった20世紀と21世紀の巨匠へのオマージュから、フランスの新世代振付家として注目を集めるフランソワ・シェニョー&セシリア・ベンゴレアによる作品を踊ります。3作品それぞれ、まったく違う美学を持っています。
今年はカニングハム生誕100周年に当たり、この巨匠の作品を、現在の作品と並べて紹介することに意味があると思います。
フォーサイスの『STEPTEXT』はダンスの転換期といえる前衛的なコンセプトを見せる作品です。いわゆるクラシックバレエが持つ超絶技巧のテクニックと併せて、それまでにない新しいダンスの記号というものを見せてくれます。
ベンゴレアとシェニョーによる作品は、フランスの新世代のクリエーターの紹介です。カニングハム、フォーサイスといった20世紀の巨匠の影響から、今日のジャマイカのダンスホールや道端で踊られるさまざまなダンスの要素までが入った作品で、ダンスの創造性の流れの現在形としてご覧いただこうと思います。形式的でありながら、同時に遊び心に満ちた楽しい作品です。
この3作品はどれもスペクタクルで、観客に大きく訴えかけてきますから、ダンスをよく知らずとも、舞台にあふれるダンサーの身体やテクニック、その踊る姿を見るだけで即座に感動を覚える、そうした体験ができると思います」

期間:2018年9月16日(日)/9月17日(月・祝)
時間:14:30開場 15:00開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場 ホール
住所:横浜市中区山下町281
チケット:指定席 S席 ¥6,000、A席 ¥5,000、U24(24歳以下) ¥3,000、高校生以下 ¥1,000ほか

 

アクラム・カーン『チョット・デッシュ』
8/22〜8/25

(c)Richard Haughton

(c)Richard Haughton(※)

 

「アクラム・カーンもまた世界的な名声を得ているコンテンポラリーダンスの振付家です。イギリスに家族とともに移民したバングラディシュ系の人。移民としてのバックグラウンド、つまり2つの文化を持つルーツの豊かさと難しさを語っています。この作品『チョット・デッシュ』は笑いがあるかと思うと、哲学的なおとぎ話のような側面も持っています。自分自身と他者についての哲学的なおとぎ話です。優しい柔らかなタッチの作品で、子どもも大人も楽しんでいただけます。リヨンのメゾン・ドゥ・ラ・ダンスでは28回の上演を行いました。私も大好きな宝石のような作品です」

期間:2018年8月22日(水)~8月25日(土)
時間:8月22日(水)19:00開場 19:30開演、8月23日(木)~8月25日(土)14:30開場 15:00開演
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール
住所:横浜市中区新港1-1-1
チケット:自由席 ¥4,000、高校生以下¥1,500 ほか

 

マチュラン・ボルズ公演
9/22〜9/24

『ラ マルシュ』(C)Jean Louis Fernandez

『ラ マルシュ』(C)Jean Louis Fernandez(※)

 

「マチュラン・ボルズはリヨン出身の世界的サーカス・アーティストです。メッセージや感動を伝えるためにサーカスやアクロバットの技術を使っています。人間味あふれる優しい作風です。左脚を失ったアーティスト、エディ・タベとのデュオ作品『アリ』では、脚がないというハンディは地獄のような苦しい風景かと思いきや、ファンタジーあふれる詩的な世界を広げてみせてくれます。子どもたちにも見てもらいたいです」

期間:2018年9月22日(土)~9月24日(月・祝)
時間:14:30開場 15:00開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
住所:横浜市中区山下町281
チケット:自由席  ¥4,000、U24(24歳以下)¥2,000、高校生以下¥1,000ほか

 

構成・文:猪上杉子
写真:Oono Ryusuke (※をのぞく)


【イベント情報】
Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018
会期:2018年8月4日(土)~9月30日(日) <58日間>
会場:横浜市内全域(横浜の“街”そのものが舞台)
ジャンル:コンテンポラリー、ストリート、ソシアル、チア、日本舞踊、バレエ、フラ・ポリネシアン、盆踊りなどオールジャンル
プログラム数:約230
詳細は、公式ホームページをご確認下さい。


【関連記事】

躍動する横浜を見に行こう。3年に一度のダンスの祭典が開幕!

一人ひとりの魅力を引き出すダンスの力 大前光市さん