落語の魅力は単純。ただひたすらに「おもしろい」/二ツ目・柳亭市弥さんインタビュー

Posted : 2016.10.19
  • mail
立川こはるさんに続き、若き落語家さんから初心者に向けて、落語の魅力を語ってもらうインタビュー。今回は、2007年に柳亭一門の扉を叩き、サラリーマンから一転して落語家となった二ツ目・柳亭市弥さんです。「自分が仕事で辛かった時、落語を見て救われた」と語る市弥さん。人生を変えたほどの落語の魅力を、たっぷりとお伺いしてきました。

01_20160930-img_7565

<非日常>ではなく、日常の中の笑いに癒された

「大学を卒業して広告代理店に入社し、いきなり大阪支社に配属になったんですよ。仕事は厳しくて残業も多いから休みの日には息抜きをしたいのに、友だちはおろか知り合いさえもいない、馴染みのない土地でした。しかしそこは大阪。お笑い文化がありますから、『なんばグランド花月』などの手頃な演芸の劇場がいっぱいあったんですよ。ちょうどその頃『天満天神繁昌亭』という上方落語を中心にした寄席がオープンして、まあ気楽に「ちょっと落語でも行ってみるか」と足を伸ばしたのが、そもそものきっかけです。それで落語に夢中になっちゃいました。
寄席はとても素敵なところでした。落語は面白いし、聴きやすいし、何よりも周りにはおじちゃんおばちゃんがいっぱいいて、自分と同じように普通に生活を営んでいる人たちが、みんなで一緒に笑っている。その雰囲気が私を癒してくれました。華やかな舞台のような<非日常>ではなく、日常の中に笑いがある。それが、当時の私にはすごく心に染みたんですね」

 

一言で言うなら、単純に「おもしろかった!」

02_20160930-img_7538

「もともと父が落語好きで、小さな頃は寄席に連れて行ってもらっていました。しかし子供だった私にはその魅力はよくわからなかったんです。『着物を着たおじちゃんが何かしゃべってる』『とーちゃんはこれが好きなんだ。ふーん』くらいにしか思っていなかったんですよ。しかし、その大阪での体験で落語をすごく好きになって、連休などで実家に帰った時には逆に父を誘って一緒に落語に行っていました。
なぜ大阪で落語を面白いと感じたのか。それは、私が大人になり義理人情がわかるようになったということもあるでしょう。その時仕事で疲れていて、別の世界への逃避を求めていたこともあるでしょう。でも一言で言うなら、単純に「おもしろかった!」んですよ。落語ってお年寄り向けのものだと思っていたら全然そんなことはなくて、当時の私の世代でも充分通じる話だし、なんというか、くだらなくてね(笑)。笑っちゃうんです。おもしろいんですよ、落語って」

 

” 落語に興味がある“と思った時点で、それが最適なタイミング

03_20160930-img_7550

「学生の頃はラグビー部でした。下級生は合宿などで出し物をやらされたりするんですけども、私は他の部員とコンビを組んで漫才やコントなどをやってたりしていまして。もともと好きだったんですね、お笑いが。そんなこともあって、庶民的なお笑いである落語は肌に合っていたんでしょうね。
寄席に何度か通ううち、現在の師匠である柳亭市馬の落語に出会いました。それがもう、今までにないほどわかりやすく、心にスッと入ってきたんです。面白い落語家さんはいっぱい見ましたけど、この人の元で修行したい!とそこで初めて思いまして、会社を退職し、両親を説得して入門してしまいました。運も良かったんです。ちょうど兄弟子が前座から二ツ目に昇進して前座がいなくなる時で。比較的スムーズに入門させていただきました。自分の気持ちと、師匠との出会いと、兄弟子の昇進と、すべてにおいて巡り合わせが良かったんですね。
おそらく『落語初心者』の方も同じではないでしょうか。“落語に興味がある”と思った時点で、それが落語を見る最適なタイミングなんだと思います。落語の予備知識も勉強もいりません。『見てみたいなぁ』と思ったら、ぜひ寄席に足を運んでほしいですね」

 

寄席でも、カフェやバーでも、いつも通りに演じる

04_20160930-img_7487

「現在、落語ブームと言われています。カフェやバーなどで落語会をやりたい、とお呼びがかかることが多くなり、ありがたいことに若手が落語をできる環境がとても整っています。そういった場所で落語を見てみるのもおすすめです。演じる側としては……私は、ですけども、寄席とカフェやバーとであまり変わりはなく、いつも通りに演じます。お客さまの反応によって演じ方の方向性を変えることはどの舞台でも同じですから。若手はとにかく場数を踏むことが大事だと思っているので、求められればどこでも演じます。お客さんも、感じるままに笑ってくれればいいですし、つまらなかったら無反応にしてくれればいいので(笑)。その反応を見るのも修行になりますからね」

 

『しょうがねぇな、こいつ』なんて思いながら笑ってほしい

「今、若い人たちって本当に忙しいですよね。残業はあるし、飲み会はあるし、お相手がいればデートもしなくちゃいけないだろうし、暇つぶしの娯楽もいっぱいあるし。短い自由時間の中で無理やりにでも落語を選んでくれ!! とは言えませんけども、でも、年に1〜2回でいいから寄席に来てみてください。『笑い』ってスッキリするじゃないですか。なんだか憎めない登場人物たちが生き生きと動き回って、『しょうがねぇな、こいつ』なんて思いながら、声を出して笑う。それはすごくストレス解消になりますもんね。日々の生活で『ちょっと疲れちゃったな』という人を心の底から笑わせるために、我々は日夜、技を磨いてますから!(まだ修行中ですけども(笑))、ぜひ笑いに来ていただきたいです。

05%ef%bc%bf20160930-img_7567私は、今は真打を目指して修行中です。将来は『初めて落語を聞くなら柳亭市弥!』とおすすめされるような噺家になりたいと思っています。そのため、わかりやすく、聞きやすい落語を心がけています。寄席の魅力はライブを見なければわかりません。逆に言えば、見に来ていただければ落語のすべてがわかりますよ。前座から二ツ目が出て、真打が出て、あとは漫才やマジックが出て。だいたい3〜4時間くらい。もちろん真打の噺のテクニックを堪能しに来るもいいですし、たどたどしくも一生懸命な若手を応援してくださるのも大歓迎です(笑)! ぜひ、ふらっと気楽に、実際の寄席を見に来てください!」

 

 

 

 

柳亭市弥 プロフィール

大学卒後、約1年半のサラリーマン生活を経て、2007年12月柳亭市馬に入門。2008年7月前座となる。2012年11月二ツ目昇進。出囃子は「春藤」。現代語を交えたわかりやすい落語が人気。NHKラジオ第1「日曜バラエティー」のコロコロトリオとしても活躍。出身は東京都だが、親子2代にわたり横浜ベイスターズファン。
ブログ「いちやづけ」→http://ichiya-ryutei2.seesaa.net

 

観光地・横浜の中で、下町人情があふれる場所

06_20160930-img_7570

横浜にぎわい座」は、横浜・野毛に位置する大衆芸能の専門劇場。この落語ブームの中で演者や演目のセレクトに定評があり、人気チケットはすぐに完売してしまうとか。2Fの情報コーナーでは、昔の野毛界隈の写真や演芸に関する資料を展示。オリジナルグッズなども好評です。館長は落語家・桂歌丸。
市弥さん曰く、「とても演じやすい劇場です。設備やサイズ感などはもちろんですが、スタッフの方もお客さんもとても温かくて、安心して演じることができるんです。観光地として有名な横浜に、こんな下町感あふれる場があるっていうのがまたいいですよね」。

 

おすすめ! 柳亭市弥公演

大人のための寄席体験「落語のトビラ~柳亭市弥さんを迎えて」

柳亭市弥が落語初心者の方のために、落語の魅力をやさしく伝えます。終演後は、横浜を代表する飲食店街・野毛の逸品を囲んでの交流会も開催します。

日時:
2016年10月29日(土)14:00開演(13:30開場)
会場:横浜にぎわい座 のげシャーレ(小ホール)
住所:神奈川県横浜市中区野毛町3-110-1
アクセス
桜木町駅(JR線・市営地下鉄線)徒歩3分、「野毛ちかみち」南1番口より80m
日ノ出町駅(京浜急行線)徒歩7分
野毛大通りバス停(横浜市営バス、江ノ電バス)すぐ
http://nigiwaiza.yafjp.org/access/
料金:自由席 初心者3,500円、落語通5,000円(交流会費を含みます)※未就学児の入場不可

 

(文・いしだわかこ)