視覚ではない部分で感じるものが落語の魅力/女流落語家・立川こはるさんインタビュー

Posted : 2016.10.14
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近年、若者の間に到来している落語ブーム。全国各地で若手を集めた落語会も急増中だとか。そこで今回は、若き女流落語家としても、アニメ「昭和元禄落語心中」の声優としても大活躍の立川こはるさんにインタビュー。ご本人が初めて落語を見たときの思い出も交えながら、「落語に行ってみたい」と思っている初心者に向けて「落語のおもしろさ」について語っていただきました。

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今年の夏「春風亭一之輔欧州公演」へ同行し、ベルギー、ポーランド、フィンランドとヨーロッパ3ヶ国各都市を回り、海外での舞台を務めてきた女流落語家の立川こはるさん。先日横浜にぎわい座で行われた自主公演「こはるパラダイス」では、枕だったはずのヨーロッパ珍道中が盛り上がり、予定時間を大きく上回ってしまったため、結局「欧州報告記」という演目に。

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期せずして「その日のお客さんに合わせて、その日だけのオリジナルの世界が作られる。それも落語のおもしろさのひとつです」と語る、こはるさんの言葉そのままの舞台となってしまいました。

 

ヨーロッパの人が笑ってくれたのは、人情や感情にまつわる場面

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「ヨーロッパ公演では、私たち落語家は日本語で演じて、舞台の後ろに大きく字幕を出しました。一応、最初に説明はするんです。蕎麦をすする箸の動きをして『これはモノを食べてます』とかね。外国の方はサムライ好きが多いので、刀を振り上げる動作なんかはすぐにわかってくれましたね。とはいえ、見に来てくれたお客さんのほとんどが”日本の演芸を初めて見る”人。日本人の落語に関してまっさらな人よりも、もっとずーっと白紙ですよね。でも”日本文化がわかる・わからない”は、落語を楽しむには関係ない。それは今回の旅を通じてすごく感じました。
ヨーロッパの人が笑ってくれたのは、例えば男がヤキモチを焼く場面や喧嘩のドタバタシーン。つまり、人情や感情にまつわる場面です。『ハートフルで、ちょっと機転のきいたおもしろい話』として認識してくれました。たとえ知識の量や文化が違っていても、落語家がいろいろな人を演じている時にそれを聞いて想像することは、それほど変わらないんだと思います」

 

知識でしかなかった“江戸時代”が、現実の世界に広がっていく

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「そもそも、私だって最初は落語なんてまったく興味がありませんでした。大学で偶然勧誘された落研(落語研究サークル)に入部はしたものの、落語の勉強なんてぜんぜんしませんでしたし、飲みながら先輩たちがたまに流す落語のテープを聞いても『これが落語かぁ』くらいにしか思っていませんでした。そんなある日、先輩に連れていってもらった寄席を見てみたら、すごくおもしろかった。昔の人の話なのに、登場人物がすごく生き生きとその場にいるように感じる臨場感があって、そして周囲の人がみんなで笑っているグルーヴ感があって。すっかりハマってしまって、毎週のように落語を聞きに行くうちに、私の師匠である立川談春の落語を聞くことになるのですが……。そこで人生が変わりました。衝撃でしたね。『すっげえぇぇえええ!!!』ってね! ”おもしろい”というよりは、”なんだこれは!!!”というショックのほうが大きかったですねぇ。
落語のおもしろさって、視覚だけではなくて、それ以外の部分へのアプローチにあるんじゃないでしょうか。例えが難しいですが、読んだことのある小説が映画になったような感覚。江戸時代という知識として知っていたものが、立体感を伴って現実の世界に広がっていく感じ。2つの世界が重なっていくさまは、本当にスペクタクルでしたよ」

 

”わかりやすさ”と”おもしろさ”は別だと思っています

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「今、落語ブームが来ている実感はありますね。ぴっかりさん(女流落語家/春風亭ぴっかり)などの二ツ目同士でもよく「新しいお客さんが増えたよね」と話しています。漫画の影響もあるでしょうし、最近はTVのニュースでも落語をよく取り上げてくれています。ありがたいことですね。敷居が高いと思っている人もいるのかもしれませんが、若手ならば映画を見るくらいの値段で楽しめる世界ですから、ぜひライブを見に来てほしいです。ライブならではの即興性も大きな魅力。まずは生の舞台を見なくちゃ始まりません。名人のテープなどを聞くのは、その後、落語を好きになってからでかまわないと思います。むしろ勉強しないで来てください。『私が学んだあの音源と違う!』と怒られると困るので(笑)。
”初心者はどの噺を聞いたらいいですか”とはよく聞かれます。でも私は、噺を”初心者向け”や”玄人向け”に分けてはいないんです。例えば、小学生に聞かせるような噺はわかりやすい。でも、それが万人におもしろいかっていうとそうではないですよね。私は、”わかりやすさ”と”おもしろさ”は別だと思っています。私が初めて師匠の高座を見たのは”髪結新三(かみゆいしんざ)”。やたらに長い人情噺で、いきなり聞かされたらびっくりするくらい、そりゃあ長いんです。が、その迫力に引き込まれてハマってしまい、いつのまにか落語家になっちゃいましたからね(笑)。“わかりやすさ”よりも、自分が引き込まれるかどうかが大事だと思います」

 

にぎわい座さんはズルいんですよ(笑)

「頭でっかちにならないで、フラっと来てみて、ネタに引き込まれたらその人のほかの演目をまた見てみる、おもしろくなかったら別の人の落語を見てみる、と、気楽にフラフラしてくれたらいいと思います。にぎわい座さんはズルいんですよ(笑)。志の輔師匠の独演会からこれから絶対に伸びる若手まで取り揃えて、「ここの落語はおもしろいはず!」というにぎわい座ブランドを作っているんです。だから好みの人を見つけやすいと思いますよ。

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私、立川こはるは横浜にぎわい座を借りて隔月で公演を行いはじめてからもう19回になり、次はついに20回目。ほとんどホームの感覚ですね。なので、内輪ネタも多いですけど(笑)、初めてのお客さまももちろんいます。私はまだ二ツ目なので師匠たちに比べたら技術はまだまだなんですが、私が初めて生の落語を見た時と同じような感動を味わってもらえたら嬉しいな、と思いながら高座に上がっています。落語界には、見習い・前座・二ツ目・真打という階級制度がありまして。にぎわい座さんに通ってきてくれるお客さんは、若い噺家が二つ目から真打に昇進するのを応援して見届けたいっていう人が多いんです。「この前見た師匠はここがうまかった、お前はここが足りない」とお叱りを受けたりもしますけど(笑)。まずは、真打に向かって進む、昇り調子のこはるを見に来てください!」

 

 

 

立川こはる プロフィール

2006年3月立川談春に入門。談春門下の一番弟子。2007年1月“朝日いつかは名人会”で初高座。2012年6月にニツ目昇進。アニメ「昭和元禄落語心中」(原作:雲田はる子/講談社)ではキャラクター助六の幼少時代の声を演じた。横浜にぎわい座のげシャーレ(小ホール)にて独演会を定期開催している。
http://tatekawakoharu.com


横浜で情緒を味わう「横浜にぎわい座」

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横浜・野毛に建つ大衆芸能の専門劇場。かつては芝居小屋などが並んだ横浜の街の伝統を今に受け継ぎ、落語を中心とした大衆芸能の公演を開催。出演者のセレクトに定評があり、人気落語家などのチケット発売には朝から行列ができるほど。館長は落語家・桂歌丸。
終演後に、今や若者や女性に大人気のディープスポット「野毛」で楽しめるのも魅力の横浜にぎわい座。ぜひ気軽に足を運んでみてくださいね。


おすすめ! 立川こはる公演

「こはるの冬休み~立川こはる落語会~」

横浜にぎわい座が若手を応援する登竜門シリーズ、こはるさんは8回目の出演となります。毎回大入りの大人気公演です。

日時:2017年1月25日(水)19:00開演(18:30開場)
(2016年11月1日発売予定)
会場:横浜にぎわい座 のげシャーレ(小ホール)
住所:神奈川県横浜市中区野毛町3-110-1
アクセス
桜木町駅(JR線・市営地下鉄線)徒歩3分、「野毛ちかみち」南1番口より80m
日ノ出町駅(京浜急行線)徒歩7分
野毛大通りバス停(横浜市営バス、江ノ電バス)すぐ
http://nigiwaiza.yafjp.org/access/
料金:自由席1,500円 ※未就学児入場不可

(文・いしだわかこ)