2022-03-18 コラム
#まちづくり #デザイン #関内外OPEN #ACY

クリエイターが実験し発信する“いまの横浜” ――「関内外OPEN!13」とこれから

関内外エリア(横浜・都心臨海部)のクリエイターが一斉にアトリエ・事務所を地域に開くオープンスタジオイベントとして2009年に始まった「関内外OPEN!」。2016年には車道を封鎖し家具や屋台を設えた屋外空間でワークショップなども行うイベント「道路のパークフェス」に発展するなど変遷を経て、2021年は横浜市役所の元駐車場である関内えきちか広場に期間限定の「クリエイターのまち」を出現させた。今回のイベントづくりのプロセスや関内外OPEN!の今後について、ディレクターの安食真さん(スタジオニブロール)、岡部正裕さん(voids)、小泉瑛一さん(about your city)に伺った。

2021年11月3日~7日「関内外OPEN!13<関内外一丁目>」関内えきちか広場にて開催(写真:楠瀬友将)*

クリエイターの町内会を可視化する

― 今回の関内外OPEN!13ではそれぞれどんな役割分担だったのでしょうか。

安食 何をやるかといったことは全部皆で話し合いながら決めていきましたが、僕は主にコンセプトやタイトルの話し合いをまとめる役割、小泉さんが会場の特にどんなパビリオンを作るかとかいう部分、岡部さんがデザイン周り、といった分担でした。

(左から)岡部正裕さん、小泉瑛一さん、安食真さん。関内外OPEN!13にも参加した「似て非works」の中区末吉町の拠点にて

ー コンセプトはどんな流れでまとめていったんですか。

安食 関内外OPEN!は同じエリアに拠点を持つ物理的な距離が近い人たちの集まりで、日頃の交流を持てることが大きな強みです。しかし、コロナ禍でオンラインミーティングが主流になり、偶然会う機会も少なくなりました。近い距離にいる人の方が遠くなってしまった感覚があります。

僕たちが幹事をバトンタッチされた一昨年の関内外OPEN!12も、コロナの感染状況をみて動画を中心としたオンライン開催にしました。その時、僕ら幹事が思ったのは、いろんな人と深く関われたという実感があまり持てなかったということ。関内外OPEN!13は、「普通にみんなと話したい」という共通認識のもと、もう一度関内外OPEN!に参加する人たちが直接交流できるものにしていくというのがスタートでした。「物理的な距離が近いクリエイターのコミュニティのあり方ってなんだろう」という問いを立てました。

そこから議論を重ね、「クリエイターの町内会」のようなものにしていきたいという方向性を打ち出しました。関内外OPEN!13でやりたかったのは、コロナ禍で失われたご近所話やクリエイターが多く集まる関内外を可視化していきたいということだったんですね。そこで生み出したコンセプト・タイトルになっているのが「関内外一丁目」です。

そのための会場を探して、ちょうどこの空き地を使えるという話になりました。人工芝が敷かれただだっ広い場所だったので、関内外一丁目を表現するパビリオンを作ったらどうだろうと小泉さんからアイデアが出たんです。

小泉 ウェブで一生懸命発信するだけだと関係者にしか伝わらないけど、パビリオンは作ることで街行く人の目 に触れますよね。そういった建築が街に突然現れたら、その意図が100パーセント伝わるかは別ですが、いろんな人たちがお店をやったり何か作ったりしているなということは分かる。「道路のパークフェス」をやっていた時も同じだったと思いますが、関内の地場にこういうクリエイターがたくさんいるんだな、ということをやっぱり見てもらいたいなと思ったんです。

ー パビリオンの設計はどのように進めていったんですか。

小泉 設計自体は、トキワビル(中区常盤町)に事務所を構える構造設計の村上翔くん(SCALA Design Engineers)と、彼の友人でパビリオン設計の経験が豊富な田中麻未也くん(タナカマミヤアーキテクツ)にお願いしました。村上くんはもともと東京の構造設計事務所にいたんですが、僕と大体同じタイミングの2020年春くらいに独立して、関内外の住人になったので声をかけたんです。

町内会というイメージと、関内外エリアの中で活動している人たちをどうやってこの場所に凝縮するか、ということを考えていく中で、もともとグリッド状に町ができている関内に対してもう一つグリッドを引く、街路を空き地の中に引き込むようなデザインになりました。門のところのフェンスを外して敷地の通り抜けができるようにしつつ、一つのアーケードを作ったという感じです。その周りに「商店街」や「ワーク」といったテーマを持たせた場所が生まれてくる、そんなイメージでつくりました。さらにその中を分割して、ある日は野菜を売る人がいたり、ヨガをやる人がいたり、まちの中でいろんなことが起きる、というのをこの広場で実現させるのが会場構成の考え方でしたね。

FRP(繊維強化プラスチック)の棒を使いDIYで組み立てられる仕様に設計されたパビリオン(写真:楠瀬友将)*

関内外コミュニティの可能性

ー まちの中での内容や配置はどんな風に決めていったんですか。

安食 まずは各スタジオがこの関内外一丁目に出現するために、「出張オープンスタジオ」という企画を立てました。関内外OPEN!はデザイナー、建築家、アーティストなど様々なクリエイターがいます。その人たちが自身が空き地に出展しやすく、来場者にもわかりやすいように4つの区分を作るところから始めました。

小泉 クリエイターの作品やワークショップだけではなく、どう健康に気をつけているかなど日常的なものも表出したり、商店街を作ることでまちを表現できると思いました。

4つのブロックを「SHOTENGAI」「GALLARY」「WORK&CREATE」「PLAY&WELLNESS」と分け、過去の関内外OPEN!参加者から出店希望を募りました。今回は密になることを避けるため5日間のうち好きな日時に参加できるようにし、参加人数によってブロックの中でも日毎の区画割を作りました。

会場ではクリエイターによる、さまざまな展示やワークショップが開かれた

安食 そのほか皆で直接話すための場として「井戸端会議」を企画しましたね。

― 今回やってみて気づいたことなどありますか。

小泉 井戸端会議に来てくれた方が建築家の人たちと話すことで、何かが生まれそうな感じになったんですよね。具体的な形にまでなったわけではないですが、そうしたまちの人とクリエイターの協働を後押しするためにどう動いていくのかというのはこれからの課題でもありますね。

安食 すごく良い瞬間でしたね。次の関内外OPEN!のヒントでもあって、このコミュニティの中でコラボすることに期待する意見は多かったですね。今後さらにいろんな出会いや交流、新しいものを生み出していける可能性をとても感じています。

岡部 お祭り当日のちょっと後ぐらいは盛り上がるんですが、年一回だとどうしても熱が冷めてしまうので、そうならないように日常的にコミュニケーションをとったり、あの人はこういうことをやっているんだというのがもう少し見えてきたりすると、コラボもしやすくなると思います。

期間中連日開催された「井戸端会議」

安食 今回はそれぞれ出店するマルシェ的になってしまいましたが、皆で「関内外一丁目」というまちをつくろうということをもうちょっとしっかり伝えて、そこにあるアートスペースってどんなところかなとか、本屋ってどんな本屋かなとか、チームで考えてもらうようなことを一緒にやれたらより良かったですね。

自分たちがまず、まちを「面白がる」

ー 参加者の定義が曖昧だというお話でしたが、そんな中、関内外OPEN!を開催すること、主体的に関わることのメリット、モチベーションは何でしょうか。

岡部 自分の事務所があるトキワビルにはいろんな方がいて、単純に楽しいんですね。そのコミュニティが良くなれば、毎日の生活が楽しくなったり仕事がしやすくなったりするので、それをもう少し広げたいっていうモチベーションですね。

安食 交流関係が広がっていくというのは幹事をやっていてすごく感じたし、皆やってよかったなと思っていることの一つだと思うんですよね。関内外を経て、そこから仕事で連絡した人もいますし。

もう一つはやっぱり実験できるということなのかなと思っています。普段はクライアントワークが中心の中で、予算を預かって場所を使えて、いろんな人がいる中で何か思い切った実験ができるぞということ。そういうことができる場ってすごく少なくなっているので、この街を使ってこれだけの人たちが集まってできるということに僕はすごく魅力を感じます。

昨年まではチーム感があまり感じられていなかったのでそういうモチベーションがあまり持てなかったんですが、今回13をやって、こんなに面白い人たちがたくさんいるんだとわかったし、井戸端会議にも皆積極的に参加してくれて。「もっと言ってくれればやる」、「一緒に考えたい」と言ってくれる人がたくさんいたので、次はもっと大きな実験や尖ったことをやりたいし、そのための準備として組織化したいと思っています。

岡部 展覧会とかを見に行った時、グラフィックデザインの作品を見て、同じ職種だけどこういうこともやっていいんだ、と自由になれる瞬間なんかがあるんですね。創造都市という礎の上で遊ぶというか、せっかくこういう政策のあるまちにいるからこそ、そこからはみ出していきたいですよね。今はその中に収まってしまっているイメージがあるので。

小泉 僕はお二人のおっしゃっていたことに加えて、この関内外OPEN!のように同じ地域にいるクリエイターたちが、自発的に自分たちをまちに対して開く活動を伝統的にもっと次の世代につなげていきたいと思っています。横浜市の政策としてではなく、僕らが活動しているこのまちとしてどういう面白さを発信していくか、クリエイターがたくさんいるビルがいくつもあるまちの面白さをもっと意識的に実験・発信したいし、まちの人に触れてほしいというのはあるんですよね。そうやって横浜自体が旬であり続ける、面白いと言われ続ける都市の魅力につなげていきたいなと思うんです。

「クリエイティブシティ」って話していて何か難しいというか、定義すればいいものではなくて、やっぱりそこにいるクリエイターたちがやる気になって面白がらないと何も動き出さないと思うんです。東京や海外のクリエイターが、横浜はやっぱりおもしろいな、と思える場所が将来的にもどんどん集積してほしい。

そのために元々の関内外OPEN!にとらわれず、いまの関内外OPEN!はこれですというのを提示していく、単純に参加した方が面白いなという状態にしていく方がいいなと思っているんですよね。

コーヒーやパン・焼き菓子、八百屋の出店も

クリエイター主体で次世代へ

― 組織化するという方向なんですね。

安食 関内外OPEN!は今まで市の補助金をベースに活動してきました。いつまで続くかわからない助成金だけに頼らず、自立して継続出来る形を目指し組織化を考えています。また、今までACYが担ってくれていた連絡機能やプロジェクトマネジメントの役割を引き継ぐことにより、メンバー同士の交流をより促進できると思っています。我々クリエイターが主語になって、それをACYに支援してもらうという形にしていきたい。

小泉 できることを増やすためにも予算をさらに増やす方法を自分たちで考えたいなと思ったんですよね。寄付を募るためにも口座が必要なので、自然と組織化という話になりましたが、今までと参加ハードルは大きくは変わらないように考えています。

安食 もっと予算があればいろんなことができる、でも寄付を集めるにも主体がいる、じゃあこの会の目的は何だろうということを、今年はまだうまくすり合わせきれてなかったのかなと思うんです。今は団体として、クリエイター側が一つの集まりにならないと次に進んでいけないよね、という話をしています。

関内外OPEN!立ち上げから携わられているアーツコミッション・ヨコハマ(ACY)の杉崎さんは、「関内外OPEN!はスタート当初の『怪しい者ではございません』と“クリエイターをまちに開く”フェーズから、道路のパークフェスや今回を通して“クリエイターがまちを開く”フェーズに変わってきている」と言っていました。僕らもその意識でいます。

このエリアのクリエイターが集まって、どう実験的に、どう創造的にまちにアプローチしていけるか、それこそが関内外OPEN!だと思います。

今年はメンバーとより話し合いながら、いま横浜はこれだというものに挑戦していきたいですね。それを毎年やっていけたら面白いと思うし、13年続いている関内外OPEN!を次世代へ引き継いでいくために任期を決めました。

岡部 一応任期は決めていて、僕らは再来年(2023年)までなんですよね。

小泉 関内外OPEN!自体はすごく儲かるわけではないので、その中でそれぞれのモチベーションをもって自分なりのチャレンジだと思っているからできる。何か面白そうだからちょっと数年やってみますという若手を見つけていきたいですね。

安食 やっぱり一緒に考えるところからやったほうが絶対面白いんですよね。その面白さを本当に感じてほしい。

岡部 そうですね、パビリオンの設計のラフが出てきた時やコンセプトがバシッと決まった時、その瞬間を一緒に体験してくれるほうが本番に向けても前のめりになれますし、今年はそういう風にやりたいですね。

インタビュー会場となった似て非works末吉町もかねてから関内外OPEN!に参画

文:齊藤真菜
写真:大野隆介(*を除く)
撮影協力:似て非works末吉町


【インフォメーション】

関内外OPEN!13「関内外一丁目」

日程:2021年11月3日(水・祝)~7日(日)各日11時~17時
会場:関内えきちか広場(横浜市中区尾上町2-26周辺)
参加クリエイター:市内で活動するアーティスト、クリエイターおよそ50組
料金:入場無料(一部プログラム有料)※混雑状況に応じ入場制限あり

主催:関内外OPEN!13事務局(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、関内外クリエイター各事業者
共催:横浜市文化観光局

ディレクター:安食真(Studio NIBROLL)、岡部正裕(voids)、小泉瑛一(about your city)
サブディレクター:鬼塚知夏(stgk)、萬玉直子(オンデザイン)
パヴィリオン設計・構造デザイン:田中麻未也(タナカマミヤアーキテクツ)、村上翔(SCALA Design Engineers)
協力:原﨑寛明(CHA)、アスカコヤマックス株式会社、オンデザイン、CoUen、サンキャク株式会社、山手総合計画研究所、YOXO BOX

【プロフィール】

(左から)岡部正裕さん、小泉瑛一さん、安食真さん

安食真(スタジオニブロール)
1985年生まれ。拠点の横浜市と、地元の北海道旭川市で活動するクリエイティブディレクター/デザイナー。様々な企業や自治体からの依頼で、課題解決のためのデザインコンサルティングやブランディングを行っている。デザイン思考を活用したコンセプトメイキングからプロダクトアウトまでを一貫して行う。得意分野は地域特化型産業、福祉、環境、デザイン教育など。
http://www.nibroll.jp/

岡部正裕(voids)
1981年生まれ。千葉県出身。美学校「絵と美と画と術」修了後、株式会社アジール、フリーを経て2015年に株式会社voids(ボイズ)を設立。グラフィックデザイナーとして書籍・パンフレット・フライヤー・ポスター等の印刷物をはじめ、CI/VI 制作(ロゴ、シンボルなど)などを手がける。タイポグラフィや文字を軸にしたデザインワークを中心に視覚伝達の可能性を探り直している毎日です。
http://voids.jp/

小泉瑛一(about your city)
1985年群馬県生まれ愛知県育ち。横浜国立大学工学部建設学科卒業。オンデザインパートナーズ、ISHINOMAKI 2.0などを経て2020年にabout your cityとして独立。市民参加型デザインの手法を用いて建築、まちづくり、ワークショップの設計と実践を行う。プロジェクトごとに様々な建築家やクリエイター、デザイナーとコラボレーションしてより本質的な問いとアウトカムを達成することを目指している。
https://aboutyourcity.jp/

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