TからYへ——文化のためのインフラを構築する”横浜国際舞台芸術ミーティング”へ

Posted : 2021.12.10
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2011年から2021年までの10年間、横浜で”TPAM”として開催されてきた「国際舞台芸術ミーティング in 横浜」が、YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)としてこの12月に新たなスタートを切った。TPAMからYPAMに変わることでどのような変化があるのか。コロナ禍の、そして以降の舞台芸術の国際交流はどうなっていくのか。YPAMのディレクター・丸岡ひろみとプログラムオフィサー・新井知行に聞いた。

YPAMフリンジセンターにて 左:丸岡ひろみ 右:新井知行

 

丸岡 今回、TPAMYPAMと名前を変えて再出発することになりましたが、そもそもTPAM自体、そのときどきの状況に応じて少しずつその性質を変えてきました。舞台芸術の見本市として始まりしたが、2005年くらいから、同時代の舞台芸術に焦点を当てたネットワークの形成に重心が置かれるようになり、2011年に開催地が東京から横浜に移ってからは「見本市」から「ミーティング」に名称も変更しました。さらに15年からはアジアの舞台芸術に焦点をあてたアジアフォーカスがはじまりました。アジアフォーカスの期間というのは、1995年の開始からおよそ25年のTPAMの歴史のなかでも最も目的とサイズが合致してうまくいっていた時期で、特に、コロナ禍の直前のTPAM2020は参加者も過去最多だったんです。

TPAM 2018エクスチェンジの様子(過去開催分)撮影:前澤秀登

TPAM2019ディレクション 東野祥子、カジワラトシオ(ANTIBODIES Collective)『カセット100(ホセ・マセダ作曲、1971)』撮影:前澤秀登


 ところが、第一回から主催団体だった国際交流基金が主催団体を継続しないことがその年度末に決まりました。TPAM2020までは国際交流基金アジアセンター公益財団法人神奈川芸術文化財団公益財団法人横浜市芸術文化振興財団特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター(PARC)の4者が主催として実行委員会を組織していて、アジアセンターが最も多くの資金を拠出していました。そのアジアセンターが抜けたあと、どのようにTPAMを続けていくのかといういうことを考えなければならない時期にコロナ禍も重なって、社会的にもいろいろな状況が変化していきます。海外との行き来に制限が課せられ、ライブで人に会うこと自体が避けられるような困難な状況で、ライブパフォーマンスの国際ネットワークを作るためのイベントであるTPAMをどう継続していけばいいのか。

 でも一方で、そういう状況でも自主的にライブパフォーマンスをやっている人たちはいるわけです。TPAMでいえばフリンジ(公募プログラム)に参加している人たち。そういう人たちの存在こそが、今の状況でのTPAMのようなイベントの意味になると思えた。それで、フリンジに注力する形にシフトしていくことを考えるようになっていったんです。といっても、これはもう開催の直前になったのでそう言い切れるようになってきた部分もあるんですが。

 同じタイミングで、これまでもTPAMを支援してきた横浜市が共催に参画することも決まりました。それで、開催の中心が東京から横浜に移っても10年間続いていたTPAMという名称をこの機に改め、YPAMとして再出発することになったんです。

YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)シンボル

 

表現への意志――横浜から世界へ

— YPAMにはディレクション(主催公演)連携プログラムエクスチェンジ(交流プログラム)フリンジ(公募プログラム)と四つのカテゴリーのプログラムが用意されていますが、具体的にはどのようなものになっていくのでしょうか。

丸岡 まず、YPAM全体を象徴するようなものとしてディレクションはあります。状況によってできることはどうしても変わってきてしまうんですけど、YPAMになった以上、そしてそれが国際プラットフォームである以上、横浜から世界に紹介できるような作品を作ることをやっていきたい。それは横浜在住のアーティストということでは必ずしもなくて、誰の作品であれ、横浜で作られ、発信されたものであればいいと思っています。

新井 今回は重度身体障碍者自身が演出し演じる劇団である劇団態変の最新三部作『さ迷える愛・序破急』をメインプログラムに据えました。最新作である『心と地 – さ迷える愛・急』はパンデミックの影響下で創作がはじまった作品で、上演を3回延期したうえでこの11月にようやく初演することができました。

 舞台芸術を上演するという決断には、ある種のリスク評価が含まれています。この状況下でも作品を上演するという選択をしたということは、彼女たちにとっては上演しないことで生じるリスクの方が高かったということですよね。それはきっと、パフォーマンスをやることが生きるために必要であるという判断だと思うんです。劇団態変の舞台には、そういう、表現を支える意志みたいなものが、最も純粋に現れているのではないか。95年の第1回のTPAMにも劇団態変が出ていたということもあり、YPAMとしての再出発にあたって改めてということもあります。劇団態変もTPAMもそれだけ続いている。劇団態変の舞台が、ある意味で同業者を勇気づけるようなことにもなればいいなと思っています。

YPAM2021ディレクション 劇団態変『翠晶の城 – さ迷える愛・序』©bozzo

劇団態変©Hikaru Toda

 劇団態変以外には、来年新作を委嘱するアーティストにも上演をお願いしています。ヤン・ジェンは、11月に来日して新作に向けた横浜中華街でのリサーチに着手しており、今回は中間報告的な公開リハーサルを実施します。オル太は、まだ新作の方向性は決まっていないのですが、今回は最近上演した『生者のくに』という作品を再演してもらいます。

丸岡 今年のディレクションはこの3組だけなんですけど、YPAMにはプラットフォームとして、お客さんにいろいろな作品が見られる環境を提供するということも役割の一つだと思っています。それで、今年はディレクションとは別に連携プログラムという枠組みを作り横浜の関係団体にご協力いただきました。ヨコハマダンスコレクションはこれまでもTPAMと同じ時期に足並みを揃えて開催してきたんですが、今回はフリンジではなく連携プログラムということでお願いしています。他にも、KAAT 神奈川芸術劇場や、Dance Base Yokohama(DaBY)のプログラムがラインナップされています。

 連携プログラムには、ラインナップの充実ということ以上に、地元の関係団体との関係の構築という意味合いもあります。YPAMを属人的ではなないかたちで、主催や共催を構成する団体や人、場所とともに「面」で支えていくにはどうしたらいいのか。みんなのプラットフォームとして育てていくために、具体的な枠組みを変えようとしているということですね。

TPAM2021グループミーティングの様子(前年度開催分)撮影:ならぶき りく

YPAMフリンジ

 

文化を支えるネットワーク

— 具体的な枠組みを変えるというのは、他にはどのような部分が変わっていくのでしょうか。

丸岡 YPAMとしてチケットシステムを新たに構築しようとしているのもその一環です。前回までのTPAMのサイトでは、プロフェッショナル向けの登録をした人だけを対象にチケットを販売していましたが、YPAMでは無料のオーディエンス登録をすることで一般のお客さんもYPAMのサイトからチケットが買えるようになりました。残念ながらシステムの構築が完全には終わっていないこともあり、また、感染症対策ということでディレクションのチケットは指定席にせざるを得なかった関係で、今回はディレクションのチケットはチケットかながわでしか買えないんですけど……。

 今年はフリンジのプログラムを一冊にまとめた冊子も作りました。どのぐらい実現できるかはわからないですけど、これを街の中にどんどん置いていきたい。たまたま入ったお店にこの冊子が置いてあったりすることで、イベント自体の認知度が高まっていく。そうやって何年かかけていろいろな人たちに興味を持ってもらい、たとえば商店街の空き店舗を公演会場として使わせてもらえるような協力関係を築いていければと思っています。

 

新井 日本のこういうイベントでは、主催団体が変わったり助成金が打ち切りになったりすることで、イベントの性質自体が変わっていってしまうことがこれまでも繰り返されてきました。そういう状況を踏まえると、トップダウンではうまくいかないだろうということで、YPAMでは下から支えるかたちでもインフラを作っていきたい。

 インフラというのは物理的な意味だけではなくて、ライブパフォーマンスをやることが街の人に歓迎されるような状況そのものを作っていく必要がある。今までは、個々の作品について面白いつまらないということはあっても、上演自体をやってはいけないという考えはあまりなかったと思うんです。でも、コロナ禍で上演すること自体が否定される可能性がでてきてしまった。一度そうなってしまった以上、コロナ禍が終わったとしてもそれがただ単に元に戻るとは思えません。だからこそ、ライブパフォーマンスを積極的にやっていい状況というのを改めて作っていかないといけない。これは文化的インフラとでも呼ぶべきもので、コミュニティの理解なしには成立しません。そういう意味でも、YPAMとしては街の人に興味をもってもらい、ライブパフォーマンスの文化を肯定するネットワークを作っていきたいと思っています。

 

新たな交流の場としてのフリンジセンター

丸岡 海外のフェスティバルではほとんどの場合、フェスティバルの期間中、ご飯を食べたり、お茶を飲んだり、夜には飲んだりしながら作品の話をして交流ができるフェスティバルセンターというものが置かれているんです。TPAMでは海岸通にあった地下のレストランにそのようなセンターをおき、とても盛況でした。今年はコロナでそういう場所作りは見送りましたが、来年はまた作りたいですね。そして、、そういう、期間中だけに盛り上がるのではなく、通年をとおして、舞台の話や雑談ができて、特にフリンジ参加の人たちが集まれるような場所もYPAMではつくりたいと思って場所を探しているときに、黄金町エリアマネジメントセンターが話に乗ってくれて、それで今年は場所をお借りしてフリンジセンターを設置することになりました。

 ここに来れば何か話せる、互いに気軽に話して刺激を与え合える場所としてのフリンジセンターを作ることで、横浜から作品を発信していくことにも貢献できるんじゃないか。しかし、まだ具体的に何かが決まっているわけではないので、ちょっとまだ妄想に近い話ですけど……。

新井 黄金町エリアマネジメントセンターはあくまで地元の人に開放するための場所なので、通年での運営ということになったら別の場所に移る可能性もあります。

丸岡 今の我々にはまだフリンジセンターを通年で毎日運営するような体力はないので、そういう意味でも黄金町エリアマネジメントセンターのご協力はありあがたかった。でも、どれくらい先になるかはわからないですけど、理想としてはカフェスペースと事務局スペースがおけるようなところだといいですね。

横浜国際舞台芸術ミーティング事務局の皆さん

 

ハイブリッドなプラットフォーム――持続可能なイベントへ

新井 YPAMでは今回からSwapcardというオンラインのプラットフォームを導入しています。これはオンサイトでやっているイベントをオンラインと二重化するようなもので、アプリでプログラムを全部把握できたり、人とのアポもできたりする。ハイブリッドと言ってもそんなに複雑なことをやろうとしているわけではありません。たとえば、BankART KAIKOでやっているトークにオンラインでもアクセスできる。登壇する人も必ずしもそこに来るわけじゃなくて、オンライン登壇の人もいる。場合によっては全員オンライン登壇だったりもしますが、それでもオンサイトの会場も開いている。会場にいるお客さんも、Swapcardで海外の参加者と話をしながらそこにいたりということもできるわけです。

 オンラインでの交流というのは普段からやっているじゃないかと思われるかもしれないですけど、イベントというフレームが与えられていることで、ちょっと違う体験が生まれてくることになると思います。オンラインのみのイベントだとそれがどこで行なわれていてもあまり変わらないですけど、オンサイトの軸足があることで、参加者は横浜でのイベントなんだということを実感しやすいという利点もあります。

オンラインプラットフォーム”Swapcard”

 

丸岡 これからは、すべてのミーティングを対面でやっていくのは現実的ではないかもしれないとも思うんです。今は感染症対策ということで、やらなければならないことがすごく多くなってしまいました。そうすると、強い力を持った人たちだけができることが多くなっていく。結果的にいろいろなものごとが保守的になっていくかもしれないという恐れがあります。昔は、国際交流というのはいわゆる「トップクラス」の人たちしか参加することのできないものでした。でも、文化的な国際交流というのは、今あるこの世界を外から見て、別の視点を得るための、それによって新しい価値観を生み出していくためのものであるはずです。「トップクラス」の、すでに価値として確立された人たちだけの国際交流ではそれは難しい。

 TPAMでは海外の人が500人くらい来日参加していて、そのうち2、3割がアーティストや作品を広く紹介する立場にある人たちです。でも、それ以外にもまずはアジアや日本の舞台芸術を知るためにちょっと来てみるという人たちが多く登録してくれていた。残念ながら、今の状況を考えるとそういう人たちにとっては日本への渡航のチャンスは減ってしまう可能性が高い。Swapcardは、渡航の回数が減っても関係作りができ、興味を持続してもらうための仕組みとしても考えています。

新井 Swapcardもフリンジセンターと同じように通年で運用していくことを考えているので、たとえばYPAMで会ったときには少ししか話せなかったみたいな人とも、コンタクトを継続しやすくなる面もあると思います。そうやってアクセシビリティを上げることで経済格差的なものも埋められる部分はあるはずですし、YPAM自体の持続可能性も上がっていくはず。慣れるのに2、3年とかかかると思うんですけど、しばらく使ってみて、どういうことになるのか、どういう風に使えるのかを実感してもらいたいと思っています。

 YPAMとしてはそうやってパフォーミングアーツをやるための環境、インフラを整えることに注力していきます。フリンジの参加団体にはお金とか「登竜門」的なチャンスが与えられるわけではないですが、自由に何でもやりに来てほしい、そういう場所でありたいと思っています。

丸岡 例えば演劇だけのことを考えても、いろいろな危機を通過して何千年も続いています。だからもし今の舞台芸術の状況が危機に陥ったとしても、完全になくなることはないと思うんです。それが今、どういうかたちで存在していくのかということを、実験できる場だと思ってもらえれば嬉しいなと思います。

 こういうイベントというのは始まる前には予想もしないことが起きるものです。やりながらできることが見えてくることもあります。TPAMは、YPAMという名前で再出発することになりましたが、第一回は例外状態での開催になりました。続けなければ見えてこないものもありますので、長い目で見ていただければと思います。

取材・文:山﨑健太
写真:大野隆介

【プロフィール】

丸岡 ひろみ
PARC – 国際舞台芸術交流センター理事長、YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング(旧TPAM)ディレクター、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM) 副理事長。2003−2010年、ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル(PPAF)創設運営。TPAMと併設してIETMアジア・サテライト・ミーティング(2008、2011年)、アジアの制作者を集めた「舞台芸術制作者ネットワーク会議」(2009年)を開催。2012年にはフェスティバル「サウンド・ライブ・トーキョー」を創設。

新井知行
坪内博士記念演劇博物館図書室での資料整理、劇団解体社スタッフ、原水爆禁止運動や非正規雇用労働者組合運動のための映像製作などを経てPARC – 国際舞台芸術交流センター勤務。「サウンド・ライブ・トーキョー」ディレクター(2014〜2016)、「YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング」(旧TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜/東京芸術見本市)プログラムオフィサー(2017〜)。Public Recordings『performance encyclopaedia』(OzAsia/Australian Theatre Forum、アデレード、2017)出演/ブックデザイナー。筒井潤/dracom『釈迦ヶ池 – Der Buddha-Teich』(FFT、デュッセルドルフ、2019)メンター。ホー・ツーニェン『旅館アポリア』(あいちトリエンナーレ、豊田、2019)『ヴォイス・オブ・ヴォイド – 虚無の声』(山口情報芸術センターとのコラボレーション、2021)ドラマトゥルク。 

 


【インフォメーション】

横浜国際舞台芸術ミーティング2021(YPAM2021)

会期:2021年12月1日(水)〜19日(日)
主会場:KAAT神奈川芸術劇場BankART KAIKO
主催:横浜国際舞台芸術ミーティング2021実行委員会(公益財団法人神奈川芸術文化財団、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団、特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター)
共催:横浜市文化観光局
助成:公益財団法人セゾン文化財団、リコー社会貢献クラブ・FreeWill
協力:BankART1929、特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター
後援:外務省、神奈川県、国際交流基金、公益社団法人全国公立文化施設協会
令和3年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業

詳細は、公式ホームページをご確認ください
https://ypam.jp/