2019-12-25 コラム
#都心 #デザイン #美術 #横浜赤レンガ倉庫1号館

人気キャラクターのマムアンが「アートリンク in 横浜赤レンガ倉庫」に登場!ウィスット・ポンニミットさんインタビュー

「アートリンク in 横浜赤レンガ倉庫(以下アートリンク)」の季節がやってきた。今年はタイのアーティスト、ウィスット・ポンニミットさんとのコラボレーションで、人気キャラクターのマムアンちゃんが登場! カラフルなマムアンちゃんがおいしそうなスイーツに囲まれて、スケートリンクをポップに彩っている。道行く人が思わず写真に撮りたくなってしまう作品のテーマは「SWEETS ICE RINK」。アートリンクのオープニングを直前に控え、横浜に来日していたポンニミットさんに制作への思いをお聞きした。

 

人々が行き交う冬の横浜赤レンガ倉庫と、カラフルなマムアンのコラボレーション

 

横浜の冬を彩るイベントとして、2005年からスタートした「アートリンク in 横浜赤レンガ倉庫(以下、アートリンク)」。横浜赤レンガ倉庫のイベント広場にスケートリンクが出現するだけでもインパクトのあるイベントだが、毎年アーティストとコラボレーションしてスケートリンクの空間を演出していることで知られる。冬のレジャーとアートを合わせて体験できるアートリンクは、毎年多くの来場者が訪れる人気プログラムだ。

15回目を迎える今シーズンの参加アーティストは、タイのウィスット・ポンニミットさんである。ポンニミットさんはマンガ家、アーティストとして、作品制作やアニメーション制作、音楽活動など多方面で活躍している。

ポンニミットさんはキャラクターの「マムアンちゃん」を、時代の移り変わりとともにすこしずつ変化させながら、長年にわたり描き続けてきた。雑誌「ビッグイシュー日本版」での連載などで知られ、アートファンに限らず多くの人に親しまれるキャラクターだ。日本ではポンニミットさんの代名詞とも言えるかもしれないマムアンちゃんが、今回のアートリンクの主役である。

横浜赤レンガ倉庫のイベント広場は、平日休日を問わず多くの家族連れやカップルでにぎわっている。幸せそうな人たちであふれる横浜赤レンガ倉庫の雰囲気に心を動かされたポンニミットさん、「この空間に絵を描くことができてラッキー」だと笑う。作品についてお話を聞いた。

――実際に完成したアートワークをご覧になって、いかがですか?

こんなに大きな絵を描いたことはないので、すごいなぁと(笑)。絵だけを見れば、計画通りにできていることが分かりますが、この場所の雰囲気のすばらしさは想像していませんでしたね。横浜赤レンガ倉庫は、今の時期たくさんの人であふれています。みんながいることで、作品が生き生きとしてくる。自分の絵だとは思えないぐらいです。この場所に絵を描くことができて、とても嬉しいですね。

――スケートリンクの内側と外側に広がる作品を実際に拝見してみると、ポンニミットさんの絵とスケートリンクの雰囲気が、とても良いバランスで呼応しているように感じました。アートワークのテーマ「SWEETS ICE RINK」について教えてください。

スケートリンクの周りにあるなら、楽しい絵にした方が合うんじゃないかと思いました。スケートを滑っているみんなを見ていると、楽しそうですよね。楽しい気持ちを表すならカラフルな絵にしたいと思いました。カラフルなものをイメージしたときに、たくさんの「スイーツ」が浮かんできたんです。

 

――スイーツの大きさに比べて、マムアンちゃんは小さく描かれていますね。

普段こんなに大きい空間に絵を描くことはないので、広い空間をどうやって埋めようかとはじめは緊張しました。そこで大きなスイーツをたくさん描くことにしたんです。スイーツが大きかったら、滑っている人たちが小さく見えるだろうと想像して、マムアンもみんなと同じぐらいの大きさになるように描きました。

スイーツがたくさんあるので、マムアンもたくさん描きました。いつものマムアンには決まった色がありますが、同じ色だとつまらないので、カラフルに描いています。そこもいつもと違うポイントかもしれません。

――私も実際にスケートリンクを滑ってみたのですが、マムアンちゃんが人と同じぐらいのサイズに描かれていることで、絵と一体感が生まれますね。スケートリンクの中にある絵の前で立ち止まり、写真を撮っている人も多く見かけました。

スケートがあまり得意ではない人もいると思います。僕もスケートは少ししかできません。でもこういうイベントだからこそ「やってみよう」とチャレンジしてもらえたらと思っています。僕の絵がみんなの気持ちをサポートする。マムアンが滑っている人を応援していると感じてもらえたら嬉しいですね。

 

約15年間にわたり描いてきたキャラクター「マムアン」

 

――ドラえもんやキン肉マンといった日本のマンガに影響を受けたエピソードを、別のインタビューで読みました。実際にポンニミットさんが作品を描きはじめたのは、どのようなきっかけがありましたか?

最初は好きなマンガを真似して描いていました。きっかけは大学で落第して、ちょっと悩んで暗くなっていた時期に、オリジナルのマンガを描きはじめたことでした。こんな友達がほしい、こんな世界がほしいといった気持ちから、現実逃避的に世界をつくっていきましたね。その頃、日本のちょっと変なマンガを読んだり、エレクトロニックの音楽を聴きはじめたりして、こんなマンガもあるんだ、こんな音楽もあるんだと気付きました。「『キャプテン翼』やポップミュージックだけが人生じゃない、大学の世界だけが人生じゃないよね」と思えるようになって。「じゃあ俺も居る場所あるじゃん」と、そこから自分の気持ちを反映したマンガをずっと描いています。

――マムアンちゃんはその後に生まれたのでしょうか?

マンガを描きはじめた頃は、シュールな話を汚い絵で描くような、変なマンガばかり描いていました。ですがそればかりだと、親や世間になかなか分かってもらえないということがあって。これだけでは生きにくい世界になってしまうと思ったんです。マムアンのようなキャラクターのほうが、今回のように大きいイベントにも誘ってもらえるし(笑)、生きやすいかなと思って。そういった経緯から、マムアンが生まれました。マムアンもはじめはネガティブなことを言うキャラクターだったので、本当は深いんだけど。

 

 

――それからマムアンちゃんを描き続けていますね。昔と今とではキャラクターにどのような変化がありましたか?

2005年ぐらいから描いていますが、昔のマムアンは絵がすこし違います。こんなに丸くありませんでした。そしてちょっとネガティブなメッセージと一緒に描くことがありました。でもネガティブなことを言うと、SNSなどでネガティブなシェアが増えるようになりました。そういった結果があまり好きになれなくて。当初マムアンは、僕の言いたいことを分かってくれるアート好きな人たちには知られていましたが、多くの人には知られていませんでした。ですがマムアンの認知が広がれば、見る人も作品のメッセージを深く理解できる人だけではなくなります。だから最近はネガティブなことを言わせたいときは、言い方を変えながら、気を付けて発信するようにしています。

作品が置かれる環境や状況に合わせて、しなやかに創作活動を続けるポンニミットさん。作品からどことなくポップな印象を受けるのも、見る人を意識したアートワークに取り組んでいるからかもしれない。ポンニミットさん自身も「付き合いのある人たちは、話が軽くてピュアな感じの人が多い」という。

カラフルなマムアンちゃんから元気がもらえる、今年のアートリンク。ぜひスケートを滑って体感してほしい。横浜赤レンガ倉庫のイベント広場では「酒処 鍋小屋 2020」「ストロベリーフェスティバル」などのイベントが続くので、合わせてお楽しみを!

 

取材・文:及位友美(voids
写真:森本総(カラーコーディネーション


 

【プロフィール】

 

ウィスット・ポンニミット
1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。1998年バンコクでマンガ家としてデビューし、2003年から2006年まで神戸に滞在。2009年『ヒーシーイットアクア』により文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞受賞。現在はバンコクを拠点にマンガ家・アーティストとして作品制作の傍ら、アニメーション制作・音楽活動など多方面で活躍する。主な作品に「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイット』シリーズ(ナナロク社)など。2016年にはくるりの楽曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」PVを手掛けたほか、さいたまトリエンナーレ2016にも参加。2017年にはバンコク、東京、仙台にて個展「LR展」を開催。2018年に、雑誌「ビッグイシュー日本版」での連載をまとめた新刊『マムアンちゃん』をクラウドファンディングにより刊行。

 

 

【イベント概要】

 

開催日時
11月・12月
平日  13:00 ~ 22:00
土日祝 11:00 ~ 22:00
1月・2月
平日  13:00 ~ 21:00
土日祝 11:00 ~ 21:00
※クリスマス・年末年始は特別開催時間

会場
横浜赤レンガ倉庫 イベント広場

入場料
大人:700円
3歳~高校生:500円
付添観覧料:200円
貸靴料:500円

主催
横浜赤レンガ倉庫(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団・株式会社横浜赤レンガ)

お問い合わせ
横浜赤レンガ倉庫1号館
TEL:045-211-1515

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