現在、横浜のみなとみらい地域は、当初の計画の完成形に近づき、約1,810社が立地、10万人を超える人が就業している。一方、関内地域はというと、開港以来の経済・文化の中心地であった歴史的背景を活かし「文化芸術創造都市横浜施策」のもと、従来の企業組織とは異なる個の力を活かした人々が新しく働くようになっている。その動きを推進しているが「芸術不動産」という取り組みだ。古い遊休不動産をリノベーションしアーティストやクリエイターの活動場所として再生させる試みだ。この取組みにより、これまで100組を超えるデザイン、建築、映像、アート等の分野の人材が同地域に集積している。
新しい街・みなとみらいで働く人々、そして歴史のある町・関内で新しい働き方をする人々。その働き方の実態と、両地域の関係性、今後どんな働き方が出てきそうか。
浅沼秀治さんは、関内駅前にある約30組44名(2019.7.7現在)のクリエイターが自治的に運営する宇徳ビルに入居する「アトリエ・モビル」を主宰する建築家だ。「関内はどんな街?」と聞かれ、「関内との関わりはBankARTのアーティスト・イン・レジデンスがきっかけでした。私自身は仕事とプライヴェートの間に垣根がなく、生活の楽しさが仕事につながっています。 関内エリアは人と出会いやすいスケール感で、街歩きしていると知り合いに会って立ち止まって話しかける、そうした親近感のある環境が生活と仕事に厚みを与えてくれています」と関内の魅力を話した。
桐川翔太さんは、みなとみらいにある高層ビル(富士ゼロックス株式会社)で働く6年目のサラリーマン。大企業の若手の有志団体ONE JAPANに所属してハッカソンを運営するなど本業以外にも意欲的に活動している。関内とみなとみらいをつなぐ交流を模索しているという彼は、ほかの参加者に「関内での出会いが直接、仕事につながった経験はありますか?」と質問するなど今後の働き方のプランを練っている最中だった。
山澤諭さんは、東京を主軸に活動するも関内駅前のシェアオフィスに新しくサブ拠点を持ったばかりの弁護士。関内に事務所を持った理由を聞かれ、「渋谷のベンチャー企業を支援する仕事はどの案件も似たり寄ったりなんです。けれども関内はカオスに満ちています。パラダイムシフトとは価値観のぶつかり合いからこそ生まれるのでは」と関内の潜在的なパワーに実感を込めて語った。
川島史さんは、みなとみらい、ランドマークタワーの地下で大人の部活が生まれるシェアスペース「BUKATSUDO」を運営するマネージャー。BUKATSUDO誕生は2014年6月、以来横浜で、あるいは東京で働く人々が仕事のためではなく趣味やライフワークを楽しむことを応援してきた。近年新たな動きがあったと言う。「趣味として「レコード部」で活動するうちにDJの仕事が舞い込むなど、もうひとつの仕事、副業が生まれているんです」と新しい働き方の事例も紹介した。
この会を企画したモデレーターのひとりで進行役を務めた相澤毅(G INNOVATION HUB YOKOHAMAプロデューサー、ヨコハマ芸術不動産推進機構)さんは、「今日のキーワードは、デジタル化社会の中にあってのリアルの意味とは。そして、副業の場として関内が機能するかどうか。そのヒントがあったと思います」と締めくくった。
もうひとりのモデレーター、杉崎栄介(アーツコミッション・ヨコハマ チームリーダー)は、「みなとみらいと関内を橋渡しする役割の人がもっと増えるといいなと考えているんです。それには組織の中の多様性より、個人の中の多様性が大事だと考えています。今日の話をきっかけに横浜ならではのワークスタイルとその価値をあらためて気づかされました。」と今後への期待をこめた。
文・猪上杉子
写真・森本聡