大きな歴史からこぼれ落ちた「変わらない日常」を、光で表現する。髙橋匡太さんインタビュー

Posted : 2019.12.18
  • mail
馬車道の「YCC ヨコハマ創造都市センター」(以下、YCC)では、「YCC Temporary髙橋匡太」が2020年1月12日まで開催されている。1組のアーティストが展覧会やパフォーマンスを行うシリーズ「YCC Temporary」は、YCCの閉館に伴い今回が最終回となる。7回目を迎えた本展は、アーティストの髙橋匡太(たかはし・きょうた)さん。横浜に縁のある人から集まった「子供の誕生」にまつわるスナップ写真やホームビデオで構成された。会場には円環状に連なる365枚の0歳児の写真と、ケーキのろうそくを吹き消す映像を展示。その中央には1900年代につくられた大きなディスクオルゴールが、誕生日を祝う『Happy Birthday to You』を奏でる。髙橋さん、YCC館長の長田哲征(ながた・てつゆき)さんに本展について話をきいた。

横浜に縁のある、約400の「子供の誕生」

——髙橋さんは各地で光や映像のプロジェクションやインスタレーションを手がけられています。YCCでも「RED ROOM(レッドルーム)」と題して、この建物を真っ赤に染めるプロジェクトを行なわれていました。今回は屋内での展示で、公募によって集まった写真や映像を素材にされています。

髙橋匡太(以下、髙橋):仕事としてはパブリックスペースを使ったライティングやプロジェクションが多いのですが、屋内の展覧会も地続きの作品だと考えています。今回の展示では公募した約400枚の写真と45本の映像を一つの空間に構成しています。0歳児の365枚の写真をぐるりと円環状に配した《0 year old》、その中央には誕生日ケーキのろうそくを吹き消す映像《Happy Birthday for Children》があります。スナップ写真やホームビデオを素材にしたのは、映像のアーカイブに興味を持ったことがきっかけでした。

髙橋匡太《Happy Birthday for Children》(2019年、YCC ヨコハマ創造都市センター、神奈川) Photo : Ken Kato

 

——アーカイブに関心を持たれたのはいつ頃でしょうか。

髙橋: 2009年、せんだいメディアテークでの個展(「仙台芸術遊泳2009 光の航跡 髙橋匡太」)でした。東日本大震災の起こる以前になりますが、ひと月くらい仙台に滞在しながら制作しました。せんだいメディアテークは市民が撮影したフィルムのアーカイブに取り組んでいて、それを見せてもらったんです。ここに市電が通っていたとか、戦前と戦後で道路が変わったとか、まちが変化した様子がわかる貴重なフィルムのほかにも、七五三や七夕、海水浴、遊園地など家族を撮影したホームビデオもありました。戦前のフィルムもあったのですが、自分が過ごした子供時代と同じシーンが写っているんです。大きな時代の変化のなかで「変わらないこと」があるんだな、と興味を持ちました。殊更に語られなかったこと、大きな歴史からこぼれ落ちてしまった些細なこと。それをアートとして丹念に拾っていくことができるのではないか、と。

髙橋匡太さん

 

——「変わらないこと」のなかでも、今回「誕生日」を選ばれたのはなぜですか。

髙橋:だれにでもあり、そして多くの人が大事にしたいと思うシーンはなんだろうと考えたときに、いくつか候補はあると思うのですが誕生日がいいなと。誕生日の「おめでとう」は、そこにその人がいることが「おめでたい」のですよね。その必然性が好きです。僕は、誕生日が一人だったら寂しくなるんですよ。「今日は誕生日なんだけどなあ」って(笑)。

——展示された0歳児の写真は365枚ですが、その数字は1年ということでしょうか。

髙橋:365日、人が生まれない日はありません。それだけ毎日生まれたことを祝う人がいるのはすごいことですし、そんな誕生日のシーンをいっぱい見たいなと。生まれたことを祝福されることは尊いし、みんなそうであってほしいです。

——そして、その中央にあるのが、誕生日ケーキのろうそくを吹き消すシーンですね。

髙橋:集まった映像と写真は、編集して5つのスクリーンで同時に流しています。映像を編集しながらも、最初はそこに写る子供たちの幸せそうな表情に目が行きますが、徐々にカメラを回しているのは誰だろう、とその存在が気になる。プロではないからブレブレでも一生懸命撮ろうとしていて。そのカメラを回している存在に思いがいくと、より愛おしくなります。

知らない方のプライベートフィルムですが、なんとなく知っている気がして、自分のことを思い出すんですよね。このシーン知っているなあ、と。フランスの哲学者、ロラン・バルトの『明るい部屋』という本に、母親の5歳の写真を見たときに身近に感じられた、という記述がありました。僕も亡くなった母親の小さいときの写真を見たときに知っている感じがした。誕生日の風景もまったく知らない人のはずなのに、経験したようなことが思い出されてくるのです。

髙橋匡太《Happy Birthday for Children》/《0 year old》(2019年、YCC ヨコハマ創造都市センター、神奈川) Photo:Ken Kato

 

光とは人の暮らしや営みを表すもの

——今回、音楽も大事な要素の一つかと思いますが、山中透さんが担当されました。

髙橋:会場の真ん中に100年以上前につくられたディスクオルゴールを置き、誕生日の曲を1時間に1回奏でます。1世紀以上前から音を奏でてきた楽器であり、永遠に回り続けている感じもある。山中さんには「夜のまちを散歩しているときにどこかの家で誕生日パーティをやっている様子が聞こえる、といった雰囲気でお願いします」としかオーダーしていないのです。それとディスクオルゴールも実際に見てもらいました。そしたら山中さんは「よっしゃ、わかった」と(笑)。

——写真や映像は「横浜に縁のある人」から募集されたのですよね。

長田哲征(以下、長田):「YCC Temporary」の企画はこの空間が前提となって作品やプロジェクトを展開してきましたので、どのアーティストにもやはり横浜との関係性を入れてもらうようにしています。横浜の生まれや在住というとかなり限定的ですので、思い入れがある・遊びによく来るなど横浜に関わりのある人、と公募をしました。でも応募のうち大半が横浜在住の人でした。これだけ大勢の人の写った写真・映像が美術作品の一部になり、作品と関われるのは珍しいのではないかなと思います。

 

長田哲征さん

髙橋:このまちに住んでいる人がこういう思いを持って、誰かに愛されている。そのことをまち単位でイメージできたらと考えました。歴史の想像力って一足飛びにはいかないと思うので。

長田:一般の応募が大半ですが、中には横浜山手アーカイブスという団体の協力で、洋館で生まれた子供の古いモノクロ写真なども含まれています。誕生日のシーンは、髙橋さんの重要なテーマでもある「光」とも関連しているのですよね。

髙橋:「光」はいろいろな意味を持ちますが、僕にとって、一つは光を「あかり」や「灯(ともしび)」ととらえたときに、そこに人の暮らしや営みを見ることができるのではないか、と考えています。ろうそくの火は映像として魅力的ですが、息で吹き消すと真っ暗になってしまう。営みとは永遠ではないという「時間」も想起できるものになれば、と考えました。

ほかのプロジェクトでも同じで「夢のたねプロジェクト」(2004年〜/参加者が夢を描いた「たね」にLEDを入れ、空から降らせる)でも、一つひとつの種の向こうに夢を書いた子どもたちが見える。「ひかりの実」(2011年〜/参加者が果実袋に笑顔を描き、LEDを入れて樹木に飾る)でも、実」をつくった子たちの笑顔が見えてくるんですよね。

東日本大震災のあと仙台の人たちと会ったときに、震災でまちから明かりが消えたことで「明かりは人の営みだと感じた」と話されていたんです。『星の王子様』で知られるフランスの作家・サン=テグジュペリは操縦士でもあったのですが「飛行機からまちのあかりをみて愛おしく思うのは、人の暮らしがあるから」といっていたそうです。

それにしても、誕生日ってなぜろうそくの火を吹き消すんでしょうね。おめでとう!と火を消してリセットするというのは、深い意味がありそうな……。

「ひかりの実」(2011年、山下公園、神奈川) Photo:Mito Murakami

 

公共空間のあり方を変える光の力

——髙橋さんは、これまで光を素材にさまざまなプロジェクトや展示をしてこられていますが、なぜ「光」を扱うようになったのでしょうか。

髙橋:京都市立芸術大学では彫刻科だったんですが、そのなかで「光」の持つ時間性 に興味を持ちました。光によって、その瞬間だけその場所に風景ができあがる。刹那に存在している感じに惹かれたんだと思います。もともと舞台美術に興味があったことや、映画が好きだったことも関係していますが、音楽やパフォーマンスもその瞬間そこで交わりますよね。「できごとをつくっていくこと」に非常に興味があります。

——光によっていろいろな形態で「できごと」をつくってこられたのですね。

髙橋:パブリックなスペースで壁にペイントすると現状復帰しなければいけない。ですが光はある意味グラフィティ的な感覚も持ち合わせていてすぐに消すことができます。プロジェクションマッピングは現在では一般的な手法になりましたが、公共的な空間に対して半ばゲリラ的に仕掛けていくことが可能です。1980年代初頭から、公共空間に投影する「パブリックプロジェクション」を先駆的に行ってきたポーランドの作家、クシュシトフ・ウディチコなどもその代表例ですが、公共的な空間に一瞬でも個人の考えや思いを投影できる。公共空間の捉え方をも変えられます。そこに魅力があるのではないかと思っています。

——横浜でも「RED ROOM」をはじめ、「スマートイルミネーション横浜」にも参加されるなど、パブリックプロジェクションを多く手がけられてきました。最後に、横浜でプロジェクトを実施されたときの印象を伺えたらと思います。

 

髙橋:横浜にはなぜか縁がありますね。「スマートイルミネーション横浜」は初回から参加していて、今年で9回目です。実はその前にも「アートリンク in 横浜赤レンガ倉庫」(2007年)にも参加しています。10年以上、毎年のように横浜でプロジェクトに参加しているので、横浜は僕にとって「顔が見えるまち」という印象です。たとえば参加を求めても、好奇心が強くオープンなお客さんが多い感じがあります。新しいことやおもしろいことに参加したいと思っている人が多いのかな。そういう点で、実験的なことを試せる場所です。

長田:「スマートイルミネーション横浜」では、横浜税関にドラアグクイーンの顔を投影したこともありましたね。

髙橋:「RED ROOM」にしても、建物を真っ赤にするとかほかの都市だとなかなか難しいと思います。恒常的には難しいけれど一時的だったらアリとできる、その余白があるのがいいなと思って。規制でがんじがらめになっているところでは、何も生まれてこないですから。

「RED ROOM#3」(2018年、YCC ヨコハマ創造都市センター、神奈川) Photo:Mito Murakami

 

 

写真:森本聡

文:佐藤恵美


【プロフィール】

髙橋匡太(たかはし・きょうた)

アーティスト。1970年京都府生まれ。1995年京都市芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。光や映像によるパブリックプロジェクション、インスタレーション、パフォーマンス公演など幅広く国内外で活動を行っている。東京駅100周年記念ライトアップ、京都・二条城、十和田市現代美術館、など大規模な建築物のライティングプロジェクトは、ダイナミックで造形的な映像と光の作品を創り出す。多くの人とともに作る「夢のたねプロジェクト」、「ひかりの実」、「ひかりの花畑」、「Glow with City Project」など大規模な参加型アートプロジェクトも数多く手がけている。五島記念文化賞美術新人賞、京都府文化賞奨励賞、DSA日本空間デザイン賞2015優秀賞ほか多数。

 

長田哲征(ながた・てつゆき)

1970年横浜生まれ。多摩美術大学建築科卒業。建築設計事務所、現代美術関連事務所勤務、2002-2008年ナンジョウアンドアソシエイツ代表取締役・ディレクターなどを経て、2009年オフソサエティ株式会社を設立。2015年特定非営利活動法人YCCを設立し、代表理事就任と同時に、YCC ヨコハマ創造都市センター館長に就任。過去にアーツトワダ/十和田市現代美術館(青森)の全体監修および計画策定、ちよだアートスクエア構想(現アーツ千代田 3331、東京)の計画策定、六本木ヒルズ・パブリックアート制作協力、八戸市新美術館運営計画策定ほか、国内外のアートプロジェクトの企画・実施や美術館などの芸術文化施設の整備計画・運営計画を主に手掛ける。


【展覧会情報】

YCC Temporary 髙橋匡太

会期:2019年11月22日(金)〜2020年1月12日(日)
※12月1日(施設メンテナンス)および12月28日~1月4日(年末年始)は休場
時間:11:00~18:00(金土祝19:30まで) ※入場は閉場の30分前まで
会場:YCC ヨコハマ創造都市センター 3階
入場:500円(高校生以下入場無料)※高校生は要学生証提示

[オルゴール演奏時間]
平日:11:30~17:30の毎時30分頃 ※17:30最終入場/金土祝:11:30~18:30の毎時30分頃 ※19:00最終入場
主催:YCC ヨコハマ創造都市センター(特定非営利活動法人 YCC)
助成:公益財団法人東急財団(旧 公益財団法人五島記念文化財団)、芸術文化振興基金
後援:横浜市文化観光局
協力:宇佐見合板株式会社、株式会社グッドアイ、株式会社サンテクニカル、スタジオ・ステップ、六甲オルゴールミュージアム(50音順)
企画:長田哲征(YCC / offsociety inc.)
コーディネーション:長田哲征 / 宇野好美(YCC)
音楽:山中透

※本展は、公益財団法人東急財団(旧 公益財団法人五島記念文化財団)より海外研修終了後の成果発表として助成を受け、開催するものです。