目指すは人と文化の“交易地”、開催エリアが広がる黄金町バザール2018

Posted : 2018.09.13
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横浜・黄金町エリアのまちを舞台としたアートフェスティバル「黄金町バザール」。11回目の今年は、9月21日(金)~10月28日(日)の約1か月間、これまでより対象エリアを拡大しての開催だ。コンセプトには、“バザール”の語源となる“市場”を掘り下げた「フライング・スーパーマーケット」というポップなテーマを掲げた。運営体制も一新して挑む今年の見どころを、キュレトリアル・チームの水谷朋代さんと内海潤也さんのナビゲートでお届けしよう。

黄金町バザール2018のキュレトリアル・チーム、水谷朋代さんと内海潤也さん。若い力がフェスティバルの大黒柱に。

 

テーマは「フライング・スーパーマーケット」――多様な価値観・文化の交易地を目指して

2008年の第1回目から、実に11回目の開催を数える「黄金町バザール2018」。今年のフェスティバルは、大きく3つの柱に分かれている。公募によって選ばれた7カ国17組のゲストアーティストが、滞在制作をし、新作の展示を行うメインプログラムと、同地域で日常的に活動するアーティストを紹介する特別プログラム、そして、ツアー、パフォーマンス、トーク等の各種イベントプログラムだ。現在はメインプログラム参加アーティストのほとんどが黄金町入りし、リサーチと制作を進めている。約2ヵ月間にわたる滞在制作期間を経て、いよいよ9月21日(金)から本展がはじまる。

今年のテーマは「フライング・スーパーマーケット」。展示されるのはアートなのに、なぜスーパーマーケット? 素朴な疑問をぶつけてみた。

「『フライング・スーパーマーケット』と言っても、お店のようなしつらえで黄金町バザールを展開するわけではありません。スーパーマーケットでは商品と金銭の交換もありますが、市井の人々が日常生活のなかで集まってきたり会話したりして、知識や習慣も交換されているのではないかと思います。本展ではそういったイメージを大切にしています。もともと『バザール』とは、中東地域の交流地点にうまれた市場を指しています。今回の黄金町バザールでは、このように人・モノ・知、そして体験や習慣が交換される、交易の場としてのアートフェスティバルを、観客の皆さまには体感してもらいたいと考えています。」(キュレトリアル・チーム 内海潤也)

そう語ってくれたのは、黄金町バザールを主催する認定NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターに、今年入社した内海さんだ。黄金町バザールの運営に携わって5年が経つ水谷さんも、お店のようにモノが売買できる作品もあるけれど、本展は“架空のスーパーマーケット”として概念を提示していると指摘する。

「ここでは多様な価値観や新しいモノに出会えたり、何かを持ち帰ってもらえたりする場になることを目指しています。」(キュレトリアル・チーム 水谷朋代)

長時間に及ぶテーマ決定ミーティングの終盤、ディレクターの山野真悟さんがつぶやいた一言が「フライング・スーパーマーケット」だった。 最後は意外にあっさり決まったと、二人は振り返る。

 

エリアごとのまちの変化も楽しんで。新規開拓の会場が見どころのひとつ。

今年度の新たな試みとして注目したいのが、開催エリアの拡大である。これまでは主に京急線の高架下や、元違法風俗店舗を活用した約20ヵ所を中心に、黄金町エリアで開催してきた。今年は新たに、従来のエリアを超えた10ヵ所程度の会場が加わる予定だ。

地域の方たちとも関わりながら、アーティストの滞在や活動を支えてきた水谷さん。開催エリアの広がりは、自然な流れだったと言う。

「私たちのNPOではまちづくりの文脈でも黄金町エリアに関わっていたので、黄金町バザールも同エリアで開催してきた経緯がありました。黄金町をはじめ初音町・日ノ出町の『初黄・日ノ出町地区』と呼ばれる、主に京急の高架下を中心としたエリアです。

ですが今回は、そのエリアを超えて会場を開拓し、作品を展示することに挑戦しています。『平戸桜木道路』を超えた赤門町や、大岡川の向こうの伊勢佐木町・末吉町・若葉町あたりにまで会場が広がりました。これまで、アーティスト自らが開催エリアのボーダーを超えていくケースはあったのですが、会場としてここまで広がったのは初めてですね。

『まち』と言っても、そのコミュニティに出入りしている人たちは、あちこちから集まってきています。これまでNPOが築いてきた関係性があったからこそ、今年はより広いエリアに目を向けることができました。」(水谷朋代)

アーティストたちにとって、黄金町が新しいことにチャレンジできる場所であって欲しいと語る水谷さん。

 

内海さんは、実際に足を使って新たな会場の開拓に動いた。オフィスのなかで忙しく働いているだけでは、まちが見えてこないと感じたことが、会場リサーチの原動力だった。

「長時間パソコンに向かっていたり、同じ場所で打合せをしたりしているだけだと、どうしてもまちを捉えることが難しい。ここで働きはじめてから、時間があったらなるべく歩くようにしていました。会場リサーチもその延長にありましたね。

会場が増えることは、物理的にはエリアが広がるだけかもしれません。でも観客の体験は確実に変わります。『平戸桜木道路』を超えた地域は意外に平らで、普通の住宅地が広がり静かですが、川を越えた若葉町はいろいろなお店もあってにぎやかですよね。そういった場所と比べると、ここ黄金町は高架下で電車の音もするし、圧迫された空気も面白い特徴だと思うんです。流れている時間がエリアごとに全然違うことを、体感してもらえたら。」(内海潤也)

 

絶賛制作中! 黄金町バザール2018 メインプログラム参加作家をピックアップ

全17組のアーティストが滞在制作を通して作品を発表する今年の黄金町バザール。中でも、お二人がいま気になっている作品をご紹介いただこう。

 

蔡坤霖(ツァイ・クェンリン)+山田哲平+林子皓(リン・ズハオ) [台湾、日本]

蔡さんは、2010年の黄金町バザールに参加したアーティストです。パイプや音を使って作品を制作しています。今回はもともと交流のあった山田哲平さんとのコラボレーションです。山田さんは音を視覚化する作品を一貫して制作しているアーティスト。大岡川をリサーチして、川の奥の音を収集し、それを観客が聞く作品に取り組みます。林子皓(リン・ズハオ)さんは、川や海の水中の音に関して海洋研究開発機構で研究をされている方で、専門的なサポートをいただいています。川の奥からは想像もできないような音が聞こえるのですが、それが何の音かを教えていただいたりしています。
川底の音は、ハイドロフォンという特殊なマイクを使って採取していて、人間に聞こえる音とは全然違います。それをどう視覚化するか、そして大岡川の歴史性とどう絡むのか――。そのあたりが見どころですね。
2010年の参加時には、彼が海外でレジデンスをして発表する初めての機会だったので、黄金町への思い入れもあるアーティストです。「大平荘スタジオ」という、2015年にバスタブをイメージして内装の改修を行った会場で発表します。
(水谷朋代)

蔡坤霖(ツァイ・クェンリン)《The sound discovery》2017年

 

スピーク・クリプティック[シンガポール]

様々な都市の魅力を世界目線で発信するTime Out誌のシンガポール版で、シンガポールを面白くする20名に選ばれたアーティストです。ストリートアートを軸に、美術館やギャラリーといった枠にとらわれず、世界中の都市空間でペインティング、ドローイング、パフォーマンス作品を発表してきました。日本では初めての展示機会になります。彼はシンガポール人の十数%を占めると言われるマレー系シンガポール人で、祖父はインドネシア・バウェアン島から移ってきたそうです。生まれながらに持つルーツと、自分自身で選んだカルチャー。複数のアイデンティの間に立つ自分自身と社会を接続しながら、作品制作を続けています。今回は、港町として、海の向こう側から様々な物資や人、文化を受け入れてきた「横浜」を舞台に、移動の中で運ばれてきたあらゆるものを受け入れ生活する私たちは、どこからきて今どこに立っているのか、そのことを問うような新作を発表します。メインの壁画に加えて、かつて物資を運ぶ要となっていた川の護岸にも作品を設置する予定です。その他にも数ヵ所でペインティングの作品を発表するのですが、どれも町で出会った風景や人々の暮らしを反映した作品です。特にこのあたりは多くの外国籍の方が暮らしていますので、日々生活をしながらインスピレーションを受けているようです。もしかすると立体にも挑戦するかもしれません。
(水谷朋代)

スピーク・クリプティック 黄金町バザール2018制作風景

 

安里槙(あさとしん)+許田盛哉(きょだもりや)+etc.[沖縄]

沖縄の「新町」と呼ばれる元違法風俗店舗街だったエリアに、許田さんが立ち上げた「PIN-UP Gallery」というギャラリーがあります。そのポップアップギャラリーを、黄金町にオープンするプロジェクトです。安里さんは、黄金町の短期AIR(AIR=Artist in Residence=アーティストが滞在制作するという意味)プログラムで滞在していたアーティストですが、今回の黄金町バザールで公募に参加し、選ばれました。沖縄出身の安里さんは、黄金町での滞在をとおして、似たような背景をもつ新町との違いや類似を実感していたそうです。その経験をもとに、今回の企画を考えています。
「PIN-UP Gallery」は、オーナーとアーティストが友達感覚というか、フラットな関係性から展示をつくり上げています。そういった側面は、黄金町という場所にも「あって欲しい」と感じる面もあって。フラットな関係性は、沖縄だからこそ成立することなのかどうかも含め、ポップアップギャラリーとして黄金町で提示されるものを見てみたいですね。
今回をきっかけに、来年度以降も何らかの形で交流が続くかもしれません。
10月6日には許田さんや、参加アーティストの何名かが沖縄から参加するトークも予定しているので、お楽しみに。
(内海潤也)

PIN-UP Gallery(沖縄)© Moriya Kyoda

 

組織も新たに。若いキュレトリアル・チームがつくる黄金町バザール2018。

会場エリアを拡大した以外にも、今年の黄金町バザールが挑戦したことがある。2008年から10年を経て、次の10年を見据えた組織づくりだ。水谷さんと内海さん、キュレトリアル・チームとしてはお二人が名前を連ねているが、特に明確な役割分担があるわけではなく、互いに二人三脚で展覧会をつくっている。

運営に携わって5年、組織のなかでは“古株”になった水谷さんに、今年度の体制について聞いた。

「今年は自分たちの活動そのものを、捉えなおす年でもあるかなと思っています。ちょうど10年が経って長年勤めた何人かが退職したこともあり、スタッフも一新されました。これからの10年、活動を続けていくためには、何を柱にしていくべきかがすごく問われ出してきたというか。今回の黄金町バザールでは、10年前にテーマに掲げた『嘘のような本当の話』として展開した市場=バザールを改めて振り返り、若いスタッフで作り上げています。

私自身の役割はこれまでとあまり変わりませんが、作品制作の中でどのようなレジデンス期間を送るか、というプロセスの部分を重視して、アーティストに寄り添い進めています。
黄金町バザールはAIRをベースとした新作の制作、発表が軸になっているので、滞在中に得た知見や経験は、直接的にも間接的にも創作に大きく影響を与えます。作家の中にもともとあったアイデアをどれだけ変化させ、膨らませていくことができるのか、その手助けが重要だと考えています。アーティストが直接こんな人の話を聞きたいとか、こんな場所に行ってみたいとか、調べたいとか、そのサポートはもちろんですが、あの人に会ったら、あのお店に行ったら何かが起こるかもしれない…といった長年培ったからこそ身についた“勘”を大切にしていますね。キュレーターという言葉にはまだ馴染みがなく、AIRマネージャーという呼称の方が、しっくりくるかもしれません。

アーティストと一緒にリサーチをしていても、まちにアーティストが根付いてきた肌感覚が強くなってきました。リサーチをベースとした作品づくりを、当たり前のこととして受け入れていただける環境が、今の黄金町にはあります。」(水谷朋代)

一方で、今年の3月に東京藝術大学 大学院 国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻を修了し、黄金町バザールの運営に携わりはじめた内海さんは、ここでのキュレーターの役割をどのように捉えているのだろう?

「アーティストのキャリアを考えたときに、黄金町での経験を経てアーティスト自身に何が残ったか、どのような変化があったかということが、重要ではないでしょうか。アーティストによっては、変化することにストレスがかかる場合もあるので、ストレスを与えることが、僕はキュレーターの仕事だと思っています。

黄金町バザールに参加して、楽しいだけで終わってしまうとか、なんとなく良かったねという感じの、ただのAIRで終わってしまったらもったいないですよね。アーティストにとって、黄金町で滞在制作をする意味は何なのか。これからもアーティストとして活動を続けていく彼らにとって、黄金町という場所が意味をもつ場所であって欲しいと考えています。

キュレーションという言葉は、『ケア(Care)』という単語に由来します。黄金町バザールのような、滞在制作をとおして作品をアウトプットするプログラムにおいては、アーティストの生活に対してケアをすることも、キュレーションのなかに含まれます。アーティストと一緒に飲みながら、何を考えているかをさりげなく聞いたり、作品の話しをする適切なタイミングを探ったり、どういう場所・雰囲気のなかでミーティングをするとよいかといったことも含め、キュレーションをしています。」(内海潤也)

まちを歩きながら作品に出会える黄金町バザール。展覧会の会場として、美術館やギャラリーとは違うアートの楽しみ方があると内海さんは指摘する。 作品が置かれた周囲の環境も含め、身体で感じてみてほしい。

 

開催エリアが広がった、今年の黄金町バザール。作品をたどって歩きながら、まちの風景や流れる時間も楽しんで、五感を使って体験してみよう。スーパーマーケットに行くような気軽さで、足を運んでも面白い。アーティストの表現に触れて刺激を受けたり、会場で出会ったアーティストと会話を交わしたりすれば、それは新しい知や文化の交流のはじまりかも。

チケットは、会期中何回でも入場できるパスポート制。さらに今年は、会場近隣店舗での買い物や、イベント参加でポイントが貯まる企画も予定している。 皆さまのご来場を、お待ちしています!

 

取材・文:及位友美(voids
取材風景写真:大野隆介

 


【イベント情報】

黄金町バザール2018 –フライング・スーパーマーケット
会期:2018 年9⽉21⽇(⾦)〜10⽉28⽇(⽇)
会場:京急線「⽇ノ出町駅」から「⻩⾦町駅」間の⾼架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外、他
時間:11:00〜18:30 ※10月6日(土)、7日(日)、26日(金)、27日(土)は11:00〜20:00
休場日:⽉曜⽇(⽉曜祝⽇の場合は翌⽕曜⽇)
入場料:会期中有効のパスポート700円[販売期間:9⽉21⽇〜10⽉28⽇]※高校生以下無料
主催:認定NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター/初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会