
「アンクルトリスと柳原良平」(1970年代)提供:横浜みなと博物館
柳原良平作品の常設展示施設、満を持して横浜みなと博物館にオープン
柳原良平といえばアンクルトリスだが、長い活動の中でイラストレーションやデザインだけに留まらず、アニメーションや切り絵、水彩や油彩など、実に多彩な表現方法に積極的にチャレンジしている。表現方法が多様な反面、そこには一見してすぐに柳原作品とわかる強い個性がある。
この「柳原良平アートミュージアム」は、その豊かなクリエイティブを包括して見ることができる日本で唯一の常設展示施設となる。
場所は横浜・みなとみらいの「横浜みなと博物館」内の常設展示室。
そこで横浜みなと博物館の志澤館長に、オープンまでの経緯や見どころ、これからの企画についてなど、詳しいお話をお伺いした。
昨年の企画展で「常設展示を!」との声が寄せられた
「2016年に、ご遺族が横浜市に作品を寄贈されたのです。”多くの人に柳原作品を見てほしい”というご希望がありましたので、その年の8月、この横浜みなと博物館で企画展を行いました」
(志澤館長)
多くの寄贈品の中から厳選された約150点を展示した「柳原良平 海と船と港のギャラリー」展は大盛況のうちに幕を閉じ、「こんなにいろいろな作品があったなんて知らなかった」「いつでも見たくなったらすぐ見られるように常設展示をしてほしい」という声が多く寄せられたそう。
「この企画展は、大変多くの方が足を運んでくれました。市内はもちろん、東京や京都、広島、福岡…と、全国津々浦々から訪れてくださったのです。
とりわけ驚いたのが、お客さまのうち半分くらいが女性だったことです。なにしろうちの博物館は船をメインにしていますから、それまでのお客さまは中高年男性がほとんど。こんなに女性が多く入場したことは未だかつてなく、初めての経験でした。しかも年齢層がいつもより少し若めで。
柳原先生が、アンクルトリスというキャラクターが、いかに多くの方に愛されてきたかを物語っていたのです」

「アンクルトリスの楊枝入れ」(1970年代)提供:横浜みなと博物館
そこで横浜市に常設展示の提案をして、事業として進められることになった。場所は、この横浜みなと博物館の一部を使い、スペースは約150平米くらい。コンパクトな空間の中に、ところ狭しと柳原作品が並べられるそう。
「収蔵作品数は、計4,848点。雑誌のカットなどの小さなものから、油絵などの大きな作品、それから人形やマグカップなどのグッズもあります。実にバラエティ豊かな展示となりますよ。先生はおもしろそうなことにはすぐチャレンジしてしまうので(笑)、コラボグッズなどは膨大な量がつくられました」
常設展のほか、特集コーナーで企画替えも
柳原氏の活動範囲はとても広い。
広告デザインやイラスト、エッセイなどの文章も書き、絵本も描いていた。
また、本の装丁、漫画やアニメーションも作っていた。
展示は大きくわけて、出発点である「アンクルトリスと広告」から始まり、そこから「イラストレーションとデザイン」、そして「Ryoと船の絵」、油彩・リトグラフなどの絵の作品で構成されるそうだ。
さらに、”特集コーナー”という形で年に2〜3回展示替えも予定している。
「今年はアンクルトリス生誕60周年なので、記念すべき第1回目はアンクルトリスのイラストレーションやグッズを紹介しようと思っています。
夏は海の記念日があるので”横浜の港と海”、そして来年のお正月は”宝船と七福神”をテーマにしようと思っているんです」

「ポスター/トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」(1961年)提供:横浜みなと博物館
また、オリジナルグッズの企画も目白押しだとか。
まずは作品のリトグラフ。そして切手と絵葉書のセット、モバイルクリーナー、そしてアンクルトリスのキャンディも企画中。
柳原氏の描く洒脱でモダンなディフォルメが効いたキャラクターは、一度見たら忘れらないほど強い印象を残す。
そんな印象的な作品のため、企業や団体とのコラボ作品もたくさん残している。
今回のオープンに合わせてもまた、横浜の企業とのコラボが実現している。
それは、限定パッケージのありあけハーバー。
博物館のミュージアムショップとありあけ直営店での限定発売になる。これは横浜のレアなお土産として人気が出そう。
また、柳原氏はなんといってもサントリーのキャラクター・アンクルトリスの生みの親。
お酒関係は何か企画があるのか、大人として気になるところ……。
「博物館に併設されたレストランが期間限定で『トリスのハイボールバー』になります。トリスハイボールが飲めますよ。ゆくゆくはオリジナルカクテルなんかもいいですね。ウイスキーのキャラクターということもありますけど、先生はお酒好きだったので。
生前は、博物館前のロイヤルパークホテルのバーなどでよく嗜んでいらっしゃったものです」
アンクルトリスのキャラクターが強いので、話している間もさまざまな企画を思いつく。
「最強のキャラクター」とも言われるものの、強すぎるせいで柳原良平と言うとアンクルトリスの印象しかない人も少なくないだろう。
柳原氏がアンクルトリスを作ったのは27歳の時。実は、それからの活動のほうがずっと長い。
1980年代からは横浜・関内の「せんたあ画廊」にて定期的に個展を行っていた。当初は水彩で船の絵なども描いていたが、だんだん構図や色構成、マチエール(作品の肌合い)などに変化が起きていく。

「ポスター/YOKOHAMA」(1981年)提供:横浜みなと博物館
「転換期になったのは晩年です。70歳の時に横浜トリエンナーレ2001が開催されました。
そこで”勝手にシンクロしてしまおう”ということで、現代アート風な表現方法を試みるんです。下地を塗って釘でひっかいたり、船の絵が抽象的になったり。
それは、やはりデザイナーとしての原点があったからこそだと思います。広告デザインは、モノを見て買ってもらうという使命があります。そのために、無駄なものをどんどん削ぎ落としてシンプルな形にすることを徹底して行っています」
アンクルトリスの印象が深い人ほど、それ以降の活動には目を見張るのではないだろうか。
幅広いジャンルのグラフィックデザイン、象嵌のようにはめ込まれた切り絵や、現場で描いた、生き生きとした水彩画、目に鮮やかな色使いの油絵などなど。そこに共通するのは、「船」と「海」への思いだ。
「先生は、働く船の本なども出されています。『船について知ってほしい』という思いがずっと根底にあったのでしょう。開港以来、船に乗って出ていったり文化を受け入れてきたりしたことで、船があって産業と暮らしが成り立っている、と。先生は船に目や足をつけて擬人化した絵をよく描かれていますが、それもやはり船に親しんでほしいからなのだと思います」
自分たちの住む街を、柳原良平の目を通して感じることができる
昭和39年から横浜で暮らし始め、自宅から客船が見えると大さん橋までタクシーを飛ばして見に行ったという、横浜と海と港を愛した柳原良平。
常設展示を待ち望んでいた昔ながらのファンも、柳原作品を直接は知らない若い世代の人も、ぜひ足を運んでほしい。
圧倒的なセンスと強力な個性がありつつ、軽々とジャンルを超えていく活動の数々は、日々さまざまなイラストレーションやデザインを目にする私たちにとって、大きな学びとなるはず。
「柳原良平アートミュージアム」は目の前に日本丸があり、すぐそばに海があります。
全国の方はもちろん、市民の皆さんにもぜひいらしてほしいです。自分たちの住んでいる横浜の船と港を柳原先生の目を通して感じてもらって、そして横浜の街にもっと関心を持ってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません」
「柳原良平アートミュージアム」、2018年3月27日(火)オープン。
もうすぐです!
(取材日:2018年3月6日 文章:いしだわかこ)
【施設概要】
柳原良平アートミュージアム(横浜みなと博物館内)
営業時間: 10:00〜17:00(入室は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる場合は開館・翌日休館)、年末、その他臨時休館日
同ミュージアムに入るには、横浜みなと博物館の入館料が必要です。
入館料:一般:400円(350円)、・65歳以上:250円(200円)、小・中・高校生:200円(150円)
※( )は団体割引(20名以上)
※横浜みなと博物館常設展示も見学できます。
※帆船日本丸との共通券があります。詳細はHPでご確認下さい。
※毎週土曜日は小・中・高校生は100円の特別料金になります。
※企画展等は別料金になる場合があります。
住所:横浜市西区みなとみらい2-1-1
アクセス:桜木町駅(JR京浜東北・根岸線・市営地下鉄ブルーライン)より徒歩5分、みなとみらい駅(みなとみらい線)より徒歩5分
TEL:045-221-0280