近藤良平(コンドルズ)と永積 崇(ハナレグミ)がいざなう旅『great journey 2nd』

Posted : 2018.03.16
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ダンスと音楽、それぞれの分野の第一線で活躍している振付家の近藤良平さん(コンドルズ)と、ミュージシャンの永積 崇さん(ハナレグミ)。3月27日から4月1日まで横浜赤レンガ倉庫1号館のステージで、再びタッグを組む。大きな反響を呼んだ初回の『great journey』から一年半を経て、ファン待望の『great journey 2nd』の開催だ。音楽にダンス、トークや即興などさまざまな表現で二人がセッションを繰り広げるぜいたくな時間。そのステージは、どのようにつくられているのだろう? 2月の下旬、稽古場に入っていた二人にお話を聞いた。

撮影:森本聡

 

初共演の『great jorney』の手応えから、2回目の『great journey 2nd』が実現

コンドルズハナレグミ。ダンスや音楽ファンならずとも、その活動をご存知の方は多いだろう。名実ともにトップクリエイターの振付家・近藤良平さんと、ミュージシャン・永積 崇さんのステージ。どんな稽古をしているのかなとドキドキしながら、都内某所の稽古場を訪れた。ドアを開けると、永積さんはアコースティックギターを抱えて音を出し、近藤さんは舞台監督と一緒に舞台の構成について話している。おもむろにピアノに向かった永積さんがハナレグミの名曲の一節を歌いあげると、最後に音程を外して終わったり、近藤さんが人形の足を手に取って「これ舞台に登場させようかな」とスタッフに見せて笑ったり――。稽古場には何やら自由な空気が流れていた。

撮影:森本聡

 

近藤良平さんは、ダンスカンパニーのコンドルズを主宰する振付家。コンドルズは男性のみで構成され、学ラン姿でダンスや生演奏、人形劇やコントを展開するダンス集団だ。近藤さんはコンドルズだけでなく、夏の風物詩としても定着してきた池袋の「にゅ~盆踊り」や、テレビの体操番組での振付など、幅広いフィールドで活躍している。そして永積 崇さんは、1997 年にSUPER BUTTER DOGのボーカル/ギターとしてメジャーデビューをした後、ハナレグミ名義で2002 年からソロ活動をスタートしたミュージシャン。小泉今日子やbirdへの楽曲提供や、CMソングの歌唱も多く担当している。一度聞いたら忘れられない、あのウイスキーのCMソングを歌っているのも永積さんだ。

それぞれの分野で活躍してきた二人だが、なぜ『great journey』でタッグを組むことになったのだろう。表現の場でのコラボレーションは、青山円形劇場で発表された近藤さんのソロダンス作品『11DANDY』(2011年)に、永積さんが音楽で参加したことにさかのぼる。

「『11DANDY』のときは僕のソロ作品としての創作物に、音楽で参加してもらいました。一方、横浜赤レンガ倉庫の『great journey』では、それとは違うひとつの見せ方、ステージとして独自の時間をつくることができたら面白いなという気持ちで、最初は始まりましたね。」(近藤良平)

撮影:森本聡

 

2016年に上演された『great journey』は、観客にとっても今までに体験したことがない舞台だったのではないだろうか。フリートークのシーンもあれば、ギターとダンスの掛け合いがあり、観客を巻き込んで一緒に音をつくり出すシーンもあった。ステージの構成は決まっているものの、即興的なセッション、掛け合いによってつくられている部分が大きいステージだ。初回の手応えについて、近藤さんは振り返る。

「じつは昨日、一年半前の映像を初めて見ました。あれは正しかったんだろかと不安だったんですが、見てみたら、緩さ加減があるところも意外と良いなと思えて、ちょっと自信をもちました(笑)。」(近藤良平)

 

 

フォーマットではない方法で表現をしたい――『great journey 2nd』への意気込み

『great jorney』では多才な二人のさまざまな表現を見ることができた。その姿は遊んでいるようでも、真剣勝負のようでもあった。表現ってこんなに自由だったんだなと改めて気づかせてくれるだけでなく、観客とともに空間と時間をつくり上げていくところにも興味をひかれた。

「『great jorney』ではステージを囲い舞台にして、お客さんが4方向から見られるようにしました。そうすると一体感が高くなり、一般的なプロセニアム舞台のような関係にはなりません。自由度の高い空間を成立させることって、世の中では意外と難しいと思うんです。コンビニにでも牛丼屋でも、入るときから出るときまでほとんどフォーマットになっている。そういったフォーマットではない方法で表現をしたいということが、僕たちの根底にはあるんだと思います。お客さんと混ざってみることも、その延長にありますね。僕たちも『これ大丈夫かな』『うまくいくのかな』と思いながらやっていることも多々あります。でもそう思っている状況に対して、わくわくする気持ちの方が強いです。その辺は変わらず、今回もやっていきたいです。」(近藤良平)

二人のコラボレーションでつくる舞台、ミュージシャンの永積さんはどのように捉えているのだろう?

「思い付いたことをとにかく形にしていくと、そこからあらぬところに行くなというのが、前回やってみた感想ですね。例えばピアノがあって、音をより大きく鳴らそうと思って蓋を開けたんだけど、意外に開けた蓋の方が気になってくる…といったことが起こり得ます。この蓋の“カチャ”っていう音、良いなと感じたり――。何かの所作ひとつを取っても、そのなかにはたくさんの物語があることを、良平さんと一緒にやっていると感じることができて面白いです。僕にとってはギターにしか見えないものが、良平さんにはまったく別のものに見えていたりします。そういう鏡合わせを感じながら、ステージに立っていますね。」(永積 崇)

撮影:森本聡

 

またこの作品をとおして、観客にも“旅”を感じてもらえるのではないかと永積さんは指摘した。

「いろんなメガネがあって、いろんな場所を大きくしたり小さくしたりしているような関係性が、このステージにはあるような気がします。例えば目の前のものを顕微鏡でミニマムに見ていくと、どんどん違う景色が広がっていくような感覚ってありますよね。お客さんからは2人のセッションに見えるけど、僕ら側からはお客さんも旅人のように見えるし、僕と良平さんの間をミニマムに見ていくと、そのお互いの動きのなかにも物語や“旅”を感じてもらえるかもしれません。」(永積 崇)

great journey 2nd』は、1分1秒も見逃すことが惜しい舞台になりそうだ。

 

『great journey 2nd』PR動画

 

 

二人にとっての“旅”とは?――「日常と非日常」、「目的なく出かけるもの」

このステージのタイトル『great journey』には、どんな思いが込められているのだろう? 大学時代に野外活動を専門にしていたという近藤さん、“旅”というテーマがもつ広がりを教えてくれた。

「僕、旅についてなら何時間でも話せますよ(笑)。トリップとジャーニーの違いとか、日常と非日常の時間や概念などについては、いろんな人がたくさん書いてますよね。日常と非日常といった観点から旅を考えてみると、なぜ人がクリエーションするか、なぜ人は踊るのか、なぜ音楽を奏でるのかとかといった、根源的なことにもつながってきます。“人生の旅”という言い方もありますよね。じゃあどうやって“自分の旅”を表明するか、人に伝えていくかを考えないと。でもあまり大きく考えると疲れちゃうんで、『旅って楽しいよね』というぐらいの感覚でテーマにしました。あと「Great Journey」という言葉そのものには、人類誕生からの進化の軌跡という意味も含まれています。この作品ではそれが小文字になっていることも結構大事で、大文字で仰々しく主張するのではなくて、控え目に表現しましたね(笑)。」(近藤良平)

撮影:森本聡

 

永積さんには、ご自身にとって“旅”とはどのようなものか、お聞きした。

「僕は答えがない旅をするのが好きです。目的があってそこに行くというよりは、行ってみて出会うことの方が好きで。例えば旅先で会った人に「あのまち良かったよ」って言われたら、そっちに行っちゃうことがよくあります。でもそうやって流れていると、少し前に考えていたことや気にしていたことと、偶然なのか必然なのか、つながったりするんですよね。今までは気づいていなかった別の入口で、考えていたものと改めて出会ったり感じられたりするんです。旅に出て、そういう瞬間に出会えたときが一番、良い時間だなと思いますね。旅の醍醐味って、観光地の“確認”じゃないと思うんですよね。 

そのまちの人のような“顔”にどうしたらなれるか、といったことも考えます。メキシコとかに行くと、まちの真ん中に教会があるんですよ。夕方ぐらいになると、子連れのお母さんとかが公園に来て、ただぼーっとしていたりするから、同じようにぼーっとしてみるんです。それだけで良いんですよね。「オレもメキシコ人」みたいな“顔”になると、あらぬ場所に突撃できるというか――。一緒にタコス屋に並んで、一緒に黙々と食べたりできるようになる(笑)。そういう瞬間に、なんか自由になりますね。」(永積 崇)

撮影:森本聡

 

初回のステージは、劇場の真ん中に舞台があって「部屋」のような構成だったが、今回は「道」のような構成になるという。近藤さんと永積さんにとっての“旅”のイメージを具体的に聞くと、このステージに込められた思いもぐっとリアリティを増して感じられた。

 

 

ダンスと音楽、異ジャンルのアーティトならではの関係が生まれる

異なる分野で活躍する二人だが、お互いをアーティストとして魅力に感じるところはどのような側面だろう? それぞれに抱いている印象をお聞きした。

「タカシはちょうどよく“没頭する”時間がありますね。自分が没頭する時間やタイミングを見つけるのが上手な人です。そういうときに背中が丸くなる(笑)。かっこつけて自分を守ろうとする人はいると思うんだけど、タカシはそうではなくて。没頭しているが故に油断がないというか――。そんなに簡単に声かけられないぞという時間があります。それはちょっと羨ましいというか、すごい才能だと思います。そんなになかなか没頭できないですよ、僕はすぐ気が散ってしまうタイプだから。」(近藤良平)

「もう少しちゃんとしてください」とスタッフから言われることもあるという永積さん。近藤さんのコメントを聞いて「嬉しいです」と笑う。

「『11DANDY』のときはどういう歌をつくろうかなと、かなりリハーサルに付き添っていたんですが、良平さんが身体の動きに変換していくスピードの速さにまず感動しました。感覚的な話ですけど、その放っている印象がすごく“ピカピカ”していました(笑)。僕はその人がもっている印象を信じているところがあって。僕にとっては、良平さんと会う瞬間ってちょっと“旅感”があるんです。異国で、自分の生まれたまちと似ているまちに出会ったような感覚かもしれません。昨日リハをやっていて、久しぶりに今回また改めて一緒に作業をしていて思ったんですけど、「ただいまー」って言ってるんだけど生まれた場所じゃない、みたいな感覚(笑)。」(永積 崇)

永積さんならではの詩的な表現で、近藤さんの印象を話してくれた。近藤さんも「知らないはずなのに知っているまち、みたいな感じでしょ? 分かるよ」と相槌を打つ。

「そういうときあるよね? なんか知っていると感じる場所。良平さんとは共有しているものもたくさんありますが、投げたものに対してイメージしていた反応ではなくて、少し隣にあるような感覚で返ってくることがあります。真逆じゃなくて、“少し隣”にある感覚です。なるほどと思える言葉や動きになって変換されるので、刺激されますね。良平さんといると頭で考えなくてよくなるんです。不思議な関係だし、ありがたいなと思っています。」(永積 崇)

「ダンスと音楽、お互いの専門分野が違うからこそもてる感覚かもしれないと」、お二人の意見は一致した。

「良平さんを見ていると、ダンサーって無敵だなと思うんですよね。やっぱり僕はギターがなくなると、(おなかを触りながら)ここら辺の空間がすっごい不安なんですよ(笑)」(永積 崇)

インタビューの間も、ギターを抱えてたまに音楽を奏でていた永積さん。お二人の印象をお聞きしたときには、近藤さんが「なんかボサノバみたいなやつ」と永積さんにリクエストをしていた。そんな掛け合いのなかにも、二人の“あうんの呼吸”を感じるインタビューだった。

撮影:森本聡

 

最後に、公演を楽しみにしているお客さんに向けて、二人からメッセージをいただいた。

「気晴らし的に、あんまり気負わずに、来てください。」(近藤良平)

「良平さんも言っていたんですけど、旅に出るとき荷物をどれだけ少なくできるかが大事だと思うんですよね。この公演も、できるだけ少ない荷物、少ない肩書で来てほしいなと思っています。何にも捉われず、目的をもたないことによって、見えてくることが旅にはあるよ~と(笑)。荷物を少なく、身軽でいらしてください。」(永積 崇)

『great journey 2nd』は5回公演だが、即興的な要素が大きいため毎日少しずつ内容が変わるだろう。お客さんとともにつくりあげる『great journey』シリーズは、毎日来ても楽しめる、旅行よりも気軽に体験できる“旅”になりそうだ。目的のない“旅”に出るように、『great journey 2nd』へ出かけよう。

 

取材・文:及位友美(voids

 

撮影:森本聡

 

【イベント概要】

近藤良平(コンドルズ)×永積 崇(ハナレグミ)
『great journey 2nd』

公演日時
2018年3月27日(火)19時30分開演
28日(水)19時30分開演
30日(金)19時30分開演
31日(土)15時00分開演
4月1日(日)15時00分開演
会場横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
住所:神奈川県横浜市中区新港 1-1
アクセス:
桜木町駅(JR京浜東北・根岸線・市営地下鉄ブルーライン)より徒歩 15 分
関内駅(JR京浜東北・根岸線・市営地下鉄ブルーライン)より徒歩 15 分
馬車道駅または日本大通り駅(みなとみらい線)より徒歩 6 分
チケット
前売 一般 4,800円 
U-25  4,000円、高校生以下 3,000円/当日券 5,300円(税込)
※全席自由・入場整理番号付
※未就学児入場不可
取り扱い:チケット カンフェティ http://confetti-web.com/greatjourney2
TEL 0120-240-540 (平日 10:00~18:00)
お問合せ:横浜赤レンガ倉庫1号館 TEL:045 -211-1515

https://akarenga.yafjp.org/

クレジット
出演:近藤良平(コンドルズ)、永積 崇(ハナレグミ)
企画:近藤良平、永積 崇、小野晋司 (横浜赤レンガ倉庫1号館)
舞台監督:筒井昭善
照明:坂本明浩(One Drop)
音響:中原 楽(ルフトツーク)
衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
宣伝美術:柳沼博雅(GOAT)
宣伝写真:菅原康太
制作:小原光洋・中祖杏奈(横浜赤レンガ倉庫1号館)
協力: ROCK STAR 有限会社、株式会社ラフィン
後援:横浜アーツフェスティバル実行委員会
主催:横浜赤レンガ倉庫1号館[公益財団法人横浜市芸術文化振興財団]