同時代の表現者たちを鋭く捉える横浜市民ギャラリーの年次展覧会「新・今日の作家展」。今年は〈もの派〉の系譜を今にたどる

Posted : 2016.09.21
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横浜市民ギャラリーで9月22日(木・祝)から10月9日(日)まで、年次展覧会「新・今日の作家展2016 創造の場所—もの派から現代へ」が開催される。今年は1960年代後半に現れ、ものの存在・本質を探求し、既成概念を覆そうとした〈もの派〉とそれに通じる思想を持つ作家たち、斎藤義重、榎倉康二、菅木志雄、池内晶子、鈴木孝幸の5人を取り上げる。
池内晶子 《Knotted Thread-52knots-north-south-catenary-h330cm》 2015年  絹糸 撮影:椎木静寧 写真提供:gallery21yo-j ※参考作品

池内晶子 《Knotted Thread-52knots-north-south-catenary-h330cm》 2015年  絹糸 撮影:椎木静寧 写真提供:gallery21yo-j ※参考作品

 

50年以上続く年次展覧会。今年はタイトルを変えて新しい幕開けへ

横浜市民ギャラリーが開館したのは、東京オリンピックが開催されたのと同じ1964年。開設当初からずっと続いているのが、同時代の作家たちを取り上げて、新しい創造、価値との出会いを市民に提供するために企画された年次展覧会だ。気鋭の評論家による構成や新進作家の顔ぶれから、革新的と評価されてきた。「今日の作家展」は「ニューアート展」「ニューアート展NEXT」へと、表現の多様化や時代に合わせて変遷を遂げてきたが「コンテンポラリー・アートを身近に伝える」という基本的なコンセプトは変わっていない。
今年は総称を誕生当初から40年続いた「今日の作家展」に回帰させ、それに「新」を加えて新たな幕開けの年としている。新タイトルが示すように、今回は日本の現代美術のムーブメントを振り返りながら現代へと続くアートの脈絡を追う意欲的な展覧会となっている。

斎藤義重 《内部》 1981年 ラッカー、木、ボルト、紐 横浜美術館蔵

斎藤義重 《内部》 1981年 ラッカー、木、ボルト、紐 横浜美術館蔵

 

〈もの派〉とは?

〈もの派〉とは、石、木、紙、ガラス、鉄、糸、水などの「もの」自体を主題として、空間や他の要素との関係性を追求し、1960年代末から1970年代中期の日本の現代美術に大きな足跡を残したムーブメントをいう。
新しい世紀を迎えた「今日の作家展」で紹介するのは、〈もの派〉の作家とされる榎倉康二、菅木志雄と、彼らに影響を与えたと言われる斎藤義重、そして作品にその思想が感じられる後世の作家、池内晶子、鈴木孝幸。

榎倉康二、菅木志雄は従来の「今日の作家展」でも何度も紹介されており、横浜市民ギャラリーは〈もの派〉の活動の場所のひとつとなっていた。

展覧会を企画した学芸員の大塚真弓さんは「1960年後半、榎倉康二、菅木志雄をはじめとする〈もの派〉と呼ばれる一連の作家たちは、既にある価値観から物事を解放して、認識を新たにするような制作を展開しました。斎藤義重は〈もの派〉が現れる以前から活動していた作家です。絵画や彫刻といった分類に属さない、平面にも立体にも見える革新的な制作を通して、若い芸術家に影響を与えています」と〈もの派〉の思想を説明する。

今回の展覧会の案内では「事物の存在や関係、それらが置かれる状況や空間自体を作品とし、ものの本質を問い続けた〈もの派〉の思想は、世界と向き合う糸口として今日の美術に脈々と流れています」とうたわれている。

榎倉康二 《予兆―柱・肉体(P.W.-No.46)》 1972年 ゼラチン・シルバー・プリント

榎倉康二 《予兆―柱・肉体(P.W.-No.46)》 1972年 ゼラチン・シルバー・プリント

 

菅、池内、鈴木の新作が並ぶ

「池内晶子、鈴木孝幸はそれぞれ、空間の成り立ちやものの多面性、ものや空間に対する身体感覚を重視した制作を行っています。こうした池内や鈴木の制作には〈もの派〉に通じる思想を見ることができます」と大塚さん。

鈴木孝幸 《heaping earth -472》 2015年 釘、テグス、各地にて採取した石、木、陶器片、ガラス片、金属片等 ※参考作品

鈴木孝幸 《heaping earth -472》 2015年 釘、テグス、各地にて採取した石、木、陶器片、ガラス片、金属片等 ※参考作品

 

今回展覧会を構成するのは、榎倉康二、斎藤義重が以前の「今日の作家展」に出品した作品、そして菅木志雄、池内晶子、鈴木孝幸の新しいインスタレーション作品だ。

菅木志雄 《縁帯》 1986/2015年 石、木 撮影:佐藤毅 ※参考作品

菅木志雄 《縁帯》 1986/2015年 石、木 撮影:佐藤毅 ※参考作品

 

新作のいずれもが横浜市民ギャラリーの展示室で実際に制作されている。空間も作品の大切な要素であることを、観る人に実感して欲しいという。

「〈もの派〉から現代へとつながる“創造の場所”をめぐりながら、つくること・みることの可能性を探ります」と展覧会の案内は結んでいる。

(文・田中久美子)

【イベント概要】

新・今日の作家展2016 創造の場所もの派から現代へ

期間:2016年9月22日(木・祝)~10月9日(日)※会期中無休
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
会場:横浜市民ギャラリー展示室1F、B1
住所:神奈川県横浜市西区宮崎町26-1
アクセス
桜木町駅(JR京浜東北・根岸線・横浜市営地下鉄ブルーライン)徒歩10分
日ノ出町駅(京急本線)徒歩8分
料金:入場無料

詳細はウェブサイトから
http://ycag.yafjp.org/our_exhibition/new-artists-today-2016/

展覧会関連の魅力的なイベント

会期中には、池内、鈴木のアーティストトーク、菅が制作した映画『存在と殺人』の上映、美術評論家・千葉成夫氏による講演会『もの派の造形思想の中核としての菅木志雄』、菅、池内が出席するクロージング・イベント、学芸員によるギャラリートークが開催される。

詳しくはHPで。ぜひお見逃しなく!