「創造力」を育むアートの力――日産のビジョン
長年にわたって社会貢献活動に取り組んできた日産自動車株式会社。同社は2013年の創業80周年を契機に、現代アートの分野における日本人アーティストの国際的な活動をサポートすることを目指し、「日産アートアワード」を立ち上げた。社長のカルロス・ゴーン氏は「現代美術は多様性に富み、可能性と発展性に満ちています。」と語っている。
本アワードのグランプリ受賞者、及びファイナリストへの充実したサポートの内容は、注目を集めている。日本をリードする自動車メーカーとして革新を続けてきた日産。「人々の生活を豊かに」という同社のビジョンと、アーティストの表現との出会いが「創造力」を育む力になるという思いがあるからこそ、アワードにおける手厚いサポートが実現している。

岩崎貴宏《Out of Disorder (Cony Island)》2012年 ビーチタオル40 x 160 x 130 cm(サイズ可変)© Takahiro Iwasaki Courtesy of ARATANIURANO
アワードのプロセスとサポート
「日産アートアワード」の目的やサポートの内容とは、どのようなものだろう?
本アワードでは約1年をかけて、1名のグランプリ受賞者を決定する。まずはじめは推薦委員による候補者の選出だ。日本のアートシーンを牽引する美術館、アートスペース、NPOのキュレーターやディレクターなど計10名の委員が各4名の候補者を推薦(2014年12月末)。今年の推薦委員には保坂健二朗氏(東京国立近代美術館主任研究員)、飯田志保子氏(東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授)、小川希氏(Art Center Ongoing代表)らが名を連ね、33名のアーティストが推薦された。
続いて第一次選考が、今年5月にイタリア・ヴェネチアで行われた。国際審査委員会には、審査委員長を務める森美術館館長の南條史生氏、パレ・ド・トーキョー館長(フランス、パリ)のジャン・ド・ロワジー氏、カムデン・アーツ・センター館長(イギリス、ロンドン)のジェニー・ロマックス氏など世界を拠点に活動する5名のディレクターが参加している。注目すべきは、当初の予定人数を上回る数のファイナリストが選ばれたこと。審査委員長の南條氏が「どのアーティストも革新的で興味深く、審査は困難を極めたが、今回は中でも特に詩的で、繊細、デリケートな表現を持ち、そしてこれまでにない美術へのアプローチを期待できる 7 名を選出した」と述べているとおり、審査はしのぎを削る争いになったことがうかがえる。今年のファイナリストは、秋山さやか、久門剛史、石田尚志、岩崎貴宏、ミヤギフトシ、毛利悠子、米田知子の7名だ。
ファイナリストが決定すると、いよいよ彼らの新作の制作と展覧会のオープン、そして展覧会場での最終選考が待ち構えている。7名のファイナリストは、賞金100万円と作品制作費100万円を受け、BankART Studio NYKの展覧会で新作を含む作品を発表する。運命のグランプリの決定は、審査委員が展示会場で最終選考を行う11月24日(火)だ。今年は来場者の投票によるオーディエンス賞も設けられた。グランプリとオーディエンス賞が分かれるのかどうかも気になるところである。
本アワードでは、ファイナリストへのサポートだけでも大きな資金が提供されていることに驚くが、グランプリ受賞者には300万円の賞金(ファイナリストの賞金100万円を含む)という金銭的なサポートだけでなく、渡航費・滞在費・研究費、そして専門的な助言などのサポートを含む2ヵ月間のロンドン滞在が提供される。つまりグランプリを手にすると総額500万円相当のサポートが受けられるわけだが、特に今回から加わったロンドン滞在にはお金に換算することができない価値があるだろう。滞在中はロンドンの歴史あるカムデン・アーツ・センターが、アーティストが海外のアートシーンと直接のつながりを持ち、国際的に活動の場を広げるきっかけをサポートしてくれるのだ。国際審査委員の顔ぶれやサポートの内容を見れば、「日産アートアワード」が日本のアーティストの国際的な活躍に、いかに期待を寄せているかがわかる。
本展の見どころ
ファイナリストに選出された7名は、審査委員長の南條氏のコメントにあるとおり、デリケートな表現の中に新たな美術へのアプローチを感じさせるアーティストたちだ。審査の過程では、瑞々しい感性で現代社会に向き合い、特に過去 2 年間の活躍が目覚ましかったことが評価された。BankART Studio NYKの展覧会では、彼らの新作を含む作品が発表される。
横浜美術館での個展(2015年3月~5月)が記憶に新しい石田尚志は、BankART Studio NYKの会場に絵画と映像を融合させたダイナミックな空間を生み出す新作を発表する。ヨコハマトリエンナーレ2014への参加が話題を呼んだ毛利悠子は、横浜のスタジオで日用品や機械を用いた新作インスタレーションに取り組んだ。
京都・崇仁地域で開催された「still moving」(2015年3月~5月)で、場の記憶を想起させる展示を見せた久門剛史が、今回手掛ける空間も楽しみだ。現実に見えているものだけでなく、記憶や歴史へのまなざしを投げかける写真家・米田知子は、今回イギリスと日本で綿密なフィールドワークを行い、その歴史の痕跡を収めた。
会期中にはファイナリストやグランプリ受賞者によるトークイベントやギャラリーガイドツアーも開催。また会期のはじめには、来場者が印象に残ったファイナリストに投票できるオーディエンス賞も実施している(オーディエンス賞投票期間:11 月 14 日(土)〜11 月 23日(月・祝)の10日間)。お気に入りの作品に投票して、ファイナリストを応援しよう。
7名のファイナリストによる、今を切り取る表現に出会う「日産アートアワード2015」展覧会。気鋭のアーティストたちのグループ展としても楽しめる展覧会になりそうだ。
気になるグランプリの発表は、授賞式翌日 11 月 25 日(水)に日産アートアワード公式サイトにて!
【基本情報】
「日産アートアワード 2015」
公式サイト:http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
展覧会会期:2015 年 11 月 14 日(土)~12 月 27 日(日)
開館時間:11:00〜19:00 無休
※11 月 24 日(火)はイベント開催のため一般入場ができません。
会場:BankART Studio NYK、2F(神奈川県横浜市中区海岸通 3-9)
入場料:無料
参加アーティスト(ファイナリスト): 秋山さやか、久門剛史、石田尚志、岩崎貴宏、ミヤギフトシ、毛利悠子、米田知子
主催:日産自動車株式会社
企画・運営協力:NPO 法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
協力:カムデン・アーツ・センター
展覧会協力:BankART1929、エプソン販売株式会社、ライトアンドリヒト株式会社
展覧会後援:横浜市