関内外OPEN!リレーコラムVol.12

Posted : 2014.06.27
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ライターの齊藤真菜です。前回担当の両見さんほか50組以上のアーティストやデザイナーとシェアしていたスタジオ「ハンマーヘッドスタジオ新・港区」が4月頭に運用を終了し、この春から黄金町に事務所を構えています。

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ハンマーヘッドスタジオでは、ヨコハマ経済新聞が借りていたスペースに「新・港区支局」駐在記者として入居していました。両見さんと講座をやらせていただいたり、ほかの講座を運営したり、記録本の制作に関わらせていただいたり、カフェをやったり、記者としての活動以外にも本当にいろいろな経験をさせていただきました。グラフィックやアパレル、建築など異なるスケールの商品を扱うデザイナーの視点に触れたり、様々な姿勢で制作に向き合うアーティストに出会えたことも、私にとって大きな財産です。

そのときから半分フリーランスのような形で活動していましたが、自分の名前で拠点を持つのは今回が初めてです。とはいっても、私が借りているのはデスクと本棚だけ置ける5平米ちょっとのスペースで、2階建ての建物の残りの約150平米では、2組の設計事務所と大工さん・アーティスト・写真家・画家が活動しています。

7組9人のうち私を含む6組は同じ元ハンマーヘッド入居者で、皆ハンマーヘッドを拠点に起業したりもっと前から個人で活動している先輩です。私のような駆け出しのライターは今どき自宅やカフェでノマド作業するかコワーキングスペースのフリーアドレスデスクを借りるのが普通でしょうが、ほぼ占有して使っていたハンマーヘッドのデスクの居心地の良さが忘れられず、なんとか似たような環境を維持できないかと物件を探していたところ、以前取材した宿るや商店を運営する横浜ウミガワ不動産の石井律子さんに見つけていただいたのが黄金町の元ストリップ劇場の建物でした。

写真:加藤甫

写真:加藤甫

 

ついこのあいだの夏まで営業していたこの劇場は、地元ではシンボリックな場所で、京急からも屋上の派手な看板がよく見えました。私たちが現在のオーナーに見せてもらったときには看板は降ろされ、外階段の派手な屋根もなくなり、1階ステージも取り壊されていましたが、ステージの後ろの壁一面に張られた鏡や各所に残る踊り子さんやお客さんへの注意書き、男子用だけやたら多いトイレ、2階の控え室の畳など、生々しい空気に圧倒されたのを覚えています。

劇場と事務所・アトリエというと全く違う用途のようですが、取材エリアである横浜都心部にデスクを構えたかった私と、天高があり1棟借りできる工房向きの場所を探していたメンバー、アクセスの良い事務所が欲しかったメンバーには、これ以上の場所はありませんでした。

写真:加藤甫

写真:加藤甫

 

安く借りるための条件は改修費用を自分たちでどうにかすることだったので、事務所や工房として使えるようにするため、借りてすぐに解体作業が始まりました。空間専門のメンバーの主導で5部屋に分かれていた2階の天井と壁と床、1階の段差を壊し、相当な量の産廃を業者さんに引き取ってもらうまでに数週間。その後床を張ったり照明や電源を配置したり、まだまだDIY作業は続いています。

写真:加藤甫

写真:加藤甫

 

入居メンバーの中には、以前にも自分たちでスタジオを運営していた人や、シェアオフィスを作る側だった人もいますが、不動産屋さんにマスターリースとなって管理してもらいながらも、自分たちだけで空間作りも運用も行うというスタイルは、皆初めてだと思います。近年アートによるまちづくりが行われてきた黄金町という立地で、街の人や他のアーティストとどのように関わっていけるのか、この場所だからこそどんなことができるのか。まだまだな未知数な部分はたくさんありますが、いろいろな可能性・余白を残したい、という意味を込めて、ネーミングは「旧劇場」に決まりました。

力仕事も技術的なことも、ハード面に関しては皆に頼りっぱなしの私ですが、これまでの取材活動を新たな拠点の開設につなげられたことは、一つの大きな励みになっています。場づくり・記録・発信・散策・取材と、やりたいことはたくさんありますが、結果を残し、少しでも長く続けられればと思っています。いろいろと曰くつきのこの建物の印象が今後どうなっていくか、見守っていただければ幸いです。

次回は、ハンマーヘッドスタジオを出て石川町5丁目にアトリエ兼ギャラリーを持たれた「ランチパッド」のリュウリンさんです。元町で妹さんが経営されていたカフェのファンだった方も多いのではないでしょうか。黄金町に移転してから、元町や山手に取材に行く時は必ず前を通るようになりました。間にある真金町や山田町など、これまでは通ることのなかった住宅地を自転車で探検するのもちょっとした楽しみの一つです。


140627selfr齊藤真菜
1987年生まれ。横浜市鶴見区在住。2009年Thames Valley University(イギリス、ロンドン)BA Digital Broadcast Media卒業。ネットメディア・ヨコハマ経済新聞の副編集長として媒体運営に携わる傍ら、フリーでウェブ運用や広報を行う。

旧劇場 http://qgekijo.net