世界との差を認識し、改革を横浜から セグウェイジャパン・秋元大さん

Posted : 2018.03.09
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テレビにも度々登場し、すっかりお茶の間に浸透した感のあるセグウェイ。2008年に国内代理店のセグウェイジャパンが横浜で設立されてから約10年、ラグビーワールドカップ2019™、東京2020オリンピック・パラリンピックを前に、横浜市内の公道での実証実験がいよいよスタートした。街の回遊性を見直すプロセスから、私たちはどんなことを学べるのだろうか。今回共に実験を行う横浜市文化観光局企画課の大友純一さん同席のもと、地道に規制緩和への道を歩むセグウェイジャパン取締役の秋元大さんに、改めてお話を伺った。

 

「世紀の発明」と言われて20年、日本で動き出して10年

ーー昨年秋に、横浜市内初の公道実証実験が行われましたが、それまでの歩みを改めて教えてください。

秋元 2000年ごろ、セグウェイは「世紀の大発明」と言われました。当時はスティーブ・ジョブズらイノベーターたちが、空飛ぶ魔法の絨毯みたいだ、このテクノロジーで世界が変わると興奮していました。

 もともと僕はIT業界の出身で、新規事業の開発などを手がけていました。ある日セグウェイ社に出会って、ハリウッド映画で当時見ていたような物を現実化する技術が、もうすぐそこにあるなと、可能性を感じたんです。コンピュータは大きい計算機だったのが、いまやノートパソコンやスマートフォンの登場によって、メディア媒体につとめる人だけが発信者じゃなくなるところまできている。モビリティも変わってしかるべきだなと思ったんです。

 ワシントンDCやパリ、ローマ、ベルリンなど、世界の名だたる都市の100カ所くらいにセグウェイツアーがあります。我々が始めたころからほとんどがなくならずに続いていて、リピーターがすごく多いんです。それも乗り物マニアだからというのではなく、街を散策するのに、自分の身体感覚が拡張され、都市の一部のように感じられるセグウェイがぴったりだからなんです。日本でやるなら、皇居の周りか京都、あるいは横浜のベイエリアだという話になり、やはり横浜でセグウェイツアーをやりたいと思って、横浜で会社を立ち上げました。

 十数年前は、日本の公道でセグウェイに乗っていいのか、自治体に聞いても政治家に聞いても、誰も分からなかった。数年で特区ぐらいは作れるかなと頑張りましたが、なかなかうまくいかず、横浜よりも東京お台場で実験するほうが早かったですね。公道で最初にちゃんとツアーをしたのは、構造改革特区の認定を受けた茨城県つくば市です。つくば市では2011年から7年間、数万キロ、事故も起こさず、安全性確保とルール検討のために実験し続けています。2015年に法律が変わって特区はなくなり、所轄官庁の許可を取れば全国どこでも公道走行実験ができるようになりました。その後も二子玉川で東急電鉄と、柏市では三井不動産と公道での実験を行って、今回2017年10月に横浜で初の公道実験が実現しました。まさに10年越しですね。

 

ーー技術など、セグウェイを取り巻く状況で、10年前と変わったことはありますか。

秋元 今まではあまり競合相手がいなかったので油断していたら、ここ数年で小さい模造品がたくさん出てきました。3万円ぐらいの物がネットで手軽に買えてしまうので、勝手に街中で走ってしまう人が増えたんですね。10年前も今も、世界でセグウェイが一番多く導入されている組織は警察ですが、それがほかの製品に取って代わらなかったのは、安全に運用するにはそこそこお金をかけて作ったものじゃないとだめだったからなんです。模造品のなかには危険な物もあるので、技術の正しい使い方をもっと発信しないといけないという危機感はあります。

 

 

セグウェイを走らせることで得られる気づき、あらゆる人にやさしい街

ーー2017年10月11日〜11月1日に行われた実証実験を通して得られたこととは何でしょうか。

秋元 みなとみらい地区は一見歩きやすく見えますが、やはり車中心に設計されています。セグウェイで片側3車線の幅の広い道路を渡る時、横断歩道の信号の切り替わりがすごく速くて、渡りきるのが大変でした。セグウェイでそうなんだから、ましてやベビーカーなどでは渡りたくないと思います。

 魅力的な都市の中心部こそ、もっと歩きやすくしたほうがいい。日本大通りみたいにもっとワクワク歩きたくなる通りを増やすためには、イメージや建築家の意見も必要ですが、今回みたいに新しいモビリティを試しに導入していくことで、気付くことがたくさんあると思うんです。

2017年10月の横浜市での公道実証実験の様子

 

 セグウェイが走れる街は、同じタイプの技術を持った車椅子や、そのほかいろんな乗り物、ベビーカーにも優しい街になれます。法律も、インフラも、ソフトである人間がそれをどう受け入れるかという点においてもです。電車にベビーカーや車椅子で乗ることや、街の中の段差の話をピンポイントでしようとするとうまくいかないかもしれませんが、街全体をどういうふうに歩きたいかということを主体的に話し合うことができれば、もっと優秀な製品が出てきた時にも、新しい物を受け入れるためにどういうプロセスを踏んだらいいか、誰が評価をしたらいいのか、どういう合意形成ができたらいいのかということが、主体的に判断していくことができるでしょう。

 

 

先進都市とのギャップを認識する

ーー横浜で導入を進めるには、今後どんなことが必要だとお考えですか。

秋元 二子玉川では区長や小学校PTAなど町の方々も来てくれるし、「見たよ」とみんな言ってくれるんですが、横浜では実験していること自体がまず知られていない。知っても「ふーん」ぐらいなんですね。新しい物や事に、慣れてしまっているのかもしれません。でも、そういう新しい物が出てきて変わりつつある環境と、自分たちの社会の老朽化したインフラに想像以上にギャップがあることに気付いていない。それを受け入れるのが、今いちばん重要なことだと思います。

 その先は、急に考え方を柔軟にしていくことは難しいかもしれませんが、技術がコモディティ化することで、さらに改革を進めていける可能性があります。たとえばFacebookの登場で、周囲の人の活動の把握の仕方や、コミュニケーションの取り方など、働き方が変わった人はたくさんいると思うんです。社会のシステムを変えつつあるということですよね。IT、仮想空間ではそれがやりやすいけれど、リアルだと、特に車という一大産業があるモビリティ市場ではなかなか難しい。

取材会場協力:NDCグラフィックス

 時間はかかっていますが、今後できるだけ回数を増やしてより多くの人に体験してもらったり見てもらったりすることで、理解者を増やすことが大事です。セグウェイは、モーターとギアの塊ではなく、ロボット技術だと考えています。その技術を社会にインストールしていくには、ただ受け入れてほしいと訴えるだけではなくて、実際に見て慣れてもらうことがやはり必要です。

大友 乗ったことのない人に魅力をどのように説明するかということは、横浜市にとっても大きな課題です。存在そのものは知られていても、本当にどういうものかは知らない人が圧倒的に多い。人が歩くよりもゆっくり走れるから、コミュニケーションが取りやすくなるといったことは、実際に乗ってみないとわからないんです。

秋元 規制緩和というのは文化が変わることそのものだから、初めての物を受け入れる土壌のある横浜で、やはり頑張りたい。移動するだけで街のことがこんなに好きになれるプログラムって、他には聞いたことがないんです。セグウェイは、運転するというより身体の延長としてのロボットのような乗り物。人が歩くときに自然と重心を傾ける、視線を向ける、その行動だけで前に進んでいくものです。ブレーキをかけるのではなく、歩みを止めようという意識で止まる。なので、海外に行けば身体障害のある人が日常的に使っているし、旅行客が街を歩く代わりに「あー気持ちいい」とただ楽しく乗っている。決して一部のクリエイティブクラスのためだけのものではないのです。横浜は後発ですので、さらに魅力あるツアーを開発することで、街を変えていけたらいいですね。

 

(文・齊藤真菜)

 


【公道実証実験の第二弾が開催されます!】

横浜市が参加する横浜市パーソナルモビリティツアー実証実験推進協議会は、平成29年秋に行った実証実験を踏まえ、みなとみらい21地区の臨海部でセグウェイによるパーソナルモビリティツアーの関係者向け公道実証実験が、現在行われています。

詳しくは横浜市文化観光局のホームページまで。
http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/outline/press/20180223.html